淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
女の装い 男の装い
2020年03月22日(Sun) 21:56:58
「お疲れ~♪お先っ」
畑川由紀也とすれ違いざま、そのOLは肩までかかる栗色の髪を揺らしながら軽い会釈を投げてきた。
ひざ上丈の空色のタイトスカートのすそから覗く太ももが、てかてかとした光沢のストッキングに包まれて、眩しい。
「あ、お疲れ・・・」
由紀也もまた何気なく、彼女に声を帰してすれ違ってゆく。
ぱつんぱつんのタイトスカートに輪郭をくっきりさせたお尻を軽く振りながら立ち去る彼女のしぐさから、
自分のもつ抜群のプロポーションに対する自身が透けて見えるようだ。
大鳥真央と名乗るそのOLは、実は男性社員である。
当地に赴任してすぐ、御多分に洩れず妻を篭絡された後。
女装に目ざめて、いまでは女性社員として勤務している。
少し派手派手しいOL服は、妻のOL時代の服だという。
いったんすれ違った大鳥真央は、くるりと踵を返して戻ってきて、由紀也に追いついた。
そのまま肩を並べて歩きながら、真央は由紀也にそっと告げる。
「奥さん、吸血鬼とラブラブなんですって?おめでと♪」
正体を知らなければ、それとはわからないほど。
真央の言葉遣いは、むっとするほどセクシーだった。
「ああ、ありがとう」
妻本人にもまだおおっぴらに認めていない関係を表立って祝われて、
それでもごくしぜんに受け入れてしまっている自分自身を、由紀也は訝しく思ったけれど。
いつか妻ともこんなふうにスマートに彼女の不倫を語れるといいな・・・と、ふと思った。
「お二人に気を使って、いい子にしているのね。ご褒美にこんど、あたしがセックスしてあげようか」
真央は口紅のよく似合う厚い唇に、笑みをたたえた。
艶やかだ――と、由紀也は思う。
男が視ても。男だとわかっていても――
「あ、でも由紀也クンには、若い男の子がいるんだもんね。彼、きょうも来るかしら?」
真央は由紀也をからかっただけだったらしい。
再びくるりと回れ右をすると、彼女は背すじを伸ばして後も振り返らずに立ち去ってゆく。
カツカツとハイヒールの足音を硬く響かせながら。
真央はまっすぐに、家路をたどるのだろうか?
情事に耽る真っ最中の妻がいる自宅に。
それとも――
ほかの同僚たちがそうしているように、オフィスの打ち合わせスペースを使って、訪ねてくる吸血鬼と愉しいひと刻をすごすのだろうか。
幸か不幸か、由紀也は後者に属していた。
「小父さんの血を飲みたいから、会社で待ってて」と、達也から電話があったのだ。
「待った?」
がらんとしたオフィスのなかに由紀也をみとめると、達也は白い歯をみせた。
グレーの半ズボンの下、ひざ下ぴっちりに引き伸ばされたおなじ色のハイソックスが、オフィスの照明を照り返しツヤツヤとしている。
由紀也は股間に昂りを覚えながら、達也のほうへと足を向けた。
「穿いてきてくれてたんだね?やっぱり来てよかった」
達也に近寄ると、彼は再び白い歯をみせて笑った。
由紀也のスラックスのすそから覗くくるぶしが、薄手の黒の靴下に透けているのを、目ざとくみとめたらしい。
「見せブラみたいで好いな♪」
達也は由紀也をちょっとからかいながらそういうと、けれども言葉が本音であることを証明するように、さっそくのように目の色をかえて足許に飛びついてきた。
「来てくれるのなら、愉しませてあげようと思ってね」
くるぶしにあてがわれる舌の熱さを覚えながら、由紀也は大人の余裕で達也の仕打ちを受け流す。
履き替えも持っているから、気が済むまで愉しみたまえね、と、由紀也はつけ加えた。
達也のみせた白い歯には、自分の血の色がよく似合う――
由紀也は下品な舌なめずりにゆだねた足首にヌメる舌の感触にドキドキしながら、ふとそんなことをおもった。
達也がオフィスに来るということは、妻の和江は吸血鬼の来訪を受けているということなのだろう。
もしかすると、和江のほうから彼の住処を訪問して、まだ帰宅していないことも考えられた。
「ご明察、和江さん、彼氏と逢っているよ。隣の部屋から保江とのぞき見してたんだ」
保江とは、保嗣の女子生徒としての名前だった。
本名と母親の名前とを組み合わせて作った名前――女子の制服を買うと決めたその日に、息子から教わった名前だった。
息子の名前を女の名前に変えて呼び捨てにされても、さいしょのときほどに心が波立つことはない。
なによりも。
達也は息子を恋人にしていた。
息子を達也が最愛の人にふさわしい扱いをする限り、この吸血少年のなかに由紀也父子を侮蔑する感情はわかないであろう。
「小父さん、ノリがいいから好きだよ。さいしょのときから、薄い靴下の脚を積極的に愉しませてくれてたものね」
血に飢えた少年が、由紀也の穿いている靴下と、靴下越しにありありと感じるふくらはぎの皮膚の双方に執着していることが、しつような舌遣いでそれとわかった。
妻が吸血鬼に堕落させられるのと、息子が女性化するのと。どちらが屈辱的な出来事だろう。
いや、自分自身にしてからが。
その双方に関わった呪わしいはずの少年の手にかかって、
皮膚も、その下をめぐる生き血も、玩ばれてしまっている。
ソファの間近かで組み敷かれた由紀也は、首のつけ根に痛痒いものがもぐり込むのを感じた。
引き替えに、じわっと生温かい液体が噴きこぼれ、ワイシャツのえり首を濡らしてゆく。
首すじに回り込んだしたたりが、ワイシャツの裏側にすべり込んで、
アンダーシャツまで生温かく染めてゆく。
なのに由紀也は、いっさいの抵抗を放棄して、この吸血少年の貪婪な欲望に自らをゆだね切ってしまっている。
半ズボンを脱いで濃紺のハイソックスの脚を突っ張った少年の一物が、股間を冒した。
思うさま排泄された粘液に生温かく浸されながら、由紀也の一物も逆立っていた。
そして今度は少年を組み敷くと、逆に彼の股間を冒しにかかった。
少年は薄笑いを泛べながら、わざと力をゆるめた抗いで男の劣情を逆撫でにかかった。
じょじょに相手の侵攻を許していって、最後にはしつようで力強い吶喊に身を任せていった。
この吸血少年はしたたかにも、父親と息子とを、同時に手玉に取っていたのである。
血を吸い取られる感覚に陶酔を覚えながら、由紀也はおもった。
真央のように女を装って吸われるのと、男の姿のまま吸われるのと、意味は同じなのだろうか?と。
息子は女の姿になってしまった。
けれども由紀也自身は、いまのままの姿で吸われ捧げるほうが、自分にぴったりとくるような気がしていた。
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