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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

朝帰りの母。女子の制服をねだる息子。

2020年02月02日(Sun) 09:57:54

「やっぱり朝帰りはまずいよ、母さん」
翌朝、父が出勤していったあとまで家に残っていた保嗣は、
9時をまわったころにけだるそうな顔をして戻ってきた和江に、そういった。

夕べ。
息子から女子の制服をねだられた和江は、息子の帰宅直前まで耽っていた吸血鬼との情事を思い出して、
股間を再び疼かせながらエプロンをはずした。
主婦を辞めて娼婦を始める――はた目には、そんな宣言のようにもとれるしぐさに、
息子の保嗣が胸を「ずきん!」と弾ませていたことに、和江は気がつかないでいた。
きっと母さんは朝帰りになる。
そうなると見越して、近所のおばさんの相談に乗っているとかなんとか・・・うまく口裏を合わせたとは言いながら、保嗣は母親をからかい半分にたしなめた。
「父さんと母さん、いつまでたっても、行き違いだよね。
 早く父さんに、ぼくに女子の制服を買ってくれる件を相談してほしいんだけど」

昨晩。
保嗣の父(和江の夫)である由紀也が、保嗣の親友である達也を相手に勤務先の無人のオフィスで情事に耽っていたころ。
母の和江は和江で、吸血鬼の誘いを受けていた。
半吸血鬼となった達也は、「ヤスくんとの交際をお父さんにも認めてもらう」と言い捨てて、保嗣の血を喫ったその足で由紀也のオフィスを訪れて、
保嗣の父を黙らせるため、そしてそれ以上に彼と睦み合うのを愉しむために、一夜を過ごしていた。
そして、保嗣の父の帰宅を遅らせることで、達也の大好きな吸血鬼の小父さんと和江との逢瀬に邪魔が入らないようにも画策したのだ。
オフィスでの情事には、さまざまな意味があったのだ。

保嗣は、達也が父と逢っていることも聞かされていたし、達也の意図も大体は理解していた。
和江がやすやすと吸血鬼にモノにされてしまったことに、
さいしょは控えめながら不満を鳴らした保嗣だったが、
いまでは自分の血を初めて喫った吸血鬼が、
母親の血を気に入ってくれていることに満足を覚えるようになっている。

初めて自分の血を喫った吸血鬼が、母と。
同性の恋人になった同級生が、父と。
生き血を吸い吸われて仲良く交わっていることが。
保嗣にえもいわれない幸福感をもたらしていた。

「一体夕べはどこにいたの?」
そう訊かれて和江は、少女のようにもじもじとしながら、言いにくそうに告白した。
家の様子が気になるからと、庭の隣に停めてあるマイカーの中で過ごしたという。
「匂いでばれない?」
息子のツッコミに、和江はさすがに慌てた顔をした。
「あとできれいにしておくわ」

昨晩父親の由紀也が帰宅してきたのは,真夜中過ぎのことだった。
父親の勤め先でなにが起きているのかを保嗣は知っていたし、
保嗣がなにかを察しているだろうことを、由紀也も薄々勘づいていた。
さすがに息子と顔を合わせるのは後ろめたかったらしく、
「母さんお友達が相談があるからって出かけた、今夜は戻らないかも」
という曖昧な説明にも気もそぞろに受けて、そそくさと独りの寝室に向かっていた。

そんな由紀也も、まさか自宅のすぐ裏手で自分の妻がほかの男に精液まみれにされているとはつゆ知らずだっただろう。
別々の場所で吸血鬼との情事に耽った夫婦は、別々の場所で一夜を過ごした。

朝帰りの母親と学校をさぼっている息子とが会話をやめたのは。
時ならぬインタホンの音のためだった。
玄関の扉を開くと、そこには由紀也がいた。
話を聞かれた?と一瞬思いぎくりとした和江だったが、すぐに自分を取り戻して、どうなすったんですか?と夫に訊いた。
「具合がよくないので会社を休むことにした」
という夫を安江は本気で気遣いながら――彼女もまた、夫の身になにが起きているのかを薄々知っていた――かいがいしく床の用意をし始める。
床の用意ができるまでのあいだ、由紀也はぐったりとなって、ソファにもたれかかるように身を沈めていた。
リビングに戻ってきた安江は、床の用意ができましたよ、と夫に告げると、盗み見るように息子のほうを見た。
「お父さんに、話したの?」

いざとなると保嗣は、年端も行かない幼な児のようにもじもじしていた。
都会で暮らしていたころには、厳しい父親だった。
両親ともに厳しいプライドの高い家庭で育てられた保嗣は、気弱な少年として成長した。

保嗣の様子をみた安江は、仕方ないわね、というように、ちょっとだけ顔をしかめ、それから言葉を改めて由紀也に言った。
「保嗣が明日から、女子の制服で登校したいというんです。あなたどう思います?」
失血で力の失せた父親の反応は、もどかしいくらいに鈍かった。
由紀也はちょっとだけ顔をあげ、訝しそうに息子のほうを窺った。
安江は保嗣を促すように、つづけた。
「お友達の達也くんと、おつきあいを始めたのよ、ね?」
保嗣はちょっとの間唇を噛んでいたが、首すじの疼きをこらえかねるようにして、思い切って口を開いた――。
「ぼくに、女子の制服買ってくれないかな。ぼく、同級生の達也くんの彼女になることにしたんだ」

口走ってしまうことで、自分を束縛しているなにかが破れたような気がした。
自分をさらけ出す小気味よさが、ふさぎ切っていた彼の心を解放したのだ。

「うん、まあ・・・いいだろう」
意外なくらいあっさりと、父親は息子の願いをかなえる言葉を口にした。
曖昧な返事は、息子の親友と契ってしまったことへの後ろめたさからくるものだったが、それは母子どちらも、まだあずかり知らないことだった。
保嗣はむしろ、父の「まあ・・・いいだろう。」は、吸血鬼と母との逢瀬に対しての感想のようにも受け取れて、仕方がなかった。
もしそうだったらいいのにな・・・保嗣はどうしようもない妄想にとり憑かれて、ひとりごちた。
「何か言ったか?」
「ううん、何も」
それが父と息子との会話のすべてだった。

「では、きょうにも制服店に行って、採寸してもらいますね」
安江はたたみかけるように、言った。
夫が黙って頷く姿に、なにかを赦されるような錯覚を安江はおぼえた。
頷いた夫は、同時に吸血鬼と自分との不倫の関係までも許してくれたように感じたのだ。
母と息子の願望が、どこまで由紀也に届いたのか――
けれどもまず家族で解決しなければならないのは、保嗣と達也の関係についてだった。

「女性生徒として通学するには、学校で何か手続きが要るんじゃないのか?」
由紀也は初めて、息子の環境が変わることについて、父親らしい気遣いをした。
「エエ、だいじょうぶみたいです。ここの学校は理解があって、前の日に担任の先生に連絡を入れておくくらいですって」
母親がすかさず、適切な返しをしてくれた。

「女子生徒としての名前は、決まっているのか?」
意外なくらい物分かりよく、由紀也は保嗣に訊いた。
保嗣もいまは淡々と、父の質問に応えてゆく。
「ヤスエにしようと思います。母さんの字をもらって」
「保江と書くのか。ちょっと古くさくはないか?」
「でも、達也くんがその名前を気に入ってくれているんだ」
「なら、それで決まりだな」
由紀也は無表情に哂った。
そして傍らに控える和江に、「着替えも要るだろうから、二、三着買いそろえてやりなさい」と告げ、「寝るから」とひと言残して寝室へと姿を消した。

布団にくるまっても由紀也は、なかなか寝つかれなかった。
妻と息子が「よかったね」とひそめた声を交し合うのも、いそいそと外出の支度をして女子の制服を買いに出かけてゆくのも、表に出た二人の足音が遠ざかってゆくのも、耳にしていた。
都会で暮らしていたころは貞淑だった妻と、おとなしすぎてはいたものの健全だった息子――のはずが。
自分の家族は娼婦がふたりと化してしまった――
ほろ苦い従属感に痺れながら、失血に疲れた身体を布団にもたれかけさせて、由紀也は眠りに落ちていった。
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