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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

女子の制服を買ってほしい。

2020年01月20日(Mon) 07:09:32

「女子の制服を買ってほしい」
保嗣からそう打ち明けられて、母親の和江は戸惑った。
「女子の制服なんか買って、どうするの?」
「達也君のために毎日着ていく」
え・・・?
どういうこと?と問う目線のなかに保嗣は、
すでに和江が答えを理解していることを直感した。
「ぼくは、達也君の恋人になる。だからこれから毎日、女子の制服を着て登校するんだ」
思いがけない息子の言葉に、和江は息をのんだ。
息子の通う学校に、そういう生徒がなん人かいることを、和江は知っている。

女子になりたくて、女子の制服を着て通学することを、この街の学校は許容していた。
吸血鬼と同居するこの街で、女子生徒の生き血は不足ぎみである。
ある男子生徒が、自分の彼女の身代わりに彼女の制服で女装して身代わりに咬まれたのが発端らしいが、
それが男子生徒たちの女装熱に火をつけて、彼女の身代わりだけではなく、いろいろな事情から女装する子が増えたのだという。
学校が女装生徒に優しいのには、そんな事情も見え隠れしているらしい。

けれどもそれは、身近な話と聞かされながらも、どこか別世界のことのように、和江は感じていた。
まさか目の前の息子の口から、そのような言葉が発せられるとは、思ってもいなかった。
こちらに越してきたすぐのころから友達付き合いをしている達也という少年が、
息子と男女交際のような関係になっていることも、薄々察していたはずなのに。

「お父さんがなんて仰るかしら」
和江はけんめいに逃げ道を探しているようだった。
けれども保嗣は追いすがるようにして、いった。
「案外、だいじょうぶかも」
「どうして」
「だって父さん、母さんと吸血鬼の小父さんが交際しているの、薄々知っているみたいだもの」
和江は痛いところを突かれた、とおもった。

彼女が吸血鬼に襲われたのは、この街に来て間もないころ、まだひと月と経たないうちのことだった。
脚を咬むのが好きな吸血鬼だった。
首すじを咬まれて貧血を起こし昏倒すると、
穿いていた肌色のストッキングをみるかげもなく咬み破られながら吸血されて、
理性を奪い尽くされた彼女は、夫のいる身であることも忘れ果て、恥を忘れて乱れあってしまった。
それ以来。
手持ちの肌色のストッキングを破り尽くされて、
夫の稼いできた給料のなかから高価な黒のストッキング代を差し引くようになって、
相手の望むまま、毒々しく輝くストッキングを何足愉しませてしまったことだろう?
けれども逢瀬を遂げる日に限って夫の帰りは遅く、ちょうど情夫を送り出し、身づくろいを終え、周囲の痕跡を消し去った直後に、夫の帰宅を迎えるようになっていた。
夫の不在はむしろ彼女にとって都合が良く、吸血鬼に促されるままに情事を重ねていった。
「もしもご主人が途中で帰ってきても、わしを愉しませてくれるかね」
そう囁かれたときにためらいもなく、「もちろんそのつもりです」とこたえてしまったのは、つい昨日のことだった。
息子が咬まれるようになったと知っても、息子を咎めることも、いまは情夫となった吸血鬼を制止することもなく、新しいハイソックスを何足も用意してやるなど協力的に振る舞っているのは、夫に対する後ろめたさからか。
それとも、吸血鬼が息子の血までに気に入ったことに歓びや満足を覚えたためか。

「わかったわ。保嗣の制服のこと、父さんに相談してみましょうね」
和江はそう言わざるを得なかった。
げんにきょうも、息子が下校してくる直前まで、夫を裏切る行為を続けてしまっていて、
息せき切った交歓の残滓が、スカートの奥深く押し隠された秘所の周りに、まだとぐろを巻いている。
まだやり足りない――浅ましいと思いながらも、その想いを振り切れなかった。
和江はソファから起ちあがると、エプロンを外しながら、いった。
「母さん、用事を思い出したから、ちょっと出てくる。制服のことは任せて頂戴」
「いいよ。父さんが戻ってきたら、上手く口裏を合わせておこうね」
物分かりのよい息子は、なにごともなかった都会のあのころのように、爽やかすぎる笑みを返してきた。

一見物分かりの良い息子だったけれど。
そのくせ夫婦の寝室までついてきて、彼女の着替えを見たいとせがんだ。
情事を遂げるまえにおめかしするところを、見せてやるのが習慣になっていた。
彼女はわざと寝室のドアを開けっぱなしにして、息子の好奇の視線をまとわりつかせながらふだん着を脱ぎ、おっぱいをさらしながらブラジャーを真新しいものに取り替え、スリップを取り替えてゆく。
きょうの息子の目線は、好奇心だけのものではないのを和江は感じた。
女性の着替えのお手本を見せるつもりで、余裕たっぷりに彼女は着替えた。
おっぱいをさらす時間を少し長めて、いちばん視良い角度でさらすことも忘れずに。

「制服を女子用にするなら、下着も女の子のものをそろえなくちゃね」
一瞬主婦の声色にもどってついた独り言に息子が露骨に喜色を泛べるのを横目に、
黒のストッキングをひざからスカートの奥へと引き伸ばしていった。
息子も明日から同じしぐさで、女になってゆく――
自分が吸血鬼の情婦となるために装うように、息子も同性の親友の恋人となるために、装ってゆく。
そういえば、息子の彼氏にも、嗜血癖があるらしい。
母子で肩を並べて互いの恋人を取り替え合いながら血液を捧げ抜く。
そんな日も、もしかしたら訪れるのかもしれない。
年頃になってから生じた息子との距離感が、べつの意味で縮まろうとしているのを、和江は直感していた。


あとがき
どこまで続くかわからない、柏木には珍しい同性のシリーズです。
12日掲載の「競技のあとで」以来続いています。
ほぼ同性の絡みしか出てこない。なのに、不思議とすらすらと描けます。
前の記事
ふたたびオフィス。
次の記事
親友の父親。

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