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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

洋館の淫らな夜 ~キースの場合~ 3

2018年12月09日(Sun) 08:26:27

君たち、初めてじゃないな?
慧眼な兄はひと目で見抜いた。
ええそうよ。
リディアはあっさりと、火遊びを認めた。
良家の令嬢にはふさわしくない習慣が、日常化していた。
どれくらい逢っているの?
かすかな嫉妬にかられてキースは訊いた。
週に二回・・・かな?
リディアは恋人を振り返った。
恋人にセックスの頻度を確認するような顔つきだった。
いつかどこかでこんなやり取りを見聞きしたような気がしたが、いつのことだったかすぐに思い出せなかった。

じゃあ、さっきの鬼ごっこもお芝居?
キースは、新婚初夜の花嫁が処女ではなかったことを知った花婿のように興ざめた顔をして、いった。
「ええそうよ、だからお兄様のためにふたりで話し合って、さいしょのときのようすを再現したの」
「じっさいにはもぅすこし、痛がってたけどね」
茶々を入れる吸血鬼に令嬢は、忠実な再現よ、と、訂正した。
「お兄様については大丈夫。
ドキドキの初体験しっかり拝見したわ。
ほんとうはあたしとのほうがおつきあいが先で、
彼がお兄様の血を欲しがったから、お兄様のこと書き置きでおびき出したの」
なんのことはない、かれが兄としてあれほど迷ったことを、妹は兄にたいして、なんの罪悪感もためらいもなく実行に移していたのだ。
不思議と腹は立たなかった。
なによりも、吸血される愉しみをリディアと共有していることに、キースは昂奮を覚えた。
「あたしの血だけじゃ足りないから、兄さんを襲ってってお願いしたの。いけなかった?」
リディアの諧虐味を帯びた言いぐさが、キースの被虐心をくすぐった。
「ぼくに関しては、なんの問題もなかったよ」
キースはくすぐったそうに自分の首すじを撫でた。
ちょうど妹が、同じ部位をどす黒く滲ませていた。
「おそろいだね」
キースは言いながら、自分の咬み痕に親指と人差し指をあてがってふたつ並んだ牙の間隔を測ると、それをそのままリディアの首すじにあてがってみせた。
ふたつの咬み痕は、ぴったり同じ間隔だった。
ばかね。
わざわざ寸法を測ろうとする兄を、妹は笑った。

きみのストッキングはわしときみとでさんざん愉しんだけど、妹さんのタイツは3人で愉しめるね。
ベンチに腰かけたリディアはきゃっきゃっとはしゃぎながら、ロングスカートのすそをおひざの上で抑えたまま、もう片方の脚もためらいなく差し伸べていき、
吸血鬼は黒革のストラップシューズを履いた令嬢の足首を抑えつけながら、すらりとしたふくらはぎから黒のタイツをびりびりと噛み剥いでいった。
キースはキースで、お手本に咬ませたストッキングに赤黒いシミを滲ませているのを臆面もなく外気に曝しながら、
真新しいタイツが噛み剥がれてだらしなくずり下ろされてゆくのをウキウキと見守って、さいごには自分の手でガーターもろとも足首まで引き降ろしてしまい、妹に黄色い叫びをあげさせていた。

遠くから声がした。それは若い女の声であたりをはばかる声色をしていた。声の主は黒のドレスに白いエプロンを着けていた。兄妹の家のメイドのお仕着せだった。
「ジュリア!どうしたの!?」
女主人はわれにかえって令嬢の威厳を取り戻した。あまりの豹変ぶりに兄が肩をそびやかした。
「奥さまが急にお戻りです、リディアさま」
ジュリアは狼狽を隠さなかった。


屋敷に戻ったときにはもう、屋内はほとんど真っ暗になっていた。
兄妹の母であるダイアナは、夫君の留守中をいいことに、恋人のリデル氏を自邸に連れ帰ってのご帰館だった。
逢引き先のアパルトマンから電話で侍女のジュリアをたたき起こすと、前もって家の様子を聞き出して、
兄妹が寝入っていることを聞き出すと、きみの家の夫婦のベッドできみを辱めたい――というリデル氏の願望をかなえるため、急きょ戻って来たのだった。
ただジュリアは、「マデリーンも寝ているの?」と問う女主人の問いに、この末娘の行状だけはかばい切れなかった。
ダイアナは自分の血を最もよく引いている娘の行動に疑問を持たなかった。
そして、自分の留守をいいことにマデリーンがマイケルと出かけていることを次女の態度から察すると、フンと鼻を鳴らして軽く受け流したのだった。
もっともマイケルが夜遊びに出かけたという情報は、マイケルの父でもあるリデル氏から、とっくの昔に筒抜けだったのだが。

シャワーの音を立てるわけにはいかないので、ふたりはそのままそれぞれの自室で寝むことにした。
肌に染みついた血潮は、吸血鬼が余さず舐め取ってくれたから、気にする必要はなかった。
兄妹の陰部にまで舌を這わせる吸血鬼に、さすがに初心なふたりは顔を赤らめたけれど。
年ごろになってからは初めて目にするお互いの陰部に這う舌を、そして陰部そのものを、目をそらさずに見つけ合った。
キースのそれは、妹の視線を受けて、昂ぶりにそそり立っていた。
それを目にして思わず「おっきぃ…」と洩らした妹のまえ、彼の昂ぶりはさらに勁(つよ)さを増していた。

ふたりは、母とリデル氏のなれの果てから、興味をそらすことができなかった。
肉親に対する関心と、男として女としての関心とが、半々だった。
初めて邸内に足を踏み入れた吸血鬼は、兄妹と侍女とをいざなって、屋敷のあるじのベッドルームのなかを、顔を並べて覗き込んだ。

すごい…
そういいかけてあわてて声を潜めたリディアの口許を、吸血鬼は手早く掌で制した。
キースも、息をのむ思いだった。
それほどに、ふだんあれほど見栄っ張りで子供たちにはむやみと行儀作法に厳しいダイアナの乱れかたは、日常を逸していた。
出かけていったドレス姿のまま、彼女はベッドのうえで抱かれていた。
せわしなく首すじに接吻する情夫の熱情を、かぶりを振って遮ろうとして果たせずにしまったのも、明らかに計算のうちだった。
熱っぽく交わされる唇と唇の激しさが、ふたりのあいだに芽ばえたものがきのうきょうのものではないことを告げていた。
我が物顔にダイアナの腰のくびれを掻き抱く腕は逞しく、痩せ身で神経質な父とは似ても似つかなかった。
面と向かっても、パパはかないっこないわね…リディアは冷酷に断定した。
キースは、腰までたくし上げられたドレスの裾から覗く脚に、目をくぎ付けにさせていた。
脱げかかったストッキングがしわくちゃになりながら、かすかな灯を受けて光沢を滲ませているのに、目が離せなかった。
貴婦人が堕落したように見えるわね――と、リディアは兄の想いを代弁した。
傍らに控えていた吸血鬼はキースの肩を抱き、唇を重ねた。
彼はキースのなかに芽ばえかけた母親に対する憎悪を感じていた。
それを他へと逸らすための口づけだった。
キースは重ねられた唇に、ようやくわれを取り戻した。
同性の接吻でわれにかえる自分をどうかとも思ったが、なによりも、恋人がそばにいるという心強さがすべてを救った。
彼の胸の奥から父親を裏切って不倫に興じる母親への憎悪は消えて、不道徳に歓びを見出すもの同士の共感へと塗り替わった。
「あたしもストッキング、穿いてみようかな」
兄の気持ちを見透かすように、リディアが囁きかけた。

気がつくと、すぐ傍らで吸血鬼が、侍女のジュリアにのしかかっていた。
「たまらなくなってきた」という呟きは聞こえていたが、母親の濡れ場に夢中だった兄妹はもう、上の空だった。
首すじに血を吸っているとばかり気配で感じていたけれど――吸血鬼はジュリアの首すじを吸っていただけではなかった。
メイドの黒のドレスの裾をたくし上げられて、リディアはすすり泣きながら、犯されていった。
身近で目の当たりにする処女喪失に、キースはさらなる昂ぶりを感じた。
黒タイツの脚をすくめながら、ジュリアは身体をガチガチに固くしながら、太ももを開かれ、挿入を受け入れてゆく。
やがて男の強引な上下動がジュリアの腰に伝わり、熱烈に応じていくのを見つめながら、
血を吸い取られて洗脳された自分が、ジュリアの変節を嗤うわけにはいかないと思った。
リディアは、ジュリアが目のまえで犯されるのを目にして、つぎは自分の番…と観念し、
ひとつ年上の女奴隷が自分よりもひと足早く女になるのを、ウットリとした目で見つめていた。


長い夜が明けた。
兄妹が共犯同士になり、母親の不倫を目にし、忠実なジュリアが処女を喪った夜が。
その日はさすがに兄も妹も、マイケルとのデートから帰ったマデリーンも、白い顔をして家で大人しくしていた。
夜明け前に情夫を送り返したダイアナも、珍しく昼間で寝ていた。
ジュリアだけがかいがいしく、いつもの務めを果たしていた――メイドの装いの裏側に、初めての痛みの名残りの疼きを押し隠しながら。


「やつにママの生き血を吸わせてやりたい!」
激情に声を上ずらせて、キースは吐き捨てるようにいった。
「賛成」
リディアは冷めた声で、証人の宣誓でもするように、片手をあげて兄に応じた。
「パパを裏切ったママは、死刑に値するわ。あのひとに血を吸い尽されて、ヒィヒィ言わされるところを視てみたい」
すこし目的をはき違えていないか?キースはほんのちょっとだけ疑問を感じたが、妹の語気に異議をはさもうとはしなかった。
その晩ふたりは吸血鬼を窓から自邸へと呼び入れて、母親の寝室へと案内した。
首すじから血を流した息子と娘を目にして、ダイアナは不審そうに二人を見比べたが、その背後に黒マントの男の姿をみとめ、初めて悲鳴をあげた。
生で観るドラキュラ映画は、数分間で終わりを告げた。
部屋じゅう逃げ回ったママは、ネグリジェ姿のまま寝室を逃げ回り、つかまえられて、首すじを咬まれてしまったから。
息子や娘と同じように首すじに血をあやした女は、せめて貞操だけは守ろうとした。
夫婦のベッドのうえ、両腕を突っ張って抵抗するダイアナの姿に、
キースは「しらじらしい」と舌打ちをし、リディアは「リデルさんのために守っているのね」と、冷ややかに見つめた。
そして、強引に腰を静めてくる男に、ネグリジェに包まれた肉づき豊かな腰があっさりと応じ始えてしまうのに、
「ジュリアよりぜんぜん早い」と、キースはなおも詰るのだった。
こうして誇り高い名門の令夫人であるはずのダイアナは、自分の夫以外に夫の親友のリデル氏と、吸血鬼までも受け容れて――娼婦に堕ちていった。



「お兄さんも来たの?」
やって来たキースをみて、マイケルは気軽に声をかけてきた。
キースは最初、自分に声をかけて来たのが誰だか、わからなかった。
マイケルは女の子の格好をしていた。
フリルのついた白いブラウスに真っ赤なベスト、腰から下は赤と黒のチェック柄のスカートに、ひざから下はアミアミの真っ赤なハイソックスを履いている。
見覚えのある服だと思ってよく見ると、マデリーンのものだった。
マイケルに女装癖があるのは以前から聞いて知っていたけれど、じっさいに目にするのは初めてだったし、
ましてそれがマデリーンの服だと思うと、妹が侮辱されているような、ちょっと不愉快な気持になった。
「お兄さん」と呼ばれるのも心外で、まだ認めたわけじゃないから、と、奇妙な反撥を感じたのだった。
「お兄さん」と言いながらも、マイケルはキースよりも年上だった。
だから、よけいにからかわれているような気がした。
彼はキースの顔色を察すると、素直に言葉を改めた。
「きみもこんなところに足を運ぶようになったんだね、キース」
おとといの夜、妹を犯していた男――そんな男と口を利くのは潔くない――キースはまだ、そういう子供っぽい潔癖さも持っていた。
同性愛をしながら…だって?でも、彼との関係は、決して不純なものじゃない。
「マデリーンとは本気だよ」
マイケルは真顔でいった。
「そう、それなら良いけど」
キースはやっとのことで、そう応じた。
そして、妹の履いていたアミアミの真っ赤なハイソックスを履いているマイケルの足許を、眩しそうに見つめた。

順番は、マイケルのほうが先だった。
招ばれていたのは全員が十代の青年で、まるで予防接種の順番みたいに、閉ざされたドアの外に行列を作っていた。
「いったい、いつから我が学園は吸血鬼を受け容れるようになったのか」
マイケルが声をひそめて、いった。
「きみが引き込んだんだろう」
「いや、きみだ」
「そんなことはない」
「案外、学院長だったりしてね」
たしかに、学院長の許可なしに教室を使うことはできない。
そして、きょうのこの教室に居座っているのはほかでもないあの吸血鬼だったのだ。
夕べはママを。
おとといはキースやリディア、それにジュリアまでを。
あれほど好き放題にものにしていったというのに、どれだけ喉をカラカラにしているのだろう?
見ず知らずの少年たちを、こんなにも毒牙にかけて。
べつの嫉妬が、キースのなかをかけめぐる。
「よそうよ、きりがないぜ」
マイケルがたしなめた。マデリーンの服を着ているので、まるで下の妹にたしなめられている気分だ。
ほかにも、ふたつ前の少年が、どうやら母親のものらしいよそ行きのスカートスーツを身に着けていて、
学園はいつになく、妖しく華やいだ空気を漂わせていた。
「ぼくね、マデリーンを未来の花嫁として、彼に紹介することにしたんだ」
そう言い残してドアの向こうに消えたマイケルの後ろ姿を、見逃すことはできなかった。
細目に明けたドアの向こう、マデリーンの服を着て抱きすくめられたマイケルが首すじを咬まれてゆくのを目にして、
マデリーンが咬まれているところを想像しないわけにはいかなかった。
そして、いつかここには、リディアの服を着て来ようと、心のなかで思った。



高慢ちきな少女だ、と、キースは思った。
屋敷では、父親の帰国を祝うホームパーティーが開かれていた。
招かれたのはリデル氏のご一家。
母親であるダイアナの愛人であるリデル氏とマチルダ夫人、令息であるマイケルとその妹のキャサリンだった。

その日は、マイケルとマデリーンの婚約パーティーをも兼ねていた。
マイケルがそれを、父親のリデル氏を通して望み、それを支持したダイアナが夫を説得した。
「まだ早すぎる」と最初は渋った父親のジョナサンも、妻には逆らえずに、親友の息子がまな娘を犯すことに同意した。
――もっとも周知のように、実際にはすでに彼のまな娘は、とっくに篭絡されてしまっていたのであるが。
その夜のパーティーでは、マイケルとマデリーンが二人きりで過ごす部屋まで用意されていた。
マイケルが妹のキャサリンを、キースに正式に紹介したのは、その場でのことだった。
「代わりというわけじゃないけれど」
相変わらずデリカシーに欠けたいいかたで、彼は妹を紹介した。
さすがの彼も、きょうは女の子の服装ではない。
彼の女装癖は周知の事実で、必要以上に男らしい父親のしかめ面をかっていたが、彼以外にマイケルのその風変わりな習慣を咎めるものは、この席にはだれもいなかった。
タキシードに身を固めたそのマイケルが紹介した妹のキャサリンこそが、キースが高慢ちきだと感じた相手その人だった。

眩いほどの美少女だった。
二重瞼の大きな瞳に、きっちりと引き結んだ真っ赤な唇。誇り高い金髪に、ぬけるような白い肌。
肩まであらわにしたドレスの胸もとは豊かなふくらみを帯びていて、つい先日までローティーンだったとは思えないほどだった。
「ぼくがきみの妹を犯す代わりに、きみはぼくの妹を姦(や)る。濃い関係だと思うけどどうかな」
マイケルはひそひそ声でそういって、キースの顔色を窺った。
そしてその顔つきに、興味と反感とが半々にあらわれているのを見て取って、義兄となるこの年下の青年が予想通りの反応を示したことに満足した。
「結婚することを犯すっていうのは、やめたほうがいい」
キースはどこまでも潔癖にそういうと、紹介されたキャサリンの掌をとって挨拶の接吻しようとした。
キャサリンは自分の掌を相手の男が丁寧に扱っていないと感じたらしい。
不機嫌そうに顔をしかめ、キースがとった手を振り払った。
仰天するキースに鋭い視線を投げると、キャサリンは兄の腕を取って、「行きましょ」といった。
義姉となるマデリーンをも無視した行動だった。

「おやおや、いけないね。お父さんはお前にそんな行儀作法を教えた覚えはないよ」
父親のリデル氏が、娘をたしなめた。
「そうそう、親同士はこんなにうまくいっているんですからな」
痩身のジョナサン氏もまた、リデル氏に同調した。
彼の首すじに赤い斑点がふたつ滲んでいるのを、その場にいるだれもが目にしていた。
帰国そうそう、彼は夫婦のベッドで組み敷かれ、吸血鬼に咬まれていた。
相手は、息子や娘を冒し、そのうえ妻までもモノにした男だった。
すべてを認める代わりに、吸血鬼はジョナサン氏にすべてを語ってくれた。
妻とリデル氏とが、夫以外誰もが知っている仲になっていること。
今後夫婦で円満にやっていくには、ダイアナとリデル氏の関係を認めて、こころよく受け容れるしかないこと。
家族全員が彼に血を吸われ、妻はリデル氏だけではなく彼の支配も受け容れてしまっていること。
同じく血を吸われた息子とは同性愛の関係を結び、上の娘のリディアも処女の生き血を捧げつづけていること。
短時間の吸血で洗脳されてしまったジョナサン氏は、寛大にもすべてを受け入れた。
そして妻を呼ぶと、夫婦の寝室を潔く明け渡し、ひと晩ふたりの好きなように、愉しみを尽くさせてやった
そして同じように、こんどはリデル氏を呼ぶと、彼にも夫婦の寝室のカギを渡し、ひと晩ふたりの好きなように、愉しみを尽くさせてやった。
どちらの晩も、間男たちはダイアナに対する想いを遂げると、歓びを分かち合いたいと願う夫のジョナサンを寝室に引き入れて、縛られた彼のまえでその妻を愛し抜いていったのだった。

妻の愛人として受け容れたリデル氏に、ジョナサン氏はすべてを打ち明けた。
子ども達の世代で、吸血鬼を受け容れる風潮が生まれている。
息子も娘も、そしてわたしたち夫婦まで、その毒牙にかかってしまった。
わたしの家とかかわると、貴男の家族のなかにも犠牲者が出かねない…と。
リデル氏はいった。
この街に出没する吸血鬼は強欲で好色だが、決して人は殺めないときいている。
だとしたら、家庭内に吸血鬼を受け容れることは、妻に愛人を迎えることとそう変わりはないのではないか?
それに、貴兄の懸念はすでに時機が遅くて、息子の恋人であるご令嬢も、どうやらすでに毒牙にかかっているようですね…と。

リデル氏の言葉を裏付けるように、
彼がジョナサン夫人と愉しい一夜を過ごした同じ晩に、その息子は婚約者のマデリーンを伴って吸血鬼の館へと赴き、
未来の花嫁の生き血を捧げ、その肉体までも共有することを誓わされていた。

マイケルがモノにした処女は、マデリーンだけではなかった。
義兄となるキースに、彼はただならぬことを囁いた。
「キャサリンをきみの妻として差し出すけれど――彼女は早熟だ。すでに男を識っている。相手はほかでもない、実の兄であるこのぼくだ。
 あらかじめ告げておくのが礼儀だと思うから、きみには話しておく」
結婚後も兄妹の関係を続けるつもりなのか?と訊くキースに、マイケルはいった。
「きみがリディアとの関係を続けるようにね」


すべてが、走馬灯のように過ぎていった。
結婚を明日に控えた夜、キースは自宅での最後の夜を過ごしていた。
屋敷の中庭では、婚約者のキャサリンが、明日の華燭の典にまとうはずの純白のドレスを一日早く身にまとい、
吸血鬼に裸身をさらそうとしていた。
衆目の前で行う誓いの接吻をまえに、キースは花嫁の両肩を抑えつけておとがいを仰のけ、
首すじへの接吻を果たさせてゆく。
長い長いケープを夜風になびかせながら、キャサリンは物怖じひとつせずに凛と佇み、そのまがまがしい牙を受け入れた。
ずず…っ。じゅる…っ。
幾人もの若者、そして人妻たちのうえに覆いかぶさった吸血の音が、未来の花嫁にも訪れるのを目の当たりに、キースの心は揺れたけれど。
高慢な少女の肩先を抑える手にこめられた力は、弱まることがなかった。
純白のドレスに真紅のしずくひとつ滴らせることなく、吸血鬼はキャサリンの血を飲み干した。

夫としての義務をキースが黙々と果たすのを、キャサリンは軽蔑したように視ていたが、
やがて抱きすくめられたまま夢中になってしまうと、未来の夫の目をはばからず、
「いやん!あぅん!はぁあん!」
と、良家の令嬢にあるまじきはしたない声をあげつづけた。
それは、自分の実家と婚家の名誉を辱めかねない行為であったけれど、どうしても止められないものだった。
立て続けの吶喊は、まだ少女である身体には猛毒のような刺激を与えつづけたので、キャサリンは思わず涙声で洩らしていた――
「忘れられなくなりそう」
と。
忘れる必要はないよ。きみは感じつづければ良い。
キースはそう囁いて、彼女の手首を芝生の上に抑えつけた。
「許してくれるのね…?」
初めて神妙な顔つきになった花嫁に、キースは額に接吻をしてこたえた。
「ひと晩、嫁入り前の夜を愉しむといい」
潔く背を向けた未来の夫に、キャサリンは聞こえないように囁いた。
「あなたも楽しんでね」


中庭に面したバルコニーに佇むふたつの影が、花嫁の不道徳な振る舞いに熱い目線を注いでいた。
キースとリディアだった。
「うちもリデル家も、めちゃくちゃになっっちゃったわね」
上目づかいで兄を見あげるリディアは、含み笑いを泛べている。
「そうだね。でも、だれもが愉しんでいるのなら、それでいいんじゃないのかな」
「マデリーンに子供ができたみたいよ」
「マイケルの子じゃないらしいね」
「生まれた子が女の子なら、あのひととつき合わせるって言っていたわ」
「それが良いかもしれない。――男の子だったらきっと――」
「あなたみたいに、妹や彼女をあのひとに差し出すようになるはずね」
「実の親子でも、血を吸い合うのだろうか」
「きっとそうよ、愉しむに決まってる」

キャサリンの結婚を記念して、その母親のマチルダの貞操も、堕とされることになっていた。
彼女も旧家の生まれで、もの堅い婦人だった。
上流社会きっての賢夫人とうたわれ、親友の妻同士であるふしだらなダイアナとは似ても似つかなかった。
その彼女が、夫とダイアナの不倫に気づいたのは、むしろ“彼ら”がぐるになって、知らしめたのだという。
ベッドのうえで乱れる二人を前に絶句し逆上したマチルダの背後には吸血鬼が忍び寄り、
夫を詰る声はすぐさま、血を吸われるものの悲鳴に変わった。
ダイアナとリデル氏とが明け渡したベッドのうえに、マチルダは吸血鬼ともつれ合うようにして投げ込まれ、
黒タイツの脚を舐め尽されていった。
狎れたやり口で自分の足許が辱めらるのを、マチルダ夫人は悔し気に眉をひそめて耐えた。
そのあとの吶喊も、娘が体験した身体を自分までもが受け容れさせられるという異常な状況に気をのまれながらも、涙ひとつみせず耐え抜いた。
彼女は意地の強い婦人だったので、目もくらむ凌辱をさいごまで毅然と受け止めたのだった。

――殿方を愉しませるためにまとっているわけではない
咬み破られたタイツを脱ぎ捨てた夫人は、そういいながらも気前よく、手にしたタイツを愛人として受け容れた男に与えていった。
貞淑なご婦人ほど愛着がわくと囁く吸血鬼に魅せられたように、マチルダ夫人は首すじから血を流したまま情夫を見あげ、
「今度お逢いするときには、もっと舌触りのよさそうなものを選んで、穿いてあげますね」
といった。
長年貞淑に仕えてきた妻が堕ちるところをかいま見させられたリデル氏はちょっとだけ複雑な顔つきだったが、
握手を求めてきたジョナサン氏の手を握り返す力はつよかった。


「あたしたちくらいは、まともな関係じゃないとね」
リディアは、ニッと笑って、白い歯をみせた。
兄の前で初めて吸血鬼に咬まれて兄に「堕とされちゃったみたいだね、お姫様」とからかわれたときと、同じ笑みだった。
リディアが口にした「まともな関係」とは、「まともに愛し合う関係」のことだと、キースにはすぐにわかった。
「じゃああたしたちも…しましょ」
リディアは兄とのへだたりを、さりげなく縮めた。
兄妹としては、すでにふさわしくない近さだった。
「きみももうじき、結婚するんじゃないのか」
「かまわないわ」
リディアが呟くのと同時に、キースはリディアを抱きしめていた。
「同じ血をはぐくむ同士――仲良くやりましょ」
小賢しい囁きを止めない唇を、キースの唇が熱く塞いだ。
しつような接吻にむせ返りながら、リディアが呟く。
「やっぱり初めてのときは、兄さんと迎えたかった」
兄の婚約者のおめき声が聞こえる外気を避けるように、ふたりはリディアの部屋へとさ迷い込んだ。
荒々しく押し倒す影に、ベッドに埋まった影が囁く。
「好きにして」と。
部屋の隅に佇む、もうひとつの黒い影が、部屋にわずかに人影を投げていた燭台を吹き消した。
侍女のジュリアだった。
「おめでとうございます。お幸せに――」
そっと立ち去る後ろ姿を満足そうに見やりながら、リディアはいった。
「あの子もお兄様のこと、好きだったのよ。お嫁さんが浮気で帰ってこない夜には、あの子のことも呼んであげてね」


あとがき
長々と読んでいただき、ありがとうございました。
結末をつけるためかなり端折って描いてしまいました。(^^ゞ

キースのお嫁さんをだれにするのかはちょっと葛藤がありまして。
母親と情夫との濡れ場を目撃している傍らで犯されてしまった侍女のジュリアも候補の一人です。
濡れ場を目撃して昂ってしまった吸血鬼氏の性欲処理のため、むぞうさに純潔をむしり取られてしまうのですが、
はからずもキースが目撃した処女喪失の場面は、未来の花嫁のものだった――というのもありかな、と思ったので。
あとは、リディアとの兄妹婚のセンも考慮しました。
籍を入れる入れないの問題にこだわるのでなければ、同じ家で暮らしている兄妹というのはありがちなことですし、
男と女のことですから、そこに芽ばえてはならないはずのものが芽ばえることも、決して皆無とは思いませんから。
でも最終的には、母親の情夫の娘である高慢な美少女が当選しました。(笑)
すでに処女ではない花嫁を吸血鬼に捧げようとする夫に侮蔑の視線を投げた彼女ですが、
そこはまだうら若い女性。さいごは「忘れられなくなりそう」と、純情な涙を流します。
淫乱な血は父譲りでしょうか?

もの堅い賢夫人であるマチルダはちょい役でしたが、好きなキャラです。
地味な黒タイツを舐め尽されたあと、こんど脚に通すのは、肌の透けるなまめかしいストッキングというパターン――
使い古されているかもしれませんが、なん度描いても嬉しいシーンです。

欲を言えば、端折ってしまったシーンで、それまで色濃かったリディアの怜悧で奔放なところとか、
その忠実な侍女であるジュリアの出番がほとんどなかったこと(ラストシーンはおまけです)、
淫らな人妻だったダイアナや、もともともは一番大胆だった最年少のマデリーンにはもう少し場数を踏んでもらいたかったというところでしょうか。
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