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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 19 かえり道

2018年10月27日(Sat) 10:08:05

その日中学校近くのはたけ道で、女学校の制服と赤い子供服のふたり連れが姉妹のように仲良く手をつないで、いっしょに童謡を唄いながら家路をたどる光景がみられた。
はた目には仲のよい姉妹としか見えなかったが、女学校の制服にはあちこち黒っぽいシミのついた穴ぼこがあり、丈長の靴下は左右まちまちの高さにずり落ちて、赤黒いシミをべっとりとにじませていた。
背丈のちいさいほうの子はTシャツに赤黒いものでまだらもようにはねあとを作っていたし、頬や口許にもおなじ色をした液体をべたべたと毒々しく光らせていた。
子供服の少女は集落に顔見知りが多いらしく道行くなん人もが彼女に声をかけた。
「おや、お友だち?」
「そう。新しいお友だち!」
少女が無邪気に笑って嬉しそうに白い歯をみせると、集落のものたちは「よかったねえ」と口々にいった。
年上のほうの少女は、ニコニコとほほ笑むだけで、ほとんどなにもいわなかった。
人々は、年上の少女の顔色のわるさを気づかって、いつ木乃伊(ミイラ)みたいになってぶっ倒れるのかと内心はらはらしたが、
少女は時おり小またになって脚を引きずることはあったものの倒れる気づかいはとうぶんなさそうだった。

「おなかいっぱいになったかな」
「ウン、これでしばらく持ちそう」
「お腹空いたら、いつでも声かけてね」
「ありがと。こんどからそうするね」
「血が足りてても会いに来てね。おうちで仲良くお話ししよ」
「あー、ウン。嬉しいな、それ。ナギはお友だち少ないから・・・お姉ちゃん音楽は好き?
鼓笛隊やってるんだよね?うちに音楽関係の本いっぱいあるんだ。古いのばっかりだけど」
「エッ!?見たい。見たい!」
「じゃ、約束ね」
指きりげんまんをするふたりは、ふつうの女の子に戻っていた。
たんなる食べ物扱いされていないことが、まゆみの胸をあかるくした。
血を吸う以外に用がなくて、ほかのお話しはいっさい耳を貸さないといわれたら、悲しかったから。
けれどもナギは、血が足りてるときでもまゆみといっしょにいたいと言ってくれた。
血が足りてま人間に戻ると、ナギはいい子になるのだ。
ふたりはさっきまでいがみあいながら続けていた鬼ごっこのときの手の内まで、ばらし合いっこまでしていた。
ながい距離をいきせききって走りあった連帯感に似たものだけが、意地を張り合った鬼ごっこのあとに残った。
「きょう中に血をもらえないと死んじゃう、って言ってたけど、あれウソでしょ?」
「ウン、よくわかったね。まゆみお姉ちゃんにしては上出来」
「こら」
「お姉ちゃんは意地っ張りだけど、お涙ちょうだいをしたらちゃんとワナにはまってくれる気がしたんだ。いい手だと思ったんだけど、惜しかったなぁ」
「けどあのときは、かけっこおしまいにしようかとチラッと思った」
「そっか。いいセンはいってたんだね。次回もこの手でだましてみよう」
「だーめ。もうだまされないわよ。でも、吸血鬼と人間が仲良く暮らしてるっていうのもウソなの?」
「はずれ。あれはほんとだよ。さっきの人たちも、あたしにお友だちができたってよろこんでいたでしょ?
あたしや父ちゃんがまだ新米でお友だちが少ないの知ってるからよろこんでくれたんだよ。
あの人たちもたいがい、だれかとお友だちだからね」
「ふーん、そうなんだ」
血の抜けた身体のわりには、全身が火照っているような気がした。
ナギに咬まれたところも、父ちゃんに咬まれたところも。ずきずきしていたけれど、苦痛には感じなかった。
どちらかといえば痛痒い感じで、傷口のひとつひとつに、あの尖った牙が傷口の寸法どおりにぴったりと埋め込まれている感じがした。
それは決して不快で落ち着かない気分のものではなく、素肌にしっくりと食い込んでいるようだった。
まゆみの首すじに食いつく直前に約束したとおり、ナギが女の子らしく気をつかって、素肌に必要以上の傷をつけないよう柔らかな甘咬みをしたのを、まゆみは父ちゃんに咬まれた感触との比較で気づいていた。
彼女の父親の相手をするのは気が進まなかったが、ナギがひもじいと訴えてきたら、こたえてあげたいと思った。
「だまされててもいいや」
大人を相手に平気でずるをするナギのことだからあり得ると思ったけれど、こだわるのはやめようとまゆみは思った。
ナギのおうちに遊びに行くようになったら、やはり自分の家にも招ぶべきだろうか。
ナギがひもじくなったらお紅茶やお菓子の代わりにあたしが首すじを咬ませてあげるのはいいとして、母にも事情を話しておいたほうがいいのだろうか?
万一のときには母にも血を分けてもらえるように・・・
「お姉ちゃんはまだそこまで考えてくれなくていいよ」
ナギは謎めいた微笑を返して話題をかえた。
「あ、もうじきお姉ちゃん家(ち)だ。あたしはここでさよならね」
みると、まゆみの家のすぐ前に着いていた。


ナギちゃん・・・?
ふとわれに返ったまゆみは脚を止め、辺りを見回した。
さっきまですぐ隣で腕を触れ合わせていたナギは、もう影も形もなく姿を消していた。
周囲を静寂が支配するのが、シンシンと胸に響いた。
陽ははやくも傾いて、街並みに翳りを投げはじめていた。
いったいナギとはなん時間、刻をともにしたのだろう?
担任の春田教諭に呼ばれてクラスの教室を離れたのは、一時間目の授業が始まる前だった。
まゆみは黄色く翳る風景のなか、とぼとぼとした足取りで家路をたどった。
血なし鬼の父娘にしたたかに血を抜かれたあとのけだるさが、身体を重くしていた。
われに返ることで、失血によるダメージがのしかかってきた。
「あらっ、月田さんとこのお嬢さん。どうなさったの?大丈夫?」
声をかけてきたのは、顔見知りの近所の小母さんだった。毎日登下校のとき顔を合わせる、父さんの会社の人の奥さんだった。
お互い下の名前もろくに知らない同士だから、まさか血なし鬼の女の子と仲良くなって生き血を吸われて来たんですとは言えなかった。
あっ、大丈夫ですから。ちょっと貧血ぽいので早退けしてきたんです・・・といって、そのままやり過ごそうとしたのだが、
小母さんはまゆみの手を握らんばかりにして、
「顔色よくないよ、ちょっとうちに寄っていかない?」
と、やけにしつこく引き留めようとする。すぐそこが家なのに、なかなか放してくれそうにない。
いつにないしつこさにむしょうにいらいらしてきて、
「家で休みますからいいです!」
とピシャリと言い返して振り切ってしまった。
背後から、せっかくひとが親切に・・・というブツブツ声がしたが、聞こえないふりをして家の門をくぐった。
「ただいまぁ」
薄暗い玄関から母さんのいるはずの居間に向かって声を投げた。
われながら、うつろな声をしていた。奥から反応はなかった。
だらしなくずり落ちかけて赤黒い飛沫の散ったハイソックスのつま先を板の間に降ろしたとき、居間のほうから
「・・・ァ」
と、声が洩れてきた。
母さんの声だった。ただならない雰囲気を感じて、「母さん・・・?」といいかけたまゆみは、ハッと息を呑んで立ちすくんだ。
悪夢は終わっていなかった。
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