淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
征服された妹娘
2019年01月17日(Thu) 07:18:21
お母さまはね、前に住んでいた街で恋をしたの。
お父さまは優しい人だから、お母さまがそのひとの恋人になるのを承知なさったの。
男の人がほんとうに女のひとを好きになると――
そのひとの裏切りすら、愛することができるようになるんだって。
信じるか信じないかは・・・・・・あなた次第ね。
姉の遥希(はるき)の口許からつむぎ出される、まるで呪文のようなひとり言。
妹のゆう紀は、聞くともなしに聞き入っていた。
お母さま、行っちゃったわよ。あたしたちを置いて。好きな人の棲む街に。
突き放すようにうそぶく姉の横顔を、ゆう紀はじっと見つめていた。
広いおでこの生え際を見せびらかすように、思いきりよく引っ詰めたロングヘア。
さらりと背中に流したその黒髪のすき間から、白い首すじが、これまた見せびらかすようにあらわになっていて、
その肌の白さの真ん中に、赤黒いシミのようなものがふたつ、数センチのへだたりをもって、肌の白さを翳らせていた。
「お怪我をしたの、お姉さま?」
ゆう紀の問いに遥希は薄っすらとほほ笑んでこたえた。
「怪我?・・・そうね、女の子は大人になるとき、怪我をするものなのよ」
あなたはまだ、なにも知らないのね・・・?
姉にそう指摘されたような気がして、ゆう紀はきまり悪そうに黙りこくった。
お母さまに手を出した人ね、お母さまの本命になれなかったの。
その人に悪いことをしたわ、つぐないたいのって、お母さまが仰るものだから。
だからあたしはその人に、初めての経験を差し上げたの。
あなた、あたしを悪いお姉ちゃんだと思う?
それともあなたも、あたしと同じ経験をしたいと思う?
え・・・いいの?
だってあなた、あなたには貴志くんって人がいるんでしょう?
長女の遥希には、まだ結婚を意識した相手はいなかった。
惣領娘(男兄弟のいない長女のこと)なのだから、お前は少し待ちなさい、と、父親からはいわれていた。
そして、次女のゆう紀のほうが先に、結婚相手が決まっていた。
まだ十代同士の婚約に、周囲はあまりの若さに驚いたけれど。
あの街ではこれがふつうなんですよという娘の父親の言いぐさに、同じ勤め先を持つ者たちは、無言の納得を示していた。
さいしょのときはね、お姉ちゃんが手を握っててあげる。
少しばかり痛いけど、声を出すのはガマンするんだよ。
あの人ったらね、痛そうに顔をしかめる女の子が、白い歯をみせるのが好きなの。
結婚してから夫となった人とだけすると聞いていた、あの行為。
恋人同士なら、ほかの人としてもかまわないのよ、とお母さまが囁いた、あの行為。
それをあたしは、結婚前に遂げようとしている。
相手の男が家に姿をみせたそのときになって、ゆう紀は初めて、身震いを覚えた。
いけないことをしてしまうという罪悪感と。
お母さまとお姉さまだけが知っていて、自分だけがまだ知らない未知の領域に足を踏み入れることへの好奇心と。
いったいどちらが、まさっていたのだろう?
そして意図的に顔をそむけた側には、婚約者である貴志への後ろめたさもまた、意識するまいとしても意識してしまっている。
「いいのかな?ほんとうに、いいのかな?」
姉に対する問いは、自分に対する問いでもあった。
けれどももはや、ゆう紀の純潔の行き先は、姉によって決められてしまっていた。
「もうここまできて、そんなことは言いっこなしよ。あたしが体験した男の人を、あなたも体験するの。
お嫌?」
そこまで言われてしまっては、大人しい性格のゆう紀はもう、がんじがらめになってしまうのだった。
怖がらないでいいのよ。
お姉ちゃんが、手を握っててあげるから。
少しばかり痛くても、声をあげちゃダメ。
ご近所に、筒抜けになってしまうわ。あの家の娘はだらしがないって。
だから、あなたが声をあげないことは、家の名誉を守ることになるの。
――いいわね・・・?がまん。ガ、マ、ン。
のしかかってくる、自分の父親よりも年上の男をまえに、ゆう紀は悲壮な顔つきで、その刻を迎えた。
握り返してくる掌の力が痛いほどギュッとこもるのを感じて、姉娘は白い歯をみせる。
同級生のたか子ちゃんやみずきちゃんのときも、こんなだった。
あたし、痛いのって、好き・・・。
父親の上司だというその男が、目のまえで妹を汚すのを。
そしてその男の思惑どおり、妹が痛さのあまり白い歯をみせるのを。
姉娘は満足そうに見届けた。
どお?よかった?
いいのよあたしは。さいしょの刻だもの。ふたりきりにしてあげなくちゃ。
遥希の白い目線の先にいる少年は、
隣室で自分の父親よりも年上の男と息をはずませ合っている婚約者の横顔に、
目線をくぎ付けにしてしまってしている。
その頬が紅潮して、昂ぶりを見せていることに、遥希は自分の見通しが正しかったことへの満足感をおぼえていた。
ほんとうなんだね。男の人が女の子をほんとうに好きになると、その子の裏切りまで悦んじゃうって。
ふつうの女の子は、結婚前にこういうことをするのを、自分の結婚相手には見せたりしないものよ。
でもあなたは特別。
だから、きょうのパーティーに、あの子には内緒で、招待してあげたの。
あの子の処女喪失、あなたも祝ってくださるわよね?
うんうん、もう夢中で、彼女のお姉さんの声なんて聞こえてないっていうことね?
代わりにあたしのことを抱く・・・?って訊こうとして。
少女はそれを思いとどまる。こたえが想像できてしまったから。
どこまでいっても、私はわき役?
自分よりも先に結婚相手を得た妹への嫉妬を認めるのが怖くて、少女は口をつぐみ、目を背けそうになる。
その場を離れようとした遥希の掌を、強い力がギュッと抑えた。
貴志の掌だった。
ほら、お姉さん、視て御覧。せっかくの妹のあで姿なんだから。
示された指先のむこう、通学用のハイソックスだけを身に着けて全裸に剥かれたゆう紀が、
男と抱き合ったまま激しく腰を振って、息せき切ってその吶喊を受け容れている。
自分自身の初めての刻を思い出し、姉は顔を赤らめた。
ゆう紀さん、とってもきれいだね。ぼくはゆう紀さんのこと、惚れ直した。
ぼくが視に来たことは、ゆう紀さんには内緒にしておいてくださいね。
よかったらこれからも、パーティーに招待してくださいね。もちろん、時々でかまわないから。
ぼく・・・ゆう紀さんと結婚してからも、こういうパーティーを許してしまうかもしれないですね。
男として恥ずかしいけれど。
恍惚とした少年の横顔に引き込まれるように、遥希は少年の掌に、自分の掌を重ね合わせて、ささやき返す。
――ほんとう、ゆう紀の晴れ姿、とってもきれいだね。かわいいね。
あとがき
前作はあれでおしまいのつもりだったのですが、愛読者のゆいさんのリクエストを受けて初めて、インスピレーションが湧きました。
父親の上司を相手に処女を喪った姉が、妹も同じ運命に巻き込もうとするお話です。
自分よりも先に婚約者を得た妹や、自分たちを置いて恋人の元に走った母親への複雑な気持ちを描いてみました。
妹の初体験を一緒に目にした妹の彼氏に、彼女は父親をみていたのかもしれませんね。
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