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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

保健部員の女子

2018年05月23日(Wed) 07:01:14

「きみ、だいじょうぶ?」
白いハイソックスの足が立ち止まり、気づかわしそうに声をあげた。
歩みを止めた腰周りに、アイロンのきいたプリーツスカートがゆさっと揺れる。
少女の足許には、同じ学校の制服を着た男子が一人、蒼い顔をして樹にもたれかかっている。
「貧血なの?あたし保健部員なんだけど、いっしょに養護室に行こうか?」
少年はかすかに顔をあげたが、少女と目線を合わせるのさえ、たいぎそうだった。
動いた目線の先に、少女の脚が触れた。
照りつける陽射しの下。
しっかりと立つ一対の発育のよいふくらはぎ。
真っ白なハイソックスに浮いた太めのリブと、ふくらはぎに走る二本の赤いラインとに、
少年の目がくぎ付けになる。
けだるそうな瞳に、獣の光が宿った。

歩ける・・・?と言いかけて半歩踏み出した少女の脚が、こわばった。
やおら伸びてきた腕が彼女の脚にツタのように絡みついて、
少年が少女の足許にすり寄るのと、スカートの下のふくらはぎに素早く唇が吸いつけられるのとが同時だった。
「えッ!?何を・・・!?」
少女の叫び声が、唐突に中断した。
「――――っ!」
咬まれた!と思った途端、強い眩暈にくらくらとした。
真っ白なハイソックスに赤黒いシミがほとび散って、
うごめく唇の下、脛の周りからしわくちゃになってずり落ちてゆく。
――いけない、立ってなきゃ。
逃げ出すよりも、尻もちを突くよりも、なぜか彼女はそう感じて、
少年がもたれかかっていた樹の幹に手を置いて、かろうじて身を支える。
意識の消える直前、
吸い取られてゆく14歳の血潮がハイソックスになま温かくしみ込むのを、彼女は感じた。

「ちわす」
養護室のドアが開かれ、虚ろな声が白衣の後ろ姿に投げられた。
生気のない男子の声に、養護教諭の辰野千栄はゆっくりと振りかえる。
枯れ木のようにか細い、顔色のわるい少年が、自分よりずっと体格の良い少女を、お姫さま抱っこしている。
少女のハイソックスを濡らす赤黒いシミを目にして、辰野教諭はなにが起きたのかをすぐにさとった。
「また、やり過ぎたのね?」
しょうがない子ね・・・という顔をして辰野教諭は少女をベッドに寝かせようとする少年を手伝った。
「そういうときは我慢しないで養護室に来なさいって言ったでしょう?」
優しく咎める教諭の言葉に、少年は素直にうなだれた。
「最近、先生顔色悪いじゃん」
「余計なこと気にしないの」
といいながら、教諭は自分の足許に目線を落とす少年の気配を敏感に感じ取る。
「まだ足りないの?」
「うん」
薄茶のスカートから覗いた辰野教諭のふくらはぎは、肌色のストッキングに包まれている。
少年は教諭の足許にかがみ込んで、教諭は少年の頭をいたわるように抱いた。
さっき少女のハイソックスを咬み破った牙が、教諭のストッキングをも獰猛に裂いた。
「あっ、痛ぅ。・・・手かげんしなさいよ」
教諭は教え子を咎めながらも、自分の足許に不埒をはたらく少年の吸血を許した。

「この子はね、3年A組の青沼輝子。あなたの一こ上よ。顔知らないのも無理ないね」
「あおぬま、てるこ・・・」
放心したようにつぶやく少年の掌をとって、辰野教諭は少女の名前を彼の掌になぞった。
「あお、ぬま、てる、こ。わかった?」
無言で肯く少年に、
「好きになっちゃったんでしょ」
と、辰野教諭はイタズラっぽく笑って顔をのぞき込む。
軽くウェーブした栗色の髪が白衣の肩にさわっと揺れたが、
少年の目線は蒼ざめた顔でベッドのうえに横たわる少女にくぎ付けになっていた。
「送ってってあげたらあ?一人じゃ歩けないわよー。
それに、このごろ暴走族が出て帰り道が危ないの」
教諭ののんびりとした口調に、少年は感謝するように頭をさげた。

「歩けるからいいよ」
輝子はすっかり、気の強さを取り戻していた。
「上級生を襲うなんて、いい度胸してるよね」
と、えらそうに先輩風を吹かせたのは、貧血がおさまらない自分を引き立たせるためだった。
少年のほうもそれと察しているのか、黙って輝子の傍らに寄り添って歩いている。
背後の気配にギョッとして少女が振り向こうとするのを肩を抑えて制すると、
「やべ。このごろ出没している暴走族。振り向くんじゃないぞ」
下級生の命令口調に、何よ、と言いかけた輝子は黙り込んで、少年に命じられた通り前だけを向いた。
少年はそれに反して後ろをちらと振り返り、バイクにまたがる獣たちのほうに目を投げた。
獣の影はギョッとしたように身体をこわばらせ、ブルン、ブルンと負け犬の遠吠えのようなエンジン音を轟かせ、一目散に去っていった。
「強いんだね」
輝子は白い目で、下級生の少年を見あげた。
少年はわざと輝子の目線から目をそらして、
「気持ち悪いんだろ」
とだけ、いった。
語尾が寂し気に震えるのを、感受性豊かな少女は聞き逃さなかった。
「うちに寄ってく?」
「やめとく。きみの母さんまで咬むわけにいかないだろ」
少年はさりげない口調で輝子を立ちすくませるようなことを言うと、輝子の家のまえできびすを返した。

「咬まれちゃったんだね」
玄関で迎えた母の陽子が、くったくのない笑みを浮かべて娘に言った。
「えっ!?」
血に濡れたハイソックスの足をすくませると、「靴下濡れてるじゃない」
母親はそういうと、くったくのない態度を変えずにいった。
「さあ、脱いだ脱いだ。母さんが洗っといてあげる」

「あの学校、吸血鬼がいるんだよね。昔から。
 母さんもね、学校帰りに外国人の兵隊に襲われて乱暴されそうになった時、
助けてもらったことがあるの」
え・・・?輝子は意外なことを言い出した母親の静かな横顔をふり返る。
「あのころは外国の兵隊がいばっていてね、法外なことをしでかしても、
 大人も怖がって、手出しできなかった。
 なのにあの人ったら、一撃で目くらましをかけてね、母さんのこと逃がしてくれたの。
 同じ制服を着ていたから、どうしてもお礼を言いたくて校内を探して――
 そうしたら女子の先輩が教えてくれた。あんたの彼氏の友だちだよって。
 それが、お父さんの友だちの――あんたも知ってるでしょ――兇野さん。
 感謝のしるしに、何度も血を吸わせてあげたし、父さんも賛成してくれたの。
 抱かれちゃったことだって、あるんだから」
意外な話に意外な話が積み重なって、目を白黒させているいとまもないほどだった。
それでも輝子はいった。
「家に呼んだけど、入ってこなかった。母さんのことまで襲っちゃうからって」
「こんどはちゃんと、家に呼びなさいよ」
母親の顔が少女のように若やいだように、輝子は感じた。

次の日――
後者の裏手のあの樹のまえで、輝子は少年をまえにおずおずと紙包みを手渡していた。
「これ、よかったら」
紙包みの中身は、昨日少年に咬み破られたハイソックス。
その子とおつきあいしたかったら、そうするんだよ、と、母親はいっていた。
少年が紙包みを受け取るのを「ありがとう」といって、輝子はそわそわと目をそらす。
「たまになら、献血してもいいからさ。あたし、保健部員なんだし」
ちょっとすくんだ足許が真っ白なハイソックスに包まれているのを、少年はもの欲しげに見つめ、
そんな少年の横顔に、少女はドキドキとして見入っていた。

差し伸べられた脚に、唇が吸いつけられてゆく。
しなやかなナイロン製の生地越しにヌルっと這わされる唇に、少女は「やらしい」と呟いたが、自分から脚を引っ込めようとはしなかった。
赤黒くただれた唇は、少女の履いているハイソックスのうえをもの欲しげに這いまわり、
ひざ小僧の下までお行儀よく引き伸ばされたハイソックスを、しわくちゃにしてずり降ろしていった。
このひとのためなら、堕落しても良い――
咬まれた傷口から処女の生き血を抜き取られてゆくのを感じながら、
輝子は自分から、姿勢を崩していった。


あとがき
登場する人物名・団体名は、すべてフィクションです。
このお話に限らないけど。
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コメント

久しぶりに柏木さんらしいお話が読める~って感じながら、ワクワクして読ませていただきました。
母から娘へとつながって行くから吸血鬼も生き続けていけるんですよね。

あとがきにフィクションですと書いてあるけど、本当にフィクションですか?!(笑)
by ゆい
URL
2018-05-25 金 07:52:25
編集
ゆいさん
さいごの一行に感謝♪
そういうリアリティを感じていただけたら、作者冥利に尽きます。

さいしょは保健部員の彼女しか登場しない予定だったのですが、
描いている途中からお母さんも生命力を目ざめさせました。
初めて月経を迎えた女子をいたわるお母さんみたいですね。
by 柏木
URL
2018-05-25 金 08:48:01
編集

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