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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 6 後朝(きぬぎぬ)~妻の変貌

2018年10月21日(Sun) 08:28:47

出勤時刻が迫っているというのに、身体のうごきが鈍かった。
すっかり寝不足だった。
夕べ、二階の部屋の灯りが消えて娘が寝静まると、スリップ一枚の妻がものもいわずに挑みかかってきたのだ。
男の吸血鬼から解放されて戻ってきたとき妻は、いつも頭の後ろで結わえてひっ詰めていた髪をほどかれいて、それをくろぐろと、両肩に波打たせていた。
夕食のときも、娘はそうした母親の変化に目ざとく気づいて「母さんいつもより女っぽいね」などと言っていたけれど、
昨晩、いつものように家に戻るまでは常識まみれの四十女に過ぎなかった妻は、髪型を崩してからどことなく雰囲気を変えていた。
夫婦の寝床のうえ、彼の上に跨がってきた妻は、そんな体位で夫婦の営みに臨むなど初めてなのに、まるでさかりのついた牝馬のように息せききって、身をはずませて、自らくわえ込んだ一物から一滴のこらず絞り取るように腰を激しく上下させた。
娘の成長とともに途絶えかけた営みはいつも正常位で消極的な受け身といういつもの妻とはうって変わって、獣じみた狂おしさをあらわにしていた。
とつぜんの椿事で体験した夫以外の男とのまぐわいが、まだ妻の身体のすみずみに余韻を秘めているのを、彼はありありと感じた。
異常な記憶が甦ってくると、彼のほうもまた、若いころでさえなかったほどの怒張をおぼえた。

外が薄明かるくなるのをおぼろげに覚えているのだから、ほぼひと晩じゅうつづいたのだろう。
血を吸う父娘を相手に夕べこうむった、したたかな失血のあとでもあった。
「あなた、無理しないほうが」
さすがに妻が気にしたくらい、彼の顔色はわるかった。
けれども強いて家を出たのは、目が覚めたときに目にした妻の服装のせいだった。
まゆみはもう出ましたよ・・・そういう妻は夜中の、そしてそれ以前の、しつように重ねられた情事の名残は気振りにもみせていなかったが、身に付けた装いは、いつもとうって変わってこぎれいなものだった。
いつもの野暮ったい着古しのトックリセーターに毛玉の浮いたパンツなどではなくて、
ショッキングピンクのカーディガンに、白地に黒のボーダー柄(もっとも彼にはそんな気のきいた語彙はなくて、「縞模様」と表現するしかなかったが)のブラウス、両脇が深いスリットで大胆に切れあがったひざ上丈の純白のタイトスカート。
いまどき珍しいねずみ色のストッキングはご愛嬌だったが、しいてよそ行きということでわざわざ箪笥の奥から引っ張り出して選んだのだろう。
カーディガンやブラウスにはかろうじて記憶があったが、あんな大胆な切れ込みのあるミニスカートなんか、持っていたのだろうか?
「似合わない・・・かしら」
夫の感想もいちおうは気になるらしく、妻は小首を傾げ、ほどいて肩に流したままの黒髪を揺らした。
「まぁ・・・まんざら捨てたもんじゃないな」
似合うよ、きれいだ。とか、見違えるね。とか、気のきいたことでも言えればよかったのだが、
ひと回りは若返った感じの妻はそれ以上ぶつぶつ文句をいうこともなく、機嫌よくその場をはなれた。

まさかとは思った。まだ、きのうのきょうなのだから。
いちどモノにした獲物ははやいうちに再び征服して、得た果実は手堅く手中に収めてしまおうというのだろうか。
「かなりご執心のようなんだな」
とだけ、夫はいった。お前たちがなにをしようと邪魔するつもりはない、といったつもりだった。

昨日渡したつもりだった彼の勤務割りが、ちゃぶ台の上にあった。
いちど四つ折りにされて、改めて開いた状態だった。
その勤務割りの、きょうのます目に深々と爪痕が残っていた。
真夜中に別人のように乱れた妻の胸の谷間に残されていた爪痕と、おなじ形をしていた。
ふたりはこんなふうにして、きょうの逢い引きを示しあわせていたのか。
あのみすぼらしく貧相な作業衣の男は、二十年連れ添った夫婦の日常に、しっかりと割り込んでいた。
淡い嫉妬がジリジリと、彼の胸の奥をとろ火で炙りたてた。
彼は素知らぬ顔で自分の勤務割りをちゃぶ台に戻すと、いつものように薄い靴下に透けた足首を革靴のなかに突っ掛けた。


出勤はしたものの、彼は事務所の席に鞄を置く間もなく、ほとんどまわれ右をするように家路につく羽目になった。
なにもかも心得ているらしい事務所長が、謹直なしかめ面をいつになく和らげて、
「きみ、顔色よくないね。きょうのとこれは仕事はいいから、いつ帰っても構わんよ」
「うちに帰ればいいことがあるんじゃないかな。ぐずぐずしていると見逃してしまうよ」
「だれもが経験していることだから・・・まぁ良かったじゃないか」
仲間が増えたことを露骨に悦んでいる様子だった。
彼の夫人は着任そうそう因習に染まり、いまは村の長老のひとりの公然の愛人になっていた。
こちらにきて三年になる年若な部下を振り返ると、これもまたなにもかもわきまえた顔をして、「所長がああいってくれてるんだから、大丈夫ですよ」と、こたえを返してきた。
これまた露骨なまでに、(許しをもらえてラッキーですね!)と、顔にかいてあった。
もはや、苦笑を浮かべたまま席を起つことしか、彼にはすることが残されていなかった。


自分の家に帰るのに、どうしてこんなにもこっそり振る舞わなければならないのか?
そう自問しながらも、月田は足音を忍ばせて庭先にまわり、いつも施錠されてないことを知っている勝手口から身を屈めて上がり込んだ。
庭先を横切るとき、背の高い生垣ごしに、すこししゃがれた男の声がした。夕べの男の声だった。
勝手口の木戸を開くと、声はいちだんと身近になった。
浴室の前まできたときには、なにを話しているのかまで、筒抜けだった。
話の内容は、ほとんどどうでもいいような天気の話しとか、いつ越してきたのかとか、ありきたりのことばかりだった。
たまたま自分の話題が出たときだけはビクッとしたが、それもだんなは何時に出かけたの?とかそのていどの当たり障りのないものばかりだった。
きのうと変わらない調子の訥々とした、ちょっと卑屈な声色がぶきっちょに途切れがちになると、沈黙を怖れるように彼の妻が穏やかに言葉をついだ。
さほど社交上手というわけではない妻も、田舎育ちの男に比べればよほどうわ手で、齢は年若な妻のほうがまるで姉のような物腰だった。
夕べ唐突に招いた客に妻がゆき届いた応対をしていることに、彼は不可解な満足感を覚えていた。
どうやらつきあい下手らしいあの男が、無器用に言葉を途切れさすたびに妻が救いの合いの手を入れるたびに、彼自身が救われたような気分がした。

ふと身じろぎをすると、手の甲に洗濯機のへりが当たった。暗い槽のなかに、吊り紐の切れたブラジャーがみえた。
洗濯機の傍らには風呂敷包みがあった。中身は衣類で、えび茶色の生地がはみ出て見えた。
ぴんとくるものを感じて風呂敷包みをほどくと、きのう妻が身に付けていた着衣がひと揃いたたんで重ねてあった。
黄色のカーディガンとねずみ色のブラウスにはところどころ乾いた血糊がこびり着いていて、釦もひとつふたつ飛んで失われていた。
いずれも、夕べの狼藉のあとを、あからさまにとどめていた。
えび茶色のスカートのすそをめくると、裏地に白っぱくれたシミが濃淡不規則なムラをつくってべっとりと付着していた。
震える指でそっと触れると、まだかすかな湿り気を帯びていた。
なにかを叫びそうになって、思わず数歩足を踏み出した。
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