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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

女装子お見合い倶楽部

2018年08月10日(Fri) 07:29:55

どうしても結婚したいと思った。
相手は、男でも良いとさえ思った。
せめて、女の格好をしているのなら。
そんな不純な想いを抱いて訪れた場所――
それは、
「女装子お見合い倶楽部」
という場所だった。

なんの変哲もない雑居ビルの二階に、それはあった。
得体のしれない世界に踏み込むことをためらう気持ちよりも、
嫁さんが欲しいという欲望のほうがまさって、
気がついたらノックをして、部屋の中に入っていた。

応対してくれたのは、穏やかそうな初老の男の人だった。
案外ノーマルな人だな、と、思った。
「いらっしゃい。こちらは初めてですね?どんな方がご希望ですか?」
名前も連絡先も訊かれなかったことに、すこし安堵した。
男の人は、そんなぼくの想いを見透かすように、
「お名前、ご住所、ご職業とかは、ご本人に入って下さればそれでよろしいです」
押しつけがましくない口調だった。
そして、お差支えあるかもしれませんからね、と、当然のようにつけ加えた。

年齢40歳くらいまで。(ぼくの年齢もそれくらい)
女性として日常を送っている人。
学歴、職業は不問。
容姿、スタイルは特に問わないが、古風な感じの人が好み。
独りで生きていける人。

自分で書いていて、かなり偏った手前勝手な条件だなと思った。
「かしこまりました。ご希望に合いそうな方とのアポイントを取らせていただきます」
初老の男性に言われるままに、携帯の番号とメールアドレスだけを教えて、その日は終わった。
アポイントが取れたのは、数日後だった。
仕事中に携帯が鳴ったらどうしようと内心どきどきしていたのを見透かすように、
それは無表情なメールでやって来た。
「お見合い相手のかたをご紹介します。ご都合のよろしい日時は・・・」

名前:ゆう子(仮名)
年齢:39歳
婚歴:未婚
職業:パートタイマー(某企業にて、女子事務員として勤務)
家族:両親と兄夫婦とは別居、日常的な行き来はあり。家族は本人の女装癖を認知している。
性別:男(男性器あり)

住所や電話番号、勤務先、年収・・・そういったものは書かれていなかった。
こちらが明かさなかったのだから、当然と言えば当然だった。
年収くらい情報交換しても良かったかな?という考えは、浮かんだ途端に消えていた。
ほんとうによい人なら、自分が養えばよい、と思った。

初対面の日は、あっという間に来た。
「初めまして・・・」
あらわれたそのひとは、白っぽいワンピースを着ていた。
肩まで伸びた黒髪に、良く似合っていた。
顔や顔の輪郭が少しだけかっちりとしていたけれど、
それは彼女の容姿を損なうものではなかった。
でも、女性のなだらかさとは少しだけ、異質なものがあると感じた。

女のかっこうをした男と、いまお見合いをしている。
その事実に今さらながらがく然となり、それが態度に現れた。
ゆう子さんはそれでも、不快そうな態度を表に出さなかった。
無理なら遠慮しないで、そう仰ってくださいね。
低くて落ち着いた響きのある声だった。
男が女のまねをするような、不自然な猫なで声などではない。
長い時間に身についたものだった。
ぼくは不覚にも、うろたえた。
自分の覚悟のなさが、恥ずかしかった。
気がつくと、いっさいがっさいを、白状していた。

女性にはまるきりもてなくて、結婚願望ばかり高かったこと。
それでもどうしても結婚したくて、女の格好をしていれば男でも良いと思ったこと。
女装の人と面と向かって話すのは初めてで、慣れない状況に戸惑ってしまっていること。

ここまでで、ご遠慮しましょうか――?
ゆう子さんはちょっと寂しげだったが、淡々とした語調で断りやすい雰囲気を作ってくれた。
そのとき自分自身をかなぐり捨てることができた幸運に、いまでも心から感謝している。

ごめんなさい。そうじゃないんです。
でも、初めてなので戸惑ってしまって。
少し、時間を下さい。
できればもう少し、あなたと一緒にいさせてほしいんです。

できればもう少しで良いから、あなたのまとうその落ち着いた空気といっしょにいたい――そんな失礼なことまで、口にしていた。
いつも浮ついていて自分勝手な自分にとって、彼女のまとう空気感が、とても新鮮だったから。
「人助けだと思って」とまで懇願したぼくに、「だいじょうぶですよ」と、ゆう子さんは笑って応えてくれた。

それからなにを話したのか、じつはあまりよく憶えていない。
ゆう子さんの行きつけの喫茶店に行って、おなじ紅茶を飲んで、言葉少なにお互いのことを話したような気がする。
なぜかお互いに聞き役になっていて、そのために会話がしばしば途切れたけれど、
なんとか言葉をつなぎたいという焦りはみじんも感じなかった。
聞いてはいけないようなことまで、聞いてしまっていた。
夜の営みはどうすればよいのですか?とか。
ゆう子さんは静かに笑って、応えてくれた。
初対面の女性に、そんなこと訊いてはいけませんよ、と、優しくたしなめながら。

どんなことをすれば良いかなんて、考えることないと思うんです。
お互い、愛したいように愛すれば良いと思うんです。
でも、私の考えだけをいうのであれば――
もしもあなたを好きになったら、女として愛します。

女として愛します。

そういったときのゆう子さんの目に帯びたものが、ぼくたちのすべてを塗り替えていた。

「男のお嫁さんをもらうから」
思い切って打ち明けたぼくの話に、両親はもちろん驚いたけど。
「陽(ぼくのこと)が良ければ、それでいいんじゃない」と、あっさりと結婚を許可してくれた。
孫の顔だけは見せられない――とわびるぼくに、「孫はあんたとちがって優秀な兄さんや姉さんができの良い孫を作っているから良いよ」と、いつもながらのひどい言葉で、ぼくのことを安心させてくれた。

ゆう子さんは貞操堅固なひとで、いままで異性とも同性とも未経験だといった。
新婚初夜のベッドのうえ。
はからずも40にもなって、ぼくは処女の花嫁を得たのだった。
愛したいように愛すれば良い。
彼女のことばは、いまではぼくの日常になっている。
夜遅く勤めから戻るぼくをねぎらうために、
ゆう子さんは小ぎれいな服を身に着けてぼくを迎え入れて、
夜遅くまで。
朝早くから。
全身に愛をこめて、互いに互いを愛し合っている。


あとがき
珍しく純愛もの?になってしまいました。
(^^)
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コメント

最初、エッチな女装話と思って読み進めていったんですが、あれれ、まとも(失礼)なお話じゃないですか^^
同性同士(もちろん異性間も)でも、愛し思い合う気持ちが大切と言うことが言えるんですよね。
この二人の間には、吸血鬼は出てきて欲しくないですね(笑)

柏木さんは、どんなお話もつらつらっと書けるところが素敵ですね。女装、NTR、同性愛愛好者としては、いつもぐぐっとくるお話に引き込まれます。これからもぐぐっとくるお話(個人的には女装者が特に好き^^)、よろしくお願いします。
by ゆい
URL
2018-08-12 日 09:11:22
編集
ゆい さん
毎日お暑うございます。A^^;
貴女のコメが待ち遠しかった柏木です。

このお話は、たしかにつらつらっと良い感じで書き上げることができました。
話が自然に流れて、目の前で光景が浮かぶ程に濃密なひと刻でした。

このお話には確かに、間男は要らないと思います。
人妻を寝取り少女の純潔を愉しむ吸血鬼ですが、
どの吸血鬼も間男も相手の女性をしんそこ愛しているのが特徴であることは、すでにゆいさんもお気づきのとおり。
このお話に描いた愛情の純度からすると、心底愛し合うふたりを描ければそれでよかったと思っています。
by 柏木
URL
2018-08-13 月 20:20:12
編集

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