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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 10 まゆみの疑念

2018年10月22日(Mon) 07:25:26

「お帰り、遅かったわねぇ」
娘の遅い帰宅を口でいうほど訝しんだようすもなく、母親はいつもと変わらず台所仕事の手を休めずに、こちらに背中を向けたままだった。
「お父さん、会社早引けして寝ているから、静かにね」
母親はひっそりと、そういった。
「ねぇ、最近変わったことなかった?」
単刀直入に訊いたつもりだった問いは、
「さー?なにかあったか知ら?」
と、あっさりと受け流されてしまった。
母親のほうがずっとうわ手なのか。自分の思い過ごしなのか。判断がつかなくなりそうだった。
けれどもあの出来事はまぎれもない。
あの無気味な少女は夕べ、下校してきた彼女と入れ違いに家から出てきた父娘連れの娘のほうだったはず。
少女は獣みたいに冷たい目をして呟いていった。
「あなたの父さんと母さんの秘密を知っている」
と――

夕べからなんとなく、家じゅうに変な匂いが立ち込めていた。初めてそれを感じたのは、家の階段をあがって部屋に戻り通学鞄を置いたときだった。
「ヘンな臭い・・・」
彼女は思わず呟いて、臭いのもとを探ろうと、周りを見回した。どこか変だった。
部屋ぜんたいがなんとなくいつもより片づいていて、不自然な落ち着きかたをしていた。
だいいち、今朝始業時刻に遅れまいと急いで飛び出した部屋のまん中にほうり出していったはずの鼓笛隊のバトンが、部屋の隅っこにきちんと立て掛けてあった。
すぐには倒れないように立て掛けられたバトンの入念な角度に、几帳面な母親の気配を直感した。
晩ごはんがお赤飯だったのも、妙に気になった。
自分の帰宅と入れ違いに帰っていった父娘連れのことが、頭をよぎった。
あのふたりはあたしにろくろくあいさつもせずに、どうしてあんなにこそこそと立ち去ったのだろう。
そういえば、おかえりなさいを言ってくれた母親の態度も、いつになく決まり悪げで、よそよそしかった。

入浴を終えて部屋に戻っても、臭いはまだ消えていなかった。かえってよけいに、気になるくらいだった。
パジャマに着替え灯りを消して横になったが、目が冴えて寝つかれない。
真っ暗な部屋の中、周りに立ち込める饐えたような臭いが、よけいに耐え難くなった。
こんな部屋ではとても寝られないと思った。階下で両親が寝支度にかかった気配を見越して、「やっぱ下で寝る」と、彼女は呟いた。
寝具をまとめるのに意外に手間取って、枕や蒲団を抱えて階下に降りたときには、茶の間も両親の寝間も真っ暗になっていた。
茶の間に降りてきてもまだ、さっきの臭いが鼻先を去らない。
二階の部屋から臭いを引きずって来てしまったのか?どうやらそうではないらしかった。
臭いは茶の間の壁やふすまにも沁みついているようだった。
それ以上に、ふすま一枚へだてた両親の寝間から間断なく洩れてくる物音が、少女を悩ませた。
両親も寝つかれないのかと声をかけようとして、出かかった声をすぐに引っ込めた。
赤ちゃんがどこから来るのか、教えられなくても識っている年ごろだった。
親たちは、娘がすぐ隣の部屋に降りてきても気づかずに、どう考えてもそれとしか思えない行為に熱中している。
だいいち、母さんの声がふつうじゃなかった。
嫌悪感に、耳をふさぎたくなった。
まゆみは結局音を忍ばせて蒲団をたたみ、あの忌まわしい臭いの待つ自室に戻っていった。

ひと晩まんじりともしなかったまゆみは、朝起きると寝不足の赤い目をこすりながらもそそくさと支度を整え、
いつも朝ごはんをいっしょに食べるはずの父親が寝坊をしているのに注意を向けるゆとりももたず、そそくさと登校していった。

学校から家に戻ってきて。
ふたたび夕べの夜遅くに洩れ聞こえたのとおなじ声色を耳にして。
なんとなく家の中には入りにくい雰囲気を感じてまわり道をした挙げ句、あの無気味な少女との不愉快な邂逅をして、まゆみは再び、家に戻ってきた。
夕べ一睡もできなかった自室からは、あの嫌な臭いはほぼ消えていた。
でも、どこかにまだ残り香が潜んでいるような気がして、まゆみはしばらくのあいだ、部屋のあちこちに顔を向けて、鼻をひくつかせていた。
「お姉ちゃんの父さんと母さんの秘密を知ってる」
あの少女の呟きの理由が、気になってしかたなかった。
ふと何げなく目をやった勉強机の下に、なにか光る丸いものを見つけた。
拾い上げてみると、それは洋服の釦だった。自分のものではなかった。
まゆみは釦のことを言い出せないまま、気詰まりな週末を過ごした。

週明けの朝、まゆみは出がけに母親を振り返り、思い出したようにいった。
「この釦、あたしの部屋から出てきたんだけど、母さんのカーディガンのじゃないかな」
出かけていく娘に背を向けて台所に向かっていた母親はお皿を拭く手をとめて、娘のほうをふり返った。
手渡された釦をみて一瞬表情を凍りつかせたが、すぐに家事の合い間の顔にもどり、
「アラ。いつ落としたのか知ら」
といっただけだった。
娘はそんな母親のいちぶしじゅうを、注意深く観察していた。
けれどもまさか、母親が娘の部屋でカーディガンの釦を飛ばしたとき、女の操まで捨てたなどとは、さすがに夢にも思わなかった。
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