淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
女学生?看護婦?それとも・・・
2018年07月25日(Wed) 05:29:55
その女子生徒は彼のまえで、恐怖に顔を引きつらせ、
両手で口許を抑えて、立ちすくんでいた。
下校途中だったらしい彼女の服装は、紺のベストとグレーのプリーツスカート。
足腰の動揺に合わせて揺らめくスカートのすそからは、
緑のラインが3本入った白のハイソックスに包まれた脚が、革靴に包まれてこわばっている。
彼はかまわずその女子生徒の肩を掴まえ、手前にグイと引き寄せた。
そうはさせじと踏ん張る脚はすぐにくじけて、
あっという間に彼女の身体は彼の猿臂に抱え込まれてしまっていた。
目のまえに迫る健康そうな首すじは心持ち日焼けしていて、
ツヤツヤとした健康そうな皮膚に覆われている。
真っ白なブラウスを汚してしまうだろうな――と思ったときにはもう、
口からむき出した牙で、首すじに喰いついていた。
「ぎゃっ!」と叫んだのか。「わっ!」と叫んだのか。あまりよく憶えていない。
気がついたときには吸い上げる血液のなま温かさを心の底から抱きしめながら、
抵抗を忘れた女子生徒の身体から、生き血を喉を鳴らして飲み耽っていた。
血のない身体は引きつったように苦しく、全身を縛る干からびた血管に締め上げられるようだったが、
少女の身体からもたらされた潤いに打ち解けて、ぐっと柔らかな心地になっていた。
尻もちを突いたかっこうの女子生徒と目が合うと、良く輝く黒い瞳が怯えた。
彼はにんまりと笑い返しながら、心のなかで思った。
――そう、あんたは俺専属の看護婦なのだよ。
白衣の代わりに学校の制服を身に着け、白のストッキングの代わりにライン入りのハイソックスを脚に通した“看護婦”に、彼はなおも無慈悲な牙をひらめかせる。
ハイソックスのふくらはぎに唇を吸いつけてゆくと、女子生徒はあらかじめ予期していたかのように脚を差し伸べて、これから加えられる恥辱を目にするまいと、キュッと目を瞑った。
赤黒く爛れた唇のすき間からよだれをギラギラと滾らせた舌がヌルリと這い出て、ハイソックスの生地になすりつけられる。
しなやかなナイロン生地のしっかりとした舌触りを愉しむようにして、
舌はなん度もしつようになすりつけられ、ヌメヌメと這いまわった。
脚の線に合わせてゆるやかに流れるリブ編みが、いびつによじれた。
そうやって左右の脚を代わる代わるいたぶると、彼は靴下の上から牙を突き立てて、
少女の自尊心にとどめを刺すように、ずぶりと牙を埋めた。
「ああっ・・・」
女子生徒はなん度めか、悲しげなうめきを洩らし、突っ伏して、
いたぶられてゆく自分の足許から目を背けた。
真っ白なナイロン生地にじわじわとバラ色の飛沫を拡げながら、
彼は女子生徒の生き血を美味そうに、なおもチュウチュウと音を立てて吸い取っていった。
ふと気がつくと、腕のなかにいたはずの女子生徒の姿がなかった。
引きかえに与えられた喉の潤みと身体のほぐれとを振り捨てるように彼は起ちあがり、あわてて周囲を見回した。
グレーのプリーツスカートをひるがえして逃げ去る少女の後ろ姿を追い求めたが、それはどこからも得ることができなかった。
彼は半狂乱になって、とある民家の庭先に乱入した。
どうしてその家にしたのかは、記憶にない。
民家の縁側に面したガラス戸は開け放たれていて、なかは真っ暗闇のなか、ひっそりと静まりかえっている。
死の静けさを、彼は直感した。
たたみの部屋の中央にしつらえられた籐椅子から、だれかが起きあがる。
まるで死者が蘇生したかのようだった。
相手は初老の男性だった。
老人はだまって彼に、部屋の奥を指さした。
彼は老人に指さされるまま、部屋の奥を窺った。
薄暗闇のなか、一枚の大きな水彩画が、額縁におさまっている。
その絵の主の少女をみて、彼はあっと声をあげた。
白のブラウスに濃紺のベスト、グレーのスカート。
学校の制服を身に着けた絵のなかの少女は、こちらに目を向けて、悲しげにほほ笑んでいた。
少女の履いている白のハイソックスには、ふくらはぎのいちばん肉づきのよいあたり、ちょうど3本走った緑のラインの上あたりに、赤黒いシミが毒々しくまとわりついている。
「どういうことだ!?」
狼狽してふり返る彼に、老人は言った。
「その子にお逢いなすったね?」
もう、どれくらい前のことになるのやら。
あの子がいなくなってから、わたしの時間は止まってしまった。
学校帰りに吸血鬼に襲われて、家にたどり着くことができなかったのだ。
優しい子だった。
その時分にはもう、校内には吸血鬼がだいぶいたというのに、あの子は分け隔てなく接して、仲良くしようとした。
どうしても喉が渇いたというものには、靴下を脱いで足を咬ませて、血を吸うことを許しさえした。
靴下のうえから噛みたがるものがあると、仕方なさそうにほほ笑みながら、なん足も用意していた気に入りのハイソックスに血を滲ませながら、応えてやっていた。
だが、心無いものがあの子の血を独り占めにしたがって、あの子は家に帰ることができなくなった。
だから時々、出るのだよ。
あんたのように喉をカラカラにして、通りがかりの女の子を見境なく襲うものが街をうろつくと、
あの子は幻になって、ほかの子の身代わりになって咬まれてやるのだ。
どういうわけか、吸い取った血は本物らしく、
あの子を襲ったものはいちように、ひどく満ち足りた顔つきをして、静かに立ち去るのだ。
ちょっぴり後悔の色を浮かべて、もうこんなことをくり返してはいけないのだと自分に言い聞かせてな――ちょうどいまのあんたのように。
彼は少女の絵のまえで、がっくりとうなだれて、たたみに満ちるほどの涙を流していた。
吸い取った血潮の滴りを、その涙で償うように。
「償うつもりはできたのかの?」
そう問いかける老人に、彼は言った。
「どんな魔法をかけたのだ」
「どういうわけだか、わしにもわからんが」
老人はいった。
「あの子を無体に襲った吸血鬼は、真人間に戻ってしまうのだよ」
自前の血液が脈々とめぐる居心地の良さを体感しながら、彼は老人のいうことが正しいと認めざるを得なかった。
「どうしろっていうんだ・・・?」
こんどはあんたが、血を吸われる側にまわるのだ。
あんたが道行く少女や人妻から生き血を吸い取ったように、
通りを徘徊する吸血鬼のまえに立って、こんどはあんたが自分の血を与えるのだ。
そうだな、さしあたりきょうからは、女になって過ごすことだな。
あの子の着ていた制服を着て、明日から学校に通うがよい。
齢?どうでもよいではないか、そんなことは。
服だけではない。部屋もあの子の部屋を使い、あの子になり切って暮らせばよい。
戸籍もそのまま残っているし、学校にも連絡しておこう、あの子が再び登校できると。
食事はばあやが作ってくれるし、クラスにもちゃんと女子生徒としてとけ込めるはずだから。
翌日、彼は老人のいったことが本当だと感じた。
かつらをかぶり、女子の制服を着て、おそるおそる玄関をくぐると、
友だちらしい女子が2、3人、彼を待ち受けていた。
「さと子ちゃん、行こ」
頭だった女の子は、彼のことを「さと子ちゃん」と呼んだ。
たぶん、あの子の名前なのだろう。
それ以来、彼は「さと子ちゃん」になった。
「さと子ちゃんは、おかまちゃんね?」
白い歯をみせて笑う少女の口ぶりに、邪気はなかった。
「いいのよ、うちの学校、そういう子たちが多いから。うちのクラスにも、さと子ちゃん以外に3人いるわ。見分けがつかないと思うけど」
少女の履いている白のハイソックスが、朝陽を照り返して眩しく映った。
白のハイソックスに包まれた脚たちが通学路をたどるのを、
そのなかに自分の脚さえもが含まれているのを、彼は眩しく感じた。
授業を終えて帰ろうとすると、初めて彼を「さと子ちゃん」と呼んだ少女が、気づかわしげな顔つきをして、こちらへやって来た。
「私――きょう初めて吸血鬼さんに血を吸われるの。さと子ちゃんも来てくれない・・・?」
どうしてあたしを?
いつの間にか覚え始めた女言葉で、彼が訊くと、少女はいった。
――この街に越してきてから、一か月になる。吸血鬼のいる学校と聞かされて、怖がってそんな学校に通いたくないと親に言ったけれど、許してもらえなかった。いろいろな事情でふつうの街に棲めなくなったから、この街に来たのだと。その引きかえに、父さんも母さんもお前ももちろん、献血をしなければならないのだと。怖がる私にまわりは優しくて、吸血鬼の相手をすることを無理強いされることはなかったけれど、一か月経った今、父さんも母さんも吸血鬼に血を吸われてしまい、母さんの血を吸っている吸血鬼に血が欲しいとねだられている。でも一人で行くのが怖いの。
じゃあ、あたしが手引きしてあげる。
彼は少女の手を取って、引っ張るようにして連れ出した。
自分のなかでなにかが目覚めたのを彼は感じた。
怯える少女たちを地獄送りにした日々の記憶が、ちょっぴりだけれどもよみがえったのだ。
自分が吸うわけではない。けれども、吸血されるというのはこんなことだと、俺はこの子に教え込んでやることがまだできる――
着いたのは、古びた邸だった。
その邸の門のまえ、少女は怯えたように、白のハイソックスの足許をすくませる。
「大丈夫よ、あたしがついてる」
彼はそういって、少女のまえに立って、訪いも入れずに門の中に入っていった。
「あんたか・・・」
うずくまっていた黒い影は振り向きざま、目あての少女をかばうように立ちはだかる女子生徒をまじまじと見て、信じられないという顔つきでそういった。
お互いに吸血鬼仲間だったから、やつのことはよく知っている。
ふたりで同じ獲物を分け取りしたこともあったし、
二人連れの女学生を襲って、獲物を取り替え合って愉しんだこともある。
悪い記憶を共有する仲間なのだ。
「あたし、さと子です。よろしくね」
一瞬で事態を把握したらしいかつての相棒は、しどろもどろに、
「ああ・・・こちらこそよろしく」
というのが精いっぱいだった。
「この子に介添えをしてほしいって言われたの」
さと子がそういうと、相棒はすぐに納得したようだった。
「さきにあたしのことを咬んで。お手本を見せるの」
「うう・・・わかった」
吸血鬼が吸血鬼の血を吸うのか?と言いたげな相棒の顔を一蹴するように、
「もう吸血鬼じゃないんだから。中学二年の女の子なんだから」
さと子はそう言い張って、履いていた白のハイソックスをひざ小僧の下まで引っ張り上げた。
相棒が、ハイソックスの脚に好んで咬みつくのをよく知っていたから。
「じゃあ、お言葉に甘えるよ」
相棒は少女を襲う吸血鬼の顔に戻ると、さと子の足許に唇を近寄せた。
「きょうの本命」の少女が、ふたりのようすをおどおどと見つめる視線を感じながら、
さと子は足許に尖った異物が刺し込まれ、ハイソックスになま温かなシミが拡がるのを感じた。
「ほんとうに女の子の血だ・・・あんたの血、美味いぜ」
相棒が手の甲で口許を拭うと、さと子は「でしょ?」と得意そうにいった。
「つぎはこの子の番。お手柔らかにね」
さと子は素早い身のこなしで少女の背後にまわり、両肩を抑えつける。
ビクッとすくむ方の怯えが、掌に伝わるのを感じた。
「平気よ。すぐ済むわ。あなたのお母さんだって生きてるでしょ?献血だって思ってあげて」
もじもじさせる足首を相棒がつかまえるのを見おろしながら、さと子は親友を落ち着かせようとして囁きつづけた。
いいこと?
困ったひとにあたし達の若さを恵んであげるの。
あなた、看護婦さんになりたいんでしょう?
看護婦さんは白衣に白のストッキングだけど、
いまのあたし達は学生だから、制服に白のハイソックスなの。
あのひとたちは淋しく飢えているから、
あたし達の着ているお洋服で慰めることもできるのよ。
大人の女のひとが穿いているストッキングとか、
あたし達くらいの年ごろの女の子が履いているハイソックスを、
破いたり汚したりしながら血を吸うのが好きなの。
イヤラシイわよね?ヘンタイだよね?
でも、気にしないで相手してあげるの。
恥かしいのは吸血鬼たちのほうよ。
あたし達は、彼の好みに合わせてあげてるだけだから、ちっとも恥ずかしくないの。
そのうちに、慣れてくるわ。
女子生徒らしい装いを辱めるのと引き換えに、彼ったらキモチよくしてくれるのよ。
あなたのお母さんもきっと、キモチよくしてもらっちゃったから、
娘のあなたにもそんなふうになってもらいたいって思ってらっしゃるの。
だから、毎日学校に着ていく制服姿を辱めさせてあげましょうよ。
これは悪魔の囁きなんかじゃないわ。親友の忠告――
あ~あ。気を失っちゃった。
あとはもう、やりたい放題じゃないの。よかったね。
真っ白なハイソックスに濁った精液がしたたり落ちるくらい、ぶち込んじゃいなさいよ。
あんたの精液、いつも濃くって臭いもきついのよね。
え?先にあたしを・・・ですって?
やらしいなぁ・・・もぅ。
でもあんたに純潔を汚されるのも、それはそれで道理なのかも。
いいよ、じゃあこの子の前で手本見せるから。
夢中になるまで、やめちゃダメだからねっ。
こうしてなん人もの少女がまた、地獄に堕ちた。
さいしょの朝に迎えに来た少女たちは、毎日代わる代わるにあの古屋敷に呼び出されて、処女を奪われた。
それは、皮切りに過ぎなかった。
さと子の手引きで、まだ未経験だったクラスの女子のほぼ全員が、男を識った身体にされてしまったのだ。
初体験を迎えて本能的に怯える少女たちを、さと子はつぎつぎと大人の女にしていった。
経験するまでは、地獄。経験してからは、天国。
ほとんどの少女が、そう感じたに違いない。
大勢の若い血液が供給されたおかげで、通りがかりの女性がいきなり襲われることはほとんどなくなり、生命を落とす例は絶えて聞かれなくなった。
さと子が家に帰ると、見知らぬ少女がじっとこちらを見ていた。
「ずいぶんおおぜいの子たちを、恥知らずにしちゃったんだね」
少女はちょっと、怒っているようだった。
「あなた、やっぱり吸血鬼のほうが向いているわ。償いをさせるために真人間にしたのだけれど、やはり私が人間に戻るわ」
制服は返してね・・・と振り返ったときにはもう、もとの優しい顔になっていた。
男の姿に戻った彼は、再び相棒の棲む古屋敷の前にいた。
傍らに、同年代の若い女性を伴って。
「いいかい?入るよ。きょうは、俺の婚約者を紹介してやろうと思ってね・・・」
※7月21日 9:38構想。
やや唐突なおわり方が気になりますが、ここまでのお話のようです。^^;
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