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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 7 目の当たりにした情事

2018年10月21日(Sun) 08:36:40

ふたりが言葉を交わしていると思い込んで踏み入れた茶の間には、だれもいなかった。
その代わり、寝室に接しているふすまが半開きになっていて、夫婦の寝間のなかが見通せた。
ねずみ色のストッキングに染まったふくらはぎがうつ伏せになって、畳の上にゆったりと伸べられていた。
侵入者は妻の片方の足首をつかまえて、ふくらはぎのうえに赤黒く膨れあがった唇を、ぴったりと這わせていた。
ねずみ色のストッキングのなかで、か細いふくらはぎの筋肉が、キュッと引きつり隆起するのが透けてみえた。
不健康に赤黒く爛れた分厚い唇は、ねずみ色のストッキングのうえからねっちりと這わされてゆく。
なよなよとか弱い感じのする薄手のナイロン生地を、男はネチネチと意地汚くねぶりまわしていた。
ヒルのようにいやらしくねぶりつけられた唇から分泌されるあぶく混じりの唾液が、肌目こまやかなナイロン生地にからみついて、チロチロと光っていた。

ピチャ・・・ピチャ・・・
くちゅ・・・くちゅ・・・

都会妻の礼装に唾液のはぜるいやらしい音が、うわべの静謐に支配された部屋のなかを淫らに塗り替えるように、深く、静かに沁み込んでいった。

「えぇ色した靴下じゃね」
長いことふくらはぎを舐めた挙げ句、男は顔をあげてそういった。
足許を濡らす唾液の薄気味悪いなま温かさに辟易しているらしい節子が押し黙っていると、応えを要求するように、男はなおもくり返した。
「えぇ色した靴下じゃね」
「お気に召したのですか」
女は取り澄まして、他人行儀な口のききかたをした。
「舌触りもえぇ。うんめぇわ」
女は男の下品な言いぐさに不快そうに眉をひそめ、再び畳に目を落とした。
こんなことをされるために脚に通したのではない、と言いたげな顔つきに、男はいった。
「わしのためにえぇ服着こんで待ちかねとっただろうが?じゃから、お前ぇの服は、わしへの馳走に違いなかろうが」
女は黙っていた。
「穿きかえあんのか?おなじやつ」
「これしかありませんよ」
女はいった。
「じゃ、噛んじまうわけにいがねぇな」
「かまいませんよ。あなたのために穿いたんだから。思い切りよく破いちゃって頂戴」
女は初めて自堕落な言葉つきをして、ストッキングの脚を自棄になったように投げ出した。
「えへへ・・・そう出られちまうとな」
男はニタニタと相好を崩して、女の足許に這い寄った。
獣じみた呼気が間近に迫るのを、女はストッキングごしに感じた。
息づかいの熱さが皮膚の奥深くに脈打つ静脈に伝わって、こらえようもないほどずきずきと疼きはじめた。
さっきからふすまの向こうに身を潜ませた人影がこちらに視線を注いでくるのに、女は気づいていた。
その視線は、情夫のそれと負けず劣らず、彼女の身体にしつように絡みついてきた。
視線の主がこっそり帰宅してきた夫であることを、女はすでに察していた。
他人行儀な言葉づかいをやめたのは、そのせいだった。
ジリジリとこの身を灼くような嫉妬の視線が、女の感情に火をつけた。
「夕べみたいに、めちゃくちゃに咬み破って、お願い」
随喜のあまりだらしなく弛んだ唇が強引に圧し当てられて、露骨な舌舐めずりが薄いナイロン生地をよだれでしたたかに濡らし、いびつによじれさせてゆくのを、女は悦んだ。
じぶんでもびっくりするくらいに、あからさまな喜色を滲ませて。
ふたりの痴態をいじましくも物陰から覗き込む夫をまえに、よそ行きの礼装がぱりぱりと音をたてて裂け、脚ぜんたいを覆っていたゆるやかな束縛がほぐれてゆくのが、むしょうに小気味よかった。

チリチリに裂けたストッキングの裂け目から露出したふくらはぎを、空々しい外気がひんやりと打った。
裂け目は面白いように拡がって、ひざ小僧までまる出しになった。
男がくまなく脚を吸えるように、わざと脚をくねらせて、いろいろ向きをかえてやって、くまなく吸わせていった。
素肌を覆っていたナイロンの被膜はもはや面ではいられなくなって、引きつれねじれた糸のかたまりに堕ちていった。


物陰でひたすら、月田は息をひそめていた。
「えへへ・・・そう出られちまうとな」
妻の言いぐさに相好を崩した男の声色が、彼の鼓膜をぐさりと刺した。
あれほどぶきっちょで、卑屈でさえあった男が。
そのうえつい今しがたまで、若やいだ彼の妻のまえで気後れをして、会話の主導権を取られっ放しだったしわがれ男が。
いまや都会育ちの妻を洗練された装いもろとも辱しめようと、舌舐めずりしてのしかかっていく。
不覚にも月田は、その場で尻もちを突いた姿勢のまま、失禁していた。
スラックスの股間を濡らす居心地のわるい温もりは、どろどろとした粘ばり気を帯びていた。
恥ずべきことだ、と、彼は思いながら、そういう自分をどうすることもできなかった。
自ら禁じたにも拘わらず、嬌声をあげてはしゃぐ妻がみすみす相手の男に組伏せられていって、作業衣を着たままの肩幅の広い背中にためらいながらも腕を巻いていく有り様から、目が離せなくなっていた。
自分よりずっと頑丈そうな背中をまさぐる妻の薬指には、結婚指輪が鈍く輝いていた。
月田は、妻がいつも結婚指輪をしていたかどうか、意識していなかった。もしかすると、ふだんはつけていなかったのかもしれない。
だとしたら、これも男のための馳走なのか?
貴男が犯しているのは人妻なのよ、というアピールのために、夫婦の誓いを果たした証しの品を、わざわざつけているのか?
その結婚指輪をはめた指が、自分ではない男の背中をまさぐり、背中に廻した両の腕を重ね合わせて、男をしっかりと抱きしめる。
妻としての自覚を忘れた女の指にはめられた結婚指輪の鈍いきらめきが、月田を悩ましく苦しめた。

破けたストッキングをまだ脚にまとったまま、妻は白のミニスカートの内股深く、情夫の逞しい腰を迎え入れていた。
スカートの脇の切れ込み(夫はスリットという語彙をもたなかった)からは、ねずみ色をしたストッキングのゴムが太ももを横切っているのが、チラチラと覗いた。
太ももの内側についた肉づきは意外に豊かで、彼女自身を刺し貫いた逸物が引き抜かれ夫の視界をよぎるたびに、悦びにはずむのが見てとれた。
ピンと伸びたつま先も、靴下の裂け目から露出してまる見えになったひざ小僧も、花びらみたいに裂き散らされたブラウスから覗くおっぱいも、半開きに弛んだ唇から覗く前歯、あの晩以来解かれたままの波打つ黒髪・・・どれもがいままで目にしたことのない女のものだった。
足首まで降ろされたショーツを自分の手で引き裂いて部屋の隅に投げた女。
薄い唇からこぼれる前歯の淫蕩な輝き。
瞳の色まで変わったかと思うほど表情豊かなウットリとした上目遣い。
妻であって妻ではない、妻とは別人の女がそこにいた。
ここは彼の家ではなくて、彼の家はべつにあって、そこには彼の本当の妻がいつものくたびれたトックリセーターを着て色褪せた頬をすぼめてなにかぶつぶつ文句を呟きながらアイロンをかけている―――そんな妄想がひどく現実味をもって彼の脳裡をよぎるのだった。
けれども、控えめな造りをした乳房はたしかに見覚えある妻のものだったし、淡いピンクの口紅を刷いた薄い唇もまごうことなく妻のものだった。
貧しい隆起は節くれだった手指に揉みくちゃにされ、黒々とした乳首は強欲な分厚い唇に我が物顔に呑み込まれ、控えめな造りをした唇が
「もっと・・・深くぅ・・・」
などと、卑猥きわまることを口走っていたとしても。
夫の見ている前での行為ということも、彼女ははっきりと自覚していた。月田のほうも、妻が気づいているのを自覚していた。
仰向けの姿勢で天井を見上げる蒼白い目が、時おりこちらを気にするように、半開きになったふすまの縁をかすめ、ふすまの向こうの月田を見据えているような気がした。
そればかりではなく、月田をぞくりと昂ぶらせるようなことを、妻はあからさまに口にし始めさえしていた。
弛んだ口許からはいちどならず、
「あなた・・・あなたァ・・・ごめんなさい。視ないで。視ちゃダメ」
そんな言葉さえ、よどみなく洩らされてくるのだった。
自ら招いた結果とはいえ・・・
萎えかけた頬を紅潮させて淫らな舞踏に息はずませる妻―――まさに白昼の悪夢だった。
けれども、その悪夢に歓びを見出してしまった男は、ひたすら失禁をくり返すばかりだった。



「献血ご苦労さん」
彼がそういって自身の妻に表だって声をかけたのは、情事のあとの身繕いや後始末が済んだあとだった。
さっきまで妻を犯していた男は、ふてぶてしくも居座って、何食わぬ顔をして自分の情婦となった人妻の身づくろいを見守っていた。
「2日続きですものね、さすがに疲れたわ」
萎えかけた頬を穏やかに和めた表情にはついさっきまでの娼婦のように奔放なセックスの名残は微塵もなく、
経口的な供血行為という、少しばかり猟奇的な地元の風習に好意的に協力した、都会育ちで健康体の四十代主婦がいるばかりだった。
「すっかり御厄介になりまして」
いまや妻の情夫となった男は、膝を丸めるように正座して、彫りの深く兇暴な顔立ちにはおよそちぐはぐな、昨日と変わらない卑屈なまでの慇懃さで、ぺこぺことぶきっちょなお辞儀をくり返していた。
彼もまた、悪鬼のように妻に挑みかかって白いミニスカートを精液でどろどろにしたことなど、おくびにも出さないふうだった。
「きょうはそんなに頂いてねえです。夕べの今日ですて」
男はどこまでもかしこまって、夫を立てる態度をとった。
「まゆみが学校に行ったあとなら、こちらから伺ってもいいんじゃないか?」
彼のほうもそういって、相手の意を迎えてやらざるを得なかった。
「奥さんが体力的に大丈夫なら、うちに来てもらってもエエです。こっちなら着替えがあるから奥さんの都合がエエかな、というだけで」
男はつい、語るに落ちるようなことをいったが、月田夫妻は気にとめることなくあえて聞き流した。
「じゃあこんどはいちど、伺わさせていただきなさい」
月田は妻を促し、妻は「そうですね。こんどぜひいちど」と、謝罪するように頭をさげた。
浮気に出向くことをすすめる夫に、それに応じて出かけようとする妻――これがわたしたちのこれからのありかたなのか。
月田は淡々とそう思った。
そして、怒りも屈辱も居心地の悪さも感じない自分に、すこしだけ驚いていた。


着替えたあとの妻は、モスグリーンのカーディガンに黒のトックリセーター、紺のひざ丈スカートに肌色のストッキングを穿いている。
朝とちがう服装をしていることをあえて夫は咎めなかったし、
妻のほうでもまた、脱衣場に脱いであったスラックスのシミが取りにくいことを話題にしようとしなかった。
男は玄関に向かうとき、洗濯機の傍らに置かれた風呂敷包みをさりげなく手に取った。
もう片方の手には、大きな紙製の手提げをぶら提げていた。
手籠めにした女の身に付けていた着衣を夫のまえから公然と持ち去るのを、月田はわざと見過ごしにした。
「クリーニングに出しときますで」
慇懃な語調は、どこまで本当なのだろう。
もっとも今朝彼が目にしたショッキングピンクのカーディガンやボーダー柄のブラウスや白のミニスカートは、その後も時おり見かけたから、男が手許においたのは初めてのときのものだけだったのかもしれない。
帰りぎわ、男を門の外まで見送った夫の耳許に、彼はぼそぼそと囁いた。まるで毒液のような囁きだった。

「奥さんが穿いてる肌色のストッキング・・・ぜんぶ咬み破っちまうけど、おおめに見てくださいよ」

うかつにも頷いてしまった自分に内心舌打ちをした彼は、それでも差し出された掌に自分の手を差し伸べて、グッと力を籠めた握手まで交わしていた。
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