淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
吸血私娼窟~幼馴染の母親~
2018年09月03日(Mon) 05:02:53
アラ、洋司くんじゃないの。ひとり?
声をかけられて振り向くと、通りかかった大きな屋敷の玄関のまえで、美代子がニコニコしてたたずんでいた。
美代子は洋司の親友、ツヨシのお母さんだった。
病院の院長先生の奥さんで、ふくよかな色白の美人。
いつもこぎれいな格好をしていて、洋司はこの親友の母親にひそかに憧れを抱いていた。
もちろんそんなこと、ツヨシにはおくびにも出さなかったけれど。
でも、どうしてこんなところにいるんだろう?
ツヨシの家はここからはだいぶ、離れているはずだ。
変な顔をしている洋司に気がつくと、美代子はいった。
「小母さんね、ここに遊びに来ているの。洋司くんも寄っていかない?」
そういわれて、洋司はとっさにしり込みをした。
見あげると、色付きのガラス窓が周囲の住宅街とは不釣り合いにお洒落で、建物のたたずまいも不自然に洗練されていた。
得体の知れない妖しい雰囲気を、洋司は直感的に感じていた。
「ああ、ここね・・・」
ツヨシのお母さんはちょっと苦笑いをした。
大人の秘密を覗いてしまったような・・・どこかただれた匂いが、彼女の笑みから感じ取られた。
いつも優雅ですこし世間ばなれした美代子小母さんがこんな表情をするのを、洋司は初めて見た。
「知ってるわよね?ここ、私娼窟って呼ばれているのよ。
あなたはまだ、知らなくても良いか。
大人の男の人と女の人とが、いけないことをする場所なの。
でも洋司くんだったらいいわ。
あなたも、咬まれちゃったんでしょう?」
耳もとに口を寄せて囁く美代子のひそひそ声が、柔らかな呼気となって洋司の耳たぶをくすぐった。
洋司は思わず美代子を見あげた。
美代子の首すじには赤い斑点がふたつ、綺麗に並んでいる。
それは、つい数日前、洋司がつけられたのとおなじものだった。
学校帰りが遅くなった夜8時ころ、洋司は一陣の黒いつむじ風のようなものに巻かれた。
目まいを覚えてその場に尻もちを突くと、つむじ風は人影となって、洋司の首すじを咬んでいた。
うなじに突き刺さる尖った異物が柔らかな皮膚を破り、どろりとほとび出た血潮を吸い取るのを感じたときにはもう、身体じゅうが痺れていた。
30分後。
洋司はふらふらと起ちあがり、家に戻った。
出迎えた洋司の母親は、息子が連れてきた黒い影をけげんそうに見つめた。
一時間後、洋司の家族は全員、生き血を吸い取られていた。
美代子にも、そんなひと刻が訪れたというのだろうか?
くったくなげに笑う白い顔を見つめる洋司の視線に、熱がこもった。
――できれば美代子小母さんのことは、ぼくが咬みたかった。
自分の胸の裡にわいた感情に、逆らうことはできなかった。
目のまえの美代子は、いつものようにこ洒落た洋服姿だった。
清楚な白いカーディガンに淡いピンクのブラウス、ひざ丈のスカートは濃紺で、真っ赤なバラがあしらわれていた。
その花柄のスカートのすそから覗く太ももは、肌の透きとおる黒のストッキングになまめかしく映えていた。
洋司は思わず、ゾクッとした。
美代子はそんな洋司の心中を見抜いたかのように、いった。
「いいのよ、ツヨシには内緒にしてね」
洋司を幼いころから知っている美代子は、子供をあやすように洋司の頭を撫でると、私娼窟の洋館へと彼を誘い入れていた。
良い匂いが部屋じゅうに満ちていた。
不自然なくらい強い芳香に、さいしょはとまどったけれど、すぐに慣れた。
「喉渇いて来たんじゃなくて?」
上目づかいの大きな瞳に、大きく頷いて応えていた。
「たまに母さんが吸わせてくれるけど・・・」
「お腹いっぱいは、無理よね」
長いまつ毛の目許に翳りを帯びて、美代子は同情に満ちた視線を注いでくる。
彼女の白い指がブラウスの胸の釦をひとつ、ふたつと、外していって、
自分から押し拡げた胸元には、ドキッとするような黒いブラジャーの一部が覗く。
洋司の目のまえをどす黒い翳が覆って、彼は美代子を引きずり倒していた。
唇を吸いつけた皮膚のしっとり湿った感覚と、
喉を鳴らして呑み込んだ血液のどろりとした艶めかしさが、
すすけだっていた少年の心を充たした。
喉の渇きが収まるだけで、どれほど人は救われるのだろう?
そう思ったときにはもう、洋司のむき出しの脚に、美代子の黒ストッキングの脚が巻きついていた。
薄地のナイロン生地のさらさらとした感触が、洋司を夢中にさせた――
相手が親友の母親であることも忘れて、洋司は美代子とディープ・キッスを交し合った。
――ここはね、大人の男のひとと女のひととが、いけないことをする場所なの。
美代子は確かに、そういった。
これはいけないことなのか?
女のひとのパンツを脱がせたのも初めてだったし、
こんなに息せき切った口許と唇を合わせたのも初めてだった。
まして、いつも股間の奥にわだかまる感じだったあのどろどろとしたものを、女のひとの股ぐらに注ぎ込むなど、想像さえしていなかった。
美代子は幼な児をあやすように、洋司の頭を撫でつづけていた。
「ここに名前を書いたからね、あなたはもう私の馴染み。
月、水、金の3時から5時まではここにいるから、いつでも来て頂戴ね。
あと、家では習いごとをしていることになっているから、そういうことにしといてね。
それから、くれぐれもツヨシには内緒だからね」
別れぎわ美代子さんは、洋司の頭を撫でながら、チューイングガムをくれた。
洋司はぶっきら棒に黙って美代子に背中を向けたが、
それが照れ隠しなのは美代子にまる見えなのだということは、洋司自身にもよくわかっていた。
「もうこんなところへは来ない」
顔でそう答えたつもりだったけれど、きっと明後日にはここに来てしまうのだ。
ツヨシの顔、明日からまともに見れないな。きょうのことはどうやって押し隠そうか・・・
少年らしいずる賢さに満ちてきた胸の裡こそ恥ずべきなのだと思い直して、
まずは自分に正直になることから始めようと、洋司は改めて思い直した。
洋司の母すらが、この私娼窟に三日にいちどは訪れているのを、
家族のだれよりも先に気づいていた。
洋司を送り出すと美代子は、別人のようなしらっとした顔になって、
自室に使った寝室の奥の扉に向かって声を投げた。
「もういいわよ、出ていらっしゃい。洋司くん帰ったから」
狭いクローゼットの扉がおずおずと開かれて、そこから窮屈そうに抜け出してきたのは、
美代子の息子だった。
――ばかね、ママがほかの男のひとに抱かれているところを視たいだなんて。
そんなもの、視るものじゃないのよ、と、美代子は息子を優しく咎めながらも、
――だれに抱かれれば気が済むの?
と、夫にはとても聞かせられない質問を、ツヨシに向かって投げていた。
そして息子がとてもいいにくそうにしながら洋司の名前を告げるのをきくと、
美代子はふふっと笑っていった。
――そうね、パパのお友だちに抱かれちゃうよりは、ツヨシとしてはそのほうがいいのかな。
洋司くんいい大人になりそうだし・・・と言いかけた母親に、
「そんなこと言わないでいいから」
と口を尖らせながら、これが嫉妬というものなのだと、ツヨシは実感していた。
ママが自宅で吸血鬼に襲われて咬まれるのを目にしたとき、
さきに血を吸われてじゅうたんのうえに転がされていたツヨシは、手も足も出なかった。
いつものようにこぎれいに装ったママが、白髪頭の吸血鬼に抱きすくめられて、
細い眉を逆立てながら血を吸われ、おなじじゅうたんのうえに姿勢を崩してゆく光景が忘れられない。
美代子がたおれこんだのは、ツヨシの手の届かないところだった。
そのまま衣装を着崩れさせながら犯されていったママを見て、
ツヨシは半ズボンの奥が窮屈なくらい逆立つのを感じた。
それは親がつけてくれた名前を裏切る感情だと自覚しながらも、
止め処なく湧きあがる歓びを止めることはできなかった。
辱められる母親を視てそんなふうに感じてしまったことを恥じるツヨシを、
「ママが好きな証拠だから、いけないことではない」
とパパはなだめてくれたけれど、
それはパパ自身の自己弁護だということも、わかってしまっていた。
だってパパはだれよりも真っ先に咬まれていて、
ほかならぬその吸血鬼を家に連れてきた人なのだから。
そう、ママやボクの血を吸わせるために――
もっとも、だからといってツヨシはパパのことが嫌いになったわけではもちろんない。
おなじ性癖をもった男として、毎日のようにやって来る吸血鬼がママと密会を遂げるところをのぞき見して愉しんでしまったのはよくないことだとわかっていたけれど、
パパが優しい夫として、だれよりも美しいママのことを紹介したがった気持ちには、深い共感を感じていたから。
ママを堕落させた吸血鬼は移り気な男で、すぐにちがう獲物を見つけるとこんどはそちらのほうに入りびたりになってしまって、
ママは勧められるままに、街はずれの私娼窟に身をうずめた。
そこでいろんな男のひとに抱かれて女を磨くのだとパパは教えてくれたけれど、
最初の客になるのが見ず知らずのいけ好かない親父などであってはならない、と、ツヨシは強く感じていた。
「だれならいいのかな?」
ツヨシの頑是ない態度に、親たちはどこまでも親身に接してくれた。
夫には聞かせることのできないはずの質問をママはしてくれたし、
妻の口から聞きたくない言葉をパパは穏やかに聞き流してくれた。
かなりながいこと考えて、心の奥のもやもやとしたその向こう側に洋司のことを見出して、
ツヨシは初めてときめきを覚えた。
「洋司だったらいい」
小さな声だったが、その声の響きの強さに、親たちは頷き返してくれていた――
「どうだった?洋司くんとママ、もしかしたらつきあっちゃうかもよ」
美代子は息子からちょっと離れたところで、彼の反応を面白そうに窺っている。
ツヨシのなかにいままで以上のどす黒い感情が、ムラムラと湧きあがった。
「あ!なにするのよッ!」
母親が声をあげたときにはもう、ツヨシは美代子をベッドのうえに抑えつけていた。
片脚脱いだ黒のストッキングの脚をばたつかせながら、
美代子は2人目の客を受け容れる覚悟を決めた。
それが息子であってよかったと、不思議な感情で受け止めていた。
あとがき
たまたまひょんなことから、「私娼窟」という言葉に接し、すぐにこの話のおおすじが湧いたのが、土曜日のことでした。
すぐに描けるな・・・と思いながら、描く時間がとれたのがいまごろです。^^;
思った通りに描けた感じがします。
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