淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
黒の日 赤の日 ピンクの日。
2019年09月08日(Sun) 07:01:46
「きょうは黒の日だな」
年配の吸血鬼は、志郎の母親・奈津希の首すじを咬みながら、ひとりごちた。
「たしかに黒の日ですね」
吸血鬼よりもやや若めなその片棒担ぎは、志郎の妻・美禰子のふくらはぎを咬みながら、それに応じた。
吸いつけられた唇の下、薄地の黒のストッキングが破けて、白い素肌を滲ませる。
奈津希も美禰子も、黒一色の喪服姿。
二人の夫たちも同様に、重たい喪服を着込んだまま、さっきから首すじにつけられた咬み痕を抑えながら、呻きつづけていた。
二組の夫婦は、それぞれ同じ間隔の咬み痕をふたつずつ、首すじに綺麗に並べていた。
先に夫を咬んで黙らせてしまってから、それぞれの妻を襲ったのだった。
法事と偽って呼び出されたこのあれ寺には住職はおらず、吸血鬼の巣窟と化していた。
二人の夫は、自分の妻たちを吸血の犠牲に供するために連れてきたようなものだった。
「大奥様の足許も、辱めさせていただくぞ」
吸血鬼は、奈津希が嫌そうに眉をしかめるのを無視して喪服のスカートをたくし上げると、
黒のストッキングに包まれた太ももに咬みついた。
むざんな伝線が拡がり、奈津希の太ももの白さが眩いほどにあらわになる。
奈津希は気丈にも相手を白い目で睨みつけたが、
吸血鬼はその視線をくすぐったそうに受け流しながら、さらにもう片方の脚にもかぶりついていった。
「おみ脚も美味ですな」
吸血鬼は貴婦人をからかった。
「きみたちは一体、どうしてこんなひどいことをするのか!?」
志郎の父は押し殺すような苦しげな声で、苦情をいった。
けれども男ふたりの脳裏にはすでに、吸血されたときにしみ込まされた毒がまわり、理性を喪いかけている。
女たちもまた、柔肌にたっぷりとしみ込まされた毒にやられて、気高いプライドを蕩けさせられかけていた。
彼女たちの顔色の悪さは、失血だけが理由ではなかったのである。
「ご主人、もう少しの辛抱です」
吸血鬼の返事を待つまでもなく、志郎の父はウウッと呻いて床に転がり、毒液の浸透具合を身体で告げてしまっている。
だれもが、わが身と家族の身にどんな変化が起きているのかを自覚していた。
吸血鬼たちはふたたび女たちのうえに覆いかぶさって、血を啜りはじめた。
夫たちはそのありさまを視ても、さっきほどの不平は鳴らさず、ただいっしんに妻たちの受難を見守りつづけている。
ストッキングを片方だけ脱がされて、女たちは夫たちのまえで、犯されていった――
「きょうは黒の日?どういうことだ?」
志郎の父が思い出したように呟いた。
「9月6日なのでね、それで”黒の日”」
若いほうの吸血鬼がこたえた。
「奥さんたちの貞操喪失記念日だ、よく憶えておかれるとよろしい」
年配の吸血鬼がつけ加えた。
「ああ・・・そうさせてもらうよ。志郎も忘れないように。美禰子さんの記念日だから」
「ああ、はい・・・そうします」
志郎も頭を抱えながら、いった。
女たちも、”目覚めて”しまったようだった。
自分を咬んだ吸血鬼と夫との間に穏やかな空気が流れ始めたのを感じ取ると、
再び身体を重ね合わせてきた侵入者たちに対して、自分から身体を開いて、
濃い媚態をあらわにしながら、おおいかぶさってくる逞しい背中に腕をまわしていった。
女ふたりの喪服のブラウスは引き裂かれ、剥ぎ取られていった。
きちんとセットした黒髪はほどかれて床に広がり、
吊り紐のちぎれたブラジャーは胸元から取り去られて、部屋の隅へと放り捨てられた。
腰周りから脱がされたショーツも同じように、ブラジャーの近くに放り捨てられた。
片脚だけ脱がされた黒のストッキングは、もう片方の脚のひざ下までずり降ろされて、皺くちゃにされていた。
彼らは、婦人たちの礼装を好んで辱めようとする習慣を持っていた。
理性を喪った妻たちの痴態は、同じく理性を喪った夫たちをそそりたてていた。
犯される妻を見て、ふたりの夫は明らかに欲情していた。
はしたないと思いながらも目を離せなくなっていた。
長年連れ添ったしっかり者の奈津希も、
たおやかな名流夫人と謳われた美禰子も、
吸血鬼の一時の性欲を満足させるために、娼婦のように振る舞いつづけたのだ。
ひとしきり嵐が過ぎると、志郎の夫はいった。
「黒の日ではない。赤の日だ」
妻の首すじから滴る血潮が、夫の網膜を妖しく彩っていた。
「黒の日でもよろしいではないですか」
年配者の奈津希は、さすがにもとの淑やかな口調を取り戻していたけれど、
ほつれた髪と乱れた着衣とが、その努力を裏切っている。
「女のたしなみを辱めるのはおやめになって」
破れたストッキングを片方だけ脚に通したまま、気丈にもそういって吸血鬼どもをたしなめた彼女は、
ハンドバックに忍ばせていた穿き替えを脚に通すと、自分の情夫に真新しいストッキングの舌触りを愉しませてしまっていた。
嫁の美禰子も義母の振舞いにならって、穿き替えを脚に通して自分の情夫に愉しませてしまっていた。
「女のたしなみとは、ストッキングの穿き替えをハンドバックに入れることかね?」
吸血鬼は女たちをからかったが、途中で真顔になると、「むしろ感謝している」と呟いて、
モノにしたばかりの情婦たちを愛情込めて抱き返していた。
「そうか、やっぱり黒の日かな。喪服を餌食にされたのだからな」
志郎の父は謹直な性格だったので、日ごろ使いなれない言葉を口にする舌がもつれていたけれど。
そんなささいな不首尾を聞きとがめるものはいなかった。
「ぼくにとっては、ピンクの日かもしれません」
志郎はいった。
「美禰子さんのことを、以前から見染めていたのです」
若いほうの吸血鬼は、志郎の勤め先の同僚だった。
つい先日、今しがた奈津希を犯したほうの吸血鬼に夫婦ながら血を吸われ、妻を愛人の一人として加えられてしまっていた。
妻を差し出した返礼に半吸血鬼にされて、若い女性を襲い放題の身分を得ていたのだ。
「奥さまを彼の愛人にしてもらうことは、この街では名誉なことですよ」
志郎の父にそういうと、「ぼくの場合はそうでもないけど」と、申し訳なさそうに同僚を振り返った。
「ぼくはご夫婦の関係を尊重します。ぼくのときも、そうしてもらっているから」
志郎の同僚は日頃から、夫婦仲が良いことで評判だった。
「わたしはそろそろおいとまするよ。母さんもそろそろ限界だからね」
志郎の父は志郎にいった。
たしかに、提供可能な血液をほとんど吸い尽くされてしまった奈津希は、痛々しいほど顔色をどす黒くさせていた。
「途中までお送りしよう」
吸血鬼はマントを取り、奈津希の身体から剥ぎ取った下着を、マントの隠しにねじ込んだ。
きょうの記念に持ち帰るつもりらしい。
若いほうの半吸血鬼も同じように、美禰子の下着をポケットにしまい込んだけれど、志郎はそれを制止しようとはしなかった。
「父さん、ぼくはもう少しここに残ります――美禰子もいいよね?」
すんなりと頷いてしまったことに恥じる美禰子のことを、だれもが気づかないふりをした。
「きみたち夫婦にとっては、たしかにピンクの日かもしれんな」
志郎の父は息子夫婦にいたずらっぽく笑いかけると、奈津希を庇って裂け目だらけの衣装の上から自分の上着を羽織らせた。
そして、自分の妻を襲った吸血鬼と何か言葉を交わしながら、息子夫婦に背中を向けた。
「なにを話し合っているのかしら」
「たぶん、奥さまを逢わせる頻度ですよ。いくら好きでも身体の負担になる逢瀬は彼のほうで遠慮するのです」
「きみもそうなのか?」
「それが人妻をモノにした男の務めかと――」
志郎は美禰子のほうを振り向いた。
アップにしていた美禰子の黒髪は乱されて、肩に長く流れていた。
犯されたばかりの自分の妻がそこにいた。
「もう少しお邪魔して、愉しんでいこう」
「そうね」
美禰子はためらいもなく、夫の目の前で重ね合わされてくる情夫の熱い唇を受け容れていった。
「黒の日じゃなくて、ピンクの日にしようね」
息荒く組み敷かれながら、美禰子は夫に目を向けて、イタズラっぽくウィンクをした。
あとがき
「黒の日」第二作ということで。^^
人妻が喪服姿を襲われるから、「黒の日」。
吸い取られた生き血に赤く矣泥られてしまったから、「赤の日」。
でもさいごには、夫まで巻き込んで愉しんでしまったから、「ピンクの日」。
おあとがよろしいようで。^^
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