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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

母さんの帰り道

2019年01月04日(Fri) 09:42:07

あうぅぅ・・・

家の外から、うめき声がきこえた。
うめき声はどことなく陶酔を帯びていて、
しばらく切れ切れに聞こえた後、
「ひっ・・・」と声を引きつらせ、途切れてしまった。

こういうことは、この近所ではよくある。
吸血鬼の出没する森や公園やらがそこかしこにあって、
ぼくの家でも、家族全員が咬まれた経験を持っている。
それでもぼくは、声のしたほうをチラチラと落ち着きなく見やってしまった。
母さんの帰宅がまだだったからだ。
そんなぼくの様子を見た父さんは、「気にせんでええ」とみじかく言って、再び拡げていた新聞に目を落としてゆく。
ぼくはやはり落ち着かない気分を抑えることができなくなって、ジャケットを取りに部屋に戻った。

隣の部屋から姉が顔を出した。
「うめき声でしょ?」
図星を指されたぼくはちょっと悔しくなって、
「そうだけど」
と、わざとぶっきら棒にこたえた。
「行かないでいいんじゃない?」
姉はしかめ面を崩さずに、いった。
「やっぱ気になるじゃん」
「男の子ってやっぱりそうなのね」
いけすかない・・・という目でぼくを見る姉に、心外だという気持ちをこめて、こたえた。
「母さんがまだなんだ」
「知ってるわよ」
姉はどこまでも、ぼくの上手を行く。
「だから行かないほうがいいでしょって言ってるの」
無言でジャケットを羽織り背中を向けるぼくに、姉はとどめを刺すようにいった。
「行きたきゃ行ってもいいけど、もう少し間を置いてからにしなよ」
ふり返ると姉は相変わらず怖い顔をしていて、(親のそういうところを視るものじゃないでしょう)といいたげだった。
「とにかく・・・心配だから」
口ごもるぼくに、姉はいった。半ズボンの足許に目を止めたまま。
「ハイソックスくらい、履いて行ったら?」

けっきょく、家を出るのに30分近くかかった。
玄関のドアを開けるぼくのことを、父も姉も見送らなかった。
サンダルをつっかけて、声のした家の裏手のあたりに足を向ける。
声の主は、やはりそこにいた。

母さんは夕方、みんなの晩御飯を用意すると、ひっそりと出かけていった。
出かけるときに穿いていたこげ茶のパンプスが、歩道の隅っこに転がっている。
その数メートル奥の草むらに、パンプスの脱げたつま先だけが見えた。
母さんの脚は、かかととつま先のついた肌色のストッキングに包まれたまま、
泥まみれになりながら、じりじりと足摺りをくり返していた。

先に草むらから姿を現したのは、黒い翳だった。
翳の主はとても色褪せた肌をしていて、グロテスクな容貌をしていたけれど、
顔なじみのぼくを認めると、ちょっと会釈を返してきた。
人間らしい応対に、ぼくはにこりともせずに応じた。
「母さん、そろそろいいだろ?」
ぶっきら棒にぼくがいうと、男はにんまりと笑った。
口許を、吸い取ったばかりの母さんの血でヌラヌラと光らせたまま。

「来ないでいいから」
草むらの奥から声がした。
男が下腹部も濡らしているのをみて、草むらの影でなにが起きていたのかは察しがついた。
ほんとうは、もう十分以上まえに来るべきだった――と、けしからぬ考えがちらと頭をかすめた。
「もう少しつづけてやろうか?」
男がいった。
「いいよ、そこまでしなくて」
母雄あのヌードで昂奮する妄想にかられたぼくを見通したような言いぐさに、
ぼくは照れ隠しにそっぽを向いた。
「きみの父さんが迎えに来た時は、つづきをしたんだがな」
男はただならぬことを聞こえるように呟きながら、路上に落ちていたパンプスを拾い、草むらのほうへと投げてやった。
ぼくよりも、母さんを襲ったやつのほうが、よほど身づくろいの役に立っていると思った。
でも、よくよく考えてみれば、彼らは自分たちのしたことの後片付けをしたに過ぎないのだから、
ぼくが済まながる必要はないのだった。
「まだ喉渇いてるの?姉さん呼んでこようか?」
草むらのほうにも聞こえるように、ぼくは男にいった。
「姉さんのことはきのう吸った。なか三日は置かんと旨い血が吸えぬ」
身勝手なやつだと思った。
母と姉と――2人ながらこの男の誘惑に屈し、血を吸われていた。
「それに、せっかくきみが来たんだし・・・」
え?と思う間もなく、強い力のこもった猿臂に引き寄せられた。
生臭い息が耳たぶをかすめる。
身じろぎ一つできないほどきつく抱きすくめられたまま、首すじにチクリと鋭い痛みが走った。

母や姉が屈するのも、無理はない・・・
そんなふうに薄ぼんやりと思ったときにはもう、ぼくはすっかり貧血になって、草むらの傍らに長々と寝そべっていた。
男は、「靴下も愉しませてもらおう」といって、ぼくの了解も待たずに足許にかがみ込み、
履いていた白のハイソックスのうえからチロチロと舌を這わせ始めている。
母さんは身づくろいを終えて、薄ぼんやりと佇んでいた。
息子が自分と同じように血を吸われているというのに、助けもせずに、見守っていた。
もっともぼくだって、母さんが襲われるところをのぞき見して昂奮しようとしていたくらいだから、
母さんを責めることはできなかったけれど。
やがて男の牙がふくらはぎに食い入って、白のハイソックスに赤黒い飛沫が飛び散り、
生温かい血のりがじわじわとしみ込んでいった。

「ただいま戻りました」
疲れ切った母さんは、気の抜けた声で帰宅を告げた。
お茶の間からは「ああ」という父さんの、やはり力のこもらない相づちが返って来た。
こげ茶のスーツはどうにか身に着けていたけれど、
髪は振り乱しブラウスの襟首は大きくはだけ、破れたストッキングはくるぶしまでずり落ちて、皺くちゃになっている。
情事の名残りをありありととどめた姿をみたのは、ぼくだけだった。
「母さんシャワー浴びるから、あなたはもう上にあがって」
ぼくの顔をまともに見ないでそういう母さんの脇をすり抜けて、言われるままに階段に向かう。
すれ違いざま、生々しい女の気配が、ふわっとぼくを包みかけた。
なにか鋭いものに、ズキッと胸の奥を衝かれるような気がした。

「なか3日だってさ。すぐにお呼びがかかるんじゃない?」
二階に戻ったぼくは、隣の部屋から顔を出した姉に、憎まれ口をきいた。
姉は血に濡れたハイソックスを履いたぼくの足許を、じっと睨んだ。
吸血鬼は、丈の長い靴下のうえからふくらはぎに咬みつくのを好んでいた。
だから、母さんが着込んだスーツの下に穿いていたストッキングも、狙われたのだ。
運動部のユニフォームのストッキングを穿いて行ってもよかったけれど、
チームメイトを裏切るような気がして、わざと姉のタンスから一足おねだりをした。
自分のタンスを漁る弟の背中を、姉は白い目で睨んでいたけれど、自分のハイソックスを弟がせしめることには文句をいわなかった。
「代役ありがと。これお駄賃」
ご念の入ったことに100円玉を1枚掌に圧しつけようとしたのを、かろうじて突き返した。
「しょうもない」
姉弟同時に同じ言葉を口にして、お互い相手を見、初めてクスッと笑った。
「父さんによけいなこと、訊くんじゃないわよ」
姉はそういって、部屋の扉をぴしゃりと閉めた。
訊くな――ということは、よくお訊き、ということにちがいない。
あまのじゃくな姉らしかった。

靴下を履き替えて下に降りると、父さんがまだリビングにいて、テレビを見ていた。
見ているといっても、薄ぼんやり目をやっているだけで、そこで時間をつぶしているというていだった。
「きょうはテレビで徹夜しようかな」
父さんがいった。
「そこまで気を使うことないんじゃない?」
ぼくはいった。
「どこまで知ってるんだ?」
「いまのことならたいがい」
「昔のことは?」
「さあ・・・」
どちらの側も躊躇をしながらも、父さんはすべて語ってくれた――

この街には底知れぬ森がある。
そこには吸血鬼が住んでいて、若い娘や人妻をたぶらかしていた。
吸血鬼たちは、襲った人間を死なせない代わり、街に棲むものたちの血を自由に吸えることになっていた。
なにも知らずによその土地からやってきた父さんはそこで母さんを見初めた。
結婚生活は幸せだったが、ある日、家が吸血鬼の襲撃を受けて、ふたりながら血を吸われた。
ほんとうは、吸血鬼は、父さんのことは殺してしまってもよいつもりだった。
血を吸われ犯される母さんを見て不覚にも昂奮してしまったことが、父さんの命を救った。
じつは、母さんは代々母から娘へと血を提供しつづけてきていた家の一人娘だった。
父さんを愛していた母さんは掟を破って父さんと結婚したので、怒った吸血鬼が新居を襲ったのだ。

さいしょは母さんは、父さんに隠れて血を提供しつづけることで、うわべの幸せを守ろうとした。
年ごろになってすぐに、血を吸われ始めた母さんは、吸血鬼の寵愛を受けていたし、
女としての初体験も吸血鬼相手に済ませていた。
すべての過去を押し隠したままこの土地に住み続けることに、無理があったのだ。
自分の嫁がもともと吸血鬼の情婦だったと知っても、父さんは母さんと別れようとしなかった。
父さんは吸血鬼と逢瀬を続ける母さんを許し、母さんは父さんを愛しつづけ、ぼくたちが生まれたのだった。

姉さんはきっと、母さんを見習って、この土地の女として生きるのだろう。
そしてぼくも案外、父さんのように・・・もらった妻を吸血鬼に差し出してしまうのかも知れない。
そんなことを考えていると。
血を吸われてウットリしている母さんをのぞき見していた時に昂った不埒な股間が、
いままで以上に逆立って来るのを、抑えることができなくなっていた。
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