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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

吸血私娼窟~幼馴染の母親~その後

2018年09月03日(Mon) 05:23:00

洋司が噛んだのとおなじチューイングガムは、苦かった。
身づくろいをしている母親、美代子の傍らで。
ツヨシはかたくなな顔つきで、ひたすらガムを噛んでいた。
「洋司のママも、きょうだったよね」
息子の言いぐさに「さあどうだったかしら」と美代子は受け流したけれど、
顔にはありありと「そのとおり」と、書かれてあった。
「あなたも、ここに来る権利あるんだからね」
ニッと笑った母親から目を背けて、ツヨシは黙って母の部屋から出ていった。
「お次のかた――」
息子に聞こえるようにあげた声には、事務的な響きがあった。

きょうは、知ってるひとばかり来るんだから。
夫の腕のなか、美代子は軽く拗ねてみせる。
診療を終えてまっすぐここに来たのだろう。
4時半という時計の針が、美代子にそれを教えてくれている。
「4時終了なんて怠け過ぎじゃない?」
そうたしなめる若い妻に「親父の代からの方針なんだ」と答えたのは、もう十年以上も前のことだった。
「ほかにだれが来たの?」
そう訊く夫に憶えきれないほど来たわよといって、美代子は元同僚の医師の名前をひとりだけ告げた。
「あいつか・・・」
夫は苦い顔をしてすこしのあいだ黙りこくったが、
「でもあいつも、奈穂さんをだれかに奪られたってことだよな?」と、妻に同意を求めた。
「なによそんなこと」
お互い様だっていうことで自分を納得させようとする夫を笑い飛ばしながら、
今日はもう一人予約が入っているの、と、彼をドキリとさせるのも忘れなかった。

それはだれ?
問いを重ねる夫を「業務上のヒ・ミ・ツ♪」と受け流した美代子は、
「次の方~♪」
と、夫を無視して声をあげた。
入って来たのは、美代子を初めて犯した吸血鬼だった。
「美代子は元気なようだね」
部屋の隅に夫がいるのを認めた吸血鬼は、すぐに声をかけてきた。
「そのせつは、どうも・・・」
へどもどとわけのわからないあいさつを返す夫に慇懃なお辞儀を返しながら、吸血鬼はいった。
「初めての日にご主人が客として来てくれるというのは、美代子が愛されている証拠だね」
そういうものなのか?と自問する夫を見抜いて、
「だって気になるだろう?」
「エエもちろん」
「でもあなた、もうお時間よ。これがさいごのお客様――今夜は帰らないから、ツヨシと一緒に晩ごはんを済ませてね」
さいごに投げられた所帯じみたひと言が、かえって夫の胸にどす黒くしみた。

夜道を帰りながら夫は思う。
きっとこれからも、妻のこうした振る舞いを許しつづけてしまうのだろうと。
そして、妻と息子との関係も、このまま許しつづけてしまうのだろうと。
今夜は妻を犯した息子と、家で食事を摂る。
きっとお互いに、美代子の帰宅が遅いことさえ話題にもせずに・・・

さっきはさりげなくそうしたけれど。
あとの客に譲った行為――それは妻をほかの男に公然と譲る行為だったのだと初めて気づくと、
夫は独り苦笑して、自分が来た道をもう一度、ふり返った。
闇に包まれた道の彼方、艶めかしい夜が更けてゆくのを見届けるように。
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