FC2ブログ

妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

見せたあと。

2019年05月27日(Mon) 05:11:46

「ドキドキしちゃった」
娘がいった。
「のぞき見したの?しょうがない子ね」
母親がたしなめた。
「だって・・・気になるもの」
「手当をしてくれる気だったのね」
ちゃぶ台のすみに控えめに置かれた包帯やばんそうこうを、彼女は淡々と見やっていた。
「こういうときには、タオルも余計に用意しておくものよ」
冷静な言葉の響きに、彼女の娘――加代子さんは確かに、圧倒されていた。
彼女のほうが一枚も二枚も、役者が上なのだと、娘である加代子さんはすぐに、納得したに違いない。
「でもありがとう、気にしてくれて」
彼女は頬を和らげて娘をねぎらうと、それでも続けていった。
「だいじょうぶよ、あのひと、私を死なせるつもりなんてないから」
ゆったりとした声色は、謡うようになおもつづいた。
「私のことを死なせずに、私の血をずうっと、愉しみ続けたいのだから」
加代子さんはまじまじと、母親を視た。
人に恋するというのは、こういうことなのか――
見開かれた瞳に、そう書かれているかのようだった。
加代子さんは母親の後ろに回り込み、甘えるように両肩を抱きしめて身を持たれかけると、いった。
「母さんおめでと。父さんもきっと、よろこんでいるよね」
加代子さんは自分の母親に、女の先輩を見ているのだろう。
それは賢明で正しい見方だった。

「でもきっと、あの人、あなたの血も吸うわよ」
母親の言葉は、娘の胸に射込まれるように、静かで鋭かった。
「そう・・・」
娘は薄ぼんやりとこたえた。
「あたしそれでも、かまわない」
「そうなの?」
「うん、かまわない。母さんの貧血の埋め合わせになるのなら――」
きっと加代子さんには想う男性はまだいないのだろう。
彼女はまだどこまでも娘であって、女ではなかった。
娘は母親の身体を気遣い、自身の身に及ぶ純潔の危機には気が回っていないようだった。
「お気をつけなさい、男のひとは怖いから」
女の先輩は、娘を訓える姿勢を、どこまでも崩そうとはしなかった。


つい数刻ほど前のこと――
仏間に引きこもった彼女と俺とは、吸血鬼のやり方で睦みあっていた。

凛とした彼女の首すじを、せわしなく這いまわる唇を。
上品に装われたストッキングにふるいつけられ、卑猥なよだれで濡れそぼらせる舌を。
切なげに肩を揺らしながらの息遣いを。
乱されたブラウスの襟首から覗くスリップのレエス飾りを。
乱れあうふつうの男女と変わらない、悩ましく絡み合う手足を。
もっと、もっと・・・とうわごとのようにくり返す囁きを。
ふすまのすき間から、彼女の娘はどんな想いで見つめつづけていたのだろう?

それでも彼女は、俺が自分の母親に加える行為に、邪魔だてをしなかった。
吸血される母親を目の当たりに怯える娘としてではなく、
愛情の込められた腕のなかに安住する彼女のことを、同じ女として肯定したのだろう。
背後から注がれるまなざしに敵意も嫌悪も込められていなかったことを背中で感じながら、
逆立つほどに勃っていた股間を露骨に押し付けることをかろうじて回避した自分の理性に、俺は心からの安堵を覚えていた。

母親は娘に、わざと見せたに違いない。
お仏壇の前で乱れることも。
けれどもそのまえに、いまの恋人が、お仏壇に敬意を示すことも。
そして亡夫のために守り通してきた女の操を、遠からず俺に捧げようと思っていることまでも。
前の記事
降霊術
次の記事
娘を紹介される。

コメント

コメントの投稿

(N)
(B)
(M)
(U)
(T)
(P)
(C)
管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
http://aoi18.blog37.fc2.com/tb.php/3800-70f1a950