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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 11 ナギの独白

2018年10月22日(Mon) 07:34:25

砂ぼこりの風に真っ赤なスカートをひらひらさせながら、少女はつまらなそうに通りを歩いていた。
さえない曇り空の下、家々の窓ガラスは締め切られていて、狭い路上には人影がなかった。
この週末、彼女は血を吸わせてもらえるあてがなかった。
ここ1週間くらい、毎日のように遊びに行った都会の会社の事務所で働いているあの親切な小父さんは、きょうはお仕事を休んでいた。
こないだ父ちゃんを家に連れていって小母さんの血を吸わせてもらったときに、うっかり調子に乗りすぎて、小父さんが貧血になるまで吸いすぎちゃったらしい。
事務所に遊びに行ったら、べつの人が出てきて、月田さんは具合が悪くなって勤めを早退けしたよと言われて、すげなく追い返されてしまったのだ。
代わりに応対に出てくれたそのひとは、気の毒そうにいった。
「すまないねぇ。みんな身体がふさがっててね。ぼくもお昼過ぎにお友だちと約束があるんだよ」
ひとの分け前を横取りすることはできなかった。血を吸う人々は、お互い譲り合って生きていた。
限りのある餌は、仲良く分け合うことになっていたから。
吸血鬼になって日が浅く、まだそんなに「お友だち」のいない者は、訪ねていくあてがなくなると、ちょっぴりひもじい想いをしなければならなかった。
でも、数少ない「お友だち」に、あまり無理なお願いをすることはできなかった。
お願いをすればきっと、優しい小父さんやお兄さんは、いくらでも血を吸わせてくれる。
でもそうすると、彼らはみるみる痩せ衰えてしまって、血の味が落ちてしまうのだ。
もちろん度を過ぎると死んでしまうことになりかねないのだが、それはひとの分け前を横取りすること以上に厳しく禁じられていた。
いくら仲良しにせがまれたからといって、持っている血をあんまり気前よく与えすぎてしまうとどういうことになるのか・・・それを彼女は自分自身の経験として識っていた。
少女に血を吸う習慣を与えたのは、村でも指折りの長老で、「顔役」と呼ばれている男だった。


―――父ちゃんの幼なじみだったその顔役の小父さまは、子供のころから父ちゃんの血を吸いなじんでいて、父ちゃんの手引きでまず母ちゃんの血を吸って、それからあたしの血を吸った。
でもさいしょのうち顔役の小父さまは、母ちゃんの血だけで満足していて、娘のあたしのことまで狙ってるなんて、父ちゃんにさえ、おくびにも出さなかった。
母ちゃんとはひどくウマがあったらしくて、顔役の小父さまは母ちゃんだけのための家を建ててくれた。
その家にはあたしと父ちゃんは招ばれなくって、これからは父ちゃんとふたりだけで暮らすんだよって聞かされて。
母ちゃんと離れて暮らすのを寂しがって泣いたら、「めでたいことなんだぞ」って、逆に父ちゃんに叱られた。
ふつうは他所の家の奥さんから血をもらうことがあっても、家まで建ててくれるというのは、村じゅうでもなん年かにいちど、あるかないかということだった。
血をもらう人が血をあげるおうち人たちとよほど仲良くなって、そのおうちの旦那さまがそうして欲しいといわないかぎり、絶対といってないはずの、よくよくのご縁なのだと、あとから聞かされた。
きっと父ちゃんは、兄弟みたいに育った幼なじみが自分のお嫁さんを気に入ってくれたことが、とても自慢だったんだろう。

それでも母ちゃんはあたしのことを、新しい家にこっそり招んでくれた。
それを知った顔役の小父さまも、いつでも遊びにお出でと言ってくれて。
「お嬢ちゃん、今度のお休みにはおめかしして遊びにお出で。小父さまも都合をつけるから。いっしょに遊んであげよう」
って、言ってくれて。
まえの日にはわざわざ、母ちゃんも久しぶりに家に戻ってきて、父ちゃんとふたりで、あした着ていく訪問着を選んでくれた。
おニューの服を着てお出かけするのが嬉しくて、両親に挟まれて手をつないで出かけていって・・・帰りは真夜中どころか、つぎの日の日が暮れた後のことだった。

顔役の小父さまにいっぱい遊んでもらったあたしは、首すじを吸われながら尻もちを突いちゃって。
そのままひどい貧血になって立ち上がれなくなっちゃったから。
その日おニューの真っ白なハイソックスを履いたのは、小父さまがくまなく舐めて愉しんで、よだれでびしょ濡れにするためだったと、じっさいそうされて初めて知った。
まず母ちゃんがお手本を見せてくれた。父ちゃんも視ているまえでブラウスのえり首を拡げて、顔役の小父さまに、うなじを咬ませて。
母ちゃんはうっとりとして口をぽかんと開けたまま、仰のけられたおとがいの下から洩れてくる、チュウチュウと美味しそうに血を吸い上げる音に聞き入っていた。
父ちゃんも惚けたような顔をして、母ちゃんが生き血を吸い取られてゆく音に聞き入っていたくらいだから、きっといいことなんだろうとあたしは思い込んでいた。
そう。生き血を欲しがるひとに自分の血をあげるのは、とても良い子のすることなんだ。
吸い残された紅いしずくを首からしたたらせたまま、母ちゃんは顔役の小父さまの前に肌色のストッキングを穿いたふくらはぎを差し出して、やっぱり同じように咬ませてあげていた。
ストッキングの薄い生地は、べっとりと圧しつけられた小父さまの唇の下、ブチブチと面白いようにはじけていって、父ちゃんも母ちゃんも、それを面白そうに見つめていた。
父ちゃんはあたしの肩を抱いて、つぎはお前ぇの番だぞって言ったけれど、なんの疑問もいだかずに、うんうん、ってうなずいていた。
とうとうあたしの番がきた。
母ちゃんがあたしのブラウスのボタンをふたつはずして、えり首のあたりを拡げるときに、胸のあたりまで空気が入り込んで、すーすーしてちょっと震えた。
「怖がらんでえぇぞ」
父ちゃんは優しい声で頭を撫でてくれたし、母ちゃんはずうっと手を握ってくれていた。
血を失くした母ちゃんの掌はいつもより冷たかったけれど、あたしの手を放さずにしっかり握りつづけてくれたのが心強かった。
顔役の小父さまは、怖いまんがに出てくる吸血鬼みたいに、あたしの目の前で前歯をむき出した。
唇の両端に伸びた犬歯が尖っていて、さっき吸い取ったばかりの母ちゃんの血がまだしたたっていた。
血を吸われちゃうんだ、あたし。
改めて実感したけど、案外冷静でいられたのは、小父さまの牙についていた母ちゃんの血のせいかもしれなかった。
だって、母ちゃんとおなじようになるだけなんだもの・・・
そのあとあたしが目をつぶったのは、べつに怖かったからじゃない。
お隣のお姉ちゃんから借りたコミックスで、かっこいいお兄さまとファースト・キスを交わすとき、女の子は必ず目をつむっていたから。
そう、血を吸われちゃうのって、キスとおなじようなものだって、あたしは思った。
たぶんそれは、まちがいじゃない。
だって、血を吸うときの小父さまって、女の子のことをあんなにもうっとりさせちゃうのだから。
首のつけ根がチクッとして。硬くて尖ったものが皮膚を破って、さらにその奥にずぶりと埋まってきて・・・
あとはもぅ・・・よく覚えていない。
かたわらから父ちゃんが、「えぇ子じゃ、えぇ子じゃ。ナギは強いな」って、いつもはあたしのことを叱ってばかりいるくせに、うそみたいにほめてくれたけど・・・
でもあたしは、小父さまにほんのふた口み口吸われただけで、もぅ夢中になっちゃっていた。
痺れるぅ・・・
あたしは自分でもおかしいくらい、けらけらと笑い転げちゃって、母ちゃんがストッキングを破かれたみたいにハイソックスの脚を吸われたときも、真っ白なハイソックスに血がはねて、すこしたるんでずり落ちながら真っ赤に染まってゆくのを、大はしゃぎしながら見つめていた。
さいしょからさいごまでずうっと手を握ってくれていた母ちゃんの掌は、さいしょのうちこそ冷たく思えたけど、いつもの温もりがだんだん戻ってきた。
もしかすると、身体じゅうの血を抜き取られて、あたしのほうが冷たくなっていたのかも。
でもほんとうは、ナギのことを逃がさないようにって掴まえてただけなんだ・・・って、あとから母ちゃんが教えてくれて。なぁんだって思っちゃった。
あたしが大人を信用しなくなったのは、それからのことだった。
べつに傷ついたとか、そんなシンコクなものじゃない。ふーん、大人ってそういうものなんだって、ふつうに思っただけ。
だからあたしは、あてがわれたおうちに行くときは、そのおうちに住んでいる大人をだましても、なんとも思わない。

父ちゃんに連れられて家に戻ったあたしは、つぎのお休みの日も真っ白なハイソックスを履いて顔役の小父さまのところに遊びに行きたいっておねだりをした。
それに、1週間も待ちきれないから、いっそ学校を休んででも小父さまにつごうをつけて欲しい・・・って。
もぅ、血を吸われることに夢中になっていた。
顔役の小父さまがあたしにもう一度会いたがっているって母ちゃんから聞いたときには、舞い上がっちゃうくらい、有頂天になっていた。
せがまれるままに、あたしの身体のなかにめぐる血を小父さまにぜんぶ吸い取らせてしまうのに、たいした日数はかからなかった。
だってあたしの身体はまだ小さかったし、ひと足さきに血を吸うひとになった父ちゃんにも吸わせてあげなくちゃならなかったから。
あたしもそれなりに、苦労はしているのだ。


身体じゅうの血を抜かれ、血を吸う習慣をもつようになったあたしたちは、これまでどおりひとつ家で暮らしていた。
そして、あたしの血をそっくりあげた小父さまに言われたおうちに行って,こんどは血をもらうようになっていた。

さいしょに遊びに行ったのは、いつもコミックスを貸してくれた、お隣のお姉ちゃんの家だった。
お姉ちゃん自身はもう売れ口が決まっていて、通ってる女学校の来賓の人のお世話係を勤めていた。
みんなが、あそこのうちのお姉ちゃんはできがいいってほめるのも、もっともだとあたしは思った。
だからさいしょのご馳走は、お姉ちゃんのすぐ下の弟で、来年受験を控えている男の子だった。
男の子といっても、あたしよりはいくつも、年上だったけど。
このお兄ちゃんとは、もともとあいさつ程度のおつきあいしかなかったけれど、性格はお姉ちゃんに似て小さい子にやさしくて、おまけにお人好しだった。
小母さんは、お兄ちゃんが受験を控えていることを気にして、あたしが来ることにあまりいい顔をしなかったけれど、
お兄ちゃんが自分から、ナギちゃんの相手をしてあげてもいいって言ってくれたらしい。
まだ小さいのに血を吸う人になってしまったあたしのことを、とてもかわいそうがってくれた。
あたしはあたしのことを、べつにかわいそうだなんて思わなかったけど、そう思われていたほうがつごうがよかったので、もっともらしく悲しそうな顔つきをしていた。

お兄ちゃんは、勉強の合い間に時間を作ってあたしを招んでくれて、息抜きの時間ぼーっとしながら首すじを咬ませてくれた。
スポーツマンのお兄ちゃんの活きの良い血が、あたしのことをしっかりと支えてくれた。
階下の茶の間では、うちの父ちゃんが小母さん――お兄ちゃんのお母さん――のことを押し倒していた。
顔役の小父さまが、あたしと母ちゃんの血をプレゼントした父ちゃんへのお礼に、小母さんのことを襲っていいって言ったらしい。
小父さまも、いくら村の顔役だからって、お礼に他所のおうちの人をあてがうなんてずるいなって思ったけど、いい思いをしているのはあたしもいっしょだったから、知らん顔して黙っていた。
お兄ちゃんは、高校に受かったら彼女を作って、あたしと父ちゃんとに紹介してくれるって約束してくれた。
コミックスを貸してくれたお姉ちゃんも、たまにはいいからって、血を分けてくれた。
こんなふうにして、あたしたちは「お友だち」を殖やしていった。


都会の会社の事務所に新しい転入者がくるって聞いて、運良くあたしたちに出番がまわってくると、顔役の小父さまがくれた家族構成の書かれた走り書きをまえに、あたしたちは額を寄せあって相談した。
だれもが気を許す小学生の女の子がまず事務所に入り込んで、小父さんと仲良くなって、小父さんの帰りを待ち伏せして、おうちに連れて行ってもらって・・・あまり考える時間をあげないほうが、小父さんのためにもいいって、みんなが言っていた。
都会の小父さんにもプライドというものがあって、時間が経ちすぎると気が変わることもあるから、さきにいろいろとするべきことを済ませちゃったほうが分かりが早いからって。
うちのときには父ちゃんが、すすんで顔役の小父さまに母ちゃんやあたしの血をあげたのに、
お隣のおうちの小父さんも家族の血を吸われていてもとやかく言うことは全然なかったのに、
都会の人はそういうことに慣れていないから、随分勝手が違うなって思った。

父ちゃんとの相談では、小父さんの血はあたしが独り占めしていい代わり、父ちゃんが小父さんのおうちに上がり込む手引きはあたしがやることになっていた。
小父さんにお願いして父ちゃんを小父さんのおうちに連れて行ってもらって、小母さんの血を分けてもらうのは、そんなに難しいことではなかった。
けれどもあのおうちのお姉ちゃんの血をだれが吸うのかは、まだちゃんと決めていなかった。
父ちゃんは「お前ぇは小せぇんだからちっとでエエじゃろ」って言うけれど、あたしだってひもじいのは嫌だもの。
さいしょにモノにする役目は父ちゃんでも、あたしも絶対、お裾分けに与ろうと思っていた。
だってあのおうちのお姉ちゃん、お隣のお姉ちゃんよりも太っちょだし、いっぱい血が採れそうなんだもの。
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