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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

制服店にて

2020年03月03日(Tue) 07:56:42

中学生の息子を連れた母親が入店してくるのをみて、制服店の小母さんは、
「ああ、制服ですか?」
と、声をかけた。
「あ、はい、そうなんです・・・」
生真面目な母親がちょっぴり口ごもるのを、保嗣は心のなかでくすっと笑う。
「あのぅ、じつは、女子の制服でお願いしたいのですが」
決まり悪げに口火を切る母親を、ちょっといとおしくさえ感じた。
少なくとも、いまの言動のうえでは、和江は自分の側に立ってくれている。
そんな共感が、母に対するシンパシーを生んだのだろう。
父に黙って吸血鬼の情夫と逢いつづける母を、許しても良いと保嗣は感じた。

少女のように戸惑う安江を相手に、制服店の小母さんは、意外なくらいさばさばと、
「あ、そうなんですね?最近、そういう生徒さん多いんですよ~」
と明るく受け答えを返してきた。
一瞬、保嗣のほうにも目線を合わせてにっこりすると、
「採寸しますので、こちらへどうぞ~」
と、自ら先に立って母子を店の奥のほうへと案内した。
照明の弱いお店の一番奥のほうに、カーテンの下がった試着室がひっそりと佇んでいた。

保嗣が試着室のまえでちょっとのあいだまごついていると、
小母さんは早くも制服を一着両手で抱えてくると、いった。
「きみならA体でだいじょぶそうだね」
男子の制服である半ズボンから伸びた豊かな肉づきの太ももに、小母さんはふと眩しそうに目を留めた。
「スカート、履き方わかる?」
と問う口調には、からかいや冷やかしの色はまったくなかった。
これから女の子になるんだね、と、しぐさで伝える様子は、
これから中学生になるんだね、と、去年の春にしぐさで伝えてきた様子と、変わりなかった。
用意が整うと、小母さんは気を利かせるようにして、試着室から離れていった。
カーテンの向こうに保嗣を押し込みながら、
「きみ、ハイソックス似合うね」
と、ひと言添えるのを忘れずに。

お店の小母さんの好意的な物腰は、少年をひどくくつろいだ気持ちにさせた。
ちょっと動いただけで肘や肩の触れそうな密室のなか、
スカートを腰に巻き、ウェストのホックを留めると、つぎはジャケットを羽織ってゆく。
制服のスカートの重たい生地が、ひざ小僧の周りでさわっと揺れた。
迫ってくるほどの狭いスペースのなか。
真新しい制服の生地の香りが、保嗣の鼻腔を浸した。
血が騒ぐのを感じた。
少年の血ではなく、少女の血が目覚めたように、保嗣の身体の隅々まで脈動し始めた。

もとの姿に戻って試着室を出ると、小母さんは脱いだままの制服を大事そうに抱えた。
「お母さん、買ってくれるみたいだよ」
と小声でいうと、やはり大事そうに、丁寧にたたみ始めた。
初めてそでを通した女子の制服が、そのままそっくり自分のものになる。
そんな光景に、保嗣は胸をわなつかせた。
自分でも滑稽だと感じながらも、いまの瞬間を大切にしたい――と、そう思った。
あの服を着て、達也に抱かれる。
初めてそんな想像をすると、脚のつま先まで真っ赤になったかと思うくらい、のぼせてしまった。
小母さんは、そんな保嗣の様子に気づかぬようにして、ひたすら作業に没頭していた。

「スカートはミニ丈のもありますよ。最近は男女問わず人気があるみたいなんですよ」
さりげなく売り込みをかけた小母さんに、和江は「どうする?」と息子を振り返り、
保嗣はちょっと考えて、
「じゃあ、ミニもお願い」
とこたえた。
ミニ丈のスカートには、タイツかストッキングが好いな、とふと思ったのに応えるように、
「タイツとストッキング、買っておいたから」
と、傍らから和江が囁いた。
「余分めに、ね♪」
和江は、イタズラっぽく笑っていた。

保嗣の身体のあちこちにメジャーをあてがった小母さんは、職人のような目つきになって値踏みをするように少年と制服とを見比べた。
「袖をちょっと出しますね。1時間ほどで終わりますから、きょうじゅうに受け取れますよ」
「受け取りは自分でできるわね」
畳みかけるように尋ねる和江のほうはふり返らずに、保嗣は「わかってるよ」と、うるさそうにこたえた。
それが照れ隠しなのだと、和江も、小母さんも、保嗣自身も、分かり合っている感じだった。

「念のため二着いるかな」
さすがに制服店にまでは姿をみせなかった父親の助言に従って、
同じサイズの制服を二着、スカートはひざ丈とミニ丈をそれぞれ二枚ずつ購入した。
いったん制服店を出て他の買い物を済ませると、和江と保嗣はふたたび制服店へと戻ってきた。
どうしても早く受け取りたい、と、保嗣がせがんだためだった。
さいしょは一人で受け取らせるつもりだった和江もいっしょについてきたのは、買った制服が二着だったためだった。

二着の制服はそれぞれ立派な紙製の箱に入れられていた。
小母さんはその両方をひとつずつ開けて中を確かめるようにとすすめた。
しわひとつない真新しい制服に、保嗣は胸をずきん!とさせた。
明日から髪を伸ばそうと思った。
しばらくのあいだは、さっき買ったウィッグのお世話になるけれど。
いずれ地毛で女生徒としての髪の長さを蓄えて、学校に通うのだ。
母親は「お祝いね」と言い添えて、制服店で黒のストッキングを何足か買い求めてくれた。
たぶん・・・今週中にはすべて、吸血鬼の小父さんと達也とによって、咬み破かれてしまうだろうけど。
心のなかでほろ苦く笑いながら、保嗣は母親の振舞いに”同性”どうしの気遣いを感じて、神妙にありがとうと言った。

お財布のなかから一万円札を何枚も取り出す母親に、さすがにちょっと済まない気になりかけた保嗣だったが、
「来週はこれを着て女子になるんだよね」
と、和江が白い歯をみせると、嬉しそうに笑い返した。
母子とも葉の輝きが生き生きとしていると、制服店の小母さんは思った。
そして、いつも以上に心を込めて「ありがとうございます」を告げた。

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