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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

物腰の落ち着いたご婦人だった。

2019年05月23日(Thu) 07:48:49

20代にしては、しっかりしていると思った。
たぶん結婚しているだろうとは、もちろん思った。
そういう物腰と落ち着き、貫録を漂わせたひとだった。

彼女は朝すれ違った時と同じ、白の半そでのブラウスに紫のスカート姿。
裾の長い紫のスカートを、ゆっくりとした大またでさわさわとさばきながら、歩み寄ってきた。
ほんとにいらしたのですね。
彼女はいった。
ほんとに来てくださったのですね。
俺はこたえた。
患者さんの症状を診るのが仕事ですからね。
まともに目線を合わせてくる彼女は、ちょっと得意そうだった。
脱帽です。
俺はほんとうの患者になったみたいな気分になって、頭を垂れた。
これではだめなのですか?と、彼女が差し出したのは、輸血パックだった。
残念ながら・・・と、俺はこたえた。
女のひとの素肌を咬んで、人肌の血液を摂らなければ、干からびた血管が満ちることはないのだと。
面倒なひとですね。
女は顔をしかめた。
ご迷惑ですみません・・・といいながら、我ながらムシの良い願いごとなのだと実感した。

では、どうぞ。
女のひとはベンチに腰かけて、目をつむる。
俺は定番通り、彼女の腰かけたベンチの後ろに回り込んで、両肩を抱いて、唇を首筋に近寄せた。
つかんだ両肩は意外に肉づきがしっかりとしていて、相手が鍛えられた人なのだと改めて実感した。
恐る恐る這わせた唇は、自分の意図を裏切って反応が早く、あっという間に食いついていた。
じゅわっ・・・とあふれ出る血を、一滴余さず口に含んでいく。
いつもの馴れた行為――それなのになぜか、初めて血を吸うようになったころと同じように、胸震わせながら、含んでいった。

あっ・・・
女のひとが声をあげ、額を指で抑えた。
しまった。少し吸いすぎた。
俺は慌てて首筋から唇を離し、それでもこぼれ落ちたさいごの一滴を、余さず舌で舐め取ってゆく。
彼女はしばらくのあいだ、ベンチの上でうずくまるようにしていたが、
やがて気を取り直すとハンドバッグから手鏡を取り出して、自分の顔色をみた。
そして、看護婦が患者を診るような目で手鏡を念入りに覗き込み、
取り乱してごめんなさいと、俺にいった。
俺はどうこたえて良いかわからなくて、ただだまってもじもじしていた。
恐縮する気持ちはあるのね・・・言葉には出さないけれど、彼女はそう言いたげに、白い歯をみせて笑った。
ちょっとだけ、小休止。
彼女の宣言に俺は素直に従って、同じベンチにちょっとだけ離れて腰かけた。

ご不自由なお身体ですね。
他人行儀に声をかけてきたそのひとは、まだきっと、俺とは距離を置きながらコミュニケーションをとりたいようだった。
なによりも、彼女の体から吸い取った血液が、そうした彼女の慎重さと潔癖さとを俺に伝えてくれていた。
そうですね、不自由なものです。
俺は正直に、そういった。
どれくらいの血液が必要なの?
彼女の口調は、親身な女医さんのようだった。
人がふたりいれば、なんとかなるくらいの血の量です。
大雑把な俺のこたえに、彼女はちょっと考え深い顔つきをした。
それからしばらく、俺たちは当たり障りのない会話を交わした。
自分の血を吸い取った相手がどんなやつなのか、彼女が知りたがっているのだと感じて、
俺は正直に、問われるままにこたえていった。

吸血鬼になったのは、十年近くまえのことだと。
家族全員が咬まれて、俺だけが吸血鬼になって、
両親と妹は、一人の吸血鬼への献血にかかりきりで、たまに母や妹が、空いた身体を預けてくれて。
でもいつまでも、頼り切るわけにはいかなくて、
相手を求めるともなく求めて、街をさまよっていたのだと。

会話が尽きると、彼女はいった。
もう少しなら、お相手してもよさそうです。明日は非番ですから――と。
好意を辞退する余裕は、そのときの俺にはなかった――
ふたたび吸いつけた唇は、彼女の足許を狙っていた。
本能のままに、ふくらはぎを吸いはじめていた。
あの・・・彼女は控えめな声色で、いった。
ストッキング脱ぎましょうか?
よだれで濡らしたり、咬み破るのが好きなんです。下品でごめんなさい。
そう。
彼女はちょっとばかり不平そうに鼻を鳴らして、
それでもよだれの浮いた唇を足許に擦りつけられてくるのを、止めさせようとはしなかった。
俺は彼女の穿いている肌色のストッキングを下品にいたぶり抜いて、
いびつによじれさせ、よだれをしみこませた挙句、ブチブチと咬み破りながら、吸血を始めた。

結婚している女のひとを襲うとき、犯すのが礼儀なのだと教わっていた。
けれどもそのときはどういうわけか、この場で彼女を犯してはいけないと思った。
彼女もまた、自分が犯される危機に立っていることを直感したようだった。
そして、俺がどうにか自制するのまで、見通したようだった。
さいごまで紳士的に振る舞おうとしたたことを、彼女がどうやら評価しようとしてくれている様子なのを感じて、
俺は心から良かったと思った。
彼女は翌々日の勤め帰りにここを通ると、次のアポイントをくれた。
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