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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

女装する夫たち

2018年08月26日(Sun) 09:38:10

上半身を締めつけるブラジャーにスリップ。
身の丈に少し寸足らずなワンピース。
頬をかすめ肩先に流れるふさふさとしたウィッグ。
足許を引き締め、なまめかしく映えるストッキング。
妻が入念に刷いた化粧に要した時間は、あきあきするほど長かった。
さいごに唇に朱を刷かれたときだけ、不覚にもちょっとうっとりした。
妻に促されて鏡を覗いたとき。
男であるわたしはきれいさっぱり掻き消えていて、女の顔をした見知らぬ別人がそこにいた。

玄関を出るときは、さすがにためらったけれど。
「いってらっしゃい」
妻は感情を殺した声でそういって、玄関に敷かれたじゅうたんのうえに腰をかがめ、床に指をついて送り出してくれた。
こんなこと。
結婚して20年以上にもなるのに、初めてのことだった。

外は静かな闇に包まれていた。
それでも街灯の明るさがいつになく眩しかった。
きっと後ろめたい格好をしているから、なおさらそう感じるのだろう。
穿きなれないパンプスに戸惑いながら、脚をもつれさせるようにして、近所の公園に向けて歩き出した。

「お隣の柴川さんですね?」
隣家から出てきたワンピース姿の女性が、わたしに声をかけてきた。
だれだろう?と目を凝らすが、心当たりがない。
たしかお隣は、わたしと同年代のご夫婦の二人暮らしのはず。
美人な奥さんの妹だろうか?
それが女装したご主人だとわかるのに、ちょっと時間がかかった。
念入りに刷いた化粧と、もの慣れた感じの立ち居振る舞いが、女の雰囲気を漂わせていた。

「お宅も今夜はお出かけですか」
「エエ、そちらもお出かけなんですね」
「公園まで、ごいっしょしましょうか」
昼間であれば、すぐにそれとわかるレベルの女装のはず。
連れができたのは心強かった。
わたしたちが目指す公園は、吸血鬼の出没するスポット。
そう。わたしも隣家のご主人も、そのなかのだれかに呼び出しを受けたのだ。
わたしは棲みついていくらも経たないこの土地の風習に従って、吸血を受けるため。
隣家のご主人もきっと、そういうことなのだろう。

「うちはすこし、事情が違うんですよ」
ご主人は意外なことをいった。

長らくね。
女房が吸われているのに気づかなかったんです。
それが、ふとしたきっかけでわかってしまって・・・
こんなこと、知らずに済ませればよかったのですが。
でもわかってしまった以上、どうしようもありません。
女房を吸い殺されたくなかったら、夫婦ながら吸われつづけるしかないのですよ、ここでは。

「奥さんとその方との仲を、認めに行かれるんですね」
「まあ・・・そういうことですね。無条件降伏というやつです」
ご主人はあくまで、淡々としていた。
「あなたのお相手は誰ですか、もし差し支えなかったら」
そういうご主人に、わたしは彼も知っているであろう近所の男性の名前をあげた。
父と同じくらいの世代の人で、地域の長老格だと聞いている。
ご主人は表情を和らげた。
「ああ、あの方だったら・・・」
聞けば、若いころに夫婦ながら吸血鬼に血を吸われて、半吸血鬼になった人だという。
「ご自分の奥さまを寝取られていらっしゃるから、自分が寝取る人妻の旦那の気持ちも、ちゃんとわかる人ですよ」
風変わりなほめ方だったが、おそらくきっと正しい見解なのだろう。

そんな話をしているうちに、公園に着いた。

女装のワンピース姿のまえに黒い影がふたつ、ゆらっと漂うように揺れて、立ちはだかった。
わたしたちは立ちすくんだまま、それぞれの相手に抱きすくめられてゆく。
「お名前は?」
相手の男が訊いて来たのに答えて、わたしは妻の名前を名乗った。「浩子です」
「浩子は夫を裏切って、私のものになると誓えますか」
「ハイ、誓います。主人に貴男と私の関係を認めてもらいます。主人もきっと・・・よろこんでくれるでしょう」
「それはなによりだ」
では・・・と男は囁いて、口許から尖った歯をむき出した。
傍らでも、同じような儀式が終わったらしい。
「ひっ!」
と叫んだのは、ほぼ同時だった。
ふたりの吸血鬼は、各々の獲物の首すじに食らいつき、力ずくでむしり取るようにして、血を啜った。
働き盛りの血潮が身体から抜けて、吸血鬼の喉を鳴らしてゆくのを、わたしは声を呑んでいつまでも聞き入っていた。

「血を吸った人妻は、犯すことになっています」
仰向けに倒れたわたしにのしかかっていた男が、宣告するようにそういった。
「お願いします」
わたしが身体をくつろげると、男はわたしの穿いているストッキングをむしり取るように引き破った。
そして、黒々と逆立った一物を、わたしの股間へと埋めてきた。

これを・・・妻も埋め込まれてしまうというのか。
肉薄してくる怒張の強烈さに声を洩らすまいとしながらも、
わたしは妻の相手となる男の身体の佳さを体感せずにはいられなかった。

「寝取る男と寝取られる夫・・・仲の良い方がよくはないですか」という男に、
「まったく同感です」と応えるわたし。
「ではいましばらく、愉しませていただきますよ」
「お願いします」

ワンピースを下草だらけにしながら転げまわった夜。
わたしは妻を愛人にしようとする男の希望を、歓んで容れたのだった。
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女装する夫たち ~隣家のご主人編~
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コメント

柏木さんのお話は、不思議といつも自分の事を書かれている錯覚に陥ります。どこかで私の事を見られているのかもしれませんね。
っていうくらい、ツボにはまるお話がアップされます。

「ワンピースを下草だらけにしながら転げまわった夜。」
この言葉だけで、一夜の出来事が全て察することが出来るなんて、柏木さん流石です。
by ゆい
URL
2018-08-27 月 07:00:04
編集
ゆいさん
そう仰っていただけると嬉しいです。
ただ、私がゆいさんの身辺に翳のようにつきまとっているわけではありませんから(笑)、
もしもゆいさんがそう感じて下さるとしたら、
それはお話をよくかみ砕いて、ゆいさんご自身に置き換えるすべを心得た貴女様の優れた感受性に負うところが大きいのではと感じます。

これからも、当サイトをごひいきにお願いいたします。
by 柏木
URL
2018-08-27 月 22:25:19
編集

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