淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
譲歩。
2019年04月19日(Fri) 07:22:09
吸血鬼に襲われても、吸い尽されてしまうことはない――ときかされた。
だから譲歩がたいせつなのだと。
最初に望まれたのは、素肌に直接口をつけない採血だった。
妻もわたしも、注射針で採血をされ、
わたしたちを狙っていた吸血鬼は、ビニールパックに入った赤黒い液体を摂取した。
彼の生命をつなぎとめるためだけだったら、それでじゅうぶんのはずだった。
採血は、なん度となくつづけられた。
わたしたちはその都度譲歩して、注射針に腕をさらした。
むやみに襲われるよりは、はるかにましだと思っていた。
「仕方ないから、直接咬まれてくる。一度だけだと言われたから」
釈明を擦る妻は、わたしと目を合わせなかった。
そしてよそ行きのスーツ姿でひっそりと出かけていった妻は、ひと晩じゅう戻らなかった。
明け方になって髪を振り乱して帰宅した妻を、わたしは強く抱きしめた。
なにが起こったのかは、言わせなかった。
人の素肌に直接口をつけて吸血する場合、
相手が人妻だったら必ずそういうことをするのだと、なん度も聞かされていたはずだった。
彼はわたしの血も、肌に口をつけて直接吸いたがった。
むしろ文句を言ってやりたい気分で、わたしは彼の求めに応じた。
玄関まで見送ってくれた妻は、終始気づかわしそうにしていたけれど、
なぜか少しだけ、安堵しているようにみえた。
妻がどうして堕ちてしまったのか――身をもって思い知る羽目になった。
それ以来。
「直接咬まれてくるわ」と言って出かけようとする妻のことを、引き留めようとは思わなくなった。
妻はなん度も彼と逢い、逢瀬を重ねるようになった。
血が欲しかったら、わたしから先に咬んでくれ。
あるときわたしは、そう願った。
妻を守り切れないまでも、せめて身代わりになるべきだ――そう思ったからだ。
なにもしないで妻の帰りを待つことは、心に悪いと感じていた。
せめてその時は、失血で動けなくなっていて、彼女を守る力は残されていなかったのだと、そんな言い訳がほしかった。
願いはすぐに、聞き入れられた。
結果的に、吸い取られたわたしの血は、彼が妻を征服するときのエネルギーに振り替えられた。
わたしは彼と妻との逢瀬を、間接的に手助けしたに過ぎなかった。
時にはご主人のまえで、奥さんを犯したい。
男は無遠慮にも、そんな願いを口走るようになった。
「いちどくらい、かなえてあげましょうよ」
そう囁いたのは、妻のほうだった。
恥じらって拒もうとする妻は、
さきに血を吸われて身じろぎひとつたいぎになったわたしの前で抑えつけられて、
強引な吸血に声をあげ、
よそ行きのスーツ姿のまま犯されていった。
恥じらいながらも夢中になってゆく妻を見せつけられて、
わたしまでもが、かつて体験したことのない昂ぶりのるつぼに放り込まれた――
それ以来。
夫婦連れだっての献血を、なん度もなん度もくり返している。
わたしの家の名誉はそこなわれてしまったけれど――もう、後悔はしていない。
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