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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

≪長編≫ 田舎町の吸血父娘、都会からの転入家族を崩壊させる  ~月田家の場合~ 22 まゆみ、母親の不倫をやり過ごす

2018年10月28日(Sun) 23:50:12

まだ、夕暮れ刻ではないのかもしれない。
けれども、まゆみの周囲はすべてが黄色い翳に彩られていた。
刻が止まってしまったような時間が、ほとんど音もたてずに流れた。
いつも窓の外から聞こえてくる車が通りすぎる音や、干した布団を叩く音、通りでおいかけっこをする子供の声やピアノの練習のつたない音色・・・そうした日常がかもし出す雑然とした音たちは、まゆみの鼓膜には届かなかった。
いや、音といえば唯一、階下のふたりの声や、たてる物音だけは、筒抜けに伝わってきた。
それはいやというほど露骨に、すべてが未経験の少女の鼓膜に、残酷に流れ込んだ。
なんとなくいやらしさを感じた血を吸われるという行為が、いやらしいことそのものと直結していることを、まゆみは知った。

「生娘は犯しちゃなんねえ」
とナギの父親はいったが、いま階段の下では、あの旧校舎の教室でまゆみがされた以上のことを母がされていた。
まゆみはなんとなく、母さんが身代わりになって犯されているような気がした。
けれどもそれは娘を庇って恥辱を受ける、というような自己犠牲的な気高さのある行為ではなく、もっと後ろめたい、大人だけが踏み入れるどろどろとした劣情をはらんだものだった。
そこからはまゆみが予期し耳をそむけたくなる類いの、抗いの叫びやすすり泣きは、洩れてこなかった。
終始一貫して、熱っぽい喘ぎと呻き声だけだった。
それは感情の昂りやなにかがひと区切りしたような静まりをときに交えながら、いつ果てるともなくつづいていった。
こうすることが、きょうが初めてではない。そんななれあいのような雰囲気も感じた。きのうきょうの関係ではないような。

「おっ母ちゃんのおっぱいよりでけえな」
教室でまゆみを追い詰めたとき、いま階下で母を犯している男は、そういった。
「エッチ!すけべ!あんたの母さんといい勝負!」
まだ敵対関係だったとき、彼の娘もそういった。
なぁんだ、そういうことだったのか。知らなかったのは、あたしだけ。近所の小母さんだって知ってる。
だから家に入ろうとするあたしを引き留めようとしたんだ。
女はみんな、秘密を守る。
はからずも覗き込んでしまった大人の世界を、まゆみは自分でもびっくりするくらい冷静に受け止めてしまった。
「母さん、どうすんのかな?父さんに何て言い訳するんだろ」
まゆみはふくらはぎに貼りついているハイソックスの生地をつまみ上げ、ピンとはじいた。
乾いた血のりでごわごわとしてきたリブ編みのナイロン生地は、まだ弾力性を残していて、まゆみの指先を離れるとピチッと小気味のよい音をたてて皮膚を打った。
咬み痕にはふたつずつ、綺麗に並んだ穴ぼこが空いていた。穴ぼこの周りには、乾きかけた血のりが大小ふぞろいな赤黒いシミとなって、こびりついていた。
まゆみはハイソックスを履いたまま、穴ぼこの数を「ひとつ・・・ふたつ・・・」数えてみた。
父親に咬まれたほうは三ヶ所、ナギに咬ませてあげたほうには五ヶ所も、穴ぼこがあった。
咬みつきかたに手ごころを加えながらも、ナギが父ちゃんを意識して実はよけいに咬んでいるのを確かめると、まゆみは愉快そうに苦笑いした。
階下で母親が服を着崩れさせながら情事に耽っていることなんか、なんでもない普段の出来事のような気がしてきた。
母の情事がつづくあいだ、洩れてくる喘ぎ声を横っ面でうけ流しながら、まゆみは血の着いたハイソックスを降ろしたり引き伸ばしたりしていた。

男が立ち去ったあとも、母と娘のあいだには気まずい雰囲気が漂い、母親は帰宅してきた娘におかえりをいうこともなく、台所に立っていった。
むしょうにだれかと話したかった。
まゆみは足音を忍ばせて階段を降りると、階段のすぐ下にある電話の受話器をとった。指先がたどった電話番号は、ナギの家のものだった。


「はい。蛭川ですけど」
ナギの他人行儀な声が、冷ややかに流れてきた。
台所では水仕事が始まったらしく、かえって受話器の向こうの声のほうが聞こえにくいくらいだった。
「ナギちゃん?いまお話しできる?」
電話に出た第一声でナギのみせた獣の警戒心に改めてたじろぎを覚たが、受話器の向こうからは「あっ」という呟きがして、声の主はにわかに語調を和らげた。
「うん、ヘイキだよ。父ちゃんまだかえってこないし。そうそう、さっきはどうも」
「イイエ、どういたしまして。うふふ」
変なあいさつだったが、すらすらとしたやり取りだった。
さっき自分の血を吸い取った唇が、受話器の向こうで言葉を紡いでいる。
「父ちゃん帰ってきたら、悪いけど切るね。長電話大嫌いなんだ、あのひと」
「男はみんなそうだね。ナギの父ちゃん、も少ししたら帰ってくると思うよ」
「どうしてわかるの」
「・・・さっきまでうちにいたんだもん」
「やっぱりねぇ・・・そんなに長居したんだ。お姉ちゃんもやられちゃった?」
「ううん、あたしは大丈夫。目があったけど二階に逃げちゃった」
「お姉ちゃん甘いね。その気になったらあの人、どこまでも追いかけてくるよ」
「そっか」
さっきナギの物凄いねばりを見せつけられたばかりなので、まゆみはすぐに納得した。
「ほんとはね。あたしがまゆみちゃんに追いつけなかったら、父ちゃんがも一度あなたを襲う手はずになっていたんだ。
だからお姉ちゃん家(ち)に先まわりしてたの。あたしもあとから合流して、父娘で血を飲んじゃおうって」
「あっ、ヒドイ」
「あたしにつかまえられて、よかったね。父ちゃんはきっと、まゆみちゃんの靴下に両方とも血がついてるの見て、
あたしが成功したってわかったから、お姉ちゃんのこと放っておいたんだと思うよ」
「もしかして処女だったからってこともありだったりして?」
「あっ、お姉ちゃんするどい!そう、この村で処女の子勝手に犯したら村八分だからね。それにきっと、父ちゃんはあなたのおっ母ちゃんに夢中なんだよ」
「ナギちゃんも知ってたんだね。あたしショックだったー・・・」
語れる相手を見いだして、まゆみの頬に初めて涙が伝った。
「まゆみちゃん、悲しい?」
ナギの声はむしろ、不思議そうだった。
「感覚がちがうんだね。都会の人は。うちの父ちゃんとまゆみちゃんの母さんが仲良くなるの、あたしは嬉しいけどな。
お姉ちゃんとの関係が強くなるから」
思ってもみない発想だった。
それはそれで一理ある。まゆみは素直にそう思った。
でも、すぐに同調することは都会育ちのまゆみには難しいことのような気がした。
「うぅん・・・言ってることはわかるような気がするんだけど・・・」
「ついて来れなさそう?」
「うん今はキビシイかも」
「無理しないでいいよ。納得できないなら、いまのまゆみのままでいいから。そういうまゆみも、あたし好きだから」
「うん、ありがとね」
「みんなで仲良くなろ。そう考えると、ちょっと楽になれるよ」
みんなで仲良くなる。女と男が仲良くなるには、血を吸われたり、ハイソックスやストッキングを咬み破らせてあげたり、お布団のうえであんなことされたり・・・そんなことが必要なんだろうか?
「でも、あたしたちはそれでよくっても、父さんがかわいそうかなぁ」
まゆみはしぜんと、父親のことを想っていた。
「まゆみちゃん、優しいんだね。あたしの父ちゃんなんか、自分から友だち連れてきて、母ちゃんの血を吸わせたんだよ」
「えっ」
「あたしは初めて血を吸われるとき、母ちゃんがそのひととやってお手本見せてくれた」
「そんなぁ~」
まゆみは声を忍ばせながら叫んでみせた。あくまで台所からの物音に気を使いながら。
拒否反応よりはくすぐったいような好奇心のほうがまさっているのが自分でもわかった。
「そ。父ちゃんは自分の幼馴染みに、自分の奥さんと娘の血を吸わせたの。そのひとに、奥さんといっしょに住みたいってお願いされても、女房をそこまで気に入ってくれたのかって、とても喜んで聞き入れてあげたの。母ちゃんとはたまに会うけど、いつもは父ちゃんとふたりで暮らしてるの」
「ナギちゃん、寂しくない・・・?」
「みんなで仲良くなるんだから、あたしは平気。・・・でもやっぱり、おうちで独りぼっちのときは、たまに寂しいかな。あたし学校もいかないし。だからお姉ちゃん遊びに来て。だれかに甘えたいときもあるし・・・ただお腹が空いているだけのときもあるけどね」
さいごは冗談ごかしで、笑っていた。
「あっ、父ちゃんかえってきた!」
ナギがあわてた声をした。
「じゃ、切るね。話聞いてくれて、ありがとね」
「あたしも楽しかった。また会おうね」
少女たちは同時に受話器をおいた。話をし終わってまゆみはなにかすっきりした気分になった。
ずっと年下のナギに「まゆみちゃん」とか「まゆみ」とか呼ばれたけど、全然腹がたたなかった。
ナギちゃんは大人だなって、素直に思った。
なんでも自分で考えて生きてるから、きっとそうなんだと思った。
われに返ると、妙にひっそりしている母親が気の毒になってきた。まゆみはサバサバとして、起ちあがった。


「母さん、洗濯機今夜まわす?」
「べつに予定ないけど・・・急ぎの洗濯でもあるの?」
いつもの母さんの調子だった。そう、母さんは、あたしよりうわ手なのだ。まゆみはいった。
「あたし、ナギちゃんっていう女の子に献血することにしたの。初めて咬ませてあげたハイソックス、記念に欲しいっておねだりされたから、早めに洗って今夜乾かして、早ければあした、渡してあげたいの」
びっくりするくらい、すらすらと言えた。突拍子もない話のはずなのに、母さんにはすぐに意味が通じたらしい。
ごく普通のことのように「ああそうなのね」と頷いてくれた。
え?って怪訝そうに顔をしかめることも、いったいどういうことなの?って頭ごなしにとがめだてすることもなかった。
「でも母さん、今はちょっと手がはなせないな。よかったらまゆちゃん、洗濯やってくれない?ついでにほかの洗濯物もいっしょにお願いしちゃってもいいかしら?いま洗濯機のなかに入っているやつだけでいいから」
あくまで娘に家事を手伝わせようとする、いかにも専業主婦らしいいつもの母さんだった。まゆみは気持ちよく
「あっ、いいよ。きょうは宿題ないし。すぐやっちゃうね」
と、てきぱきと動き始めた。母さんはいつもの母さんだったが、まゆみはいつものまゆみと全然違っていた。
洗濯機の前で血のついたハイソックスを引っ張り抜くように片足ずつ脱いでいると、困った子ねぇと言いたげな声が追ってきた。
「あなた、宿題がどうのって・・・」
「アッ!いけないっ!」
担任に呼び出されてクラスの教室を出るとき、荷物を鞄ごと置いてきたのをすっかり忘れていた。
「まゆちゃんが帰るまえ、蛭川さんって仰るかたがみえて、学校から預かって来ましたって届けてくだすったのよ」
「よかったー!あした学校行けないとこだったー!」
もろ手をあげて喜んでみせたまゆみだったが、制服にあけられた穴ぼこのことを思い出し、ひやりとした。
ところが母さんの話は終わっていなかった。
「その蛭川さんなんだけど、まゆちゃんにって新しい制服をお持ちになったの。お礼だって本人にお伝えいただければわかりますからって仰るだけで、よくわからないままお預かりしたんだけどあなた心当たりある?」
話して差し障りのない話はなんでもしてしまおうと、まゆみは腹を決めた。そう。女はみんな、秘密を守るのだ。
「ナギちゃんってね、苗字は蛭川さんっていうの。来たのはお父さんじゃないかな?草色の作業衣着てなかった?」
「ああ、そうそう。だから学校の人にしては変だなって母さん思ったのよ。献血のお礼だったんだね」
「きょうの制服もクリーニング出すから。記念にナギちゃんにあげるの。穴ぼこ空いちゃって、もう着れないから」
「だったらおあいこだね。お礼返しに値のはるものをっていうことになったら、困っちゃうとこだった」
まゆちゃんが帰るまえ・・・か。
まゆみは心のなかで呟いた。
そうね。あたしが帰ってきたときには、そんな男の人はいなかった。
母さんがそういうことにしたいのならば、そういうことにしておこう。
それと、蛭川家にこれ以上、値のはるものを贈る必要はないわ。大丈夫。母さんは困ることないはずよ。すごく値のはるものをさっき惜しげもなく、いっぱいあげてたじゃない。
けれども、それらは口にすることではなかった。話して差し障りのあることだったから。
「まゆちゃん、新しい制服サイズが合うかどうか着てみて頂戴。スカート短すぎたら直してあげるから」
声をあげる母さんに、いつもは面倒くさがるまゆみだったが、今夜に限っては「はーい、すぐにね」と良い子のお返事をかえしていた。


「な~にやってるんだ?さっきから」
父ちゃんは苦虫をかみつぶしたようなしかめ面を作って、娘に声を投げた。
そういうときはたいがい、実は機嫌が良いときの照れ隠しなんだと、ナギはよく知っている。
あれだけ若い女の血を吸ったあとだもの。勝手なこと言ったらひっぱたいてやる・・・なんて生意気なことを思いながら、ナギは鏡に向かって手を休めずにこたえた。
「んー、ばんそうこう貼ってるの」
「なににぶつけた?」
「モップ」
「モップぅ?」
頓狂な声をする父ちゃんに、ナギはさらに手を休めずにいった。
「まゆみちゃんに投げられた」
「はっ!おお捕物なこったな」
父ちゃんはこばかにしたように言葉を投げた。娘に対してまゆみの演じた激しい抵抗を想像して、父ちゃんはにやにやと笑った。
「なにさ、いけすかない・・・あとで聞いたよ。月田の小母さん犯してきたんだって?」
ガキのくせに、澄ました顔してやけに生々しいことをいう。
「耳が速ぇな」
忌々しそうにそっぽを向く父ちゃんに、ナギはこともなげにいった。
「まゆみちゃんからきいた」
「仲のええこった」
「ウン、仲良くなった」
「うそこけぇ」
「だいぶしつこかったらしいね」
「だれから訊いた」
「それもまゆみちゃんからきいた」
「あの娘(あま)っ子もすみに置けねぇな。聞き耳立ててたんか」
「おうちの中だもん。耳ふさいだって聞こえるよ。閉口してたよ、まゆみちゃん」
「ふたりして何をよからぬ話をしてるだか」
父ちゃんはぶつぶつ言った。
「とうちゃ~ん。まゆみちゃんがいるときには止しにしときなよ。都会の人はそういうのって気にするみたいだから。たぶんあの父娘、きょう自分たちに起きたこと、半分も喋ってないと思うよ。少なくとも小父さんは、カヤの外だろうねぇ」
ナギはしわしわの婆さまみたいな口調で、親切な小父さんのことを思いやった。
お仕事に出てる最中に、妻も娘も食い物にされちゃった、かわいそうな小父さんのことを。


行ってきまーーすっ!
通学鞄を手にしたまゆみは、あいさつもそこそこに、ばたばたと登校していった。
月田は娘の姿が消えたあとも、まだ玄関先に視線を残していた。
廊下を飛び越えるようにおお股で跨いでいった白のハイソックスの両脚が、妙に目に灼きついていた。
娘の着ていたセーラー服も、気のせいか真新しくなったように、彼の目には映った。
「まゆみのやつ、こっち来てから元気になったな」
「そうか知ら」
妻はのんびりと、洗濯ものを干している。きょうはいつものトックリセーターにパンツルックだった。
「東京にいたときは不登校だったものな。こっちで仲良しでもできたのかな」
「さぁ~、どうか知ら。あの子学校のことはあんまり話さないですからねぇ」
「おいおい、頼むよ。父親にはもっと話さないんだから。お前がしっかり訊いといてくれないと」
夫は口を尖らせたが、柔らかな口調は変わらなかった。
「はい、はい」
月田夫人も軽々と夫をうけ流し、洗濯物をいっぱいぶら提げて庭に出ようとした。
「ばっかねぇ、あの子ったら。夕べのうちに干しとけば、きょう渡せたのに」
「なんだ?」
なんでもないわぁ・・・といいながら彼女は夫に背を向け、小物のいっぱいぶら提がったトレーをひとつ落っことしたのを取り残して庭に出た。
妻のお尻を視線で追いかけていた月田は、妻の落とし物に目をやった。
娘のものらしい白のハイソックスが、洗濯ばさみに挟まれたまま、たたみの上にとぐろを巻いていた。
ハイソックスにはところどころ穴があいていて、白い生地には洗い落とせなかった紅いシミが残っていた。
「?」
月田の目が釘付けになった。
さいしょはそういう柄なのかと思ったほど、その紅いシミは目だったまだら模様になっていたから。
それがなにを意味するのか、彼にはすぐにわかった。娘の洗濯物をみた母親が、初潮をさとるときのような的確さで。
思わずズキリ!ときた。とうとうまゆみまで・・・そんな想いももちろんよぎった。
さいしょからそのつもりだったとはいえ、娘にだけは説明を一日延ばしにして、人事の担当者に「どのお宅でも、お子さんには直接仰らないみたいですねぇ」などといわれたのをいいことに、とうとう何も言わずに済ませていたという心のとがめもあった。
そのくせ、娘がきちんと状況に順応して母親と示しあわせるまでになっていることに安堵もし、半面自分だけがつんぼ桟敷におかれたという身勝手な悲哀も淡くではあるが感じていた。
証拠物件を目の当たりにして、(ずいぶんはでにやったなぁ)と内心思ったもののそんなことはおくびにも出さず、「母さん落としたよ」と夫はあくまでおだやかな声をあげただけだった。
「まゆちゃんねー、献血するようになったんですって」
母さんは手仕事の手も休めずに世間話をするみたいな調子でそういうと、さりげなく父さんの顔色を窺った。
娘がなにか一人前のことをしてきた、といいたげな口ぶりだった。
「ふーん」
父さんは一見気のなさそうな返事をして、「さてそろそろ行くか」と、起ちあがって伸びをした。
なにかを紛らすような感じに、妻の目には映った。父さんは大きく伸びをすると思い出したように訊いた。
「母さんだれか紹介したの?」
(やっぱり気になるんだ)彼女は多少の安堵と少しばかりの危惧を感じながら、
「あらっ?あなたが紹介したんじゃなくって?」
といった。父さんがちょっとあわてたのが、背中ごしに伝わってきた。
「えっ、私が?」
「蛭川さんですよ」
向き直った妻のまともな視線を浴びて、父さんは気の毒なほどおろおろした。こんどは母さんがあわてた。夫が誤解したのにすぐに気がついたからだ。
「あー、ごめんなさい。ひと言足りなかったわね。ナギちゃんっていう娘さんのほう。会社でよく会ってるはずだってあの子が言ってたわ」
「アッ、あの子か!そういえば私のとこにはきのう、来なかったな。週末会社休んだしお腹すかしてるかな?って覚悟してたんだけどね」
フフフ・・・度のつよい眼鏡の奥で父さんの目が優しく笑うのを、母さんはおっとりと見つめた。
いつの間にか地元の風習にお互いがどれほどなじんだか、かなり大っぴらな会話を交わすことができるようになっていることに、夫婦のどちらもが気づいていた。
吸血鬼相手に家族のめいめいが相手を選んで血をひさぐようになり、妻は夫や娘の間近で娼婦のように振る舞い、夫はすすんで妻にそうするように仕向け、自ら招いた結果がもたらした昂りが夫婦の営みを復活させる。
互いにあらわにしない部分を秘めあいながらの平穏な日常・・・こういう関係もありなのか。安堵と悲哀、嫉妬や昂り・・・いろんな感情がいっしょくたにわきあがってくるのを吹っ切るようにして「母さん行くよ」といっていつものように出勤していった。
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