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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

一期一会

2018年05月29日(Tue) 06:24:44

ある若い吸血鬼が、人妻を愛するようになった。
相手は、自分の恩師の奥さんだった。
この街では人間と吸血鬼とが共存していたので、
その吸血鬼も、人間の学校で人間の先生から教えを受けていたのだ。

吸血鬼はわきまえのある青年だったので、自分の想いを押し隠すことにした。
けれども先生は、教え子の自分の妻に対する想いに感づいていた。
奥さんもまた、彼の想いに気がついていた。
やがて病を得た青年のもとに、先生は奥さんをお見舞いに行かせることにした。
「ユウトくんの見舞いに行って来てほしい」
夫にそう告げられた奥さんは、自分の身に何が起きるのかを薄々知りながら承知した。
彼女は夫を愛していたし、夫の判断を信用していた。
きっとそうすることが、いまの自分たちにとってベストなのだろうと。
「一期一会だよ」
夫はいった。
まるで謎をかけるように。
訪問先にはどんな一期一会が待っているのかと思いながら、
奥さんは行儀よく脚に通したストッキングのつま先を、地味な革製のパンプスに収めていった。


奥さんは身なりを整えて、夫の教え子のもとに出向いた。
吸血鬼の家は広い棲み処で、彼はその家で独りで暮らしていた。
奥さんが身なりをきちんとしたのは、恩師の夫人としての体面を整えるためだった。
決して、若い吸血鬼の気をそそるためではなかった。
夫もまた、そうすると良いとすすめてくれた。
身なりのきちんとした女性のほうが、そうでない女性よりも、乗じられることが少ないだろうからと。
しかし結果は逆だった。
奥さんのきちんと装われたスーツ姿に、
ひざ下丈のスカートから控えめに覗いた、ストッキングに包まれたふくらはぎに、
吸血鬼は欲情してしまった。
彼は奥さんの首すじにかじりつき、思うさま血を吸い取ると、
奥さんの穿いていた肌色のストッキングを牙でびりびりと咬み破り、
相手が恩師の夫人であるというわきまえを忘れて、彼女を犯してしまった。

「あれ!何をなさいますの!?いけません、お止しになって・・・」
奥さんはうろたえながらも夫の教え子を落ち着かせようとしたけれど、
失血で弱った手足は思うようにいうことをきかず、
たちまちねじ伏せられて、力ずくで凌辱されてしまった。
永年連れ添った夫しか識らない身体だった。
彼女は泣きながら犯されたが、
しかし識ってしまった若い男の身体に、四十代の熟れた肢体は敏感に反応してしまった。
さいごは不覚にも、別れぎわぎりぎりまで、肌を合わせてむさぼり合ってしまっていた。
これが一期一会というものなのか。
ひくひくと喘ぎつづける身体の芯の火照りにとまどいつつも、
これでいいのだろうか、こんなことでよかったのだろうかと懊悩しながら、
身に降りかかる嵐のまえ、どうすることもできなくなっていった。


長い時間が過ぎた。
教え子は恩師の奥さんに恥をかかせるつもりはなかったので、
彼女の洋服が破れて素肌をあらわにしてしまっているのが闇に紛れる刻限になってから、彼女を家まで送っていった。
ただし暗くなるまでにはまだ決して短くはない時間が必要で、
そうなるまでの間ふたりは、お互い恥を忘れてまぐわい合っていたし、
彼はもとより、彼の考えを聞かされた奥さんも、いつか相手の男と気持ちをひとつにして、
知らず知らず、これ幸いと脚を開いて刻を過ごしてしまったのである。

家に着くと奥さんは我に返り、自分のしでかしてしまったことを取り返しのつかないことだと感じた。
ふたりの男のまえ、奥さんはすべてを打ち明けて、
私は当家の名誉を汚してしまった、
もうあなたの姓を名乗りつづけるわけにはいかない、
どうか自分のことを離縁してほしいと夫に願った。
教え子の吸血鬼は、ただ頭を垂れるばかりだった。
先生は奥さんを愛していたし、教え子にも悪気がまったくないことを知っていた。
なによりも、彼らが人妻の血を吸うときは、ほとんど例外なく肉体関係を結ぶことも、薄々は聞き知っていた。
けれども真面目な教え子であった彼に限って、自分の妻に非礼をはたらいたりはしないだろうと思って、妻を見舞いに行かせたのだった。
先生は奥さんに言った。
いちばんに責められるのは、彼の習性をそうと知りながらきみを行かせたわたしにある。
きみがもし彼を愛してしまったというのなら、ぼくに止める力はないけれど、
そうではないというのなら、このまま家にいなさい、と。
また、教え子の吸血鬼にも訊いた。
きみは家内のことを愛してしまったのか、それともたんに、生き血と女の身体をむさぼりたいという本能のままにし遂げてしまったことなのか、と。
教え子はいった。
奥さまに罪はない、すべては自分の忌むべき本能のせいなのだ、と。
それからこうも言った。
自分は劣情の塊である、だから奥さまを襲ったのも、犯したのも、その忌むべき本能にしたがったまでなのだ、自分はたんに女の生き血と肉体が欲しくて、奥さまに挑みかかったのだと。
妻と教え子と、どちらも愛している恩師は告げた。
きみたちの関係が、割り切れるものだというのなら・・・
(妻を指して)きみはここに留まりなさい。
(彼を指して)きみはここに通ってきなさい。


それ以来。
教え子は卒業してからも、恩師の家に通い詰めた。
奥さんひとりで彼の必要とする血液すべてをまかなうことはできなかったが、
彼にはほかにも獲物がいたので、彼女の健康は保たれた。
けれども彼は三日にあげず恩師の家にやってきて、その妻の身体を欲しがった。
恩師は教え子の求めにこころよく応じて、
やって来た彼に家のなかで一番良い部屋をあてがった。
そして、彼の待つ部屋に行くよう妻に促していた。
奥さんもまた小ぎれいに装って、夫の教え子の待つ部屋へと足を運んだ。
彼女が身なりを整えて、きちんとした服装で教え子の前に出たのは、
教諭夫人としての品格を保とうとしたからであって、夫の教え子の気を引くためでは決してなかった。
永年習っているお茶の作法とどうように、彼女は夫の教え子をもてなそうとしていた。
どんな服装を身に着け、どの部位を彼の植えた唇にあてがい、
どんなふうに教諭夫人としての品格を辱められまいとして、
どんなふうに衣裳を剥がれて辱められてしまうのか。
いつも茶室で振る舞うお濃茶の代わりに、われとわが身をめぐる血潮を振る舞うことで、
彼女は彼女なりに、しんけんに刻を過ごそうとした。
それが、(半ば許されていることとはいえ、)夫を裏切る刻であったとしても。

それでも、せっかくやって来た彼のことを少しでも愉しませてやろうという心遣いから、
身に着ける下着はいままでの地味なものからセクシィなものへと換えられていって、
脚に通すストッキングは、より薄っすらとなまめかしいものへと変えられていった。
それまでと変わりなく装われた清楚で気品に満ちた服装もまた、
清楚なものを汚したいという、品格というものを貶めたいという
そんなけしからぬ訪客の願望をかなえてやうために、袖を通されるようになっていった。

地味で清楚な服装のなかに、それを辱める愉しみを見出しながら、
彼は彼で、奥さんの服装の変化に敏感になっていた。
三度に一度はまとわれるようになった真紅のスリップや、
週に一度を限度に脚に通される黒のストッキングや、
それこそ月に一度あるかないか、
しつようなおねだりにほだされて羞じらいながら脚に通される濃紺のストッキングや、
そうした彼女にまとわれた衣装をまえに、
彼は恥知らずなよだれを口に含み、吸い取った血潮を見境なくまき散らしながら、
教諭夫人が浄いものとしたがった一期一会を、淫らで荒々しいものへと、塗り替えていった。


奥さんが自宅に夫の教え子を迎え、献血に応じるようになってひと月ほど経ったころ、
彼女は夫にいった。
あのひととのお付き合いが、あくまで身体だけが目的のものだとしたら、何と虚しいことでしょう?
もちろん、四十代の女の熟れた血液を彼が望んでいることは、
今の妾(わたし)にはとても嬉しいことだし、
これからも応えつづけてあげたいけれど。
やはり男女の関係というものは、愛情という裏打ちがあるべきだと思うのです。
このような心は、貴方に対する裏切りになるでしょうか?
やはり、妾は貴方にふさわしい妻ではいられないのかもしれません、と。
夫はいった。
きみのいうことはもっともだ。
でも、いまのきみたちの関係が、たんに獣のような劣情だけで成り立っているとは、ぼくは思っていない。
きみたちはきちんと、愛し合っている。
少なくともきみは彼を迎えるときに、ほかの誰に対するよりも心を込めて接しているし、
彼もまた、ここに来るのを心待ちにしているのだから。
彼のきみに対する気遣いは、ふつうの我々人間たちの気遣いとは違っていて、
礼を尽くして装われたきみの服を念入りに辱めたり、
ぼくの目のまえできみを抱いてなん度も果たしてしまったり、
そういうことで、自分は今貴方から頂戴した獲物を愉しんでいると、ぼくに精いっぱい伝えようとしているのだろう。
それになによりも、きみのことをあれほど辱めて愉しんでおきながら、
毎日ここに現れないのは、きみの健康を損ねないために気を使っているのだから。

たしかに彼は、恩師の夫人との逢瀬を日々、心待ちにしていた。
三日に一度以上の吸血は控えていたし、どうしてもこらえきれないときには先生の家にやって来て、愛し合う行為だけを遂げていった。
そういうときは、先生は気を利かせて外に用事を作ったりするものだったが、
前ぶれのない来訪の時にはそういうわけにもいかず、
彼は恩師の目のまえで奥さんを押し倒して、
奥さんもまた、彼の激しすぎる好意に、ぎごちなく身体を合わせて応えていった。

彼は恩師とその妻にいった。
私は奥さんのことを愛している、さいしょからずっとその気持ちに変わりはなかった。
でも先生から奥さんを奪ってしまうことは、ぼくにはできない、
だからぼくは、奥さんのことを、先生の奥さんのまま愛し抜きたいと。
彼が望んでいるのが独占ではなく共存だと知って、心優しい夫妻は安堵しかつよろこんだ。
夫は、いつでも君が来ることを望んでいるし、妻を抱くためだけに来てもらってもかまわない、それはぼくにとって不名誉なことではなくて、むしろ悦ばしいことなのだからといい、
妻もまた、貴男がいらしてくださるのなら、妾(わたし)、いつでも夫を裏切りますわといって、控えめな目鼻立ちを和めて笑った。
言葉の露骨さとは裏腹の、穏やかなほほ笑みだった。
そして彼女は、その言葉と態度どおりに、夫に対しても客人に対しても礼節を忘れることなく接し、いよいよのときだけは恥を忘れて乱れ果てた。

身体ばかりか心まで通じ合ったふたりは、
恩師の目のまえで、
夫の目のまえで、
見せつけるようにして愛し合い、
永年連れ添った妻が肉体を征服されるところを目の当たりにする羽目になった恩師は、
教え子が逞しく成長したことを、いやというほど思い知らされるのだった。


やがて時が流れて、先生の奥さんと教え子の吸血鬼の関係は、だれもが知るようになった。
奥さんが教え子と深く結ばれて愛し合うことに、先生は満足していたけれど、
時には奥さんと二人きりで過ごしたいという、夫として当然すぎる気持ちも持つようになっていた。
道ならぬ愛を許されたふたりもまた、先生のそうした意を汲んで、少しずつ逢瀬を控えるようになった。
一定量の血液を必要とした吸血鬼が、最愛の人妻を夫のもとに帰すことができたのは、
かつてのクラスメイト達のおかげだった。
先生の教え子たちは全国に散らばっていたが、何人かは戻ってきて、先生の“窮状”を知った。
彼らはかつての同級生だった吸血鬼と個別に会い、恩師夫妻のふたりだけの時間を作るため、奥さんの身代わりに自分たちの妻を差し出すと申し出た。
ありがたい申し出に、吸血鬼にもいなやはなかった。
彼は同級生の娶ったうら若い新妻たちの首すじに、つぎつぎとかじりついていって、
養分と活力豊かな20代30代の血液にありついた。
もちろん、親友の妻といえどもそこには見境はなくて、
若妻たちは一人、また一人と犯され、吸血鬼の奴隷に堕ちていった。

先生の弟子たちは身内の秘密を守りながら連絡を取り合って、
恩師の妻の身代わりに自分の妻をあてがっても差支えのない者たちが、
まるで当番のように交代で母校に赴任して、
かつての幼馴染に、自分たちの妻の若い血液と肉体を提供しつづけた。
自分の妻の容姿に自身のない者は、
「俺の女房なんか、頭数だけだよね?」
と、吸血鬼に問いかけたが、案外そうした妻たちにこそ、彼は執着していった。
地味で清楚な婦人に魅かれる彼の習癖に、代わりがなかったからである。
なん人もの若妻たちが、夫以外の男の身体を覚え込まされ、
家事や子育ての合間を縫って、彼専用の娼婦として奉仕を続けた。

吸血鬼は母校の教諭夫人たちを、かつて恩師の奥さんにそうしたように押し倒し、血を吸い取り、犯していった。
そんな彼の習癖をただの病気と割り切って、かつての幼なじみたちは、
自分の妻たちが身に着ける清楚な衣装が、持ち主の名誉もろとも汚されるのを、
貞淑だったはずの自分たちの妻が、不倫の恋に酔い痴れるのを、
見て見ぬふりをし続ける。


齢を重ね、還暦近くなろうというのに、
それでも吸血鬼の恩師宅通いはつづけられた。
楚々とした着物に身を包み、永年習った作法でお茶を振る舞ったあと、
狭い茶室のなか、われとわが身をめぐる血潮を、お濃茶以上にたっぷりと振る舞って、
着物の下前をめくりあげられ、襦袢をたくし上げられて、
昼日中からまた、あられもない声をあげてしまう。
夫がそれを傍で聞いて、愉しんでいることまで知り尽くしながら。

青田君の奥さんと、うまくやっているのね?
エエ、二人は愛し合っているんです。
笹岡くんがもらったばかりの、新婚の奥さんまでものにしちゃったんですって?
エエ、あのひととも愛し合っているんです。
そのうえ、妾(わたし)とも?
ハイ、二人は愛し合っているんです。
「ふたり」と告げたときの情夫の微妙な口吻に気づいた彼女は、ふと笑いかける。
そこには夫も入っているのだ と。
「ふたりって、どのふたりのこと?」
わざと聞かれた問いに男は答えずに、いった。
一期一会 ですよね?
私は目のまえの獲物に専念するし、いま抱いている女(ひと)を愛し抜くことしか考えません。
青田くんの家では、青田夫人とその娘さん、
(うっかり口走った秘密に、あらあら・・・とクスクス笑いが続いた)
笹沼くんの家では、彼の奥さんやお母さん、
(まあまあ・・・と、教諭夫人はふたたび笑いこける)
この家では、貴女――
さあもういちど、と口づけをねだられて。
奥さんは「主人が視ててよ」と、いちどは拒んだが、
強引に押しつけられる唇に、唇で応えていって、
物陰から覗く夫の困ったような視線にもおかまいなく、またなん度めかの“一期一会”を重ねていった。
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