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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

ライバルには勝ったけど

2005年10月24日(Mon) 07:34:00

やったぁ!
とうとう間々田に勝った。
ヤツの一課とボクの二課と、おなじ企画のコンペに参加して。
受注は二課!
連絡の電話が部長席にかかってきて。
一同それとなく、なりをひそめて聞き入っていて。
「そうですか!ありがとうございます・・・オイ、○○くん、おめでとう」
呼ばれたのはうちの課の課長だった。
その瞬間間々田は絶句して、メジャーに行ったゴジラが三振を喫したときみたいに天を仰いで、
尻餅つくようにしてイスに座り込んでいた。
おたがいそれぞれの課のチーフとして、毎晩遅くまで残って見えない火花を散らしあってきたここ一ヶ月。
ヤツとは珍しく、トゲトゲしいやり取りしか交し合ってこなかったのだが。
ざまーみろ。
そう思った瞬間、いままでのプレッシャーはかるがると氷解して、ヤツと心から握手したい気分になっていた。
みんなの手前、とてもそういうわけにはいかなかったけれど。
同期トップの間々田あいてに、こちらはいつも引き立て役で。
恥ずかしいかな、入社×年目にして、なんとこれが初勝利。
まあ、おなじ会社のなかでこうまであからさまな競争になる機会はそうないのだけれど。

悲喜こもごもの興奮の坩堝と化した部屋をあとにして、
蛭田は一路、役員室に向かう。
ちょうど扉が開いて、部長とうちの課長とがふたり雁首並べて恭しく最敬礼して出て行った。
きっと、社長室に行くのだろう。
いままでにないくらいに、身体がはちきれるような昂ぶりを抑えかねながら、彼女の部屋をノックする。

「・・・そお。よかったじゃないの」
意外にも。
女史は冷たくリンとした表情を崩さずに、そっぽを向いたままそういった。
予想外の冷たい祝福に、子供みたいにガクゼンとなった彼。
負けてるときはあれだけ罵っておいて~・・・(-_-;)
勝ったら勝ったでご機嫌斜めって、そりゃないでしょお?
・・・などと言い募る勇気なんかとてもない。
チリリリリン。
電話のベルが金属的な音をちいさく響かせると、女史は立ち上がり、もう蛭田なんかおかまいなしに応対を始める。
ごつごつと逞しいカモシカのようなふくらはぎに、彼女にしては珍しいネットのストッキングがなまめかしく映えているのさえ、もぅむしょうに疎ましかった。
つややかに色っぽいぶん、もう自分のものではなくなってしまったように、とてもよそよそしく見えてしまったのだ。
部屋をノックするまでの意気込みはどこへやら。
悄然とお辞儀をして、蛭田は役員室をあとにした。

「なんか元気ないよねぇ、蛭田くん」
社員食堂で女子社員がそういっているのが聞えてくる。
「大金星にぼ~っとなってるんだよ。さわらないさわらない」
揶揄するような、男子社員の声。どの声も、ロコツなくらいの羨望がまざっている。
でももう。
なにをいわれても、もう関心度ゼロだった。
はぁぁぁ・・・
今夜は瑞枝とアポイントがある。
彼女の血を吸って、憂さを晴らすしかないかな・・・
と・・・
じと~っとした冷たい視線が注がれるのを意識した。
研ぎ澄まされたようなあの鋭さは。
とっさに役員席を振り返ると、珍しく社員食堂に姿をみせた女史が冷たく取り澄ました顔をして、器用な手つきでナイフとフォークをあやつっている。
もちろん、こちらをうかがっていたそぶりなど、毛すじほどもみせないで。
(まさか間々田をそこまで追い詰めるつもりじゃないんでしょうね!)
脳裡に忽然と、いままでになく凄まじい顔をした女史が現われて、ひとを突き刺すような口調で詰問してきた。
しまった。
瑞枝はやつの女だったな・・・
あわただしく食事を終えて人気のない廊下にでると、おれはキャンセルのメールを瑞枝に入れていた。
よし、それなら三課の奈津子にしよう。

役員室に呼ばれた三課の面々が定例の打ち合わせを終えると、鳥飼女史はいちばんさいごに退室しようとした奈津子を呼び止める。
「主任試験、通ったそうね。おめでと」
「あ、いえいえ」
男勝りでならした怜悧な奈津子も、女史のまえでは役者が違う。
うって変わって、まるで小娘みたいにあがってしまっていた。
フ、かわいいわ・・・
女史はちらっと口許に笑みを浮かべる。
才気に満ちた奈津子は以前から女史に評価され、かわいがられていた。
「これ、お祝いよ。イザというときお使いなさい」

「瑞枝にふられたんでしょ~」
女史にひいきにしてもらった上機嫌も手伝って、奈津子は意地悪な顔で蛭田にからんだ。
「ちがう、オレから断ったんです」
ぶすっとして蛭田が応える。
夜の十時。
もう、そうとうお酒がまわっている。
「私は第二志望か。つまらんな」
奈津子はまるで男のような口をきき、組んだ両手の上にあごを乗せる。
「瑞枝なんかにまで、追い抜かれちゃうし。あせっちゃうよなぁ」
ぜんぜん焦ってないような口調でのんびりと、彼女はお店の気の利いたインテリアに目線をめぐらしている。
結婚する気、あるんですか?先輩・・・
うっかり訊いてしまいそうになり、あわてて口をつぐむ蛭田。
「なにかいいたそうね」
ちらっと油断のない流し目をして、奈津子はいった。
「間々田、ショックだったみたいよ~。まさかあなたに負けるなんて思っていなかったようだし。そのうえ今夜瑞枝ちゃんまでとられちゃったら、生きていけないよ~」
そういいながら彼女の容赦ない唇は、同僚の不運をめいっぱい肴にして楽しんでいる。
―――それに気づいたからやめたんじゃないか。
そう思いながら。
きょう一日得意になったり、がっくり落ち込んだり。
たまの手柄に夢中になって、女史の視線を浴びるまで間々田の立場を見落としていたうかつさに、じぶんで腹が立っていた。

こういうときの間々田は、脆い。
大学を優等で卒業し、運動部では主将。いつも強気でおしまくる仕事振り。
ところがいちどつんのめってしまうと。
そんなふだんの姿とは、うって変わった落差をみせる。
もちろんそれに気づく人間は彼をふくめてごく限られているのだが。
ただし蛭田も、それに輪をかけてもろい。
もともと、自信のつきにくいたちである。
そのうえなまじ中途半端にひとの気持ちに通じているものだから、自分の失策で不用意に人を傷つけてしまったりすると、もうどうしようもなく落ち込んでしまう。
そんな蛭田の顔色を奈津子は抜け目なく見てとって、
「さっ。早いとこ済まそうか」
バックを片手に立ち上がり、もうレジの向こうを通り過ぎている。

寝乱れたベッドはすごいことになっていた。
「いまごろ間々田、ぜったい瑞枝ちゃんとヤッてるよ~」
そんな初歩的な挑発にやすやすとのっかって。
かれは奈津子の柔らかな肢体に馬乗りになっている。
服をはぎ取ると、ぬるりとした肌の持ち主は、意外なくらいに華奢だった。
まっすぐに挑みかかっていくと、かれを迎え入れる両の腕はしなやかなツタのように器用にからみついてきて、か弱い力でさりげなく背中を撫でつけてくる。
背中というものがこれほどぞくぞくするものかと思うほど丹念で練れた愛撫に、男の蛭田のほうが圧倒されぎみだ。
まるで猫のように執拗に甘えながら、主導権はしっかり握って放さない。
あるときは挑発し、あるときは軽く拒んで、いつか蛭田をすっかり自分のペースに乗せている。
吸血鬼は女を翻弄するはずなのだが。
奈津子を相手にするといつも立場が逆転する。
「いいのよ、遠慮しないで。好きにして・・・」
いつものカン高い声とはうって変わって、ひくい声でささやくと、女はそれきり目をつむった。
受け身に徹した彼女のたいどに、こんどは蛭田のほうが加速度的に昂ぶりをあらわにたけり狂ってしまっている。
なかばまとい、なかばはだけたブラウスを、ふしだらに乱れさせたまま。
スカートのすそからにょっきりとのぞいた脚に、裂かれたストッキングをひらひらとさせたまま。
女は青白い吐息を吐きながら、男を幾度でも迎え入れる。
深々と突き入れた秘奥のなかで。
ぎゅうっとにぎりしめられるような感覚にしばしば眩暈さえ覚えながら。
蛭田は行為を繰り返した。

はぁはぁと息も荒く、ふたりはいつかベッドの上で向かい合わせにうずくまっている。
「まだ、気がすまないの?こわれちゃうわよ、あたし・・・」
口先とは裏腹に、ベッドのうえの柔らかい獣は、とても頑丈である。
彼女の瞳は、燃えていなかった。
あくまでさいごの一線は、氷のような冷たさを崩すことがない女。
なにもかも見透かしたようなドライな面貌が、衝動的に小面憎くなった。
女はニッと微笑むと、ほっそりとした指でずり落ちたストッキングを引きあげる。
すうっと。
音もたてないで。
蛭田はやおら奈津子の脚にむしゃぶりつくと、ストッキングのうえから舌をあてて、これ見よがしにぬらぬらと唾液をなすりつけてゆく。
・・・っ?
「どうしたの?」
訝しそうな奈津子。
「どうして、あのひとは冷たいのかな」
「女史のこと・・・?」
「・・・」
「あなた、まだ子供だね。どんなにいい子でも、そんなだったら誰からも嫌われるよ」
「エ?」
「ベッドでほかの女の話なんかするものじゃないでしょう?」


たったひと言の償いに、腰が抜けるほど浸かり抜くハメになった。
おまけに、そのまえにぱしぃん!と引っぱたかれた頬が、いまだにジンジンと疼いている。
けれども、獣になったときの蛭田にとって、手だれな奈津子を気絶させるくらいのことはお安いご用だったのだ。
鮮やかな平手打ちのお返しに。
「許してあげる」
というはずが、
「もう許して」
になるまで、蛭田は奈津子を愛し抜いたのだ。
本当に好きなのかな・・・
自分の浮気心を自分で軽く責めながら。
まだ総身にただよう倦怠のなかで、しっとりうるんだ柔肌の感触を反芻している。
手には、奈津子の脚もとから引き抜いたストッキングをまだぶら下げていた。
ベッドのうえで白目を剥いて大の字になった奈津子のうえに、ばさっと羽毛布団をかけてやると、脱ぎ捨てられたストッキングを拾いあげて、さっきみたいにもういちど、唇にあてがっていた。
やはり・・・
女史はどうしてこうも、なにもかもお見通しなんだろう。
ストッキングの舌触りは、いつもの女史のお気に入りブランドのものだった。


灯りをつけていない重役室は、まだ鉛色の冷気が立ち込める外の薄暗さに支配されている。
「午前四時二十八分―――」
腕時計を見やる女史の冷たい声が、静かに響き渡る。
「いらしたんですね」
「満足させるのに、だいぶ時間がかかったようね。またヘマしたでしょ?」
毒々しくって耳障りな声色にうっとりと聞き惚れながら。
深くて響きのよい声色に、人のわるい悪戯心がこめられているのが、さすがの蛭田にもわかった。
たまの大手柄に有頂天になっている蛭田をわざと冷たくあしらって。
今夜の相手が奈津子であると見越して。
その奈津子に自分の愛用のストッキングを与えて。
おかげで蛭田はいま、明け方の重役室に忍び込んでいる。
「けさは拾ってもらうものはなさそうだけど・・・」
女史はこれ見よがしに、きめの細かいネットのストッキングの脚を組みなおした。
昨日重役室を訪れたときに見かけたものと同じだと、すぐにわかった。
いつになく柔らかに見える脚線美が、室内にようやく注ぎ込んできた暁の斜光線を跳ね返して、まばゆい光沢に包まれてゆく。
「新作のマイクロネットのストッキングよ。ためしてみる?」
どじばかり踏んでいるかわいい部下を横目で睨む瞳は、挑発的な輝きを帯びていた。

あとがき
気になる部下とアポイントを取っているであろう美人OLに自分のストッキングを穿かせて。
彼女の肌と彼の唇のあいだにしっかりと割り込んでいるんですね。
さすがの奈津子さんも、ちょっと道化になってしまいました。^^;
おっとそれから。
後輩と飲んだら、たまには払ってやったほうがいいかも、ですよ。(遠慮がちなつぶやき・・・)
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