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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

吸血マンション ~弐号室~ 住人 丹川優一 めぐみ 優香

2019年10月19日(Sat) 16:35:50

勤め先で打ち合わせをしている最中に、法事帰りの妻は隣家で吸血鬼に犯されていた――

マンションでお隣のご一家は、吸血鬼とトラブって家族が崩壊したと聞く。
妻のめぐみが、そういっていた。
まさかそれを口にした本人を発端に、我が家も似たり寄ったりの運命をたどろうとは、
そのうわさ話を横っ面できいていたわたしはもちろんのこと、
うわさ話をしかけてきためぐみ自身さえも、夢にも思わないことだった。

手引きをしたのは、お隣の奥さんだった。
奥さんはご主人を吸血鬼に吸い殺されて、
まさか吸い殺した本人とは知らずに接近してきた吸血鬼と、良い仲になっていた。
未亡人なのだから、だれもとやかく口出しはするまい。
そこまでの黙契さえ、なかったように思う。
だれもがだれもに対して無関心なプライベート空間。
それがマンションと呼ばれる住居の本質なのだから。

めぐみは血を吸われることにすぐに耽溺してしまい――彼らにしてみれば相性が良いという言い方になるらしい――たったの数日後には、娘の優香を引き合わせてしまっていた。
そんなわけで、わたしが妻の様子をおかしいと感じるようになった時には、妻と娘のすべてを奪われてしまったあとのことだった。

家に電話をしても、すぐに電話口に出なくなった。
休みの日でも外出をくり返し、隣家にお邪魔している時間が特に長い。
周囲からの情報との本人の言うこととが、いちいち食い違う。
街で男に伴われて歩いているところを見かけたと人に言われ問い質しても、その日は一日家にいたと言い張るばかり。
そのくせ、勤務時間中に少なくとも5回は鳴らした電話に、彼女は一度として出なかった。
なによりも。
服装がどことなく、派手になった。
化粧もほんのりと、濃くなった。
タンスの引き出しの奥に隠し持っている真っ赤なスリップは、わたしにはまるで見覚えがなかったし、
休みの日に独りいそいそと出かけていったときには、一見地味な肌色のストッキングに、つややかな光沢がよぎっていた。

きょう切り出そうか、明日にしようか・・・と思いまどっているときに。
隣家のご主人に誘われた。
いちどは吸血鬼に吸い殺されたといううわさだったのに、彼はいつの間にか家に戻っていて、
なにごともなかったかのように勤務に戻っていた。
ちょっと、面白いものを観に行きませんか?
部屋が隣で出勤時間が似通っていたとはいえ、部署も違い接点も少ない彼とは、顔を合わせれば会釈する程度の間柄。
まさかお互いの妻が共通の愛人を抱えているなどとはつゆ知らず、
わたしはなんとなく気づまりを覚えながらも、気の乗らない彼の誘いを断る勇気を持たなかった。

連れていかれたのは街はずれの、古い洋館だった。
なにかの資料館なのだろうか。表の表札は夕やみにまぎれてつい見落としてしまったけれど。
施錠もされておらず広いエントランスを持ったこの洋館は意外に気分のよい空気を持っていて、
訪問客を歓迎していることをその空気が語っているようだった。
「ほら、御覧なさい。200年前に実用されたドレスだそうですよ」
お隣のご主人――市間々さんは、古いものに対する意外なくらい深い造詣を披露しながら、ゆったりと広間や廊下をめぐって、展示されている調度について語ってくれた。
見てくれは謹厳そのもの、それは帰宅してからとそれ以前とでも、まったく変わりはなかった。
いたって無趣味にみえる彼は、いったいどこでこれほどの知識を身に着けたのだろう?
訝しいと思う遑もなく、彼は一つのガラスケースにかがみ込んで、目を細めた。

「御覧なさい。裂け方がなんとも言えず、粋でしょう?」
指さしたガラスの向こう側には、婦人用の様相の喪服が引き裂かれた状態で一着分、飾ってあった。
元の持ち主の姿をなぞったかのように、大の字に伸びた姿勢を取っていて、
チリチリに裂けた黒のストッキングまでもが、脚の位置をなぞるように配置されていた。
「これは・・・なんとも悪趣味ですね」
わたしが顔をしかめると、彼はおだやかに微笑みながら、いった。
「そんな風におっしゃらないでください。じつはこれ、家内の持ち物なんですよ」
え?と訊き返すわたしにこたえずに、彼は流れるような調子で、低く落ち着いた声色であとをつづけた。
「家内のものなんです。わたしを土葬にした後本堂に呼ばれて、そこで襲われたんですよ。
 前から狙っていたんだそうです、家内のことを。
 それに、ストッキングを穿いた脚に咬みつくのが好きで、
 わざわざ家内に黒のストッキングを穿かせるだけのために、わたしの血を全部吸い取ったんですからね」
信じがたいことを淡々と語りつづける彼は、それでも彼に対して怒ってはいない、とわたしに告げた。
むしろ、いままで体験したことのない歓びを、彼は与えてくれました。
血を吸われる歓び。血を吸う愉しみ。わたしはそのどちらも味わうことができているのです。
それともうひとつ。
妻が犯されるところを覗く愉しみ――
これ、覚え込んでしまうともう、抜け出すことができなくなるんですヨ。
ふふふ・・・といかにも愉しそうに、彼は哂った。
そして、隣のガラスケースに歩みを進めると、ケースの陳列物を指さして、言ったのだ。
「御覧なさい。こちらは、貴方の奥さまの持ち物です。一式綺麗に飾られていますね。
 裂かれ方が、粋でしょう?」
自分の妻のものを紹介したのと同じくらい、乾いた声色だった。
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