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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

虎口に出戻る。

2018年08月21日(Tue) 07:44:18

命からがら都会の家まで逃げ延びることに成功したのは、わたしと妻だけでした。
その村に出かけていったもの全員が、囚われの身になってしまったのです。
囚われの身というのは、不正確かもしれません。
「囚われた」夫婦3組のなかの1組だった両親からは、手紙と電話で、
自分たちの意思でこの村に転居すると連絡がありました。
おそらく本音でOKしたのだ。ふたりとも、洗脳されてしまったのだ――と、
父の語気からすぐにわかりました。
電話をかけてきた父は、むしろ落ち着いた声で、母さんの浮気を認めてやることにした、と告げたのです。
従妹の嫁いだその村は、吸血鬼の棲む淫らな風習に彩られた土地でした。

都会で挙げられた従妹の披露宴には、新郎側からはほとんど出席者がありませんでした。
田舎のものなのでかえって恥を掻くから遠慮したい・・・という彼らのために、二度目の披露宴が村で挙げられたときのこと。
招かれたのは新婦の両親である伯父夫婦、わたしの両親、そして兄夫婦とわたしたち夫婦の8人でした。
あとから聞いた話では、当初兄夫婦までは招かれる顔ぶれに入っていなかったのですが、
都会の披露宴で兄嫁を見初めた新郎の兄が、とくに加えるようにと希望したというのです。
なにも知らない4組の夫婦は村に招かれ、お座敷での婚礼の席上吸血鬼と化していた村人たちに襲われたのでした。
年輩の男に組み敷かれた妻を救い出すのが、精いっぱいでした。
男は後じさりする妻の足首をつかまえて、ふくらはぎにヌメヌメと唇を這わせようとするところでした。
一瞬唇が吸いついて、すぐにわたしが引き離しました。
男はわたしを押しのけて妻に迫り、なおも首すじを吸おうとしましたが、わたしに蹴られてたじろぐところを危うく救い出したのです。
わたしはともなく、パンプスだった妻がよくあそこまで走れたものだと思います。
ほかの三組の夫婦と違い車で来ていたのが幸いしました。
宿に戻るとすぐにわたしたちは車に乗り込み、都会の自宅をめざしたのです。
男はしつようにあとを追いかけてきて、どうしても奥さんと話をしたい、といいました。
耳も貸さずにアクセルを踏んだのは、いうまでもありません。
都会も間近になったとあるドライブインで休憩をしたとき。
妻の穿いているストッキングに、あの男の粘り気のある唾液が沁みついているのを発見して、
むやみに嫉妬したのを憶えています。

3組の夫婦の転居届は、すべてわたしが手続きを済ませました。
彼らからの要望だったのです。
兄の手紙は、理解に苦しむものでした。
あの都会の披露宴の席で自分の妻が吸血鬼の目に留まり、村での婚礼の席で首尾よく征服されてしまったことを、
むしろ嬉し気に書いて寄越したからです。
父もまたかの地で、複数の男性を交えて痴情に耽る母のことを、むしろほほ笑ましく見守っているという文面でした。
父の手紙には、「私たちに義理立てして、わざわざ再訪する事は無い」と、再三書かれてありました。

ところがどうしたわけか、それからひと月と経たないうちに、
わたしの脳裏にべつの感情が芽生えてきたのです――
やはりほかの親類たちと同じように、あの村に行った方が良いのではないか?と――
父の手紙には、あのとき妻を逸した吸血鬼が、いまだに不遇をかこっていると、ごくひかえめにしたためてありました。

「やっぱりぼくだけ、行ってくるよ」
そう言い出したわたしを、妻は強いて止めようとはしませんでした。
両親が貧血になって身体を壊さないか気になるから・・・という口実に、手向かえる反論を持ち合わせていなかったからかもしれません。
さいしょは一回だけのつもりでした。
わたしは妻を狙った吸血鬼と面会し、身代わりに血液の提供を申し出ました。
男は意外に紳士的でした。
あのようなやり方で突然迫られたら、どんなご婦人でも身の危険を感じて逃げるでしょう、あさはかでした、といい、
わたしの好意を素直に感謝し、くつろげたワイシャツの襟首に尖った歯をあてがって、そっと吸血していったのです。
意外なくらい、ひっそりとした吸血でした。
父は「もうあまり来ないほうがよいのではないか」とわたしをたしなめ、
母は真逆に「こんどは佳代子さんも連れてらっしゃいよ」と、積極的なことをいいました。
連れてきたら犯されてしまうんでしょう?というわたしの問いに、
母はあっさりと「ええそうよ」といい、
でも芳子伯母さんは吸血鬼にモテモテになって若返っちゃってるし、伯父さんもそんな芳子伯母さんに満足しているし、
真菜子さん(兄嫁)はご執心の吸血鬼と夫婦どうぜんに暮らしているけれど、
お兄さんとも一緒に暮らしていて、男どうしもうまくやっているみたいだし・・・と、
やはりわけのわからないことを口走るのでした。

一回だけのつもり、と、書きました。
そうなんです。そのはずがいつの間にか回を重ねて、わずかふた月のあいだに、6回も通い詰めてしまったのです。
妻が思い詰めたように、言いました。
「こんど行くなら、私もいっしょに連れて行って」

あのとき私に迫った方は、不自由しているそうね。
もうちょっとで私に咬みつけたのに、貴方に邪魔されて、果たせなかった。
なのに貴方とはすっかり仲良くなって、打ち解けて下さっているそうね。
それなら私も――もういちど、よそ行きのストッキングを穿いて、あの方の唾液に濡らされてみたいの。

一週間後。
わたしは妻を伴って、あの村に来ていました。
都会の女たちをことごとく呑み込んでゆく、忌まわしい村に。
そのくせ妻を奪われる夫たちを惑乱させて、むしろ奪わせてしまうという、忌まわしい村に。

その晩。
あの婚礼の夜の情景が、再現されました。結論だけは真逆になって。
男にすっかり血を抜かれて手も足も出なくなったわたしのまえで、
妻はあのときと同じ薄茶色のスーツを着て、足許をてかてか光るよそ行きのストッキングに包んでいました。
男の唇は、今度こそあやまたず妻のふくらはぎに吸いついて、這いまわって・・・
なまめかしいストッキングがチリチリになるまで、いたぶり抜いていったのです。
都会の装いもろとも辱められてゆくことに、さいしょのうちこそ悔し気に身をすくめていましたけれども。
妻の態度が打ち解けて、甘くほぐれてゆくのに、時間はかかりませんでした。

いちど逃れたはずの虎口はわたしを捕えつづけて、
結局妻の手を引いて、舞い戻る羽目になってしまったのです。
けれども、後悔はありません。
都会の装いに身を包み、セイジさん、セイジさん・・・と、わざとわたしの名前を呼びながら犯されてゆく妻。
すべてを喪うのと引き換えに得たいまの歓びを、たいせつにしていきたいと願っているのです。


あとがき
妻を襲われかけて危うく難を逃れたのに、なぜか違う結論を観たくなった夫。
都会の装いを着乱れさせ、ストッキングを男の劣情に満ちた唾液で濡らされながら、堕ちてゆく妻。
そこを描きたかっただけなんですけどね。 つい長くなってしまいました。
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