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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

墓地の裏のラブホテル

2019年11月25日(Mon) 07:01:26

洋装のブラックフォーマルを装った女たちが男に伴われて、一人また一人と、
黒のストッキングの脚を、ラブホテルのフロントへと踏み入れていく。
ここはお寺のご近所にある、うらぶれたラブホテル。
「ロマン」とありがちな名前の看板も、赤茶けた錆にまみれて、古色蒼然となっている。
お寺の裏手に広がる墓地の、そのまたすぐ隣。なんという立地なのだろう。
けれどもここは、知る人ぞ知る、法事帰りの未亡人たちが利用する好適スポットなのだ。

うようよ、うようよと。
夫たちの霊が漂っているのを知ってか知らずか、
女たちは恥知らずにも、夫の墓前で合わせたばかりの掌を、情夫の手に委ねて不貞に耽る。
日常の寂しさを埋め合わせるようにして。

「あ、あれは俺の女房だ」
霊魂のひとつが、そういってうめいた。
「うちの家内もさっき、入っていったばかりですよ」
べつの霊魂が、うめき声の主に囁きかけた。
「いまごろ、なにしてやがんだろうなあ。もう2時間も出てこない」
第三の霊魂の元妻は、かなりの美人だった。
「お熱いことで、うらやましいですなあ」
他人ごとのように冷やかす霊魂もまた、自身の嫁をそのホテルに呑み込まれてしまっている。

そんななか。
墓前に律儀に手を合わせる、一組の男女がいた。
「あれはわたしの家内です」
蒼白い光を放つその霊魂は、まだ新仏らしい。
指さした洋装のブラックフォーマル姿は、身体の線に齢相応の丸みを帯びていたけれど。
脂の乗り切った四十代の人妻とみえた。
「ほお、おきれいな方ですなあ。思い残しもおありなのでしょうねえ」
べつの霊魂が相槌を打つほどに、女はオーラのような魅力を放っている。
女の腕を取る男もまた、そのオーラをありありと感じ取っていて、そこに魅かれたに相違なかった。
「あいつ、吸血鬼なんですよ・・・」
蒼白い霊魂が訴えた。
「え?そうなんですか?」
「だって、私はあいつに血を吸い取られてこうなったんですからね」
蒼白い霊魂は、憤懣やるかたない風情。
「それは・・・ご同情申し上げます」
「あいつは、家内が目当てで、まずさいしょにわたしの血を吸って、それから家内を犯したんです」
「奥さん、暴れたでしょ?」
「いえいえ、さいしょは夫の仇敵だと気づかなかったんです。
 言葉巧みに言い寄られて、堕とされた後で真実を告げられて――
 でも、そうなってしまった後ですからね。
 ”そんなに私のことが好きだったの~?”って、ベッドのうえでもつれ合いながら言っていましたよ」
「それはそれは・・・ご無念でしょうね」
相槌を打つ霊魂の傍らで、べつの霊魂がいった。

「でもあなた、だとするとそろそろ生き返らされてしまいますヨ」
さらにべつの霊魂が、物知り顔に呟いた。
「え!?どういうことですか?」
「貴男、土葬にされたでしょ?だとしたら、すぐです。生き返って半吸血鬼になって、
 奥さんがモノにされるのを妬きながら、べつの女を襲って血を吸うようになるんですよ」
「それは・・・ちょっとうらやましいかもしれないなあ」
別の霊魂が相槌を打った。
そうだそうだ・・・と、霊魂たちが音にならない声で激しく同意する。

「でも・・・でも・・・ほら、ああやって・・・」
蒼白い霊魂が指さすかなた、彼の細君は夫の血を吸った吸血鬼と手を取り合って、ホテルのフロントへと身をすべらせてゆく。
薄墨色のストッキングに包まれたむっちりとしたふくらはぎが、
豊かな肉づきを墨色の印影でくっきりと浮き彫りにして、よりいっそうなまめかしい。
「あのストッキング、わしも降ろしてみたい」
「わしも」「わしも」
霊魂たちの羨望の声を、蒼白い霊魂は呪わしく思いつつ、反面誇らしくも感じ始めている。
「ひがまないことですよ、あなたこれから生き返って、すこしは好き勝手出来るんだもの」
年配らしい霊魂が、蒼白い霊魂に、そういった。

「生き返ったら、うちの家内をお願いします。どうやらあいつよりは、好感持てそうだから」
「うちの女房も、襲ってもらって良いですヨ。でもあまり泣かさないでくださいね」
同類どうしの共感からか、未亡人となった妻をプレゼントしたいという声がいくつもあがった。
「うちの家内を寝取ったら、報告代わりにあのホテルに連れ込んでください。とっくり視てますから」
「それはそれで、落ち着かないなあ・・・」
蒼白い霊魂は、ほんのちょっぴり当惑顔だ。
それでもどうやら、彼にも妻を犯されながら暮らす日常を迎える気持ちになったらしい。
彼の姿はじょじょに、さきほどの男女が掌を合わせていった墓標の近くへと、引き寄せられてゆく。
「生き返っても、あなたがたと交信できると良いですね」
「だいじょうぶ、視てますから」「視てますから」「視てますから」
多くの声に不思議な励ましを受けて、蒼白い霊魂は当惑しながら、現世に戻っていった。

しめやかな読経の洩れてくる本堂の隣室で。
男は未亡人を、組み敷いていた。
「あなたのご主人に、頼まれたんです。慰めてやってくれ――って」
男は息荒く女に迫り、耳元でそんなことを囁くと、
奥さんしか識らないご主人の生前の特徴を二、三告げ、女を黙らせていた。
はだけられた漆黒のブラウスから覗く豊かな胸もとには、すでに紅い咬み痕が刻印されている。

あなた、許して――
その言葉、なん人の男の前で吐いたの?
未亡人の作法を冷やかしながら黒のストッキングを脚から抜き取る手つきも、慣れたものになってきた。
いままでなん人の未亡人の脚から、黒のストッキングを抜き取ってきたことだろう?
夫を弔う装いのはずなのに、妖しく艶めかしい薄絹は、男たちの物欲しげな視線を惹きつける。
抜き取った薄絹たちは、手に取ると、いともなよやかに、ふしだらにふやけ切った柔らかさを、残った持ち主の体温とともに伝えてくる。

「さあ、きょうは貴男の奥さんの番ですよ――」
男はちらっと墓地のほうを見やると、モノにした未亡人と恋人同士のように腕を組んで、
さっそうとホテルのフロントへと脚をすべらせる。
「ったくっ。妬けるよなぁ」
なぜか嬉し気な響きを秘めた羨望の声が、男の耳の奥にかすかにこだました。
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