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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

身代わりの”生徒”たち

2019年12月23日(Mon) 07:46:20

教室の床から起きあがった少女は、やっとの思いで傍らの椅子に腰かけた。
足許を見おろすと、濃いねずみ色のハイソックスが弛んで、脛の途中までずり落ちていた。
ハイソックスには微かな破れが見て取れて、その周囲には赤黒い血の痕が滲み、いびつなまだら模様を作っている。
教室(ここ)に入るまでは、お行儀よくひざ小僧の下までぴっちりと引き伸ばされていたハイソックスは、太めのリブがいびつにねじ曲がって、なんだか自分が堕落した少女になってしまったような気がする。
少女は足許に手をやって、ハイソックスを直した。
血の痕がより、目だつようになったような気がする。
ふらふらと椅子を起って周りを見回すと、
おなじ制服の少女がまだ数名、床にうつ伏せになっていた。
そのひとりひとりの上には黒い影が覆いかぶさっていて、
その黒い影に、ある少女は首すじを、ある少女はふくらはぎを咬まれていた。
咬みついた口許からは鋭利で太い牙が覗いていて、それが若い皮膚を破り深々と刺し込まれている。
影たちは、美味そうに喉を鳴らしながら、少女たちの生き血を啜っていた。

廊下の向こうから、足音が近づいてくる。
足音の主は、複数だった。
おそろいのプリーツスカートのすその下は、
すらりとした脚にも、肉づきの良い太い脚にも、濃いねずみ色のハイソックス。
背丈も脚の太さも不揃いな一団だった。
サイズが同じものを履いているからかか、人によって微妙に丈が上下している脚たちが、
受難の教室目がけてしずしずと歩みを進めていく。

制服の一団は教室の扉の前に立ち止まると、ひと呼吸おいた。
お互いがお互いの顔を見合わせると、先頭の制服姿が教室の扉を、控えめにコンコンと軽くノックした。
教室のなかのざわざわとした雰囲気が収まると、だれかの声が改まった口調で、「どうぞ」とあがった。
扉が開かれて、廊下の一団が流れ込むように、教室に入り込む。
開かれた吸血鬼の口に少女の血液が流れ込むような、あっという間の早さだった。
まだ咬まれていないハイソックスの脚たちが、飢えを満たしきれていないものたちの好色な視線に曝される。
「どうぞ」
震えを抑えた声色に反応して、影たちはうつ伏せの少女たちのうえから起き上がる。
影たちに支配されていた少女たちは、解放されたのを直感して、キュッと閉じていた瞼を恐る恐る開いてゆく。
彼女たちの目線のかなた、新来の制服姿が自分の身代わりとなって、好色な猿臂に巻かれ、一人また一人と、教室の床に引き倒されてゆく。
振り仰いだ首すじに、投げ出された足許に、恥知らずな唇が吸いつけられていった。

「ありがとうございます、来てくれて」
椅子から起ちあがったばかりの少女が長い黒髪を揺らして、廊下から入ってきた一団にしおらしく頭を垂れる。
色白の頬に、黒くて濃い眉。長いまつ毛に、きらきらとした瞳。
見かけがよいだけではなく優等生であることを、行儀の良い物腰と胸もとの学級委員の徽章とが物語っていた。
いちどずり降ろされたハイソックスを気丈にもふたたび引き上げた足許に、
吸い取られた血潮が点々と散っていた。
しつように咬まれいたぶられながらも毅然として応じたけなげさの名残りと映る。

「だいじょうぶですよ、お疲れになったでしょう?このまままっすぐおうちへ帰ってくださいね」
新来の一団のひとりが、少女をねぎらった。
声色は十代の少女にしては太く、しっかりとした響きを帯びている。
にっこりと安どの笑いをむけた少女に笑い返す頬もやや強い輪郭をもっていて、
「彼女」たちが現役の女子中高生ではないのがひと目でわかった。

「あのひとたち、学校に来てくれて良かったね」
「ん」
安堵とともに戻ってきたほほ笑みを交し合いながら、少女たちはハンカチを取り出して、
咬み痕に滲んだ血を拭い合った。
「礼を言います」
背後から投げられた干からびた声に礼儀正しくお辞儀を返すと、お互いを庇い合いながら教室を出てゆく、。
入れ違いに入ってきた制服姿は、同じ制服を身にまとった女装者の群れ。
生徒の父兄を中心に学校が募集した、供血用の「女子生徒」たちだった。
自身の血液と引き替えに女子生徒としての存在をかち得た”彼女”たちは、誇らしげに頤を仰のけ、スカートのすそを乱しながら、吸血鬼の牙を受け容れてゆく。


あとがき
10月末ころ構想しました。
読み返すとかなり少し重複があったので、リメイクものにしては比較的直しが多かったかも。
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「代わりにうちの娘を、好きにして良いからな」 拡がる”懇親”の輪。
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