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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

ハイソックス男子の呟き。

2019年10月01日(Tue) 06:48:43

初めて襲われたとき、ぼくは思わず口走っていた。
「死なさずに血を吸うことって、できないんですか!?」
どうしてそんなことを言ったのか、いまでもよくわからない。
けれどもぼくを追い詰めたその男は、それこそしんけんな顔つきで、
「もちろんそうするつもりだ」
といったのだった。
そして、答えの意外さにびっくりしているぼくをつかまえて、首すじを思い切り強く咬んだのだった。

初めての吸血に、うっとりとなってしまったぼくは、
そのままその場に倒れて、足許を舐められるのを心地よく感じながら、気絶した。
高校生にもなって、ぼくは半ズボンにハイソックスのスタイルを好んでいた。
ふとわれに返ったときには、気に入りのチャコールグレーのハイソックスは血に濡れて、あちこち咬み破られていた。
ぼくが露骨に迷惑そうな顔をすると、彼はすまないね、と言ってくれて、
それでもあつかましくも、もう片方の脚にまで、咬みついてきた。
ハイソックスが好きなんだ――そう直感したぼくは、
狙われたほうの足許からずり落ちかけていたハイソックスをとっさにひざ小僧の下まで引き上げて、
好きなだけ咬み破らせてしまっていた。

その日以来、ぼくはその公園で男と、待ち合わせるでもなく待ち合わせるようになった。
足許には、彼を悦ばせるために、色とりどりのハイソックスを、代わる代わる履いてきた。
彼はぼくのコレクションを誉めながら、一足一足、くまなく舐めて愉しんでから、咬み破っていった。
ぼくもまた、惜しげもなく脚をさらして、彼の欲望に応えていった。

彼女ができるとぼくは、まるで恋人同士のように定期的に逢っている吸血鬼のことを打ち明けた。
美奈子さんは面白そうに瞳を輝かせてぼくの話に聞き入って、
貧血になるといけないから、私も寄付しようかな・・・と、言ってくれた。
ふたりを引き合わせると彼は、似合いの彼女だね、といって、ぼくのために慶んでくれて、
それから脚を咬んでもいいという彼女の足許にかがみ込んで、彼女のふくらはぎに咬みついていった。
その日の彼女は、黒のダイヤ柄の、着圧ハイソックスを脚に通していた。
「痛くないように咬んでくれるんですね」
彼女が感心していると、
「礼儀ですから」
と、彼は奥ゆかしくこたえる。
「じゃあもう少し、良いですよ」
と、なおも吸血をすすめる彼女の足許から、
彼は無遠慮にびりびりと、着圧ハイソックスを破り取っていった。

こと果てて、「ごちそうさま」をしたあとに、
「いつもハイソックスなんですか」と問う彼に、
「イエ、ストッキングと半々ですね」と応える彼女。
そのやり取りを面白がって聞いているぼく。
この三人は、きっとうまくいく。ふとそんなふうに感じた。
「今度はストッキング穿いてきますね」
別れ際のひと言に、彼はとても嬉しげだった。

それからは二人連れだって彼のところに遊びに行って、
さいしょにぼく、それから彼女。
いつもその順番に、咬まれていって、
ウットリするほどもうろうとなった目線の先で、吸血鬼に襲われる彼女の姿に陶然となって見入っていた。
ただひとつだけ、気になったのは。
彼が、既婚女性を咬んだ時にはセックスまで遂げてしまうという習性を持っていること。
「結婚したら、ちょっと遠慮しますね」
思慮深い彼女はそういってくれたし、彼も引き留めたりはしなかった。
そして結婚後はぼくだけが、彼にハイソックスを咬み破らせてやる習慣をつづけるようになった。
少し習慣の中身が変わったとしたら、
半ズボンの下に穿いていく靴下が時おり、妻がいちど脚に通したストッキングに変わることだった。
「不倫するわけにいかないけど、気持ちはあるから」と告げた妻の、せめてもの心遣いだった。

その均衡が崩れる日が訪れた。
ぼくが長患いをして、彼のところに行けなくなった時のことだった。
「私行ってくる」
美奈子は意を決したように起ちあがり、
「その気のない人が襲われたらよくないでしょ」
といった。
ストレートな言い方に、言い訳がましさは微塵もなかった。
「彼によろしく」
ぼくはせめてものことと、明るくいって、彼女を見送っていった。

どうしても心配だったぼくがそのあと彼女を尾(つ)けて彼の邸に入り込み、
いちぶしじゅうを見届けてしまったことは、いうまでもなかった。
彼の腕の中、妻はちょっとだけ泣いて、涙を見せまいとしてすぐに指先で拭うと、
彼はその指を唇に持って行って、軽く含んだ。
そしてこんどはいとおしむように、しっかりと妻のことを抱きとめた。
その瞬間、ふたりは本当に結ばれたのだとぼくは感じて、
妻の貞操が喪われたことよりも、むしろ二人の心の絆を慶んでいた。

二人合わせたら、なん足の靴下を、彼に愉しまれてきたことだろう?
まだまだ愉しませてあげようね・・・
夫婦で交し合った笑みに、曇りはない。
ぼくがあとを尾(つ)けたことを咎めもせず、話題にも出さない妻――
二人の間では表向き、妻はいまでも貞淑だということになっている。
たぶんきっと、それが真実なのだと、いまでは思う。
ひとがきいたら、笑うかもしれないけれど。


あとがき
夫の親しい吸血鬼に理解を示す婚約者というのが思い浮かんで、キーをたたいてみましたが、少し散漫になってしまったかも。
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