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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

「愛する女(ひと)」が「信頼できる女」に ~里帰り~

2020年01月03日(Fri) 08:51:16

高校を出るまで棲んでいた故郷の街に、彼女を伴って帰ったのは、結婚の約束をしてすぐのころだった。
「あなたのすべてを知りたい」と望む彼女に、故郷のことを打ち明けるのは勇気が要った。
彼女に嫌悪されて、せっかく得た恋を喪ってしまうのが怖かったから。
けれども彼女は、ぼくが思っていたよりもずっと、強いひとだった。
「なあんだ、そんなことか。面白そうじゃない」
ふつうの女性なら、卒倒するかもしれないことを軽々と乗り越えてくれたのは、彼女の強さのおかげだと、いまでも思っている。

そんな彼女が、都会ふうのワンピースを身にまとい、ぼくの傍らで背すじをシャンとひき立てて、ハイヒールの音を響かせている。
胸ぐりの深いワンピースから覗く肌は滑らかで白く、クリーム色のストッキングに包まれた足許は艶やかに輝いている。
「タカシが美味しそうな女を連れて戻ってきた」
そんな声にならない声が、街のあちこちからあがるのを、ぼくは感じた。

ごくふつうの閑静な住宅街のそこかしこに吸血鬼が潜み、人間と穏やかに共存しているこの街では。
人妻が襲われて生き血を吸われ、ことのついでに犯されてしまうことが、ごく日常的にくり返されている。
結納の席で顔を合わせた両親のところには、まっすぐ目ざす必要はない。
ぼくたちが実家よりも先に訪れたのは、ぼくの幼なじみの棲む邸だった。
濃いツタに覆われた古びた壁を持つこの邸で、彼は独りで喫茶店を営んでいた。

「こちら、新藤佳世子さん。学生時代からの付き合いで、こんど結婚することになったんだ」
ユウと呼ぶこの幼なじみは、吸血鬼。
物心ついたころから一緒に遊んできたので、気がついた時にはもう、血を吸われる関係になっていた。
「脚に咬みつく癖があってね。おかげで中学のころは、ライン入りのハイソックスを何足も汚されて困ったっけ」
ぼくがそういって苦笑いすると、寡黙な彼も同じような苦笑いを恥ずかし気に浮かべて、
照れ隠しに熱心にコーヒー豆を挽きつづけた。
彼がちょっとはずしたとき。
「ぶきっちょそうだけど、悪い人ではないわね」
と、佳世子さんはこっそりと、ぼくに囁いた。
長男の嫁は最低一人は吸血鬼の相手をしなければならない――
彼女には当地のそんな風習を打ち明けてたうえでプロポーズした。
奇妙な風習の存在に戸惑いながらも、彼女はその場で結婚のOKをくれた。

いちおうお店だから、支払いはしてもらうけど――と、彼は前置きして、意味ありげに訊いた。
「支払いは現金?それとも・・・」
濁した語尾に物欲しげな風情を隠しおおせたことを、あとで佳世子さんは「さすが」と感心してみせてくれた。
「エ、エエ。御挨拶代わりに、私もタカシくんと同じくしてもらおうかな」
ボーイッシュにそう応えると、
佳世子さんはクリーム色のストッキングを穿いた脚を見せびらかすようにして、さりげなく前に差し伸べた。

佳世子さんの傍らにかがみ込んだユウの唇が、クリーム色のストッキングの足許にゆっくりと近寄せられてゆく。
時間を止めてしまいたい衝動をこらえながら、ぼくはドキドキとした視線を彼女の足許に這わせていた。
「あなたの視線のほうが怖かった」と、あとで佳世子さんは笑ったけれど――ぼくはぼくなりに、しんけんだった。
最愛の彼女の生き血を、幼なじみに捧げる神聖な儀式だったから。
彼の唇がストッキングの上に吸いついて、心持ち舐めるように這いまわり、それからギュッと力がこもる。
「ぁ・・・」
その瞬間。
佳世子さんはわずかに顔をしかめて、額に手を当てて俯いた。
ちゅうっ。
静かで薄暗い店内に。
佳世子さんの血を吸い上げる音が、ひっそりと洩れた。
白いワンピースのすその下。
佳世子さんのふくらはぎを吸いつづける唇のうごめきが、整然と織りなされたナイロン生地に唾液をしみ込ませ、
真新しいストッキングがじょじょに裂け目を拡げ剥がれ堕ちてゆくありさまを、
ぼくはただぼう然と、見つめていた――

きちんと装われた都会ふうのワンピースの下、ストッキングだけがむざんに破け、ふしだらな裂け目を拡げている。
吸い残された血潮が傷口を薄っすらと彩っている。
「思ったほど痛くなかった」
佳世子さんは、白い歯をみせて笑った。
愛するひとが、信頼できるひとになった瞬間を実感した。


1時間後。
ぼくと佳世子さんを出迎えた母は、「あらあら」といった。
彼女の脚に通したストッキングが、ひきつれひとつないのを見て取ったのだと、ぼくも彼女も察しをつけた。
「穿き替えくらい用意しているからね」
あけすけにそういったぼくのお尻を、佳世子さんはいやというほどつねっていた。

帰る道々、佳世子さんはいった。
「あたし思うんだけど――結婚式もう少し延ばさない?」
やはりきょうの経験は重すぎたのか・・・ドキリとしたぼくの顔色をすぐに察して、彼女はつけ加えた。
「ううん、タカシくんと結婚するのをためらっているわけじゃないの。
 ユウくんが私の血を気に入ったみたいだから、処女のうちに一滴でも多く血を吸わせてあげたいなって」
佳世子さんのふくらはぎに咬み痕がふたつ、綺麗に並んで刻印されているのが、透明なストッキングごしに鮮やかに映る。
「そうしてもらえると嬉しい・・・かな」
ぼくは即座に応えていた。


それ以来。
週末になるとぼくたちはユウの喫茶店を訪れてひとときを過ごし、
彼女のうら若い血液で支払いを済ませた。
ぼくの血も、懐かしがってよく飲まれた。
お互い貧血になりながら。彼女はいった。
「ねーえ。あたしたちの血。いまユウくんのなかで仲良くひとつになっているんだね」
「ふたりは相性が良いと思うよ」
カウンターの向こうからユウくんに合いの手を入れられて、ふたり顔を見合わせて照れ笑いをした。


結婚後、ぼくたちは実家のそばに新居をもった。
就職先も、地元になった。
佳世子さんは都会を捨てて、この街の人になることになった。
ユウくんは、そんなぼくたちを、1年間待ってくれた。

「行ってくるわね」
出勤前の身支度をしてくれた佳世子さんは、いつになく化粧を濃いめに刷いている。
みると、初めてユウくんの喫茶店を訪れたときの、白いワンピース姿だった。
「彼のリクエストなの」
照れ笑いを浮かべる佳世子さんが、なにを言おうとしているのかわかっている。
結婚して初めて、ユウくんに血を吸われに行くのだ。
まだ処女だったころとはちがって、ユウくんは佳世子さんのことを、既婚の婦人として接するだろう。
セックス経験のある女性を襲った吸血鬼が、性行為まで遂げてしまうことを、佳世子さんは結婚のOKをする前から知っている。
「ついてきちゃダメよ。ご主人さまは真面目にお仕事に励んで頂戴」
佳世子さんはひっそりと笑っている。

「すみません、きょうちょっと体調不良で・・・」
ごもごもと嘘の言い訳をする電話口、ぼくの上司は如才なくOKをくれた。
「体調不良じゃしょうがないな。奥さんを大切にね」
彼の奥さんには吸血鬼の恋人がいたっけ。
そう、ぼくの職場では、そういうことは決して珍しいことではない。

喫茶店は表向き、「都合により閉店」となっていた。
ぼくはためらわず、裏庭にまわる。
全面ガラス張りで陽あたりのよい、南向きの応接間――。
佳世子さんの貞操は、そこで喪われるはず。
決して最後まで止め立てしないで、さいごまで見届けるつもり。
ぼくはいちぶしじゅうを見せつけられながら、我慢できずにきっと、昂ってしまうのだろう。
母の時や、妹の時がそうだったように・・・・・・
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