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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

2018年05月28日(Mon) 22:29:50

さいしょのうちは、どうしてこんなにしつっこく、ひとの身体のあちこちに喰いつくんだろう?と思っていた。
やつと逢っているときは、首すじだけではなく、
肩、胸、二の腕、わき腹、太もも、ふくらはぎと、それこそありとあらゆる部位に喰いついてくるのだ。
わざと苦痛を与えるためか?
そう思ったときもあった。
けれども、どうやらそうではないらしいことが、最近分かってきたような気がしている。
やつらはただ、「噛みたい」のだ――と。

やつらは牙をとても大切にしている。
なぜって、それが人の心をも支配できる最強の武器だからだ。
いつも入念な手入れを欠かさない。
そして、ひとの女房を誘惑するときには、
――美女の素肌を噛む前に、手入れは欠かせないのだよ。
などと、もっともらしいご託まで並べ立てる。

仲間同士では、自分の牙が今月、幾人の美女の素肌に埋め込まれたのかを自慢し合っていた。
「わしは青沼の女房をモノにした。ついでにやかましいことをいう姑まで、奴隷にしてやった」
「わしなんか、隣家の嫁入り前の姉妹を3人ながら、ちょうだいした」
「くそ!俺が貧血にしてやったのは、勤め帰りのOL1人だけだ」
「ははは、そいつは残念だったな」
指折り数えて、競争相手よりも少なかった日にはたいそう悔しがって、
喉が渇いているわけでもないのに人間の女たちに襲いかかる。
そんなのの巻き添えにあったのでは、まったく迷惑極まりないのだが・・・
けれども、彼らの自己満足を満たすため、頭数かせぎに集められた女たちのなかに、
わたしの母や姉、そして妻までもが含まれていた。

自分の血でびしょ濡れになったワイシャツとスラックスにしみ込んだ、薄気味の悪い温もりを感じながら。
目のまえで妻が、わたしのときと同じように、色鮮やかな紫のワンピースを血塗られながら、噛み続けられていった。
あたかも、ひとの服を持ち主の血で彩るのが愉しくてしようがない――はた目にも、そんなふうに映った。
事実そうなのだ・・・と、妻を噛んだ男はいった。

撥ね散らかされる血。
洩れる悲鳴。
振り乱される髪。
血塗られてゆく衣裳。
裂け目を拡げるストッキング。
こたえられない噛み心地――
それらすべてが一体になって、彼らにサディスティックな悦びを与えるのだと。

きみたちは、サディストなのか?
わたしは訊いた。
たぶんそうだね。
男は応えた。
でも、噛まれる側に立っているあいだは、マゾヒストだったな――と。
そう。
彼もまた、吸血鬼になるまでは、わたしと同じふつうの市民だったのだ。

女房が噛まれたときにはひどく悔しかったけれども、
嗜血癖が芽生えてきてしまうともう、頭の中身がすっかり入れ替わってしまって、
噛まれている女房を視ているだけで自分が噛んでいるような気になって、
そのときにはもう、意識は吸血鬼の側に飛んでいたっけな――
さいごのころには、女房を噛んでもらいたくって、しぶるあいつを促して、夫婦でお邸に通ったものだよ。
マゾヒストはある意味、最良のサディストになり得るのさ。

たしかに。
相手のツボを知っているものほど、よく相手を支配できるのだろう。
妻を噛んでいる憎いやつは、吸血の本能を植えつけられたとき、すすんで女房を仇敵の欲望にゆだねて愉しんだという。
彼のいびつな歓びを、果たしていまのわたしは笑い飛ばすことができるだろうか・・・?

きょうも妻は、家のなかを悲鳴をあげながら逃げ惑い、部屋の隅っこに追い詰められて、
身じろぎできないほどに強く強く抱きすくめられた腕のなか、きゃあきゃあと声をあげ、噛まれてゆく。
貧血を起こしてひっくり返ったわたしは、目を血走らせ、股間を逆立てて、ふたりのようすから目を離せなくなっている。

どうやらマゾの境地を極めたようだな。
犯されて放心状態になった妻の上におおいかぶさって、
乱れたワンピースの裾から覗く太ももの奥に、どす黒くたぎった熱情の限りをそそぎ込んでしまったあと。
やつはわたしの胸の奥を見抜いたようにいった。
ここからは、あんたもサディストになる番だな。
どうやらそういうことらしいね。
気がつくと、身体じゅうの血のほとんどは、やつの牙に啜り取られたあとだった。
虚ろになった身体に淫らな夜風が吹きつけるのが、ひどく心地よい。
自分の身体が人の生き血を欲し始めた――わたしはありありと、そう感じた。

兄夫婦と姪を狙おうと思う。
わたしはやつに、宣言した。
口にしただけで、兄の一家の運命を握ったような気分になった。
さいしょから独りで狩るのは大変だぞ。おれが手伝ってやる。
もっともらしく囁く男の本音を見抜くのは、かんたんだった。
目あては娘のほうか?女房か?
どっちもだ。
男は嗤った。
わたしも嗤った。
お前の妻に手引きをさせろ。だんなはお前の妻に気があるんだ。
知ってる。
せっかくだ。武士の情けでいちどくらいは、抱かせてやるか。
やつとおなじ語調になったわたしに、男はいった。
3人とも、さいしょは俺が噛んで大人しくさせる。そのあとは、好きにやるとよい。
兄嫁は、あんたに先にやらせてやるよ。
ずうっと前から、執心だったんだろう・・・?

わたしは嗤った。
やつも嗤った。
嗤った口許から同じように尖った牙が閃くのを、互いに確かめ合いながら。
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