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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

深夜の喧騒

2006年07月17日(Mon) 04:18:18

がやがや・・・ざわざわ・・・
深夜だというのに。
家の前の通りがいやに騒がしい。
なにかあったのだろうか?
事件・・・という感じでは、さらにない。
縁日の帰り・・・のような、身内どうし寄り添っての和やかささえ伝わってくる。
雨戸をとおして・・・
しかし。
この刻限に、ひとが通るようなところではない。
なにしろここは、真夜中になると本当に真っ暗な、田んぼのなかの一軒屋なのだから。

賑やかだろう?
傍らで、囁くやつがいる。
口許からしたたっているのは、妻の生き血か。私のものか。
許しあっている関係に、なぜか奇妙な安らぎを覚える。
ちょっと、外をのぞいてみようか。
誘われるままに。
玄関に出てみた。
奥さんはよく、お寝みだよ。
ヤツはいたずらっ子のような笑みを浮かべている。

脚にまとっているのは、黒のストッキング。
ヤツの好みに合わせて、せがまれるまま身に着けた妻の衣裳。
このままの恰好で、外に・・・?
ふり向くとヤツは、いっそうたちのわるそうな笑みを浮かべて、
黙って私をそそのかすだけ。
ままよ・・・と思いつつ。
サンダルをつっかけて、表に出ていた。

蛍火のように、薄ぼんやりと浮かび上がる光芒のなか。
密やかな喧騒のもとは、多数の男女。
二、三十人もいるのだろうか。
年齢もまちまち。服装もとりどり。
紅い水玉模様のワンピースを着た女の子。
紺の絣(かすり)も涼やかな老婦人。
あちらにいるのは、一対のカップル。
よそ行きのスーツ姿の若い女性に、背広ネクタイの男性が寄り添っている。
この季節のネクタイ姿は、すっかり珍しくなった。
女性のほうも、今どき珍しく淑やかで奥ゆかしい風情を漂わせている。
ハイヒールにストッキングという、フォーマルな装いのせいばかりでなく。
二人して対面している老婆に対する物腰が、潔いほどにきちんとしている。

「ええ。だいじょうぶ。怖くなどありませんわ」
女はそういいながら。
足許にかがみ込んでくる老婆を見おろして、
それでも恥ずかしげに、ちょっと脚をすくめてみせた。
男は女をいたわるように両肩を抱いて、寄り添っている。
兄、というよりは。許婚のようであった。
老婆が、くちゅっ、と、女の脚に唇を這わせる。
ストッキングの裂けるときの。
ぴちちっ・・・という音が聞えたのは、錯覚だろうか。

よく見て御覧。
ヤツがいつのまにか、傍らに寄り添ってきている。
促されるままに。
カップルの乗ってきたらしい車に目をやった。
え?
いつの時代のものだろう?
ついぞ見かけなかった、古い型の車が。
ぴかぴかに磨かれ、長大なボディを誇らしげに横たえていた。
とうていいまどき動けるような車種ではなかった。
よく見ると、
道行く人々はみな、どこか時代をはずれた古風ななりや顔つきをしていた。
亡霊・・・?
はじめて、ゾッとするものが背筋を走る。

怖がることじゃないのだよ。
ヤツはかまわず、囁きつづける。
大人が子供を諭すような言葉つきだった。
みんな、愉しいから出てきているのさ。
血を吸い尽くされて、この世から引退してしまっても。
やっぱりあのときの愉しさが、忘れられないんだな。
またこうやって、現れて。
だから、せめて血を吸い取ってしまったことへの謝罪から。
あいつらもああやって。
亡霊たちに合わせてつきあっているのさ。
恥らっていた女は、くすぐったそうにきゃっ、きゃっ、と声はずませながら。
老婆が吸いつけてくる脚をかえるたび。
かわるがわる、片足立ちを繰り返していた。

じゃあ・・・
では、またね・・・
別れを交わし合う、声と声。
にわかに消えた幻のあと。
夜風が寂しそうにぴゅうぴゅうと吹き去ってゆく。
みんな、帰ってしまったな。
さ、家に戻ろうか。
あんたの番は、まだまだ先のようだから・・・
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ちょっとご無沙汰でした。
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睦言の中身

コメント

亡霊・・・
ん・・・亡霊・・・亡者・・幽霊・・・
人の残留思念ですわね。
欲求と思慕の形。
その思念になってもなお求めてしまうヴァンパイア。
なぜなら、彼はいつまでも滅びないからなのかもしれませんね。

優雅な百鬼夜行を垣間みさせていただきましたわ。
by 祥子
URL
2006-07-17 月 08:55:04
編集
夕べは疲れていたので早くにやすんだのですが。
どういうわけか、とんでもない時間に目ざめまして。
「魔」がこんなお話を囁いていったのです。
亡霊だからといって、そのいずれもが怨霊とは限らないのですね。
きっとまだまだ逢瀬を愉しみたかった人たちが、
こうして密かに集っていたのでしょう。
それも、人を驚かしては・・・と。
人里はなれたあたりに、示し合わせて。
by 柏木
URL
2006-07-17 月 13:04:41
編集

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