FC2ブログ

妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

事務職員の妻

2019年11月19日(Tue) 07:47:46

あなたがこんな学校に就職するからよ。

妻は嫌悪もあらわに、わたしを見すえた。
初めて吸血鬼の誘いを受けた夜。
非難の言葉と裏腹に、妻はいちばん良いスーツを着込んでいた。

吸血鬼がはびこる街で、わたしの勤務先の学校は、吸血鬼の受け容れを決めた。
生徒の登下校の安全を守るため――都は表向きで、校長夫妻がたぶらかされたからだ。
市長も、病院長も、街の名士のたいがいは血を吸われて洗脳されて、
夫人や娘、息子の嫁までも、吸血鬼にゆだねていた。
ひと晩愉しむと、女たちは帰宅を許されて。
その夜を境に、いちど咬まれた女たちは、こんどは自分のほうから、忍び逢うようになってゆく という。

学校が吸血鬼受け容れを決定したとき。
吸血の主な対象は、女子生徒たちだった。
父兄も承諾の上だった。娘の名誉が損なわれないという条件付きで。
そして、生徒たちに手本を見せるために女教師たちが、
もう少し血液に不自由なく過ごしたいという要求のために、女の事務員たちが、駆り出されていった。
男性事務員の妻たちに触手が伸びたのは、もう、ことのついでのような状況だった。

刺身のつま。というけれど。
ごく軽い添え物のようにして、わたしの妻の貞操が汚される。
けれども、そんなシチュエーションになぜか昂りを覚えてしまって、
「吸血鬼がきみを望んでいる。明日の夜招かれているから、ひと晩お相手してくるように」
つとめて事務的な口調で妻にそう告げたとき。
なぜか語尾が昂りに震えていた。
それを知ってか知らずか。
妻はいった。

あなたがこんな学校に就職するからよ。


ひと晩が過ぎた。
長いひと晩だった。
明け方、妻は帰ってきた。
送り出したときは徒歩だった。
遠ざかっていくハイヒールの足音が、まだ呪わしいほど耳の奥に沁みついている。
けれども帰りは車だった。
彼がハンドルをとって、運転してここまで連れてきてくれたという。
玄関にぴったりと寄せられた助手席のドアが開くと、
引き裂かれたブラウスからおっぱいをまる見えにさせた妻が、蒼い顔をして座っていた。
妻はいちどは車を降りかけたが、
「やっぱり恥ずかしい。もういちど――」
と、意味不明なことを呟いた。
ドアは再びとざされて、車は爆音を残して走り去った。

ぼう然として見送ったわたしの携帯に着信をくれたのは、妻を狙った男のほうからだった。
「もう少し奥方をお預かりする。彼女の気分が落ち着くまで。お昼ごろまでには、帰宅させます。だから家にいるように」
二人きりでいるところの邪魔をするな、ということなのだろう。
テレビ電話の向こうでは、妻をヒロインにしたエロチックな動画が、まるで影絵のように流れ続けていた。
心配させまいという気づかいだろうか?
退屈させないようにという配慮だろうか?
どちらともわからなかったけれど。
おかげでわたしは心配もせず、退屈もせずに一人の時間を過ごした。

ふたたび車が乗りつけられて、助手席のドアが開くと、
朝よりもさらに着崩れしたスーツ姿の妻が、そこにいた。
おっぱいをまる見えにさせたまま。
剥ぎ堕された肌色のストッキングをひざ下までずり降ろされたまま。
妻は視られまいという意思を態度で伝えて、唇を噛んで降りてきた。
運転席の男と目が合うと、向こうは会釈を投げてきた。
わたしも会釈を返していた。
「世話になった」「どういたしまして」
まさかそんなやり取りをするわけにはいかない。
抱きとめた妻の身体は意外に弱々しく、そのぶんわたしの男に注ぐ目線はきつくなった。
男はにんまりと笑い返して、爆音だけを残して走り去っていった。

妻は無言で、家に入った。
自分が主婦をしていたこの家に、まるで他人のような顔をして、あがりこんでいった。
わたしは目を背けたふりをして、自室に引き取るまでの着崩れ姿を脳裏に収めてゆく。
長い長いシャワーの音。
まんじりともしなかったソファのうえで、所在なく待つわたし。
リビングのドアが開かれると、妻はまだ身体にバスタオルを巻いていた。

「お願い、忘れさせて」
妻はいった。
バスタオルがじゅうたんのうえに落ちた。
落ちたバスタオルのうえに妻を組み敷いて、わたしは別人のようになった熱い呼気を、開かれた唇の上に押し重ねていった。

「やっぱり忘れられない」
夕方までの長丁場のまぐわいのあと。
妻の声色は震えて、どこか悩ましげだった。
「行ってきても良いんだよ」
わたしはいった。
「ありがと。遠慮なくそうする」
妻の口から洩らされたそんな囁きが、わたしの鼓膜を毒液のように浸した。
「なに着てこうかな」
悩まし気な囁きは、なお続く。
あのひと、服フェチなのよね。破いて愉しむのはなんだか・・・だけど。
クスッと笑うひそやかな笑みさえも、どうやらいまは彼のほうに夢中ならしい。
相手のやり口を非難しながらも、相手の好みに乗ろうとしている。
そんな態度が見え見えだ。

「こないだの結婚記念日に買ってあげたワンピース、着てってもいいよ」
わたしも悪乗りをして、囁きかえしている。
「ぼくからのプレゼントだと伝えてほしい」
妻は一瞬真顔になってわたしを見、そしてフフっと笑った。
「まえから、変な人だと思ってたけど」
軽く蔑むように尖らせた唇が、言葉を交えずに伝えてくる――いまの私には好都合・・・と。

夫の愛のしるしである服を汚させる。
思いつく限り、最上の好意の表現だった。
「だめ。忘れられない――」
妻がわたしの腕のなか、そう囁いたとき。
わたしは妻と自分とを、運命にゆだねる気になった。
彼は妻を帰してくれる男。これ以上なにを望もうか?
「きみのストッキング代くらい、ぼくが稼ぐから」
股間を昂らせながらそう囁くわたしに、妻は背中で頼りにしてる、といってくれた。


あくる晩。
といっても、妻の帰宅の数時間後。
新調したばかりのワンピースを着飾った妻は、出がけにいった。

あなたがあんな学校に就職するからよ。

口ではわたしのやり方を非難しながら。
彼女もわたしも、これからの異常な日常を、愉しもうとしている――


あとがき
前作、前々作とおなじ学校が舞台のようです。
刺身のつまとはいうけれど。
そんなふうについでのように喰われてしまう、妻の貞操。
そういうシチュは、かなり好きです。
ドラキュラ映画の第一の犠牲者みたいに、ちょっとはかなげで。(^^)
前の記事
偽装された宴
次の記事
あなたはどちらに並ぶ? ~成人女子の場合~

コメント

コメントの投稿

(N)
(B)
(M)
(U)
(T)
(P)
(C)
管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
http://aoi18.blog37.fc2.com/tb.php/3892-39d55a8c