淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
競技のあとで。
2020年01月12日(Sun) 09:41:23
競技場へ入っていく女学生たちの、グレーのハイソックスに包まれピチピチはずむふくらはぎよりも。
交通整理に熱中するスタッフのお姉さんたちのタイトスカートのすそから覗く、肌色のストッキングの脚たちよりも。
きょうの”彼ら”の興味を惹くのは、グラウンドを駆け回る選手たちの、短パンからむき出しになった脚、脚、脚。
当校のユニフォームは、緑。相手校のそれは、赤。
どちらにも目移りするのは、ユニフォームカラーと同じ色のストッキングに包まれた、筋肉質の脚だった。
脚に咬みつく習性をもつ吸血鬼たちの嗜好に従う相手は、男女を問わなかった。
よく見ると。
選手たちは当校の生徒だということがわかる。
逞しさのなかにもどこか童顔を残した目鼻立ち。
ストッキングに包まれた筋肉も、どこか伸びやかで柔らかそうだ。
それを彼らはすでに、口許の奥に隠した牙で識っている。
行き交う彼我の選手たちへの喝さいをよそに、
スポーツに鍛えた身体をめぐる血潮に飢えた喉が欲望にはぜるのを、彼らはじりじりとしながらこらえている。
「だれがお目当てなんだね?」
間島幸雄(42、仮名)は、傍らの吸血鬼を振り返る。
スラックスの下に履いた通勤用の薄手の長靴下は、すでに彼の餌食になって、
肌の透けるほどの裂け目をつま先まで走らせてしまっている。
軽い貧血を憶えながらも、間島は相棒をからかわずにはいられなかった。
「もちろん、あんたの息子さんさ」
吸血鬼はくぐもった声でそう応えると、にやりと笑った。
間島は露骨に顔をしかめてみせる。
「泥だらけのストッキングにご執心とは思わなかったな」
「いや――履き替えてくるよ、きっと。俺に咬まれるのを予期しているからな」
選手たちのほとんどは、すでにいちどは咬まれた経験を持っている。
そして、自らの足許に注がれた熱い視線を、試合の合間合間に露骨に感じ取っては、スタンドを振り返り、尖った視線を送り返すのだ。
「試合の邪魔はしないでくれ」と言いたげに。
試合後。
間島は連れだって歩く悪友の目が異様にぎらつくのを感じ取った。
向こうから、ユニフォーム姿の息子が歩いてくる。
ジャージに着替えることもなく、短パンから覗く太もももあらわに陽の光に曝して、帰り道を急いでいた。
吸血鬼の予言どおり、少年が脚に通したストッキングは、真新しいリブを陽に当てて、ツヤツヤと輝いていた。
「じゃあな」
吸血鬼は間島に一瞥をくれると、待ちかねたように少年の方へと走ってゆく。
視界の遠くで、少年をつかまえた吸血鬼が性急になにかを囁くのを、
囁きを耳にした少年が、露骨に嫌そうな顔をするのを、
そのくせ促されるままに、近場の物陰へと姿を消してゆくのを、
間島はじいっと見つめ、それからため息をつく。
家にまで行く気だな――と、間島は直感した。
吸血鬼が彼の留守宅を訪れるようになって以来妻は彼に対して優しくなり、
冷え切っていた夫婦の関係に、好転の兆しが訪れている。
競技場の近くにそびえる廃工場の裏庭は、かっこうの場所だった。
すでに先客が何組か、一定の距離を隔てて横たわったり抱きすくめたり、絡み合ったりしていた。
そのなかの半数はチームメイトであるのを見届けると、間島達也(17、仮名)は、男を見あげた。
「なかなか良いプレイだった」
「小父さん、スポーツのことわかるの?」
「いや、全然」
「なんなんだよ」
「フォームがきれいかどうかは、スポーツなど知らなくても、観ればわかる」
なおもなにか言おうとした少年の唇を、吸血鬼の飢えた唇がふさいだ。
長い口づけは、どのカップルにも共通らしい。
すでに横たわっている傍らでも、すこし離れた立ち姿も、秘めやかな沈黙を保っている。
毒気に当てられたような少年の顔つきを面白そうに見守ると、
「横になってもらおうか」と、吸血鬼はいった。
「こう、かい・・・?」
陽の光を吸った草地が、背中に暖かかった。
少年があお向けになると、それを追いかけるように、吸血鬼が覆いかぶさる。
ユニフォームのシャツをたくし上げると、下に着ていたランニングを性急に引きちぎり、乳首に唇を這わせてゆく。
「アッ、ひどいな・・・」
抗議しようとした少年は、ふいに黙った。
そして、長い沈黙が訪れた。
「小父さん、家に来るんだろ。母さんも待ってるよ。おめかしして家にいるからって言ってた。
欲張りだよね?母さんのストッキングも、咬み剥いじゃうんだろ?
そのあとなにをしているのかも、ぼくはよく知っているからね。
今度、いつかは、父さんに言いつけちゃうからね・・・」
小さくなっていく抗議をくすぐったそうにやり過ごしながら、
すでにじゅうぶんに舌触りを楽しんだストッキングをもうひと舐めすると。
擦りつけた唇に隠した牙を、しなやかなふくらはぎの肉づきに、グイッと力を込めて刺し込んでいった。
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