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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

樹に縛りつけられた某夫人の伝説。

2019年10月06日(Sun) 07:44:39

「太さがちょうどいいのかなあ」
公園の樹の幹を抱きつくようにして抱えながら、ケイタはいった。
この樹は、近所では、

「結わえられたご婦人の樹」

と、意味ありげに呼ばれていた。

かつて某夫人がこの公園で吸血鬼に襲われて生き血を吸い取られたうえに、この樹に縛りつけられて犯されたのである。
それに――
ケイタの傍らにいる妻の美紀子が同じ目に遭ったのが、つい先週のことである。

先月引っ越してきたばかりだった。
ケイタの実家に同居したがらなかった妻との妥協点が、この街への移住だった。
街に住むこと自体には、美紀子は異を唱えなかったのだ。
「吸血鬼の棲んでいる街だよ?怖くはないの?」
夫にそう水を向けられても、
「だってあなたも此処で育ったんでしょ?」
というばかりだった。

移り住んでからひと月ほどの間は、なにごともなかった。
けれども、やっと落ち着いた今時分になって、ケイタの日課である夕方の散歩中、公園で吸血鬼に遭遇したのだった。
気絶寸前まで血を吸い取られたケイタは自宅に電話をかけさせられた。
「この身体じゃ家までたどり着けないだろう。奥さんを呼びなさい」
吸血鬼の言い草の裏の意味を知りながら、ケイタは家に電話をかけていた。
「少し時間がかかってもいいからさ・・・よそ行きのスカートにストッキング穿いてきて」
意味ありげに告げるケイタは、美紀子が危険を感じてこの場に姿を見せないことを半分願った。
けれども美紀子は落ち着いた物腰で公園に現れたし、
お約束通りに?夫の血を吸った牙を白い首すじに突き立てられて、うら若い血を吸い取られていった。
男はケイタに、
「すまないね、でもこれも何かのご縁だと思ってもらいたい」
といいながら、ケイタが昏倒しているのをいいことに、
失血でふらふらになった美紀子を目の前の樹に縛りつけて、スカートをたくし上げていった。
ひざ小僧の下までずり降ろされたストッキングのふしだらな引きつれが、いまでもケイタの網膜を狂おしく彩っている。

旧知の吸血鬼と再会したケイタは、久しぶりに血をごちそうした。
それから、妻を紹介したいといって自分から呼び出して、美紀子の血も吸い取らせた。
夫の幼なじみの牙にみせられた美紀子は自分から願って、ブラウスを剥ぎ取らせて、
夫の前での不倫のセックスに耽った。

いまでは、そういうことになっているらしい。
夫婦ともに嫌がっていないことに、それから毎日のように、逢瀬はくり返された。
貧血で体調が思わしくない日でも、不倫セックスだけは、夫の同席の上で続けられた。
「あいさつみたいなものだからネ」
吸血鬼はそううそぶいたが、ケイタもまた美紀子に「彼がきみにあいさつをしたがっている」といって、
妻を公園に連れ出していた。

「でも某夫人の話って、どうしてみんな知っているのかしら」
美紀子がいった。
意外な質問にケイタは小首を傾げながら、
「さあ・・・自然に広まったんじゃないかな?
 人の口には戸が立てられないものだからね。
 当人がひた隠しにしていても、広がってしまったんだろう。
 考えてみれば、その某夫人も気の毒なことだね」

ケイタはふと思った。
この樹に縛りつけられて犯されたという某夫人は、いまでもこの街にいるのだろうか?
悪い評判が経って好奇心の満ちた視線にさらされて、耐え切れずに人知れず街を去ったのではないだろうか?
たしかに、夫婦ながら吸血鬼に襲われた者は、この街にはとても多い。
奥さんと吸血鬼がそれをご縁につき合い始めて、それをご主人が黙認したりいっしょに愉しんだりしているケースも、とても多い。
けれども、樹に縛りつけられて・・・という”伝説”には、猟奇的な、背徳的な香りがぷんぷんと漂っている。
先週この樹に縛りつけられて犯されたばかりの妻をこの公園に連れてきて、しゃあしゃあと散歩などしていることを棚に上げて、
ケイタは恥じて姿を消したであろう某夫人のことを思ってひとしきり嘆いた。

ばかね。
傍らで美紀子がクスッと笑った。
「なんでもわかっているような顔しちゃって、やっぱりあなたは女の気持ちがわかっていないのだわ」
ケイタはあわてた。
美紀子がこういう含み笑いを浮かべて反論するときには、決まって言い負けてしまうからだ。
「そのひとね、きっと自慢したんだと思うの」
小づくりな赤い唇から洩れた囁きは、意外な説を唱えはじめた。

樹に縛りつけられて犯されちゃうなんて、それは羞ずかしいことよ。
お外で、だれが視てるかわからないでしょう?
それに、こっちのつごうも考えないで、力づくでモノにされちゃうわけだから。

ご主人だって、某夫人に求婚したときは、たいへんだったはずよ。
結婚の承諾をもらうまでには、映画に連れて行ったり、美術館にお誘いしたり、
高級レストランでごちそうしたり、色々だったと思うの。
でも、一生一度しかしないような努力を重ねてようやく勝ち得た奥さんの身体を、
行きずりの吸血鬼に自由にされちゃうわけですもの。
悔しかっただろうなー。
でも、自分のたいせつな奥さまを無償で提供しちゃえるというのは、ご主人とその吸血鬼とは、よほどの関係だったと思うの。

某夫人はそうしたこともすべてわきまえたうえで、その吸血鬼とお付き合いを始めたんじゃないかしら。
だから、浅はかに自慢したのではなくて、いろいろな意味が込められていると思うの。
もしかするとそれはご主人に対する怨みかもしれないし
――でも怨みだけだったら、離婚しちゃうかもしれないわね――きっとそうじゃない――
むしろ、結婚しながら浮気をつづけて、意趣返しをしようとしたのじゃないかしら。
ダンナの前でのセックスで、吸血鬼もダンナのことも満足させながら、ダンナに黙って秘密の逢瀬も愉しんだのじゃないかしら。
それをだれにも言わずに黙っているなんて、愉しすぎて考えられなくて。
そのうちに、あなただけに教えてあげるわねって、ごく親しい人にだけ打ち明けるようになって。
そのうちだんだん慣れてくると、「あなただけ」の「あなた」がどんどん拡大していって、
とうとう周りの人みんなが知るようになったんだわ。
だから公然の秘密みたいになって、「ご主人も嫌がっていないみたい」となって”事件性”が消えちゃうと、もうだれも話題にしなくなったのだと思うの。
きっと某夫人のご主人も含めて、みんな知っているのよ。
某夫人がだれなのか――
そう・・・たぶん知らないのは、あなただけ――

え?

ケイタは耳を疑った。
ぼくだけが知らない??
某夫人って、だれのことだ?
混乱するケイタをまえに、美紀子は無慈悲なまでによどみなく、話をつづけた。

あなたのお母さま。

ケイタは愕然とした。

初めてわたしが襲われて、ぼう然自失になって家に戻ったとき、たまたま家の近くにいらしてて、
ブラウスが破けたりスカートに泥が撥ねていたりしたのをご覧になって、すぐにお察しになったのね。
「あなただけには話しておくわ」って、ご自分が襲われたときの出来事を、こっそり聞かせてくださったの。
「ついでにあの子にも話しておいて頂戴」って、お願いされたわ。あなた知らなかったのね。
お母さま、ふつうに真面目な主婦だったから、さいしょに犯されたときにはうろたえていらしたけれど、
そのうち慣れて、お父さまの前でも平気でお相手できるようになって、
そのうちお父さまには内緒でお相手に逢うようになって。
ダンナを裏切るのって、楽しいわよって仰っていらしたわ。
どんなに仲の良い夫婦でも、お互いが嫌だって思うときってあるでしょう?
そういうときには、逢いに行くんですって。もちろんナイショで。
夫に秘密を作るとね、悪いかなって気になって、もとの献身的な主婦に戻れるのよ ですって。
私が献身的な主婦になるかどうかはわからないけれど・・・
でも、ダンナを裏切るのは、楽しいわ。

さいごのひと言を囁くとき、さすがに美紀子の瞳は張りつめたけれど。
夫の反応に安心したのが表情に出て、小づくりな口許から白い歯がこぼれた。

きのう私を犯した人のなかに、年増好きな人がいらっしゃったの。
うちの母も未亡人していて寂しそうだから、今度紹介してあげようと思ってるーー
そんな身の毛もよだつようなことをさりげなく口にすると、美紀子は夫に囁いた。

お母さま、仰っていらしたわ。
親子は似るものなのね――って。


あとがき
前々作「妻を縛りつけた樹」と、おなじ樹なのかもしれません。
一連のお話はもちろん、あくまでもフィクションです。
良い子は決して真似しないようにしてくださいね。
(^_-)-☆
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