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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

義理堅い吸血鬼。

2019年03月03日(Sun) 07:03:05

やめてください・・・止してください・・・あぁ悔しい。
沼尻の婚約者である美奈子は、三日まえと同じ言葉を口にしながら、
ストッキングを穿いた足許にすりつけられてくる吸血鬼の唇を、受け容れ続けていた。

三日前、初めて襲われたときには、
身じろぎひとつできなくなるくらい血を吸い取られた後で、ストッキングを穿いた脚に唇を吸いつけられて、
ひどく悔しげに歯がみをしながら、相手を罵りつづけていたというのに。
その夜の美奈子は、言葉だけは三日まえとおなじでも、
語調はほとんどうわ言のように虚ろで、
差し伸べてしまった脚を引っ込めようともせずに、素のまま吸わせてしまっている。
脛にまとわりついた薄地のナイロンは、意地汚く這わされる唇のひと舐めごとに、
皺くちゃに歪められ、引きつれを拡げて、太ももやひざ小僧を露出させていった。

やめて・・・止して・・・あの人が視てるの、あぁイヤラシイ・・・っ。
そのつぎに美奈子が吸血鬼と逢ったとき。
虚ろな口調は昂った上ずり声に変化して、
吸いつけられてくる唇を拒もうともせずに、むしろ相手が吸いやすいようにと、脚の角度を折々変えてやってさえしていた。

初めて二人ながら襲われて血を吸い取られた後。
吸血鬼は美奈子に覚られないよう、沼尻に耳打ちをした。

今夜限りで、灰になるところだった。きみたちの血のおかげで、命拾いをした。礼を言う。
どうやらこの街から出ていくことのできない身の上のようだな。
同情するが、きみの彼女を誘惑することを、やめることはできない。
でもその代わり、そうするときには必ず、事前にきみに伝えよう。
彼女の身が心配ならば、様子を見に来るがよい。
だが約束する。きみが来ようが来るまいが、彼女の生命は保証するから。

ふたりを襲った吸血鬼は、意外なくらい義理堅かった。
美奈子の生命が危うくなるほど量をむさぼることはなかったし、
惑う美奈子をあやしたり軽く弄んだりしながらも、太ももから上には、手を触れようともしなかったのだ。
――処女は奪わない。わしにとって、処女の生き血は貴重だから。
――これがセックス経験のあるご婦人だったら、
――きみは自分の結婚相手が、わしを相手に淫らな愉しみに耽るのを視る羽目になっただろう・・・

ほんとうならば、毎晩でも誘いたかったはずなのに。
美奈子の身体を気づかって、三夜に一夜しか、呼び出そうとはしなかった。
それと察した美奈子は、彼から誘いを受けた夜には、なにを置いても逢いにいくようになっていった。
沼尻もまた、吸血鬼が自分の婚約者と”交際”するのを、黙認の形で受け容れていた。
吸血鬼の誘いを受けて真夜中の公演を二人並んで歩む様子を見守りながら、
美奈子が媚びを含んだ上目づかいで吸血鬼を見つめるようになったことにも気づいていたし、
婚約者の脚に通されたストッキングが、エッチな意図で破かれてゆくのを、歯がみをこらえながら見つめつづけた。

密かな逢瀬を見て見ぬふりをつづける沼尻に、美奈子は多大な感謝を寄せた。
少しでも多く処女の生き血を愉しませるために、2人は相談のうえ、結婚を半年遅らせることにした。
ふたりは知っていた。
セックス経験のあるご婦人とは、必ず身体の関係を結ぶという、彼の流儀を。
どちらから言い出すともなく、2人は婚期を遅らせることを、ためらいなく選んだのだった。


いよいよ明日が婚礼という夜。
吸血鬼は美那子を、誘い出した。
処女の生き血を提供する最後の機会――
美奈子はいつもより多量の血を、彼のために与えた。
月の光に照らし出された横顔が蒼ざめているのを、沼尻ははらはらとしながら見守っていた。
ベンチの隣に腰かけた吸血鬼にもたれかかるようにして、美奈子は息を整えようとしていたが、
吸血鬼の掌がやおら、美奈子のブラウスの胸をとらえた。
そしてもう片方の掌が、スカートの奥へとすべり込まされた。
いままでにない行為だった。
美奈子はハッとして、大きく目を見開いて、相手を見あげた。
吸血鬼は初めての唇を美奈子から奪うと、「お前を犯したい」と、告げた。
沼尻は、観念した。
結婚を控えた同年代の友人のほとんどが、彼らによって婚約者の純潔を譲り渡してしまったことを知っていた。
けれども今夜のケースは、この街のルールからすると例外の部類へとすすんだ。
美奈子は迫って来る相手の胸に掌をあてがって、吸血鬼の意図を柔らかく拒んだ。
「貴男から見たら非力な人に見えるかもしれないけれど、私にとっては最愛の人なんです。
 どうかそれだけは、見逃して・・・」
吸血鬼は意外なくらいにあっさりと、美奈子の請いを容れた。
それでも残り惜し気に、彼女の頭を優しく抱きとめて、長い黒髪をいつまでも撫でさすっていた。

新婚旅行は海外だった。
勤め先の事務所もその地にあったので、そのまま逃げてしまうことも可能だった。
ようやく自分のものになった美奈子のしなやかな肢体を、ほかの者に譲り渡さずに済むはずだ。
げんに、婚約者を手籠めにされて”目ざめなかった”ある者は、そのままこの地に赴任して、街を捨てていた。
吸血鬼の棲む街は、創業者の生まれ故郷で、街に作られた事務所は、血液提供のために立ち上げられたと評判だった。
それでも、適性に欠け街を離れていくものを、無理に引き留めようとはしなかったのだ。
義理堅い吸血鬼のため、沼尻は、彼自身も義理堅く約束を守った。
新婚旅行を終えて帰国すると、お土産を携えて彼の棲み処を夫婦で訪れ、
夫の視ているまえ、美奈子は吸血鬼に抱かれた――

沼尻夫人としての守操義務を夫の前で放棄することで、吸血鬼は虚栄心を満たした。
それからはしばしば、夫婦ながら吸血された後、新妻が夫の目のまえで淫らな歓びに浸る夜が続いた。
吸血鬼は美奈子を愛し、美奈子は夫を愛していた。そして、そんな美奈子に沼尻は満足を覚えていた。
三人三様の想いを秘めて、新妻が夫と吸血鬼とに共有される関係は、円満裡につづけられた。


転機が来たのは、沼尻の母豊子が夫を亡くして、街に移り住んできたときだった。
同居した嫁と姑とは、お互いに少しずつ気まずい思いをしながら暮らしていたが、
勘の良い豊子はすぐに、嫁の日常に不倫の匂いを嗅ぎつけていた。
夫のいない夜に出かけて行って、ホテルで密会を遂げた後、
ホテルのロビーで待ちかねていた豊子が、ふたりをとがめた。
ここではなんですから――慇懃に申し出た吸血鬼に公園に誘い出された豊子は、その場で吸血され犯された。
まさか嫁の不倫相手が吸血鬼だなどとは、堅実な主婦を廿年以上続けてきた豊子には、思いもよらないことだった。

美奈子に介抱されて帰宅した豊子は、まんじりともせずに夜を明かした。
ひと晩じゅう、夫の写真をまえに、なにかを詫びている様子だった。
夜勤から戻った沼尻に、豊子はたいせつな話がありますといって、
夫を迎えるために早起きしていた美奈子とともに、自室に入れた。
そして、夕べの顛末を、つとめて淡々と、語って聞かせた。

美奈子さんのようすがおかしいと思って気になっていたが、
夕べ行き先も告げずに出かけたので、申し訳ないと思いつつあとを追ってしまいました。
美奈子さんは男のかたとホテルで待ち合わせて、そのまま部屋に入り、3時間ほどそこで過ごしました。
ふたりがどういう関係なのか、大人の殿方だったら、察しがつきますよね?ええ、私も察しをつけました。
それは、俊一(沼尻の名)の嫁としてはあってはならないことだと私は思ったので、
ロビーに出てきたお二人に声をかけさせていただきました。
でも、美奈子さんのお相手の方が吸血鬼だったとは、夢にも思いませんでした。
美奈子さんによると、俊一も美奈子さんとその方との関係を認めているというのです。
それは本当のことなのですか?
お相手がお相手ですから、きっと特殊な事情があるのでしょう。
お二人に声をかけたあと、私がどういう目に遭ったのかは、お話ししないでもわかると思いますし、
息子の貴方に聞かせることではありません。
(お義母さまはずっと気高くいらっしゃったから、あなた安心して――と、ここで美奈子が言葉を添えた)
美奈子さんの夫として、私の息子として、貴方の考えはどうなのですか。
それを伺いたくて、夜勤明けでお疲れのところ、お呼び立てしました・・・

鶴のように気位高く構えた母に、沼尻はいった。
美奈子が彼に愛されていることを誇りに思っている、
わたしたちが婚期を遅らせたのは、処女の生き血を少しでも多く分けてあげたかったからです――と。

あなたたちがそれで良いというのなら、私は何も申しません。
古風な考え方の持ち主である豊子は、意外にも素直に息子の言を受け入れた。
もしかすると、夕べの凌辱の残滓が、彼女のなかで心地よい疼きとなって残っていたのかもしれない。
しかし豊子はそのうえで、ひとつだけつけ加えた。

それでもひとつだけ、お願いがあります。
それというのは、美奈子さんには間違いなく、俊一の子を産んでいただきたいのです。
沼尻の家の血すじを、絶やしたくないからです。
わかっていただけますか?
どうしてもお会いになるというのなら、それも良いでしょう。
けれども、美奈子さんと俊一との関係も、たいせつにしていただきたいのです。
だからといって今さら、あのかたから美奈子さんを取り上げてしまうわけにもいかないようですね?
それならば、提案があります。
私が美奈子さんの身代わりを務めます。
もう、お父さんもいらっしゃいませんから、どこにも迷惑のかかる話ではありません。
夕べのことがなければ、私もここまでの勇気は湧かなかったかもしれないけれど、
お父さんには、家に戻ってからずっと、おわびをしました。
どうやら私でも、愛される資格はあるようですから、あなたたちさえよろしければ、私からあのかたに話してみます。
私があのかたのお相手をしている間に、できれば子供を二人、産んでください。
そうしたら、あのかたを美奈子さんにお返しします。
もっとも――年輩の私では、吸血鬼さんもお気が進まないかもしれませんから、
ご相談はしなくてはねぇ・・・

さいごのくだりで母親が見せたほのかな女の情の揺らぎを、息子も嫁も、見逃さなかった。
豊子の希望は沼尻から吸血鬼に伝えられ、吸血鬼は早速その日の夜には沼尻の家へと現れていた。

「お早いのですね」
敏感すぎる相手の行動に、ちょっと鼻白みながら、豊子はいった。
「善は急げと申しますから」
物腰柔らかに吸血鬼が応えると、
「学がおありのようですね」
と、豊子は感心してみせた。
いつの間にか、息子も、嫁も、座をはずしていた。
ふすま越しに聞こえる切羽詰まった息遣いをそれとなく察すると、
豊子はそわそわと、おくれ毛を撫でつけながら、いった。
「きょうを、私の命日にしたいと思います」
吸血鬼はいった。
「生まれ変わるという意味なら、それもよろしいかもしれない」

我々には、縁づいたご婦人と、記念日をもつことにしている。
そう、初めて契った夜のことです。
ちなみに美奈子さんは、〇月×日――ご成婚の前日です。
貴女の場合は――きょうを祝いの日としたい。
初めて犯したのは昨夜のうちであるが、貴女にとっては本意ではなかったはず。
美奈子さんを沼尻夫人のまま愛し抜いたように、今夜、貴女を未亡人のまま恋人の一人に加えたい・・・

未亡人だった豊子は、齢五十にして恋に落ちた。
夫のときよりも激しい恋だった。
モノにした女をその夫の目のまえで抱くことを無上の悦びとする・・・という彼のけしからぬ趣味を、豊子未亡人は好意的に受け容れた。
喪服姿に身を包んだ豊子未亡人は、夫の写真をまえに吸血鬼を迎えて、
美奈子のストッキングを好んで辱めていた吸血鬼のため、夫を弔うために脚に通した黒のストッキングを、びりびりと破かせていった。
しつけに厳しかったはずの母親が、
破けた薄地のナイロン生地から、ひざ小僧をまる見えにさせながら、
へらへらと笑いこけながら吸血鬼に犯されてゆく光景に、沼尻は昂ぶりを抑えきれなかった。
沼尻夫妻は、結婚以来もっとも濃密なひと刻を、豊子の支えで持ち続けた。
吸血鬼はその後も美奈子を夫の前で抱いたが、「体の中に精を注ぎ込まない」という条件つきだった。
義理堅い彼は、美奈子が豊子の求め通り子供を二人産むまで、約束を守りつづけた。

沼尻の長女は、中学の入学祝に初めて咬まれ、高校の卒業祝いに、彼氏の目のまえで処女を捧げた。
母さんもしないことを、私経験しちゃった――はずんだ囁きに、賢明な母親はくすぐったそうに笑み返した。
その弟は、高校に入ってできた彼女を吸血鬼に咬ませ、婚礼の前夜に花嫁の純潔をプレゼントした。
父さんがしなかったことをぼくがした――奇妙な自慢に、両親はくすぐったそうに苦笑し合った。
豊子は、齢七十になるまで”現役”だった。
現役を卒業してもなお、脚に通した黒のストッキングを目あてにかがみ込んでくる愛人を、愛想よくもてなしつづけている。

義理堅い吸血鬼に、義理堅い人間の一家。
この吸血鬼物語に、”被害者”は存在しないようだ。
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