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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

結婚するのは、緋佐志とだから。

2018年06月04日(Mon) 00:19:48

ディスコのなかは、広々とした密室。
きらめく光芒の下、今夜も京香は踊り狂っている。

ムチのようにしなる腕。
激しいステップをくり出す、恰好の良い脚。
汗ばむ胸もと。火照る素肌。
ゆるいウェーブのかかった栗色のロングヘアが揺れる肩。

彼氏の緋佐志はそんな京香を遠くから、うっとり見つめる。
「遠くから見ているだけでも良いのかね?」
出し抜けに囁かれた言葉の主が、自分と同じ女をうっとり見つめるのを知っても、
緋佐志は自分でも訝しいほど、腹を立てなかった。

「彼女の京香です。この人、いま知り合ったばかり」
名前を言いかねて聞き直そうとする緋佐志をちらと見て、男はクリスと名乗った。
どう見ても日本人だけど・・・と訝る京香を「いいじゃない」と受け流し、
「そろそろ出るか?」と、いつの間にか三人の間を仕切っていた。
氷のように冷静なところを取り繕っていたけれど。
クリスは内心、昂ぶりを抑えかねていた。
ひざ上丈のタイトスカートから覗く京香の健康な太ももはピチピチと輝いていて、
ストッキングごしに桜色に透けた素肌が、悩ましかった。

クリスは言わずと知れた、深夜の女を狙うハンター。
しかしふつうのハンターとは違っていた。
生身の男と違って、冷えた身体を持ったこの男が欲したのは、
年ごろの女のうら若い血液を、干からびた自分の血管にめぐらせることだった。

2人で泊る予定のホテルに、「廊下に寝るさ」とうそぶくクリスと3人でチェックインしたが、
フロントはクリスのことを不思議がりもせずに、緋佐志にキーを渡してくれた。
通されたツインルームでちょっとのあいだ3人で飲んで、
あとはお2人さんを邪魔することなく廊下で寝る――そういう約束だった。
けれども男が約束を守る気がないことを、京香はとっくに見抜いている。
「緋佐志、だいじょうぶ?私のこと、ほかのやつに奪(と)られちゃうよ?」
なん度か言いかけたその言葉を引っ込めたのは。
案外京香も、この道の男にえも言われぬ期待を抱いてしまっていたから。

トイレに出た緋佐志が、なかなか戻ってこない。
いっしょについていったクリスが一人先に戻ってきたが、
2人きりの気まずい時間を過ごすのを嫌った京香は、ドアを開けて部屋を出た。
白のパンプスの足どりはすぐに止まり、その場に立ちすくむ。
首すじから血を流した緋佐志が、そこに倒れていた。
振り返ると、クリスの口許にバラ色のしずくが光っている。
緋佐志の胸もとに散った液体と同じ色だと見て取ると、
京香は男の正体を瞬時で察し、ダッシュでエレベーターホールに走った。
間一髪だった。
開放されていたエレベーターの扉は京香の目のまえで閉ざされ、
つぎの瞬間京香のスーツ姿は羽交い絞めになっていた。
「――ッ!」
息苦しいほど抱きすくめられた京香は、
首のつけ根のあたりに生温かい唇がヒルのように吸いつくのと、
その唇の両端から覗く尖った異物が皮膚を切り裂き、首のつけ根に疼痛を滲ませるのを感じた。
意識がスッと遠のいた。

気がつくと。
ベッドのうえにいた。
ホテルの部屋に引きずり戻されていたのだ。
気絶していたのは、数分間でしかなかっただろう。
傍らを見ると、緋佐志がベッドの傍らに尻もちをついて、放心したようにこちらに目を向けている。
京香のうえには、クリスがいて、薄笑いを泛べた唇を、ふたたび京香のうなじに這わせようとしている。
「うー、うー・・・」
京香はなん度もうなり声をあげて、首すじに迫るクリスの唇を避けようとした。
「だめ・・・だめ・・・だめえっ。あたし、緋佐志のお嫁さんになるんだからっ・・・」
痛切に叫ぶ京香を抑えつけて、男はなおも京香の身体から若い生き血を引き抜く行為を、力を弛めず続けてゆく。
「こ、殺さないで・・・」
ベッドの下から洩れる声に、男がかすかに頷くのを、京香も緋佐志も見逃さなかった。
男は少しだけ獰猛さを消して、京香の額を優しく撫でると、
「若い女の血が欲しい」とだけ、いった。
さすがに「どうぞ」とも言いかねて京香が黙っていると、
男は京香の両肩を抑えつけて自由を奪うと、再び京香の首すじを吸った。
抑えつけられ自由を奪われながら、京香は再び咬まれていった。
ズブッ・・・と食い込む牙が、今夜初めて受け容れるはずだった緋佐志の男性自身のように、京香の胸の奥を抉った。

セックスと吸血。
形は違うけれど、いま自分が体験しているのは間違いなく初体験なのだと、京香は感じた。
緋佐志の見守る目線をそれぞれに気づかいながら、ふたりはベッドのうえでせめぎ合い、
男は淫らな吸血行為をやめようとはせず、
女は忌むべき凌辱から逃れようとしてしくじりつづけていた。
緋佐志は自分の彼女が、吸血鬼相手にうら若い血液を提供しつづけて、
吸血鬼が彼女の血潮に魅了されてゆくのを、ただ息をのんで見つめつづけていた。
せめぎ合いを演じる若い女の肢体はじょじょに力を喪って、
やがて抵抗は屈従に変化してゆく。

クリスがやっと牙を引き抜いたとき、女と男は目を見開き合って、互いを見つめた。
女は上目づかいで。
男はまっすぐに見おろして。
京香は男のような口調で、いった。
「わかった、いいよ。あなたの女になる」
そして緋佐志のほうをふり返ると、
「でも結婚するのは、緋佐志とだからね」
というのを忘れなかった。
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