淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
人妻ふたり
2019年02月12日(Tue) 05:10:28
よっぽど飢えているのか?こいつ・・・と、正直俺は思った。
男のくせに俺を襲うとは。
勤め帰りに路上で襲われて、首すじに牙をぐいぐいと突き立てられながら、
どうしてそんなふうに余裕をかませることができたのか?これはいまだに謎である。
でも少なくとも、男はまるきりの獣ではなかった。ちゃんと会話が成り立っていた。
「あんた、よほど飢えているのか?」俺はいった。
同じ勤め帰りでも、スーツ姿のOLがわんさと通りかかるはずなのに。
よりにもよって男を択ぶとは、同性愛者なのか?とさえ思ったから。
けれどもそれは違った。
男はいった。
「あんた有森優子の旦那だろう?わしは優子に惚れてしまった。
想いを遂げる前に、あんたを仲間に引き入れておきたくてな」
どうりで・・・さっきから・・・目つきがトロンとして来て、傷口が妖しく疼き始めている。
この街に棲む吸血鬼が人妻を狙うとき、しばしば先に夫を狙って口説くというのを、ふと思い出した。
そういうことなのか?と訊くと、あつかましくも、わかっているなら話が速いな、ときた。
契約を結ぶ際、相手に不利な重要事項は事前通知するのが建前だ。
だから俺は、言ってやった。
「あいつ、浮気してやがるんだぜ」
「え?どういうことだ?」
「夫公認の彼氏がいるって言っているんだ」
人妻を襲うとき、夫への事前通告をするというルールは存在するらしいが、
通告の対象に浮気相手は含まれていないらしい。
やつは、あんたの彼氏の了解は要らない、と言い切った。
優子のまえで、少なくとも俺の優位性を認めてはくれたというわけだ。
俺はその事実になんとなく納得して、そのまま血を与え続けた。
そんなふうにして二度逢って、それから優子を紹介するために、自宅に誘ってやった。
結婚式帰りのその夜、優子はやつの注文通り、若づくりに着飾っていた。
人妻を襲うときには、その装いもろとも辱める。
そんなけしからぬ嗜好を、俺は好意的にかなえてやることにした。
晴れ着を泥まみれにさせながら、妻が堕ちてゆくところを視たかったのかもしれない。
予定通り、優子はブラウスを真紅に染めながら生き血を吸い取られ、
陶然となって堕ちていった。
吸血鬼の奴隷に堕ちたあとも、日常に変化はなかった。
夫婦関係とか日常生活とかを壊さないのが、やつらの鉄則らしかったから。
俺は優子と今までどおり、なにも起こらなかったかのように暮らしつづけて、
優子は今までどおり、浮気相手との逢瀬を重ねた。
そのくせ吸血鬼との情事も、愛人に断りなく、だれにもまして乱れるようになっていった。
そのうちに優子は、したたかなことを思いついた。
「貴方は私の浮気な性分を理解してくれるけれど――あのひとの奥さんはだめね」
「あのひと」というのはもちろん、優子の愛人である酉葉雄介である。
彼は同じ勤務先の同僚で、妻とは社内パーティーで知り合っていた。
そして、同僚の妻であるということにも考慮を払わず、見境なく優子を犯し、夢中にさせた。
けれども彼の妻である里美は根っからの堅物だった。
見合い結婚したという里美は重役の娘で、箱入り娘だったのだ。
そして、浮気性な夫の浮気を敏感にかぎつけては、夫の不埒を詰り倒しているという。
「あのひとの奥さんを、あいつに襲ってもらうってどう?」
浮気相手の妻を陥れL計画を、どうして夫に相談するのだろう?
優子の寄せる変な信頼感に、それでも俺はこたえていった。
「あたしが行くのはまずいから、代わりにあなた行って」
自分の妻を襲わせることに、酉葉はかなりの抵抗を示したが、
日常的に犯している人妻の旦那である俺のまえで、強く出ることはできなかった。
「同僚と取引先の社長を酉葉の家でもてなす」という俺のアイディア(その実優子の発案だった)を、酉葉は渋々呑んだ。
女房を寝取られる旦那の気持ちが、今ごろわかったか――俺はちょっとだけ、意地悪な気分を楽しんでいた。
優子の新しい情夫である吸血鬼は、表向きは如才ないビジネスマンだった。
彼はたくみに酉葉の妻である里美にもお酒をすすめ、言われるままに里美も杯を重ねた。
アルコールに和らいだ席は次第にしどけなくなって、
吸血鬼は首尾よく?招かれた家の主婦をモノにしていた。
悪酔いして身体を傾けたまま、妻の痴態を渋面を作って見つめる酉葉に、俺は胸のすく想いだった。
ある晩家に戻ると、意外にも玄関のまえには、里美が佇んでいた。
いつもより仕事が早く片づいて、夕暮れの名残りが残る時分だった。
薄闇に透けて見える里美は、初めて堕落を経験したあの晩と同じように、小ぎれいに着飾っていた。
「うちの主人がお邪魔しているんです」
え?と問い返す俺に、
「あと、この間のあの方は、娘さんのお部屋で家庭教師をしているそうです」
言われるままに娘の勉強部屋の灯りを見あげる俺は、きっと間抜けな顔をしていたと思う。
「口うるさい私を首尾よく黙らせたご褒美ですって――あのかたたち、処女の血がお好きなんですものね」
落ち着かないですね、よかったらうちへ来ませんか?
返事も聞かずに先に立って歩き始めた里美は、黒のストッキングを穿いていた。
いかにも地味なよそ行きのスーツはきっと、堅物らしい彼女のチョイスなのだろう
ひざ下までも丈のあるスカートの下、黒のストッキングを通してピンク色に透きとおるふくらはぎが、なまめかしかった。
誘われるままに俺は、酉葉夫人に連れられて、彼女の家にあがりこんだ。
それから先のことは、もう言うまでもないだろう。
「あんなふうに、お宅に戻りにくい夜は、うちで休んでいってくださいね」
奥さまの代わりに、私お相手しますから――
しおらしく目を瞑った彼女の生真面目な横顔は、少女のようにウブだった。
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