FC2ブログ

妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 4 月田夫人の堕落

2018年10月21日(Sun) 08:19:53

四十路を半ばすぎた月田節子は、色褪せた頬に珍しく頬紅を薄っすらと刷いて、
ややくたびれた黄色いカーディガンに地味なねずみ色のブラウスを着て、
それでも彼女には珍しくいちおうスカートを着けていた。
えび茶のスカートの下には肌色のストッキングを穿いていたが、それは先週娘の学校のPTAの会合で脚に通して以来のものだった。

「なんだ、よそ行きのいいかっこしておけって連絡したのに」
帰宅した夫はすこし不満そうに顔をしかめたが、妻は
「急にそんなこと言われたって・・・」
とぶつぶついった。それでも見慣れない新来の客人たちには丁寧に
「ようこそ初めまして、むさ苦しいところでなんのお構いもできませんが」
と、敷居の板の間にひざを突いて神妙な顔をして改まった声色をした。

夫からは改まった説明はなに一つなかったけれど、彼女はなにもかも察しているようだった。
すべては暗黙の諒解のうちに、夫婦は見ず知らず同然の父娘に、家の敷居をまたぐことを許していた。
吸血鬼にいちど家の敷居を跨がせてしまうと、彼らはいつでも自由に出入りすることができるようになって、その家の家人の血を獲ることができる――
人事担当者から聞かされたはずだったが、それと知りながら、夫婦はその父娘に、まんまと家につけ入る隙を与えてしまったのである。
彼らの訪問はどんなに突拍子のない刻限でも許されたし、かりに家主が彼らを拒んで堅く施錠をしたとしても可能だった。
懐柔した家人を操って手引きをさせることもできたし、ひとの助けを借りないでも「いつの間にか入り込んでいた」ということもふつうにあった。
夫が父娘を自宅に招いて、妻がふたりを何気なく奥に通したことで、村に棲む吸血鬼に対しての唯一の結界は容易に破られていた。

人間の夫婦と吸血鬼の父娘は、人間の家のお茶の間で立ったまま向かい合った。
緊迫しかけた空気を気づかうように、節子が夫に訊いた。
「あなたはどちら」
夫婦のどちらが、父娘のどちらを相手にするのか、という露骨な問いを、未経験ながら発してしまったのを、節子は意識していなかった。
月田は、わたしは娘さんに吸われているから・・・と応えると、妻に背中を見せてのそのそと沓下を履き替えにかかった。
夫の勤務先に顔を出したことのない彼女は、事務所の掲示板をみたことはなかったが、業務連絡用の月間予定表に唯一書かれてある内容だけは心得ていた。

   供血希望者はストッキング地の膝下丈のハイソックス(紳士用可)
または婦人用ストッキングを着用の上勤務すること。

夫が出勤のときに穿いて出かけるあのストッキングみたいに薄い沓下は、帰宅のときには大きな穴をあけているか違うものに穿き替えられていた。
きょう夫が脱ぎ捨てた靴下にひきつれひとつないことに、彼女はわるい予感を持った。
「薄い靴下がお好きなんですよね?」
彼の妻は呟くようにそういうと、肌色のストッキングを穿いた自分の脚を改めて見おろした。
「さいしょは首すじだから」
夫は赤黒い痣の滲んだ自分の首すじを指差して、穏やかにほほ笑みながらいった。
共犯者のほほ笑みだった。
部活や補習に明け暮れる娘のまゆみがいつも下校してくる刻限には、まだ相当の間があった。

まだ顔なじみすらろくにいないこの村で。
いつかちかいうち、にわかな客人の来訪を受けて吸血されることを、彼女は夫のようすで実感していた。
まだ都会にいるときに、赴任の条件を夫の会社の人事担当者から告げられたときからそれは納得ずくのことだったが、
夫の何気ないしぐさのひとつひとつにまがまがしい背景が生じたのを感じて、それはひどくうそ寒い予感を、彼女の胸の奥に植えつけていた。

夫を見捨ててひとり都会に戻ることもできないわけではなかったのに、彼女はそうする意思をまったく持たなかった。
周囲のだれもが受け入れている習慣を、いずれはこの村のだれかを相手に許さなければならないのだ・・・と、無気力な彼女は、なかば諦めているようだった。
せめて娘を守る配慮は女親としてしなければならなかったはずなのに、そうした配慮さえ放棄しているふうだった。
「あなたは寝室を使って下さい。私はお茶の間で」
さすがにおなじ場所は避けたいところだったが、ひと部屋しかない階上の部屋は娘の勉強部屋になっていて、そのほかに部屋らしい部屋といえば、隣り合わせになっている寝室と茶の間のふた部屋しか、この家にはなかったのだ。
夫人が茶の間を選んだのには、わけがあった。
玄関に近いほうの茶の間に彼女がおれば、娘がいつもより早い刻限に急に戻ってきたとしても、なんとか取り繕うことができると思ったのだ。

ふすま一枚隔てた向こうとこちらで、夫婦はお互いの振る舞いを意識しあいながら、行為に及んだ。
夫は勤め帰りのネクタイをとり、スラックスまで脱ぎ捨てて部屋の隅に押しやると、濃紺のストッキング地の長沓下一枚の脚をうつ伏せに投げ出した。
自分の血をいつも吸っている少女が、四つん這いになってうつ伏せになった彼の足許ににじり寄り、幼いが獣じみた呼気を薄いナイロン生地ごしにふくらはぎに当ててくるのに、いつにない昂りを覚えていた。
「おじちゃん、おっきくなってるね」
少女は笑った。
気がつくと、ブリーフごしに、小さな掌が両方とも、彼の股間をまさぐっていた。
妻にも聞こえている・・・そう感じて彼はぎくりとしたが、少女はかまわずにつづけた。
「いいんだよ。そのほうがあとあと、楽になれるから」

いままでなん組みの夫婦を、こうやって堕としてきたのか。
少女はあくまであっけらかんとしていて、ひどくもの慣れているようだった。
彼女はもう一度彼の股間に、こんどはブリーフのなかにまで掌をすべらすと、
「ガマンしなくていいからね」
と、彼だけに聞こえる声で囁いた。
彼はふすまの向こうの気配に耳を澄ませたが、なにも伝わってこなかった。


夫の月田とふすま一枚隔ててしまうと、節子はすくなからぬ気詰まりを覚えた。
初めて差し向かいになってみると、相手の男は年配こそ夫と似たり寄ったりではあるものの、
塗料や脂で薄汚れた草色の作業衣といい、ボサボサの白髪交じりの頭といい、陽灼けで赤茶けたシワだらけの頬といい、
どれもがスーツ姿にネクタイの夫を見なれた都会妻の目には、予想よりも見劣りするものばかりだった。

隣家に住む夫の上司夫婦のところに夜這いをかけてくるのは、みすぼらしい鼻垂れの不良少年だったし、
いつも2、3人連れだって現れてはお向かいの若奥さんを近くの納屋に連れ出して輪姦どうぜんのあしらいをくり返していくのが、
節子の父親以上の年恰好の野良着姿だったり―――

そういうところを見てきた彼女のまえに、若くて気分のいい男性が訪れるとは、さすがに期待してはいなかったけれど。
もう少しなんとかなったひとはいなかったのかしら?と自分の相手をみつくろってくれた夫に不満がよぎった―――と思う間もなく、汗臭い作業衣がいきなりのしかかってきた。

相手が長いこと節子に手を触れずにしげしげと眺めているばかりだったのは、たんに自分の獲物としてあてがわれた女の品定めに時間をかけていただけだったらしい。
ひきつった節子の喉もとに黄ばんだ前歯が性急に突き立ち、つけられた擦り傷のあとに紅いものが滲んだ。
ひりひりとした疼痛が、抗う人妻を苛立たせた。
組んずほぐれつ、互いに無言のまま、熱っぽい息づかいの応酬がつづいた。
ふすまの向こうの夫を刺激すまいと悲鳴をこらえたままの節子を、男はたたみの上に押し倒した。
そして意地汚く舌をふるって、擦り傷に滲んだ血をピチャピチャと舐め取っていった。

茶の間の雰囲気の急変に月田が気づいたのは、少女の巧みなまさぐりに負けて、ブリーフをしたたかに濡らしてしまった直後だった。
なま温かいいやな感触が、股間に気味悪く広がった。
どろりとした粘液を畳にこすりつけまいとして、あわてて自分の腰を畳からへだてようとすると、少女が上からのしかかってきた。
畳に貼りついた粘液の塊を、上から抑えつけられた彼の下腹部や腰骨が踏みしだき、念入りに畳に擦り込んでいった。
う、ふ、ふ、ふ・・・
少女は白い歯をみせてイタズラっぽく笑いながら、「わざとそうしてるのよ」と言いたげに、彼の鼓膜に自分の熱した呼気だけを注ぎ込んだ。
娘よりもずっと幼い少女相手になんという不覚・・・そんな想いが胸を噛んだ矢先、ふすまの向こうからなにかを耐えかねたような女のうめき声があがった。

あううううっ!

もう何年も、夫との営みさえ忘れかけた主婦は、強引に唇を奪われることで,自分のなかの女を否応なく呼び覚まされていた。
生臭い口臭にむせ返りながら、女は強引に重ねあわされた唇を、はずすことができなかった。
それどころか、粗暴に圧しつけられてくる分厚い唇に、つい自分のほうから応えてしまった。
胸許に擦り傷をつけられたすぐあとに、したたかに咬まれた首すじからは。
なま暖かい血がタラタラとしたたり落ちて、くたびれかかった黄色のカーディガンや地味なねずみ色のブラウスのえり首をべっとりと赤紫色に濡らしはじめていた。
けれども節子は、それをあまり苦には感じなくなっている。

男は節子のブラウスを引きちぎるようにはだけ、ブラジャーを剥ぎ取った。
ブラジャーの吊り紐がバチッ!と音をたててはじけ、むき出しの肩を鞭のように打った。
女の胸のふくらみはあまり豊かではなく、むしろ貧しげだった。
羞じらう乳房を男は掌をひろげて、たしかな手触りを確かめるようにくまなくまさぐり、支配していった。
あらわになった乳首は性急な唇に含まれて、クチュクチュと露骨な音をたてて、いまだかつて経験したことがないほど、下品に責められた。
「そこは咬まないで」
月田夫人はそういって相手を制しながらも、かりにそんなことをされてしまってもかまわないような気がしていた。
不思議に、痛みはほとんど感じなかった。
柔肌のうえから咬み入れられてくる牙の痛痒いような感触が、むしろ小気味よかった。
それは彼女の脳裏の奥深いところをジリジリと焦がれさせ、彼女の持っている常識や理性を突き崩していった。
さして美しいわけでもない中年女に過ぎない自分に、この貧相な作業衣の男は魅了されたように息荒くのしかってきて、欲情もあらわに迫ってくる。
夫さえ見捨てたかも知れないこの身体に。
女冥利―――ふだん使ったこともないそんな言葉が思い浮かんだのは、なにかのメロドラマの影響だろうか?
自身のそんな心の変化に戸惑いながら、節子はたたみの上に、展翅板の上の蝶の標本のように抑えつけられて、なん度もなん度も咬まれていった。
咬まれるたびに、古ぼけた畳には、この家の主婦の血潮が飛び散り、しずくを拡げていった。

えび茶のスカートから覗く脚にも、容赦はなかった。
肉づきのいちばん豊かなあたりに、男は目の色を変えて、力任せにかぶりついてきた。
「あぁ・・・」
かなりつよく咬んだのに、女の反応は鈍かった。
どこか鼻にかかったような、甘い媚びを含んでいた。
肌色のストッキングには、あぶく混じりのよだれが滲み、食いついた牙の下で他愛なくほぐれていって、ジリジリと裂け目を拡げていった。
節子は男が彼女の穿いているストッキングを愉しみながら咬み剥いでいるのを感じた。
夫の電話を受けてストッキングを脚に通したとき、ふと都会女に戻った実感が彼女の胸をよぎったが。
いまは、その都会女のシンボルのようなストッキングをよだれまみれの唇に汚され無残に破かれてゆくことに、不思議な快感をおぼえていた。
この男が愉しいというのなら、破かせてしまってもいい――そんな気分になっていた。


いつの間にか、ふすまは開け放たれていた。
お茶の間にいた節子の側の大立ちまわりのおかげで、しぜんと開いたのかもしれなかった。
着衣を着崩れさせながらねじ伏せられた月田夫人が、むざむざとストッキングを咬み破られていくのを目の当たりに、夫はなん度めかの射精をした。
みじめだという気は、不思議としなかった。
「ごめんなさい、あなた。我慢できなくなっちゃった。階上に行きますね」
妻が俯いて彼の視線を避けながらそういったときも、ああやっぱりあいつも女なんだな・・・と、そんなことをぼんやりと思っただけだった。

たたみの上に精液を散らした夫の様子になど全く関心を払わないで、節子は夫と少女のいる寝間を横切って、箪笥の抽斗からショーツの穿き替えを取り出すと、すぐにまわれ右をして情夫にひきたてられていった。
着ていたカーディガンやブラウスは、袖を片方脱がされて背中の後ろにだらしなくぶら下がり、ぶらぶらと揺れる片袖ごしに、半ばあらわになった貧相な背中が見え隠れしていた。
妻の白いふくらはぎの上で裂けた肌色のストッキングが、夫の目にはなせまかむしょうに艶かしかった。

彼の視界の届かないところでふたりがなにをするのかは、だれにでもわかることだった。
新婚以来二十年ちかくのあいだ、妻に浮いた噂などなかった。
長年連れ添った妻の婦徳が汚される。
夫人を強姦どうぜんに辱しめられることで、彼自身の名誉や体裁も損なわれる・・・そうした自覚はたしかにあったはずなのに、彼は自分の妻を凌辱の猿臂のなかから救いだそうとは、思わなかった。
階上は娘の勉強部屋のはずだった。
娘が戻ってくる前に、臭いや粘液などの後始末はつくのだろうか?どうせなら庭でやればいいのに・・・と、むしろ見当ちがいなことばかりが、彼の気になっていた。

頭の上で、古びた木目の天井がギシギシと軋んでいた。
天井の軋みは間断なくつづき、そのあいだじゅうずっと、彼の妻がひとりの女として振る舞っていることを伝えてきた。
彼にとって、決して名誉なことではないはずだった。
けれども彼にすれば、その軋みが長続きすればするほど、むしろ誇らしい気分になるのを自分に禁じることができなくなっていた。
だって、軋みが長ければ長いほど、今夜の客人が自分の妻のもつ魅力に満足しているということなのだから。
どうせ凌辱を遂げられてしまうのなら、自分の妻を魅力的な女として扱ってくれるるほうが、よほど歓ぶべきことではないか?

少女はそのあいだも、月田の身体のあちこちに取りついて、首すじや肩先、わき腹、お尻、太ももやふくらはぎ、それに足首にまで咬みついて、身体じゅうから血を抜き取っていった。
そのたびに、つねられるような疼痛が、彼の理性を挑発するように、皮膚の奥にまで沁み込んだ。
実の娘よりも幼い少女に支配されながら、情けないとは感じていなかった。
「良い子だね。おじちゃんの血でよかったら、もっとおあがり」
彼は優しい声で少女に呟き、少女は遠慮会釈なく与えられた権利を行使した。
二階では妻が犯されている。
そういう異常な情況におかれた彼が本来感じなければならないはずの救いようもない屈辱を、少女は嘲ることもなく、むしろ理解さえ示していて、彼女の幼い牙が、それを抑えがたい妖しい歓びにたくみにすり替えていくのがわかったから。

まだ天井ごしの物音が途切れないうちに彼が始めたのは、階下の部屋の後始末だった。
寝間に散らばった彼自身の血や体液は、少女がすでに丹念に拭い取って、きれいに隠滅してしまっていた。
父娘連れだってのこうした悪事に慣れているのだろう。手慣れたものだった。
身を起こすと軽い目眩がした。
「小父ちゃん、いつもよりがんばったもんね」
少女は屈託なげに笑った。
失血の眩暈に身体が痺れるのを感じながら、這うようにして隣の茶の間に向かうと、すべてが乱雑にひっくり返されていた。
ちゃぶ台は隅に押しやられて斜めになっていたし、差し向かいに置かれていたはずの二枚の座布団もてんでんばらばらに散らかって、二つ折れになった一枚にもう一枚が折り重なっていた。
少女が、雑巾を手渡してくれた。
雑巾は多少の汚れならそれ一枚で拭き取れてしまいそうな大きさで、きつめに絞ってあった。
畳には、まだ乾き切っていない血糊が不規則に幾すじとなく延びていた。
どちらかの身体がその上に乗っかったらしく、所々擦りつぶされていた。
おぞましいことに、白く濁った男の体液らしきものが、茶の間のそこかしこに付着していた。
それは、妻の身になにが起きたのかを、いやがうえにも想像させてくれた。
いや、この場ではまだ、妻の名誉は決定的な汚辱を受けていなかったはずだ・・・彼はそんなことを呟きつつ、しつように覆いかぶかさってくる妄念とたたかいながら、ちゃぶ台の脚にはね畳のへりに沁み込んだ体液を、不器用な手つきで拭っていった。
妻が生き血を吸われ弄ばれた現場に遺された血糊を拭き取るという卑屈な作業に、いつかマゾヒスティックな歓びを感じはじめていた。
いま雑巾にしみ込んでゆく赤黒い液体は、ついさっきまで妻の体内に脈打っていたはずだった。
妻はいったいどんな気持ちで、この深紅の血液を抜き去られていったのだろう?
少女は彼が妻を弄ばれた痕跡を隠滅する作業を手助けしながらも、時々ニタニタと薄笑いを浮かべては彼のことをちらちら盗み見ていた。
そして、飛び散った血潮のしずくに指先を染めては、チュッと行儀のわるい音をたてて舐め取っていた。
ふたりは無言のまま、畳やちゃぶ台や家具、ふすまや壁から血糊や体液を拭き取る作業に熱中した。
たまに交わされるのは「そこは?」「こっちも」「あぁ、こんなとこまで」と、拭い残しがないか確かめ合うための手短かに端折った言葉だけだった。
その間もずっと、顔を俯けて雑巾でこすり続けるふたりの頭上では、古びた木目の天井が重苦しい音をたてて軋みつづけていた。


階下の後始末がほぼすんだ頃、ふた色の足音が階段を降りてくるのが聞こえた。
降りてくるふたりの間に、そこはかとなしに通いあうものがあるのを、階下のふたりは感じた。
少女のほうはしてやったりという得意そうな色を一瞬あらわにしたが、すぐにあわててそれを押し隠した。
月田のほうは月田のほうで、ああやっぱりという諦めに似た想いと、なにかがうまく成就したあとの不思議な安堵と充足感とを同時に覚えていた。

さきに部屋に入ってきたのは、男のほうだった。
作業衣のズボンのベルトを、歩きながら締めなおしていた。
草色をした薄手のジャケットは、もともと塗料や脂で薄汚れていたが、情事のさなかに散らされた女の血が、それとわかるほどに上塗りされて、乾き切らないままにこびりついていた。
あとから男の背中に隠れるようにして現れた彼の妻は、さすがに後ろめたそうに目を伏せていた。
ざっと身づくろいをしてきたのだろう。夫人の着衣は、夫が懸念したほどには乱れていなかった。
階上にあがっていくときに片袖だけ脱がされていたカーディガンもブラウスも、いちおうはもとの通り着込んでいたし、失血のせいでさすがに顔色はよくないものの、蒼白く萎えた素肌の色は、いつもより濃いめに刷き直された化粧に紛れていた。
足許だけは、破れ落ちたストッキングがそのままになっていて、乱暴狼藉の痕をはっきりととどめていたのだけれど。

嵐が通り抜けたあとの夫婦は、互いにどう言葉を交わして良いのか口を開きかねて、しばらく気まずそうに視線をそらし合っていた。
吸血の習慣をもつこの父娘は、こうした夫婦ものをあしらうのに慣れていて、互いに困惑し合う夫婦の気分もほぼ正確に察しをつけていた。
旦那は女房に意気地無しと思われたくないだろうし、女房は女房でふしだらな淫乱妻と見なされて離婚でもされたら・・・などと余計な心配をすることなども。
どうやらこの夫婦はとくに、そんな感じがした。
生真面目で小心者どうしだったから、自分の恥ずかしい立場を誤魔化すために互いに相手を責めて修羅場を演じるほどの度胸も厚かましさもないのだ。
そして―――そうした小心者の善良さこそが、彼らにとっては何よりも好都合だった。

男はここの敷居をまたいだ直後の、あの冴えないウッソリとした様子に戻って、ぶきっちょに口ごもりながらいった。
「すいません。つい長居しちまって・・・世話んなりました」
平身低頭された夫のほうは、妻を犯した男がごく下手に出てきたことに軽い狼狽さえ滲ませながら、
「ああ、いえいえ・・・こちらこそ何のお構いもできませんで」
と、こちらもまたへどもどとした間抜けな返事を返していた。
かなり見当ちがいな挨拶ではあったけれど、状況を穏便に済まそうとする夫の事なかれな態度に、妻が少なからず安堵を覚えたのは間違いなかった。
あれだけ明白な事態になったのに、夫は献血行為以上のことはなにもなかったことにしてくれようとしている。
お互いを責めるよりも、いま崩されかけている日常の体裁をなんとか取り繕うことのほうが、この夫婦にとってはずっと重要なのだった。

なによりも、部活動帰りの娘の帰宅時間が迫っていることが、夫婦にとっての最優先の懸念事項になっていた。
ちゃぶ台まで蹴転がすようにして立ち去った茶の間がとにもかくにも片付けられているのに初めて気がつくと、
「後片付けまで・・・すみません」
節子はそういって伏し目がちに夫のすぐ脇をすり抜けて、そそくさと台所に立ち、ボールに浸された雑巾を手に取ると、それをギュッ、ギュッ、と手際よく絞った。
作業を始めると気分がすこし落ち着いたらしく、おなじものをふたつ用意すると、
「ごめんなさい。ここと、ここと、あとこっちにも」
と、階下に残った夫と少女が見落とした、当事者にしかわからないような場所に残されたシミや汚れを、くまなく拭き取っていった。
夫婦が身を寄せ合うようにうずくまって共同作業に熱中し始めるのを、吸血鬼の父娘は、虚ろな目をして見つめていた。

拭き掃除が終わると男は節子を手招きして彼女のまえに蹲り、両手で自分の肩につかまらせると、
節子の脚にまとわりついていた肌色のストッキングを片足ずつ丹念に脱がせていった。
彼女の夫は、その様子を、黙って見ていた。
妻を強姦した男が、妻の装身具を戦利品としてせしめていくところを。
節子が脚を代わる代わる上下させる拍子に、太ももやスカートの裏側が見え隠れした。
えび茶色のスカートには、裏地にべっとりと男の体液がこすりつけられていた。
もちろんそれは夫の目にとまったはずだし、節子もスカートの裏側に夫の視線が這うのを自覚したが、
男が否応なく動作を強いたので、立ち止まることはできなかった。
節子は夫のまえ、凌辱を受けた明らかな痕跡をさらけ出しながら、身繕いをすませていった。

節子の穿いていたストッキングを脱がせてしまうと、男はそれを押しいただくようにして口づけすると、
くしゃくしゃに丸めたまま作業衣の上着のポケットにねじ込んだ。
都会育ちの婦人の装いには不似合いな無造作なあしらいに、夫はズキリと胸を衝かれた。
塗料や脂の染み込んだ作業衣のポケットから、ねじ込まれた妻のストッキングのつま先がはみ出してひらひらと漂っていたが、男は気がつかなかった。

「おじちゃんはこの日なら会社にいるんだよ」
月田は、勤務先から持ち出した勤務割りを、少女に手渡した。
夜勤もあるし、せっかく来てくれても無駄足になったら可哀想だからねと夫がいうと、妻のほうもまた優しい小母さんの顔になって、
「お嬢ちゃん、よかったわね。小母さんもよかったらお相手してあげるから、よかったらうちにも遊びにいらっしゃいね」
などと、猫なで声を出した。
「あなたの参考にもなりますかね」
彼が男に遠慮がちに声をかけると、男はむしろ卑屈そうに身を屈め、すまんこって、あとでゆっくり見させてもらいます、というと、
その受け答えとは裏腹に、娘の手から取りあげた勤務割りに視線を落とした。
最初だから3、4日休むとして・・・男は小声で呟きながら、考え深げに目を細めた。
「日中お越しになれるんでしたら、私も娘もおりませんよ」
「ハハァ、たしかにそうですな」
「夜勤明けには家におりますから・・・その日だけはかんべんしてもらえたら」
月田はそう言いかけたが、男がちょっと不快そうな顔色になるのを見越すとすぐに、
「いや、どうしてもというのなら、無理には願いませんけれど」
と、言い直した。月田の協力的な態度に、男はあきらかに、心証をよくしたらしい。
「なに、いまさっきとほとんど変わりはしませんよ・・・せっかく仲良くなったんだ、奥さんに逢いたくなったら、いつでも来ますで」
とぼけた口ぶりで、夫の言いぐさに応じた。
男ふたりは声をあわせて低く笑った。
節子は茶の間に背を向けて台所に立ち、男ふたりの笑い声を背中で聞きながら、自分たち夫婦の血のついた雑巾を洗っていた。
前の記事
≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 5 嵐のあと、なにも知らない娘のまゆみ
次の記事
≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 3 月田氏、吸血娘の餌食になる。

コメント

コメントの投稿

(N)
(B)
(M)
(U)
(T)
(P)
(C)
管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
http://aoi18.blog37.fc2.com/tb.php/3644-f80385f0