淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
娘は座をはずし、俺たちは部屋を変えた。
2019年05月30日(Thu) 07:31:41
――ところで、あなたは加代子の血も狙っていますね?
≪エエ、大好物の処女の生き血ですからね≫
ご主人がこの問いに対する答えをじつは恐れているのを知りながら、俺は臆面もなくそう言い放った。
傍らで加代子さんが息をのむのを、気配で感じながら。
――そうですか、やっぱり。
声色に、父親としての寂しさがありありと響いている。
すこし萎えかけた俺の気分に、ご主人は却って気を使い、とりなすようにつけ加えた。
――家内が貴男を家に連れてきた時点で、娘の運命も定まったのです。
家内も承知のうえでそうしたことですし、わたしは家内の考えに反対をしません。
貴男は遠慮なく、貴男の獲物をお取りなさい。
≪ご不満でしょうね?奥さんだけで満足せずに、娘にまで手を伸ばすなど≫
――いえ、必ずしもそうではありません。
ご主人は、不思議なことを口にした。
――むしろ、家内を満足させた同じ身体が娘を大人の女に変えることは、
そんなに悪いことではないと思っている。いつかは娘も大人の女になるのです。
≪物わかりのよいご主人ですね≫
――さぁ、はたしてどうでしょうか。
けれどもやはり、娘の行く末は心配なのです。
できればふつうに結婚して、子供を作り、齢を重ねて行ってもらいたい。
俺は昭代さんと顔を見合わせた。
「それはあたしもそう思う」
昭代さんは、まじめな母親の顔に戻っていた。
俺も、娘を想う彼らの前では、神妙にならざるを得なかった。
――加代子がだれを初体験の相手に選ぶかは、本人が決めることだけれども、
どうか選択の自由は与えてやってもらいたい。
お婿さんができるまで処女を守り通すのか、それ以外のだれかと契るのか。
それともあなたにたぶらかされるまま、女になってゆくのか・・・
「きっと、たぶらかされちゃうわよ。このひと、初めからそのつもりなんだから」
”お母さんたら!”
加代子さんは初めて、顔を赤くした。
――あまり顔を赤らめていると、血を吸い取られてしまうよ。
ご主人は、父親らしい気づかいをみせた。
――そろそろ加代子は、はずしなさい。嫁入り前の娘が目にするものではない。
”ハイ、そうします!”
加代子さんは、ご両親のまえでは礼儀正しい娘で通しているようだった。
けれどもその横顔にありありと、言葉とは裏腹な意思がよぎっているのを、三人の大人たちはだれひとり、見逃してはいなかった。
きっと彼女は、これから母親がすることをお手本にするつもりなのだろう。
――加代子は加代子。好きにすれば良い。
ご主人が、わたしだけに聞こえる声で告げた。
加代子さんが部屋を出、ご主人の気配が消えると、昭代さんはもういちど、お仏壇に手を合わせた。
わたしも昭代さんにならって、ならんでご主人のお仏壇に向かって、手を合わせた。
ひとしきり神妙に頭を垂れた後、「いただきます」といったら、昭代さんにひっぱたかれた。
「ここではさすがにちょっと」としり込みする昭代さん。
もっともだと思い、彼女の居室に移動した。
昭代さんは喪服を着ていた。
夫を弔うための装いだった。
夫を弔うための装いのまま自分の情夫を愉しませることが、なにを意味しているのか知っている様子だった。
彼女は夫に忠実な未亡人の表向きのまま、俺の奴隷に堕ちる気なのだ。
ふとためらいの色を泛べた横顔に、俺はどす黒い衝動を覚えた。
漆黒のスカートのうえに行儀よく重ねられた掌を押し包むようにひっつかまえて、
横抱きに抱きすくめ仰のけられたおとがいに引き込まれるようにして、
俺は唇に唇を、重ねていった。
横目で見たご主人の遺影は、イタズラっぽく笑っているように見えた。
- 前の記事
- 喪服の人妻、初めて堕ちる。
- 次の記事
- 心まで許してしまったのは、いつ?
- トラックバック
- http://aoi18.blog37.fc2.com/tb.php/3803-6a27e61a