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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

絵を好む吸血鬼

2019年01月20日(Sun) 08:26:35

絵画の鑑賞を好む吸血鬼がいた。
還暦近くの吸血鬼だった。
彼の棲む街には美術館がなかったので、隣接する都会の美術館に、よく出かけていた。
そこであるとき、一組の夫婦と知り合いになった。
お互い好みが合い、会話はとんとん拍子にはずんだ。
晩ご飯はいかがですか?と問うご主人に、吸血鬼は思い切ってこういった。

実は私、吸血鬼なんです。隣の街に棲んでいて、ガールフレンドがなん人もいるんです。と。

そうだったんですね。ご夫婦はそう言って驚いたが、すでに吸血鬼の人柄が分かりかけていたので、いった。

家内に急に咬みついたりは、なさいませんよね?そういう方だとお見受けします。
そうだったら、べつに吸血鬼だろうが人間だろうが、関係ないのではありませんか?

吸血鬼は分け隔てをしない夫婦の態度に目を見張り、慇懃に頭を垂れて、いった。
できれば長く、おつきあいをしたいものですな、と。

それから彼はその夫婦と連れだって、月に2回は絵画鑑賞に出かけた。
夜は食事を共にして、気分良く別れていった。
もちろん、彼が奥さんを襲うことはなかった。
彼の棲んでいる街には、そういうけしからぬ欲求に応えてくれるガールフレンドが、なん人もいたからである。

それからしばらく経って、街にいた彼のガールフレンドが2人、同時に街を出ていった。
2人は転勤族の妻と娘で、ふたりながら彼の餌食になっていた。
娘の進学の関係で、避けられない転居だった。
ご主人は妻の浮気相手である吸血鬼に理解のある男で、
時折妻の服を着て女装して、逢ってあげましょうと約束してくれたけれど、
彼の欲求を満たすためのローテーションに、狂いが生まれた。
吸血鬼は献血してくれるガールフレンドたち――そこには好意的なご主人も含まれていた――が健康を損ねないように、綿密なスケジュールを組もうとしたが、どうしても一人足りないことに変わりはなかった。
彼は都会の夫婦に連絡を取って、しばらく会うのをやめましょうといった。

一か月後、吸血鬼の邸に、都会の夫婦が訪ねてきた。
驚きつつも夫婦を出迎えた吸血鬼は、邸のなかに入れるわけにはいかないから、そこのお店でお茶でもしましょうといった。
「あなたがいないと会話がはずまないものですからね」と、ご主人が笑っていった。
それ以来、人目のある喫茶店やホテルのロビーで短時間会話を共にすることで、彼らの交際は復活した。
そんな会合のなん度目かのこと。
街でいちばん大きなホテルのロビーで会合したときに、ご主人がちょっとだけ席を外した。
不運にも、突然の訪問と吸血鬼の渇きの刻とが、重なってしまっていた。
吸血鬼は欲求をこらえ切れなくなって、テーブルの向こう側にまわり込み、さっきまで夫の腰かけていたソファに腰を下ろすと、
戸惑う夫人を引き寄せて、首すじを咬んでしまった。
アアーッ!
奥さんがひと声叫ぶと、ご主人が慌てて駆け戻って来た。
吸血鬼は、好ましい交際が終わったと観念した。
せっかく彼らは分け隔てなくかかわってくれたのに・・・
ところがご主人の対応は違っていた。
奥さんにひと声、「だいじょうぶか?」と声をかけた。
奥さんが、「私はだいじょうぶ」と応えると、ご主人は、このホテルで部屋を取りましょうと言った。
幸い、空き部屋はすぐに見つかった。
そのあいだ吸血鬼は、奥さんを鄭重に介抱して、首すじにつけた咬み痕に滲む血が、服につかないよう気を配っていた。


ホテルの部屋に移った吸血鬼は、なおも奥さんの介抱を続けた。
ご主人はいった。

貴男はいつも紳士的で、喉が渇いているときも我慢をして、家内に接してくれていましたね?
だからわたしたち、相談したんです。
もしも貴男がどうしても我慢できなくなった時には、家内の血を吸わせてあげよう・・・と。
子供たちは独立しましたし、わたしに関するかぎりたいがいのことはお許ししますよ。

健全な清遊が、夫婦と吸血鬼とのあいだを、知らないうちに近いものにしていた。
吸血鬼はご主人に深く感謝をして、奥さんの首すじを咬み、うっとりとして血を吸われる妻の様子を見守るご主人に、
あなたに恥をかかせるわけにはいきませんからな・・・と告げると、ご主人の首すじにも咬みついた。
そして、酔い酔いになったご主人を隣のベッドに寝かせると、奥さんを組み敷いたまま、男女の愛を注いでいった。


月に2度の美術館通いは、その後も続いた。
そういうときには、いままでどおりの清遊だった。
吸血鬼はどこまでも紳士的に振る舞い、夫婦は思いやり深く接した。
そして、それ以外の逢瀬が週に1度、つけ加えられた。
時にはご主人も同席して、夫婦ながらの献血に応じていった。
血を吸い取られて仰向けになった奥さんにのしかかって、吸血鬼はけだもののように荒々しく彼女を愛したが、
ご主人は朦朧となりながらも妻のあで姿を見届けて、絵のように綺麗だよと告げるのを忘れなかった。
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コメント

お久しぶりです!いろいろあってこれなかったですがやっとこさコメントできました

こちらでは紳士的な吸血鬼が結構いらっしゃいますがいつも以上に紳士的な方とみえます
やはり芸術を嗜むと品性が向上するんですかね
こんな誠実な方なら妻をと言ってしまうのも頷けます
そして最後の絵のようにきれいだよ
妻をほめるだけでなく自分も楽しんでいるから気兼ねなく楽しんでくれとそんな意味が含まれているのでしょうね
美しい愛です
by ナッシュ・ド・レー
URL
2019-01-30 水 10:24:38
編集
ナッシュ・ド・レーさん
こちらこそ、ご無沙汰してます。
貴ブログも、盛んに更新していらっしゃるようですね☆

こんな歪んだ物語を正しく読み解いてくれて、感謝です☆
相手が吸血鬼でも、会話が成立するのなら分け隔てなくおつきあいができるという、寛容な夫婦。
そんな彼らに出会えたことで、奇跡がおきたのだと思います。
永年連れ添った愛妻と吸血鬼との交際を許すというフェアプレーを演じたご主人のほうもまた、紳士なのだと思います。

絵といえば、だいぶ以前にやはり絵をテーマにしたお話を描いたことがありました。
おひまな時にでもどうぞ。

「絵を描く少年」
http://aoi18.blog37.fc2.com/blog-entry-128.html
by 柏木
URL
2019-01-31 木 04:54:26
編集

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