fc2ブログ

妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 18 まゆみとナギの鬼ごっこ

2018年10月27日(Sat) 10:05:39

まゆみは無我夢中だった。
どれだけ血を吸われたのかもよくわからなかったが、とにかく全速力で走ることができるのだけは確かだった。
走る方向を間違えたのを惜しいとおもった。
まゆみのいた教室は旧校舎の二階の最後部にあり、彼女がこの旧校舎に入った入口にいちばん近い側だった。
彼女がとっさに出たのは、前の扉だった。後ろの扉からすぐのところに階下に続く階段があったが、ナギがいたから通れなかった。
しかたなく彼女は、廊下のいちばん向こうまでそのまままっすぐ走り抜けた。そちら側にもたしか、昇降口があったはず・・・。
旧校舎内で土足がオーケーだったのは、まゆみに幸いだった。上履きから履き替えることなく、そのまま表に逃げてしまえばよかったから。

ナギもおんなじことを考えていた。もちろん舌打ちしながら。
へんに行儀のよいまゆみのことだから、上履きのまま外に逃げ切ろうなんて機転のきくわけがない。必ず帰巣本能みたいに、本校舎の昇降口をめざすはずだった。
それにしても父ちゃんはばかだ。どうしてこういうときにばかり、変に情をかけるんだろう?
おまけに助平ときているから、娘に分け前渡すのも忘れていやらしいことなんか始めて、あんな間抜けな姉ちゃんに油断を突かれるようなへまをするんだ。
まゆみお姉ちゃんの身体から吸い取った血が父ちゃんの身体をまわり始めるには、もう少し時間が必要なはず。
はやいとこあたしに引き継いでくれれば、あたしがまゆみを大人しくさせてる間に、父ちゃんの身体にもまゆみの血がめぐってきて、あとはふたりして好き放題にできたはずなのに。
ちっきしょう!逃がすもんか!
ナギは駆ける脚に力を込めた。

えっ!?そんなっ!
こんどはまゆみが仰け反る番だった。
校舎の最前部の昇降口は、閉鎖されていたのだ。
まゆみはナギがばか正直に彼女のあとを追ってくることを願った。そうであれば、いくらナギだって大人の足には追いつくまい。
でも・・・ナギが持ち前のずる賢さを発揮してただしい選択をしていたら、まゆみは袋のネズミ・・・勝利はあの子のものになる。
果たして・・・階段を飛び降りるようにかけ降りたまゆみが視たのは、校舎からの唯一の出入口に佇む小さな人影だった。
獣じみたカンの鋭さ・・・まゆみはゾッと震え上がった。
ふたりの間には女子トイレがあった。トイレはまゆみの側に、やや近かった。
あそこに入れば活路があるかも・・・一階の教室の窓から降りることも考えたが、脚力でもナギに勝てるかどうか、あやしくなってきた。
ナギは彼女よりも身軽に窓を乗り越え、校庭でまゆみのことをかんたんにつかまえるだろう。
そのときこの学校では、生徒も、教職員すらも、ナギの振る舞いを表だって制止してはくれないような気がした。
そして、まゆみのその直感はただしかった。

縮小加工p130525 075

飛び込んだトイレの鏡をみると、そこには顔色をなくした少女が立ちすくんでいた。
髪を振り乱し、うつろな目をして、自分とはまるで別人のようだった。
セーラー服の襟首に沿った三本の白線ははねた血のりでところどころ消えかかり、胸許に締めた純白のタイはほどけかかって、やはり赤黒い血のりがまだらに撥ねていた。
首すじにはふたつ並んだ咬み痕が、黒々とつけられていた。まゆみはせっぱ詰まった状況を一瞬忘れ、棒立ちになった。

ナギは怒りを込めた口許を、かたくなにひん曲げていた。まゆみは泣きべそを掻いていた。
女子トイレの入口側に、ナギが。
奥まったほうに、追い詰められたまゆみが。
いままで余裕の薄笑いで彼女をあしらっていたナギを、どうやら本気で怒らせてしまったらしい。
「ナギちゃんお願い!お姉ちゃんのこと見逃してっ!あたしこういうの、ほんとにだめなの・・・」
見栄もプライドもかなぐり捨てて、まゆみは手をあわせて哀願した。
ナギは、聞いちゃいられないという顔をした。彼女の怒りの理由は、まゆみにとってすごく理不尽なものだった。
「お姉ちゃんの意地悪っ!どうしてあたしにだけ血を吸わせてくれないのっ!?」
理不尽すぎる主張というのは、意外にやっかいなものだ。理不尽すぎて、抗弁の方法が見あたらなくなるからである。
「えっ?その・・・だって・・・」
まゆみはたじたじとなり、しどろもどろになった。
ナギは女の子らしい潔癖さをあらわにしていい募った。
「あれほど仲良くしてねってお願いしたのに、父ちゃんとばっかりいちゃついて、あんなにイヤラシイことまでやっちゃうんだから!
エッチ!すけべ!ばいた!ヘンタイっ!あんたの母さんといい勝負っ!」
よくもまあこんなにも、女が女を罵る言葉を知ってるものだ。
「ばいた」なんて言葉は、まゆみですらなかなか思いつかない語彙だった。
たまたま国語の時間に習った古い小説に出てきて、注が振ってあったからわかったようなものだった。
きっとあの粗野な父親の影響だろう。
いまこの子につかまったら、あのひとのところにまた連れて行かれる・・・虫酸が走ったのをどうやって見抜いたか、ナギは嘲るように白い歯をみせた。
「大丈夫だよ。父ちゃんのとこになんか、連れて行かないから。あなたの血の残りは、あたしが独り占めにするんだ」
ナギは獣のように吼えると、口許から初めて牙をむき出しにした。父親のそれと同じくらい、尖っていた。
「痛いけどゴメンね」
ナギが呟いたのとおなじ呟きを、まゆみも同時に口にした。
えっ?と目を見開くナギの顔面に、モップが投げつけられた。
それから、亀の子たわしやら、ホースの切れ端やら、雑巾やら、ありとあらゆるものが降ってきた。
やわなものもあったが、力いっぱい投げつけられる物たちを避けるのに、ナギは思わず頭を庇って俯いた。
特に丈の長い雑巾は効果的で、ナギの顔に巻きついて、格好の目つぶしになった。
ナギが苛立たしげに雑巾をはね除けたとき、目の前からまゆみの姿が消えていた。
見ると、ナギの手の届かない高窓が開けっ放しになって、その真下にはスチール製の小さな踏み台が転がっていた。
ナギは踏み台をおき直し高窓に手を伸ばしたが・・・すこしだけ、背丈が届かなかった。おかっぱ頭の黒髪が、激怒に逆立った。


はっ、はっ、はっ・・・
中学校の旧校舎は、はるか向こうになっていた。
まゆみは学校の裏口を出て、その周りの住宅街を駆け抜けて、街なみをはずれた坂道の白く乾いた砂利道を、息せききって駆けのぼっていた。
とっくにけりがついているはずの鬼ごっこが、いったいいつになったら終わるのかとうんざりしながら。
遠くに小さくではあるが、赤いしま模様の入った白のTシャツに真っ赤なスカートの女の子が、あとを追いかけてくるのがみえた。
小学校のころ、かけっこはいつも一番だったのに、中学に入っておっぱいが大きくなってから、すっかり身体が重たくなっていた。
砂利道の石ころに足を取られるのも、もどかしかった。
すべてはナギとおなじ条件のはずなのに、距離が少しずつ縮められていくような気がしてならなかった。
まゆみはもつれそうになる足どりを励ましながら、ゆるくて長い坂道をかけのぼった。

はぁ、はぁ、はぁ・・・
まゆみは立ち止まってうつむいて、両手で両ひざを抑え、肩で息をしていた。もう限界だった。
こんなに長く走ったの、きっと中学に入ってからは初めてだろう。
もしも今ナギが追いついてきて「よくがんばったねお姉ちゃん」と囁いたとしても、頷くのがやっとで首すじをゆだねてしまいそうな気がした。
幸いそうなるには、ふたりのあいだにはまだへだたりがあったけれど。
あとを追いかけてきたナギも、まゆみが立ち止まったのをみて、足をとめた。石を投げれば届く距離にまで、差は縮まっていた。
「いったいどこまで、ついてくる気っ!?」
投げた叫びに苛立ちがこもった。
「もうかけっこやめようよー」
陰にこもったナギの声色は、お陽さまの下ではか細く響いた。
「あなたがやめるまで、あたしはやめないっ!」
まゆみは叫び返した。
「じゃあ、あたしもあきらめないっ!」
か細い叫び声がかえってきた。交渉決裂だった。鎮まりかけた息を再び弾ませて、ふたりの少女はまた走りはじめた。

shukushou70加工p141122村上新発田 (47)02!01!05 - コピー

ふぅ、ふぅ、ふぅ・・・
何度めか振り返ったとき、ナギが足をとめているのがみえた。
ナギが立ち止まったのをみるとまゆみも息が切れて、走るのをやめた。
どちらの足どりものろのろとしてきて、ほとんど意地の張り合いみたいになっていた。
「ナギちゃん、もうあきらめようよっ!」
声を投げたのはやはり、まゆみのほうからだった。
「お姉ちゃんの血が欲しいのっ!」
か細い声はどこまでも真剣だった。
「きょうじゅうにだれかの血をもらえないと、ナギ死んじゃうんだもん!」
叫び声には、切実さがこもっていた。
「全部ちょうだいなんてひどいこと言わないから・・・ほんの少しでいいから分けて・・・」
追い風に乗ってくる声は、すすり泣きをしているように聞こえた。まゆみは歯を食いしばって、また駆け出した。

もぅ・・・だめ。
もういちど、ナギの邪まな望みをなんとかあきらめさせようと、振り返ったときだった。
まゆみが立ち止まるのをみたナギは、自分も立ち止まろうとして、足がばかになったのか、前のめりにひっくり返ってしまった。打ち所が悪かったのか、そのままぴくりとも動かない。
えっ!?どうしたの?大丈夫っ!?まゆみは相手が血なし鬼だということも忘れて、思わず駆け寄った。
ふたりのへだたりは、もう十数歩に迫っていた。
「ナギちゃん?ナギちゃん?だいじょうぶっ!?」
仰向けに倒れたナギを抱き上げて揺すったが、反応がなかった。
「やだ、どうしよう・・・」
血がもらえないと死んじゃう。ナギはそういっていたはずだ。
でもここでは、人間と吸血鬼が仲良く暮らしている、ともいっていた。
通りがかりのだれかが、助けてくれるかもしれない。
まゆみは辺りを見回したが、いちめん背の高い草むらが続くばかりで、人の気配はなかった。
ふとナギの顔に視線を落として、まゆみはぎょっとした。
抱き上げられた腕のなか、ナギがあの冷ややかな薄笑いで、まっすぐまゆみのことを見上げていたのだ。

イヤッ!だめっ!ひいっ・・・!
組んづほぐれつ、上になり下になり、ふたりの少女はつかみ合った。
踏みしだかれた草の青臭い匂いがふたりの鼻をつき、服は葉っぱにまみれていった。でももう、勝負はついていた。
「お姉ちゃん、懲りないね。ナギは嘘つきだって、よく知ってるくせに」
薄笑いを浮かべた唇の両端から、ナギは尖った牙を再びむき出した。
「でもそういうおばかさんなところ、あたし好きかも。いっぱい走っちゃったけど、おトイレよりはお外のほうがまだいいよね?」
「殺さないで。殺さないで」
まゆみは必死にかぶりを振った。ナギは父親がむざんにつけた首すじの咬み痕を見つめて、さも気の毒そうにいった。
「かわいそう。父ちゃんにやられたんだね。やだったでしょう?ナギは女の子だから、お肌が荒れないようにもっとやさしく咬んであげる」
まゆみはちいさく、かぶりを振った。
同情といたわりに満ちた声色を裏切って、迫ってくる牙は父親のそれと変わらない鋭さをもっていた。
ナギは嬉しそうにニッとほほ笑んだ。
そして、あきらめのわるいライバルがなにか言おうとするのをまるきり無視して、
ニッと笑った可愛い口許から尖った牙をさらけ出し、父ちゃんが咬んだのとは反対側の首すじに、牙を突き立てた。

くいっ・・・くいっ・・・くいっ・・・
猛禽類が獲物を漁る獰猛さで、ナギはまゆみのうなじをくわえたまま、喉を鳴らした。
そのあいだずっと、まゆみはキュッと目を瞑り、歯を食いしばってナギの吸血に耐えた。
濃紺のセーラー服のあちこちに葉っぱをつけて、片方は乾きかけた血のりのはねたハイソックスの脚を立て膝して踏んばりながら。
自分のなかに脈打つ血潮を一滴でも多く体内に留めようと、まゆみはのしかかってくるナギの身体と隔たりをつくろうとし、
やめて、よして、と、声で制止しようとし、
かぶりを振って拒絶の意思をあらわにし、
それらがすべて無視されると、ただひたすら身をかたくこわばらせて、ひと口でもよけいに血を抜き取られまいと身体をこわばらせながら願いつづけた。
けれどもまゆみの首すじに吸いつけられた唇はたゆみなくうごめきつづけ、ナギはものもいわずに食べ盛りの食欲を見せつけつづけた。
ナギがようやく牙を引き抜いたとき、まゆみの身体からはもう、力が抜けきってしまっていた。
ナギは口許を毒々しいくらい真っ赤に濡れ光らせて、相手に力の差を見せつけるように、引き抜いた牙からわざと吸いとった血をぼとぼととまゆみの胸許にほとばせた。

「アハハハハハッ」
あっけらかんとした笑い声をたてたのは、まゆみのほうだった。ナギもまゆみに声を合わせて笑った。
「ちょっとー。ひどーいっ!」
さっきまでとはまるで別人のように、能天気な声色をしていた。もう、すっかり毒がまわってしまったらしい。
教室でこの子の父ちゃんに咬まれつづけたあたりから自覚し始めていた妖しい歓びが、まゆみの理性をすっかりかき消してしまっていた。
まゆみは胸許に締めていた白のタイをほどいて、それが派手なまだらに赤黒く染まったのをナギに見せて口を尖らせた。
それまでみたいな差し迫った敵意は、すでに消えていた。
うなじの傷口にべろを這わせてくるのをされるがままに受け入れると、
「ナギちゃんにもハイソックス破らせてあげるね」
といった。
まゆみのハイソックスは、ナギの父ちゃんの乱暴狼藉やその後の逃走劇で、どちらも脛の半ばや足首までたるんでずり落ちていた。神妙にお座りしながらも露骨に舌なめずりをしているナギのために、まゆみは靴下を左右両方ともめいっぱい引っ張りあげた。
「これでよし・・・と」
リブがまっすぐになるように、ハイソックスのゴムをひざ小僧のすぐ下のあたりまで念入りに引きあげると、まゆみは得心がいったように、呟いた。せっかく咬ませてあげるんだから、きちんと履いた状態で愉しませてあげよう。
まゆみは、ナギが彼女のふくらはぎに咬みつきやすいように、セーラー服に泥がつくのもかまわずに、その場に腹這いになった。
脚の輪郭に沿ってゆるやかなカーブを描いたリブ編みのハイソックスが、肉づきの良いまゆみの足許をきりっと引き締めている。
「父ちゃんひどいよねぇ」
ナギはまた気の毒そうに、ハイソックスが赤黒く汚れたほうのふくらはぎを見、まゆみの足許にそろそろとかがみこむと、それでもしっかりと、まだ咬まれていないほうの足首を選んで抑えつけた。
あくまで父親の手をつけたほうを避けるナギの態度にまゆみは苦笑しながら、
「きょうのやつ、履き古しなんだよ。前もって言ってくれれば新しいのおろしてきたのに」
といった。
「ふふふ。でも履き古しもなかなか、味があるよね?」
可愛い口許からピンク色の舌がのぞいて、リブ編みのハイソックスの白い生地のうえから、毒蛇のそれのようにちろちろとさまよった。
父親の粗野なあしらいとちがってもの柔らかで丹念で、姉を慕う妹のような甘えを帯びていたが、
却ってそれだけに、しつようないやらしさがこめられていた。
「ナギちゃんもやっぱり、やらしいね?」
お姉ちゃんは顔をあげて足許のナギをかえりみ、ナギはそれに対して「ウフフ」と応じただけだった。
「やっぱり履き古しは履き古しでいいなぁ」
舌で舐めくり回したハイソックスの生地を、よだれでじっとりと濡らしてしまうと、ナギはかなり濃いことを呟いた。まゆみも
「どうぞ、召し上がれ」
と、脚をすらりと伸ばした。まゆみのひざから下を包む白のハイソックスは、ほんりと汗の沁みたリブをツヤツヤさせていた。
「ウフフ。じゃあ遠慮なく、いただきまぁす♪」
ナギはニマッと歯をみせて笑うと、たっぷりと肉のついたふくらはぎに、美味しそうに咬みついていった。
真っ白なナイロン生地に、赤黒い血潮が勢いよく撥ねた。
ふた色の含み笑いがくすぐったそうにからみ合うなか、まゆみの足許に縦に流れるリブ編みに沿ってバラ色のシミがじわじわ拡がっていった。
前の記事
≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 19 かえり道
次の記事
≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 15 まゆみの担任

コメント

コメントの投稿

(N)
(B)
(M)
(U)
(T)
(P)
(C)
管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
http://aoi18.blog37.fc2.com/tb.php/3661-556543f8