淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
婚前交渉(前作「結婚するのは、緋佐志とだから。」続編)
2018年06月04日(Mon) 05:52:06
「イヤ!服が皺になるじゃない!」
抑えつけられたベッドのうえ、京香は眉を顰めながらも、早くも男に首すじを吸わせてしまっている。
婚前交渉をするのに彼氏といっしょにホテルに行くのは、若い女の子のなかでは常識だった。
京香ももちろん、例外ではない。
ただし、相手が恋人ではなく彼女の生き血を欲しがる吸血鬼だということは除いて・・・の話だけれど。
緋佐志はきょうも、送り迎えをしてくれた。
ホテルの前で緋佐志の車を降りると、自分の背中に注がれる視線を痛いほど感じながら、
発育のよいふくらはぎをまっすぐに、ホテルのロビーに向けてゆく。
結納を済ませた後、なにも知らない京香の母親は娘にいった。
「お父さんは何ておっしゃるかわからないけど、結婚するんだからあとは京香の好きにしても良いと思うわ」と。
そう、たしかに「結婚するから」「好きにしている」。
ただし、「違う相手と」。
ホテルでの一夜で吸血レイプされたあと(まだ処女だけど)も、緋佐志はそれまでと変わらず優しかった。
ホテルで待っている彼と逢うと言ったときに、送り迎えをしてくれると言われたときには、耳を疑ったけれど、
卑屈な態度ではまるでなく、しつような吸血のあげく貧血にさいなまれる自分の恋人を気づかってのことだとすぐにわかった。
いま京香は、緋佐志に介抱されながら、血に濡れたブラウスの襟元を気にせずに、独り暮らしのマンションに、帰ることができるのだ。
いまあたしがしていることは、きっと不倫なんだろう。京香は思った。
そして隣でハンドルを握る恋人さえもまた、彼女の不倫の共犯者だった。
そうよ、不倫よ。ふ・り・ん♪
あの男の牙にかかって、あたしめろめろに酔わされちゃうの。
あなたを車で待たせて、密室のベッドのうえであいつに抱かれて、酔わされちゃうの。
あたしが処女でいられるのは、たんにあいつが処女の生き血が好きだから。
あいつの女になったあたしは、まだ犯されていなくて、処女のままだけど。
非処女の女よりもずうっと淫らに、ベッドのうえで乱れるの。
いまのあたしは、あいつの奴隷。
スポーツで鍛えた血液を愛でられるのが嬉しくて、つい余計に捧げてしまうの。
ひどい貧血は当然の報い。
でもあたしは眩暈と幸福感とで、くらくらしちゃうの。
あなたはあたしのことが気になって、あとを尾(つ)けて部屋のまえまでやって来て、
すぐにあいつに見つけられて、返り討ちに血を吸われちゃって、お部屋の前の廊下で寝るの。
わざと半開きにしたドアの向こう、
ベッドの上であたしたちがこれ見よがしに乱れるのを、したたかに見せつけられながら、
きみたちふたりはお似合いだって、あなたは言うの。
ぼくの京香を君に褒められて嬉しいって、あなたは言うの。
京香の若い血がきみを夢中にさせるのがぼくの希望だって、あなたは言うの。
結婚してからも京香を犯しつづけてほしいって、あなたは言うの。
京香はふふんと鼻で笑い、だいぶ離れてしまった車のほうをふり返り、これ見よがしに手を振った。
車の中からも、控えめに応えるのが見て取れた。
まっすぐホテルのロビーに向かってゆく恋人の足どりを、
緋佐志はズキズキ胸をはずませながら見送ってゆく。
突き刺されるような嫉妬に震えながら。
緋佐志に背を向けた彼女のキビキビとした足取りは、確かな意思をもって、不倫相手の待つベッドへと歩みを進めてゆく。
ひざ上丈のミニスカートから覗く健康そうな太ももを包むナイロンストッキングが、照りつける陽射しを照り返してテカテカと光り、リズミカルな足どりに合わせてよぎっていった。
あの太ももを活き活きとめぐる若い血液を、きみはたっぷりと吸い取られてしまうのか。
這わされてくる唇に、あのむっちりとした太ももを惜しげもなく吸わせて、ストッキングをブチブチ破かれながら吸血されてしまうのか。
緋佐志の心はざわざわと騒いだ。
でもそんなきみを、ぼくは止められない。
きみがぼくのことを裏切って、嬉しそうに笑いながら若い血液を吸い取られ、
ほかの男とベッドのうえで乱れるのを、ぼくは恥ずかしい昂奮を噛みしめながら、思い浮かべてしまうから・・・
部屋に入るとクリスはもろ手を挙げて迫って来て、京香をギュッと抱きすくめた。
「喉渇いているんでしょ」
京香が図星を指すと、「わかっているなら話は早い」といって、京香を勢いよくベッドのうえに投げ込んだ。
「あ!ちょっと!」
あわてる京香のうえに、クリスの逞しい胸がのしかかってきた。
うっ・・・
唇を奪われて嗅がされた、獣のような男の匂い。
「う、ちょっと・・・外に緋佐志がいるのよ」
婚約者の名前をわざと出すと、クリスはまんまと京香の手にのって、さらに責めを激しくさせた。
あれからクリスにもことわって、緋佐志ともキスを交わしたけれど、
クリスのときみたいな荒々しさはなかった。
幸福感と安心感はあったけれど、ドキドキさせるようなときめきはない。
――いいの。夫に求めるものと情夫(おとこ)に求めるものとは違う。
京香は車の中で息を詰めているであろう緋佐志を想いながら、クリスとの激しい口づけに柔らかな唇を痺れさせていった。
気がついたときには、部屋の前までたどり着いていた。
気がついたときには、京香の情夫に羽交い絞めにされて、首すじを咬まれていた。
気がついたときには、貧血の眩暈にあえぎながら、
ベッドのうえで乱れ合うふたりを前に、きみたちは似合いのカップルだと言いつづけていた。
さいしょの夜に。
「わかった、いいよ。あなたの女になる」
生き血をたっぷりと引き抜かれ、心の中身をそっくり入れ替えてしまった京香はそういって、吸血鬼の求愛を受け容れてしまった。
いつものハッキリとした口調だけが、以前の彼女と変わりなかった。
そのピチピチとした太ももを噛みたいとねだられると、ツヤツヤとした光沢を帯びたストッキングに縁どられた脚線美を、惜しげもなくさらしていって、
薄いナイロン生地を相手のよだれまみれにされながら、くしゃくしゃに皺寄せて、ずり降ろされていった。
京香は予定通り、緋佐志の花嫁になる。
京香が自分の恋人で、予定通り結婚をするといったのは。
吸血鬼の愛人として隠れ蓑が必要だったから。
吸血鬼のやつも案外お人好しで、
自分の地位を脅かしかねないはずの緋佐志を強いて排除しようとはせずに、
自分に会いに来る京香の送り迎えを、むしろ歓迎してくれていた。
やはり彼のほうも、隠れ蓑が必要だったから。
緋佐志は熱に浮かされたように、誰にともなく呟きはじめた。
君の牙には、京香の生き血がお似合いだ。
その牙を埋められて、ぼくの京香は君の腕のなかで、あんなに切ないうめき声をあげちゃっている。
ああ、ドキドキするな。ズキズキするな。
慎みなんかかなぐり捨てて、小娘みたいにはしゃいでいる京香。かわいいな。素敵だな。
君は処女の生き血が好きだっていうけれど、ほんとうは京香の生き血が好きなんだろう?
きっとぼくたちが結婚してからも、京香のことを襲うつもりだね?
ぼくはきみのことを、歓迎するよ。
ぼくの新妻を、ぜひ襲ってほしい。襲いつづけてほしい。
同じ女性を好きになったもの同士、ぼくたちは仲良くやれるはず。
不倫に耽る京香のために、ぼくは寛大な夫でい続けてあげるから・・・
あとがき
描いてみたかったこと。
結婚間近の女が吸血鬼を相手に、ボディコンスタイルに身を包んだムチムチと健康的な身体から、うら若い血を嬉々として引き抜かれてゆく様子。
恋人に送り迎えをさせながら、吸血鬼と熱い唇を交えてしまう女の、恥知らずな痴態。
キビキビとした足取りで情夫の待つ部屋へと足を向ける彼女の後ろ姿を、嫉妬にズキズキ胸をはずませながら見守る彼氏。
・・・まとめるのがたいへんでした。(笑)
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