淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
バレンタインのプレゼント
2018年02月17日(Sat) 10:09:44
誰にも覚られない隠れ家の、高級ホテルの一室で。
独りワイングラスを手に窓辺に佇んでいると。
己はどこまでいっても独りきりなのだ・・・と――
思わずにはいられない。
はるか眼下を行き来する幸せな男女たち。不幸せな男女たち。
かれらはいちように、その身に血液をめぐらせて、
まっとうな日々を、あるいはまっとうではない日々を、暮らしている。
己だけが独り、その圏外にいる。
安全圏だと?
絶対的な支配力を持っているだと?
それは孤独であるということと、なんの変わりもありはしない。
そんなことを独り思って鬱していると。
コン、コン・・・
人を憚るような、ひそかなノックの音が、背後の扉に響いた。
いまさら怖れるものなど、なにもない。
ためらいもなくひと息にドアを開くと、
そこには絶世の美女――
翔子・・・
思わずその名を口の端から洩らすと、女はいった。
「お忘れじゃなかったようね」
「忘れるものか」
「なにを憶えていらっしゃるの」
女の問いにこたえずにいると、
女は用心深く扉をロックして、それからもういちど、こちらをかえりみる。
「憶えているのは・・・血の味だけじゃなくって?」
「そんなことはない」
こちらの強がりを封じるように、女はゆったりと腰をくねらせて、ひと足よけいにこちらにその身を近寄せた。
「きょうはなんの日だか、覚えているわね?」
目のまえに華やぐのは、高価そうなシルクのブラウスの胸元を引き締める、ふんわりとしたリボンタイ。
「プレゼントはね、リボンを結ぶことで、初めてプレゼントになるのよ」
得意げに半ば開いた朱唇から、イタズラっぽく輝く白い歯がのぞいた。
女の両肩を抱きとめて、背中に腕を回して、ギュッと掻き抱くと、
うっとりとする唇のはざまに舌を入れて、並びの良い前歯をその舌でなぞってゆく。
「アラ、いやだ。口紅が落ちちゃうじゃない」
わざと冷静を装う女は、小面憎いほどの手並みで、男の本能を逆なでした。
心の中がポジティブに切り替わると、女の耳たぶを熱い呼気で覆ってやる。
「じゃあ、リボンをほどいて、中身を頂戴しようか」
俺はプレゼントに巻かれたリボンに手をやると、さっと解いた。
スカートの周りに巻かれたリボンも器用に外して、じゅうたんの床に落とした。
揉みしだく掌のなか、いや掌からあふれるほどに、女の胸は豊かに張りつめていた。
圧しつけつづけた唇に、呼び合うように応えてくる唇が、熱いものを帯びていた。
ふつうの人間と化した俺は、女を人として愛し抜いて、満ちたりさせて。
それから力の抜けた女の身体から、生命の源泉をしたたかに抜き取ってやる。
女の熱情、心意気、ひたむきさ。澱んだ悩み、歪んだ悲しみ、どす黒い鬱屈を余さず受け止めて、
のどを鳴らしてしたたかに啜り尽し、女の身体を浄化する。
あくる朝。
女は出勤前のイデタチに戻って、俺にもう一度抱かれるだろう。
「出勤前のOLを、貴男にあげる」と、囁いて。
そして週末まで2日も休みを取ったのといって、
楽しい仕事をわたくしから奪った見返りに、たっぷり愉しませて頂戴と、
わがままなおねだりをくり返すのだろう。
女の名は、翔子――
こちらの気持ちが荒んだときに、忽然と現れて。
こちらが正気づいたときにはもう、赤の他人の顔になって、元の世界へと戻ってゆく。
どちらが吸血鬼?
そんな自嘲をしたときにはもう、俺は己を取り戻している。
あとがき
どういうわけか、一気に書き抜いてしまいました。
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