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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

亡き妻になりきった夫

2018年05月04日(Fri) 06:17:47

「私が死んだら、女になれば?」
妻はそう言って、せせら笑った。
結婚後すぐにわたしの女装癖を知った彼女は、わたしのことを冷ややかに嗤った。
それ以外は、ごく円満な夫婦だった。
見栄っ張りな彼女はだれから見ても幸福な夫婦を演じ切ろうとしていた。
賢明でもある彼女は、わたしに対する内心の軽蔑を抑え込んで、
少なくとも家庭という共同経営者としては強調し合える、理想的なパートナーだった。
彼女が穏やかでさえいてくれる限りでは、わたしにとって彼女はどこまでも、最愛の妻だった。
しかし、わたしたち夫婦の間に、子どもを授かる日はついに訪れなかった。

四十手前という若すぎる死期を覚ったとき。
病床を訪れた裕福そうな老紳士をわたしに引き合わせて、
「この人よ。20年前、私が処女を捧げたのは」
妻はそう言って、またせせら笑った。

貴方とお見合いをしているときも、しょっちゅう逢ってたの。
結婚も、彼に相談して決めたわ。
それから――結婚してからも、よく逢ってたの。
怒った?
優しいのね?
こんな悪い奥さんでも、怒らないでいてくれるのね?
じゃあ私から、ご褒美をあげる。
あなた、私がいなくなったら、女になればいいわ。
女になって、この男(ひと)に抱かれるといいわ。
もしそうしてくれるなら、私の服をぜんぶ、貴方にあげる。
私がいなくなったら、どうせそうするつもりだったんだろうけど――
貴方が気に入っていた青紫のスーツも、濃い緑のベーズリ柄のワンピースも、
これからは好きに着られるのよ。
ちょうどサイズも、あつらえたようにぴったりだし。
どお?
女になって、貴方の奥さんを犯しつづけた男に抱かれるなんて。
あなたそういうの、好きそうじゃないの――

妻がいなくなってから、男はしばしばわたしたちの家を訪れて、
わたしとはひと言も言葉を交わさずに、静かにお線香をあげていった。
そんなことが三度続いたあと、
わたしは意を決して、線香をあげに訪れた彼のことを、妻の服を着て出迎えた。
彼はちょっとびっくりしたようにわたしを見つめ、ただひと言、
「加代子さんにそっくりですね」
とだけ、いった。
わたしにとっては十分すぎる、褒め言葉だった。

さいしょに選んだ服は、洋装のブラックフォーマル。
わたしは妻を弔うためにその服を着て、初めて男性の抱擁を受け容れた。
息荒く迫る男のまえ、乙女のように心震わせて目を瞑り、
お仏壇の前で彼に抱かれて、いっしょに妻のことを弔った。

喪服のスカートの裏地と黒のストッキングとを、彼の精液で濡らしながら、
不覚にも、昂ぶりの絶頂を迎えてしまっていた。
抱きすくめる猿臂の主を、逞しい背中に廻した腕でギュッと抱き返しながら、
妻のことを日常的に犯したという一物を、未経験の股間に迎え入れた。
「加代子が狂ったの・・・わかります」と呟いて、
無条件の奉仕を誓ってしまっていた。
男はわたしの頭を抱いて、「あなたは加代子だ」といい、
わたしは彼の耳もとで、「はい、わたくしは加代子です」と囁き返していた。
せめぎ合う息遣いを思いきり昂らせて、
わたしたちはなん度も果て、愛し合った。
同じ女性を愛した男性同士――わたしは最愛の加代子になり切って、
これからもあなたの最愛の加代子でいつづけると、男に誓っていた。

つぎはおめかしをして、都会に出かけよう。
こんどは喪服ではなくて、あの花柄のワンピースにしないか。
きみはご主人が結婚記念日にプレゼントしたというあの服を着て、
いっしょに映画を見て、お食事をして、ホテルにまで行ったのだよ。
あの日が戻ってくることを、わしは心から望んでいる――
妻の愛人はわたしの耳もとでそう囁いて、
わたしはただ、「加代子になって貴男に逢います」と、囁き返していた。

わたしは妻になり替わって彼の愛人になり、加代子という名前でこれからを暮らす――


あとがき
言ってるそばから、”魔”が降りてきました・・・。
^^;
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すっかりご無沙汰になっています。(管理人のつぶやき)

コメント

「さいしょに選んだ服は、洋装のブラックフォーマル。・・・」うんうん、望んでいた展開が書かれていて、ふふって思いました。これ読んだ自分まで昂ぶりを覚えてしまいましたよ。
GW中に魔が降りてきたようで^^おかげでまた柏木さんのお話を堪能させてもらいました。

by ゆい
URL
2018-05-06 日 14:04:09
編集
ゆいさん
ヒロインであるはずの奥さんはお話の前半でいなくなるのですが、
このお話を描いているときに終始思い浮かんでいたのは、夫でも年上の情夫でもなくただひとり、少し皮肉げで寂しげでもある嗤(わら)いを泛べつづけた奥さん(加代子さん)でした。

辞書で引いたわけではないのですが、
「嗤い」って描くとどことなく、冷たい嘲笑をイメージするのです。
でもきっと、加代子さんはそれでもご主人のことを愛していたのだと思います。
ご主人は女装したかっただけかもしれないですが(笑)、そういう心を秘めた奥さんと入れ替わって、奥さんになり切って男と愛し合う。
ある意味、奥さんがよみがえったともいえると思います。

描き始めた最初にはそこまで考えていなくて、キーを叩いているうちに奥さんが自分の想いを柏木に囁きかけ、囁かれるままにお話を描いた――そんな不思議なお話になりました。

なんだかコメに対するレスになっていないようなレスになってしまって、すみませぬ。
(^^ゞ
by 柏木
URL
2018-05-07 月 20:44:34
編集

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