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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

どちらを、選ぶ・・・?

2006年07月15日(Sat) 11:17:01

目ざめると、あたりはいちめんの闇だった。
手足にまとわりついたざわざわとした濡れて重たいものは、泥なのだろう。
思ったとおりの状態だった。
身体は意外なくらい、生きているころと変わりがない。
そう。人ではない身体となってしまったというのに。
霜田は起き上がると、暗がりを通してあたりを見分けようとした。
ばさっ。
頭のうえから、毛布が落ちてきた。
「生還、おめでとう」
悪戯っぽくほほ笑む、翳のある口許。
「マサ・・・」
霜田は嬉しげに、相手の名前を口にする。
ごく近しい友であった男。
そして、彼の血を、一滴あまさず吸い取っていった男。

喉が渇いている。
いいようもないほどに。
渇きを癒す方法は、ただひとつ。
村は、屍鬼が支配しようとしている。
どのみち誰かに啖われるのなら。
こいつがいい。
初めて訪いをつげたマサに、霜田はためらいなく、己の首すじを差し出していた。
どうしてそう感じたのか。
目に見えないところで、より近しくつながっていた彼だった。

見詰め合う眼が、おなじことを伝え合っている。
癒す相手を、どこに求めるのか。
マサは独り暮らしだった。
足はひとりでに、霜田が生前暮らしていた家に向かっている。

夜更けだというのに。
灯りがついている。
自分以外の男の存在を心に描いて、霜田はちょっと胸を翳らせたが。
その翳りが微かな色つやを帯びていることにまで、気が回らなかった。
きっとそれだけ、餓えていたのだろう。
窓の灯りに、女の影が照らし出されている。
女は腰つきのキュッと締まったプロポーションを誇示するように、
いちだんと胸をそらして。
鏡にでも向かっているのか、長い髪を後ろで結わえているようすだった。
身体の線をしなやかに映す、丈の長いワンピース。
あれは、妻だ。
霜田はひそかに呟いた。
彼の呟きを横目にして。
マサは催促するように、友人のわき腹をつついていた。
  どちらを、選ぶ・・・?あんたに任せる。
そう囁いて。
どちらが?どちらを?何をするのだと?
自問しかけ、ふり向こうとすると。
強い猿臂が彼の身体をもう一歩、家のほうへと押しやった。
なにかに操られたように。
足がひとりでに、前に進んでゆく。
あれは妻だ。妻の美佐代だ。
いまいちど、愛妻を抱きしめようと。
男は渇望に迷わず身を任せていた。

がさり、と外で音がした。
だれ・・・?
佳世はビクッとして、ふり向いた。
血を吸われて喪われた人が、家族の血を求めて夜、訪れる・・・という。
同級生のサヤちゃんも。
お隣の美沙おばさまも。
そうやって、パパやご主人の牙にかかったという。
むしろ、自分からすすんで。嬉々として・・・。
パパ。
懐かしい姿を目にした佳世は、
黒のストッキングに包まれたつま先を、一歩前に踏み出した。
父がいなくなってから。
喪服代わりの黒のワンピースに合わせて履いていた黒のストッキングが、
電灯に照らされてツヤツヤと輝いている。

なまめかしく彩られた、まな娘の脚。
それを霜田は違った目線で視ている。
妻の美佐代がやって来る。
そう見えたのだ。
かすかに揺れるワンピースの裾が、大人びた歩みを見せていた。
いったん女をやり過ごし、真後ろに立ちはだかって。
ちょっと、ためらって。
すぐにためらいを消して。
ぐぐ・・・っ。
はがいじめに、抱きすくめてしまっていた。
きゃ・・・
短い悲鳴はすぐに止んでいる。

女の悲鳴が消えると、マサは素早く庭を横切って、階上のベランダへと飛びあがった。
豹のように、敏捷な身のこなしだった。
霜田を襲った時とおなじ手口だったので。
この家の勝手は、よくわかっている。
ガラス窓に吸い込まれるように。
スウッ・・・と、通り抜けていた。
闇のなか。
若い女のぬくもりに似た芳香が、むっと漂っている。
こちらは娘の部屋だったはずだ。
娘に関心はなかった。
ずっと恋していた女(ひと)をもとめて。
マサはドアをあけ、薄明かりの点る廊下にさまよい出た。
すこし開いたドアの向こうから、薄日のような灯りが洩れている。

あ・・・あ・・・
押し殺した呻き声をあげつづける女を組み敷いて、
霜田は夢中になって喉に喰らいついて。
血を啜りはじめた。
若い。
妻はこんなに若い血を持っていたのか?
恐怖に震える華奢な肩を抱きすくめると。
女は相手が誰だか察したらしい。
ありがたいことに。
もうそれ以上の抗いを止めて。
体の力を抜いていた。
ちゅう・・・ちゅうう・・・
飢えた唇をあてがって。
素肌を賞ではじめたとき。
・・・?
父親の手が止まっていた。

女は夜の来訪を、とっくに予期していたようだった。
「おいでなさいませ」
落ち着き払った声でそういうと。
正座を崩して、侵入者に三つ指を突いている。
纏われているのは娘とおなじ、黒のワンピース。
「主人も、来ているのですか?」
「ええ・・・貴女を狙っておいでのご様子でしたが」
「誰でも、娘に手をかけるのはためらうでしょうから・・・」
ええ・・・そうですね。
たくまずしてひとつになった心が、部屋の空気を揺らがせた。
揺らいだ空気に身を任せるように。
「では、どうぞ。妾(わたし)も先に望みのない身ですから」
丈の長いワンピースの裾から控えめに、
薄墨色のナイロンに包まれたつま先を覗かせた。
  ずっと、貴女が好きでした。
謝罪するように呟く男に、赦しの視線が注がれている。

いいのよ、いいの・・・
どうせなら、パパにそうしてもらいたかったから。
娘になだめられるようにして。
男は、貴いものを押し戴くようにして。
娘のうなじを。胸を。足首を。
すみずみまで、賞ではじめている。
壁一枚隔てて聞えるのは、
マサが隣室の主の血を啜る音。
かすかな物音のなかに。
妻の落ち着いた物腰さえ、ありありと伝わってくる。
えっちね。パパも。
佳世はくすり、と笑いながら。
黒のストッキングごしに唇を這わせてくる父に応じてやっていた。
隣りでは。
やはり、ストッキングを破られた女が、
常夜の夢を結んでいた。
おおいかぶさる影になって。
十年越しの恋をようやく実らせることのできた幸福な男が、
憧れの君のすべやかなうなじに、飢えた唇を慕い寄らせている。
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