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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

達也の父が訪ねてきた。 ~妻の仇敵との和解~

2020年03月29日(Sun) 11:02:02

1.真夜中のオフィス

オフィスにやって来た息子の親友・達也と公然と乱れ合ってから、三日が過ぎた。
初めて訪問(襲撃?)を受け逢瀬を遂げてからは、どれほど日が経ったことだろう?
なん回、いけない逢瀬を愉しんでしまったことだろう?

由紀也に対する達也の吸血行為は害意のないものだったので、
いちど由紀也を襲うと、なか三日は置くようにしていた。
由紀也の健康に配慮したのである。

いっぽう由紀也は、毎日でも欲しい快感を数日間、禁欲することになった。
禁欲はときに欲求不満を生むものだが、
由紀也はそれを、達也のために少しでも栄養価が高く活きの良い血液を愉しませるために必要な期間だと理解することにしていた。
以前より身体や健康に気を遣うようになり、美容体操まで始めた。
恋人のために美しく装おうとする女性のようでもあった。

息子のように女装の世界に足を踏み入れることは控えていたが、
そろそろ達也が現れそうなタイミングになると、
紳士用にしては艶やかすぎるストッキング地のハイソックスで、
スラックスの下から覗く足首を透けてみせることを忘れなかった。
達也が好んで咬み剥ぐのを心得ていたからである。

情夫のために化粧をする人妻のようだ――と、時おり由紀也は感じる。
けれども、達也を待つ夜に、薄い長靴下を脚に通すことをやめられない。
達也の舌を愉しませ、破かせてやるために。
それが辱めであり自分の名誉や威厳を損なうことになりかねないと知りつつも。
通勤用の靴下に達也の唾液をしみ込まされ、自分の血潮に浸し、ずり降ろされ咬み剥がれてゆくことが、たまらない快感になっていった。
自分の勤務中。
妻の和江が、吸血鬼のために艶めかしいストッキングを脚に通すのを笑えない――
このごろはまじめに、そう思っている。

息子さんを自分の”彼女”にしたい――
そんなことを告げにぬけぬけと勤務先にまで現れたこの少年に、初めて接したときのこと。
口先では「とても迷惑だ」「先生に相談した方が良いのかな」「自重したらどうかね」などといいながら、
不埒にも薄手の靴下に透き通る足首に唇を吸いつけようとしたこの吸血少年のため、
不覚にも由紀也は、達也が吸いやすいようにとわざわざ脚の向きを変えて応じていった。
たぶん――達也を吸血鬼にした男に接する妻の和江が、つややかなストッキングを脚に通してそうしているのと同じように。
けれども、いまの由紀也に、そのときの応接に対する後悔はない。
勤務が終わりに近づくと、彼は更衣室に入り、鼻歌まじりに靴下を履き替えてゆく。


案に相違して、その晩現れたのは自分より少し年配の男性だった。
もちろんふつうに、男の姿をしていた。
男は、達也の父ですと名乗った。
そういえば。
堀の深い顔だちがどことなく、達也とよく似た輪郭を持っていた。
いくぶん鋭さを失くし、生気が落ちているのは、
たんなる加齢のせいなのか。常習的な吸血を受けているためなのか。

「初めてお目にかかりますが、初めてのような気がしませんね」
間島幸雄(42)はそういってほほ笑んだ。
「そうですね、言われてみれば確かに――」
由紀也はそんなふうに応じた。
なにやら唇が、自分の意思とは離れて言葉を発している気がした。
考えてみれば。
このひととは、おなじ相手に吸血されている。少なくともその可能性が高い。
見ず知らずの他人では、ないように感じた。
彼の血液と自分のそれとが、同一人物の舌や喉を愉しませ、その干からびた血管に潤みを与えている。
不思議な関係だと思った。

いっぽうで、どことなく後ろめたい想いも、禁じえなかった。
眼の前のこの落ち着いた物腰をした紳士の愛息と戯れ合って、
いわば「食い物」にしているからだ。
どちらかといえば、色々な意味で「食い物」にされているのは、むしろ由紀也のほうともいえるのだが、
未成年である達也と働き盛りの四十代である由紀也との関係を、だれもがそうはとらないだろう。
間島は、由紀也の図星を指すように、
「息子がいつも、お世話になっております」
と、頭を下げた。
どこまでも、穏やかな物腰だった。
「いえいえ、こちらこそ――」
由紀也は後ろめたさといっしょにわいてきた、おかしみをこらえながら、
やはり鄭重に頭を下げた。
息子さんとエッチなコトを愉しませていただいて・・・
とは、さすがに口が裂けてもいえないな、と思いながら。

「うちの息子とは、どれくらいの頻度でお会いになられているのですか」
何気なくそんなふうに問われて、「数日に一回です」と思わずこたえてしまったが、
間島はそんなことは先刻ご承知なのだろう、一瞬ひやりとした由紀也の顔色の変化を受け流すと、いった。
「どうぞいつでも、逢ってやってください。しょうしょう変わったことをするやつですが、貴方にも、ご家族にも、決して悪気はないのですから」
なにもかも知り抜いた意識の持ち主が、淡々と言葉をつないでゆくのを、由紀也はぼう然として聞き入っていた。

この男性の息子を、自分は日常的に、女として接しなおかつ犯している。
けれどもあべこべに、この男の息子は、自分の靴下を咬み破り、足許からいやらしい音を洩らして、吸血をくり返している。
「どちらが上とか、下とか、決められないですね。強いて決めることもないでしょう。
 互恵的な関係というのは、そういうものですから」
男女のそれと、変わりありませんな、と、達也の父はいった。
お父さんにお嬢さんとのお付き合いを認めてもらえた――ひそかにそんな想いが、由紀也の胸をよぎった。

「はじめに、わたしのほうの恥をさらしておきますね」
なにかにつけて後ろめたい気分をよぎらせるのを察したのか、
間島はそれまでのことを、問わず語りに語りはじめた――


2.達也の父の問わず語り

ここへ来て、たしか一週間ほど経ったころのことでした――
「あなたのところも似たり寄ったりなのでしょうけれど」と前置きして、間島は語った。

最初に咬まれたのは、息子でした。
ある日、部活帰りにユニフォーム姿で襲われて、グリーンのストッキングを履いたふくらはぎに血をべっとりと着けて、べそをかいて帰宅したのです。
家内がびっくりして息子を迎え入れると、息子の背後には男がいました。
息子を襲った男でした。
男は息子の身体から吸い取った血を、まだ口許にぬらぬらと光らせていて、
唇の両端から鋭く尖った犬歯を覗かせていました。
その犬歯は、家内のことまでも狙っていたのです。
息子の血が気に入ったので、きっと家内にも興味をもったのでしょう。
自分の息子を咬んだ牙が自分の身をも狙っている――と家内が気づいたときにはもう、遅かったのです。
家内は玄関先で抑えつけられて、首すじを咬まれてしまいました。

行儀の良い家内は、家のなかにいても、スカートにストッキングを身に着けていました。
それがむしろ、あだになってしまったのです。
わが家を襲ったその吸血鬼は、礼装を着けたご婦人を好んで襲っていました。
ご承知のように、
街はずれの寺で行われる法事が、彼らのかっこうの餌食とされているくらいですからね・・・
都会育ちの人妻であり行儀のよい家内が、彼の目にとまってしまったのは、
いま考えると、いたしかたのないところ、というよりも、もっともなでした。
”運命”というやつですね。
いまではわたしも、それを受け容れています。ええもちろん、こころよく――

首すじを咬んで一定量の血液を摂取されてしまうと、もう身動きできなくなるのです。
身体的にも。精神的にも。
痺れた頭を抱え込むようにして悶える家内を抑えつけ、
吸血鬼は恥知らずにも、ストッキングを穿いた家内の脚を咬んだのです。
不埒な唇が家内のストッキングを唾液で濡らし、舌触りを愉しまれてゆくのをありありと感じながらも、
家内はどうすることもできませんでした。
そのまま男に、自身の装いを愉しませてしまったのです。
わたしは、家内が不意の客人を愉しませたことを、賢明な判断だったと思っています。
相手の好む飲み物を、身をもってもてなしたわけですからね。
客人をもてなすという、当家の主婦としての役割を、きちんと果たしたのだと思います――

チリチリに咬み剥がれてしまったストッキングを脱がされた女の運命は決まっていました。
その場で犯されてしまったのです。
そう、息子の視ているまえで。
息子はといえば、咬まれた首すじや足許を痛痒そうにこすりながら、
母親の受難に見入っていたそうです。
自分の衣装を剥いで胸もとをまさぐりはじめた吸血鬼の情欲よりも、
好奇心に満ちた息子の視線のほうが怖かった――あとで家内からは、そんなことを聞かされました。

じつは息子が咬まれたのは、この日に始まったことではなかったそうです。
はじめから、相性が良かったのでしょう。
下校途中に初めて襲われたとき、あの濃いグリーンのストッキングを咬み剥がれながら。
息子は彼とすっかり、意気投合してしまいました。
そしてそのとき、咬み剥がれたストッキングを脱がされてゆきながら、
息子は自分を襲った吸血鬼に約束をしたのです。
制服や部活のユニフォームの一部であるハイソックスを、いまのいやらしいやり方で愉しませてあげよう――と。
日常洗濯ものをしている母親に、靴下を何足も破かれていることがばれても困らないよう、
母親までも味方に引き入れたい。
息子はとっさにそう感じたそうです。
吸血鬼氏もまた、たまたまなにかの席で見かけた家内のフォーマルな装いに気を惹かれていましたし、
いま息子の血を口にして、その母親の生き血にも、当然にょうに興味をもったのです。
両者の意見はすっかりかみ合いました。
そして息子は吸血鬼と示し合わせて、母親の生き血を欲しがる彼のことを、家に呼び入れたというわけだったのです。

「ほんとうに、困った子ね・・・」
家内は声を詰まらせてそういいながらも、スカートの奥に淫らな粘液をはじけさせる情夫のやり口を、なすすべもなく受け入れていきました。
わたし以外の男は初めてだったそうです。
そんな初心な家内が、手練れの吸血鬼の求愛をしのげるはずはありません。
永年守りつづけてきた貞操を汚されてしまったことを悲しむ時間は、そう長くはなかったそうです。
家内はその場で自分の血を吸い犯した男にぞっこんになってしまって――そう、忌むべき恋に目ざめさせられてしまったのです。
「母さんが幸せになったんだから、良いじゃん」
と息子は言いますし、いまではわたしも、息子と同感なのですが――
わたしがなにも知らないでいるうちに、息子は吸血鬼のファンになり、家内は同じ吸血鬼の奴隷に堕ちていたのでした。

なにも知らない人間に、なにもかも知っている人間がどんなに愉快な優越感を覚えるか、おさっしになれるでしょう?
わが家がまさしく、そうでした。
ふたりはわたしが勤めに出かけてゆくと、示し合わせて吸血鬼を自宅に呼び入れて、
代わる代わる血を吸われ、女が男にされるように犯されていったのです。

やがて恋に落ちた家内は、吸血鬼と片時も離れたくなくなって、家を出ていきました。
「私、吸血鬼の愛人になりますから」
と、息子とわたしとに言い置いて。
わたしは家内のことを、送り出してやるしかありませんでした。
「いつでも帰ってきなさい」とくり返しながら。

家内がいなくなって数日後、勤め先から帰宅したわたしを出迎えた息子は、
驚いたことに、家内の服を着ていました。
サイズがちょうどぴったり合ったのです。
もちろん、息子の方が肩幅がありますし、ストッキングで装われた足許は、ごつごつとした男性的な筋肉に覆われていましたが――
けれどもその風情が、なんとなくむしょうに、わたしのことをそそってしまったのです。
気がついた時には、息子をリビングのじゅうたんの上に押し倒していました。
そして、家内との間につい最近まで交し合っていた熱情を、
あろうことか、家内の服を身に着けた息子を相手に、赤裸々にぶつけていったのでした。

息子は意外にも従順に、わたしを受け容れました。
さいしょから、そのつもりだったみたいでした。
男が男を愉しませるとき、どんなふうに振る舞うものなのか、
息子の身体は明らかに、覚え込まされていました。
吸血鬼に躾けられたのだと、あとで息子は教えてくれました。
息子のヴァージニティを勝ち得たのは、同性であるはずの吸血鬼だったのです。
「小父さんの身体は、素晴らしいよ。母さんがまいっちゃうの、無理ないと思うけどな」
息子はそういって、家内のことを弁護しました。
妻を奪ったわたしのことを気にした吸血鬼が、息子にわたしの相手をするよう指示したのだ――とも、きかされました。
わが家は完全に、吸血鬼の掌中に堕ちていたのです。

いつまでも家内をあのままにおいてはいけない、家庭崩壊になってしまう。
なによりも、吸血鬼に魅入られた家内を盗られっぱなしでは、世間の通りがよくないではないか――そんなふうにわたしは考えました。
姑息なやつだと、お笑いください――

「しばらくのあいだは、いいよ。ぼくが母さんの代わりを務めてあげるから。小父さんからの指示なんだ」
――長年連れ添った奥方を取り上げられたら、さぞかし寂しいことだろう。
――わしは一週間かけてきみの母さんを仕込んでおくから、
  そのあいだはきみが、お父さんを慰めておやりなさい。
吸血鬼は息子に、そう命じたそうです。
「あのひとたちは、ただ獲るだけじゃないんだ。ちゃんと考えていてくれるんだ」
息子のいいぶんをもっともだと思ったわたしは、
家内の口紅で綺麗になぞられた息子の唇に、自分の唇を恋人同士のように重ね合わせていったのです。
「しばらくのあいだ、母さんはあのひとにお預けしよう。でもいつか、きちんと迎えに行こう。そのあいだは、代役をお願いするよ」
そう囁くわたしをくすぐったそうに受け流すと、息子は言いました。
「母さんが戻って来てからも、母さんが恋人と逢うときには、いまみたいにいっしょに愉しもうね♪」

恥ずかしいお話を聞かせてしまいましたね、と、間島はいった。
けれども、由紀也は彼の告白を、恥ずかしいだけのものだとは受け取っていなかった。
むしろ、妻も息子も吸血鬼にたぶらかされ、息子との同性愛の関係を愉しみながら妻の不倫を受け容れその帰宅を待ちつづけた間島の告白が、肯定的な表現で彩られていることに驚いていた。
間島の寛容な態度にほだされるように、つい口走ってしまった。
「貴男と息子さんの関係は、よく理解できますよ。息子さん、いい身体していますよね」
「ああ」
間島の顔つきが、さらにほぐれた。
「そうおっしゃっていただけますと、嬉しいですな。どうぞ仲良くしてやってくださいね」
息子を犯されても嬉しい――間島の態度はそう告げていた。

「奥さんとは、その後は・・・?」
由紀也が問うまでもなく、間島は言葉をついでゆく――

家内がいないのはそれでも、わたしにとっては耐え難いことでした。
さほど夫婦仲がよかったわけではなく、都会を出てこの街に流れてきたときにはむしろ、冷え切っていました。
どうしてもかつての夫婦関係を取り戻したかったわたしは、時おり家内に強引に迫って、夫婦の営みの熱い刻をもとうとしましたが、
強いられた行為はますます、家内の心を遠くに追いやっていったのでした。

息子のいないある晩のこと。
わたしは、息子のまねをして、家内の服を身に着けてみました。
よそよそしくまとわりついたブラウスに、わたしの体温が行き渡ってなじんでくるのに、そう時間はかかりませんでした。
リビングのじゅうたんの上に横たわったまま、わたしはつい、うたた寝をしてしまいました。
どれほど刻が経ったものか――
ふと気がつくと、あたりは暗くなっていて、だれもいない室内で、わたしは上からのしかかる重圧感にあえいでいました。
わたしを抑えつけていたのは、この家から家内を連れ出していった、あの吸血鬼でした。
男はなにも言葉にしようとはせず、女のなりをしたわたしのことを、万力のような力で抑えつけて、首すじに牙を埋めてきたのです。

圧しつけられた唇の向こうで、わたしの血潮がはじけるのがわかりました。
ごくっ。ぐちゅうっ。
汚らしい音を立てて、男はわたしの血を飲み込んでいきました。
強制的な採血行為に、わたしは殺される!と思いました。
けれども男の意図は、そうではなかったようです。
男がわたしの血を気に入っていることが、すぐに伝わってきました。
――モウ少シ時間ガ欲シイ。達也ノ父親デアル貴方ノ血ハ、私ノ嗜好ニ叶ッタ味ダ。
そんな意思が、二の腕やわき腹にしつようにくり返されるまさぐりからも、伝わってきました。
わたしは身じろぎひとつならず、いや、身じろぎひとつせずに、彼の相手を務めつづけました。

吸血行為が終わるころには、わたしたちはもっと打ち解けた感じになっていて、
男がわたしの血を旨そうに飲むのをわたしは拒もうとはせず、
身に着けていた家内の服にしかけられた不埒な悪戯にすら、応じていったのです。
気がつくとそのころにはもう、わたしは妻の情夫に調教されてしまっていたのでした。
わたしは家内がそうされたように、ストッキングの脚を舐められ咬み破らせてゆき、
股間を狙って沈み込んでくる逞しい腰を、女のように受け入れていったのです。

物欲しげな掌が、家内のブラジャーやスリップを引き裂いて剥ぎ取ってゆくのを。
男の逞しい臀部が、スカートの奥に肉薄してきて、わたしの股間を冒すのを。
わたしはなんの抵抗も感じないで受け入れていきました。
ちょうど同じじゅうたんのうえ、息子がわたしの劣情を従順に受け止めたように。
そしてそのすこし前、家内が男の性欲に、寛大に接したように――
女役は、初めてでした。いつもは息子を女として愉しんでいましたから。
けれども初めて女として抱かれることで、限りない歓びに目ざめてしまったのです。

行為がすむと、わたしはいいました。
「家内のしたことは、正しかったと思っています」
「きみのしたことも、賢明だったと思う」
彼はおうむ返しに、そういいました。
「さいしょから相性が良いと直感したのです。ええもちろん、貴方も含めてです。
 わしは人の生き血に飢えていました。その時分は、まだ獲物が少なかったからです。
 そこに、都会から越してきたばかりの息子さんが現れた。
 息子さんのスポーツ用ストッキングのふくらはぎに、わしは一目惚れしたのです。
 しなやかなナイロン生地のリブ編みが整然と流れるストッキングを血で濡らしながら、
 スポーツで鍛えられた若い血潮に酔いしれたい――
 そんなことを熱望したのです。
 スポーツマンの息子さんは、そんなわしに同情して、若い血液を気前よくわけてくれた。
 ユニフォームの一部であるストッキングも、惜しげもなく愉しませてくれた。
 そして、わしが女好きなのを見て取ると、
 母さんを紹介してあげようか?とまで、誘ってくだすった。
 奥さんに初めてお目にかかって、貴女の血が欲しい、貴女を犯したいとお願いすると、
 息子のお友だちでしたら歓迎しますといってくだすった。
 それから、わしのことを気の毒がって、
 高そうなブラウスの胸を御自分から見せつけて、剥ぎ取らせてくだすった。
 「少しくたびれていますけど、一応都会の人妻なんですよ」と、笑いながらね――

わたしは、吸血鬼の告白のいくばくかは作り話だと感じました。
けれども、作り話であっても構わない、とも感じました。
家内も息子も二人ながら彼に血を吸い取られてしまったことを、わたしは悲しんではいない。
むしろ、いま置かれた現実を愉しんでしまっている――そんなことに気がついたのです。
女の姿で抱きすくめられ、しつような吸血を受けたわたしも、目ざめてしまっていたのです。
彼はわたしの身に着けた家内の服を、わたしの身体もろとも愉しんでいきました。
一家の長としてのプライドとか、勤め人として当然気にするべき世間体とか、もはや忘れ果ててしまっていました。
もはや、プレイのような愉しみしか、そこにはありませんでした。

わたしの血に濡れた家内のワンピースを剥ぎ取られ、せしめられてしまっても。
彼が好みの戦利品を獲たことが彼のために嬉しい――
そんな気持ちがしぜんと湧いてきました。
そしてわたしは、もう一着妻の服を箪笥の抽斗から取り出すと、それを身に着けて、彼のあとへと従ったのです。


彼の邸は街はずれにあって、鬱蒼としたツタに壁じゅうを覆われた洋館でした。
その一室一室に、拉っしさられた人妻や娘が、宿っていました。
家内もそのなかで、一室をあてがわれていました。
そのお邸のじゅうたんを初めて踏みしめたとき、わたしはハイヒールを穿いていました。
そう、白昼女の姿で家からお邸までを歩いて通り抜けてきたのです。
ご近所の目を気にも留めないで。
そしてすれ違うご近所の方々もまた、女の姿をしたわたしのことを、なんの違和感もみせずに受け入れて、いつもと同じように親し気な会釈を返してきたのです。

わたしは女としてその邸を訪れ、吸血鬼氏に囲われて、一週間を過ごしました。
隣室に宿る家内と入れ替わりに、代わる代わる、吸血鬼に生き血を捧げ、女として抱かれていったのです。
そして、約束の一週間のお勤めを終えて一足先に帰宅した家内に迎えられて、わたし自身も帰宅しました。
「ご配慮に感謝します」
家内はわたしにそう告げました。
吸血鬼氏との交際を認めたことに対する、女としての感謝なのだとすぐにわかりました。
不器用なわたしは、能弁に受け答えをすることはできませんでした。
ただ、「きみの恋に協力したい」とだけ告げたのです。
以来、お互い、自分の発した言葉に忠実に、日常を過ごしているのです。


間島の話はショッキングだったが、由紀也にとってはひどく新鮮でもあった。
「うちも、そんなふうになれるでしょうか?」
知らず知らず、由紀也はそんなことまで口にしてしまっている。
「もちろんですよ、さあ行きましょう」
間島は由紀也を唐突にさそった。
「どこへですか」
「あなたの奥さまの、情夫さんのところへ」


3.由紀也、吸血鬼と対面する。

そのあと彼の身に起こったことを、由紀也は忘れないだろう。
間島が女として棲み込んだというその邸は、真夜中でもこうこうと灯りがついていた。
迎え入れてくれた吸血鬼は、由紀也の顔見知りだった。
取引先として、日常接している男だった。
そして、薄々由紀也が、妻との関係を疑い始めていた相手でもあった。
「ご明察だったようですな」
吸血鬼は、悪びれもせずに、いった。
「奥さんと息子さんには、世話になっております」
悪びれない告白は、むしろ落ち着いた声色で語られた。
「話は伺いました」とだけ、由紀也はいった。
「貴男とはこれから、どんな風に接してゆけばよいのでしょうか?」
「いままでどおり、お仕事上の取引先だと思ってくだされば、それでよろしい」
「きょうは取引先に求められて、血液の摂取に応じる――ということで好いわけですね」
「そういうことになりますな」

吸血鬼は、由紀也に女装することを、あえて要求しなかった。
「いまのお姿が貴男の本意だというのなら、それがいちばんよろしい」
そういって、勤め帰りのスーツ姿のまま、やおら首すじに咬みついてきたのだった。
咬まれた瞬間、息がとまった。
物凄い衝撃のために である。
くらくらと眩暈がした。
ただ不快なだけの眩暈ではなく、性的なものがぐるぐると渦巻くのを感じた。
とうてい、自分が排除できる相手ではないと、実感した。
なによりも。
いまの快感からわが身を引き離すことが不可能になっていた。
男が首すじから唇を離したとき、たしか「もう少しどうぞ」と言ってしまったような気がする
男はそれに対して、「すこし違いますな」と指摘してきたはずだ。
そして自分から、「もう少し、吸ってください、お願いします」と、告げてしまっていた。
男はふたたび無抵抗な首すじに唇を這わせて、今度は別の部位を食い破った。
そしてごくごくと喉を鳴らして、由紀也の血をむさぼった。
このまま吸い尽くされてしまっても、それで良い――とまで、由紀也はおもった。

しつように吸いつけられてくる唇が、由紀也の素肌を愉しんでいると告げていた。
ゴクゴクと貪婪に鳴る喉が、由紀也の血の味に満足していると告げていた。
抱きすくめてくる猿臂が、由紀也自身に執着していると告げていた。
寝取った人妻の亭主を支配する。そんな強欲な劣情を越えた好意が、
由紀也の身体じゅうの血管を、毒液のように浸していった。

けれども彼がわれに返ると、
強い眩暈を覚えながらも、まだ意識を保っている自分自身を、訪問先の邸のじゅうたんの上で見出していた。

頭上に煌々ときらめくシャンデリアが、ひどく眩しい。
「いかがです?」
ひとしきり由紀也の身体から血を吸い取ると、あお向けになった由紀也を、吸血鬼は上から見おろしていた。
「わたしは邪魔者ではなかったのですか」
いまここで由紀也の血を吸い尽くしてしまえば、和江も保江――保嗣――も独り占めにできる。
けれどもあえてそうはしないで、由紀也の生命を、彼は奪おうとはしなかった。
「貴方には、生きてもらいます。奥さんのストッキング代と息子さんのハイソックス代を稼ぐ人が必要ですから」
吸血鬼の諧謔に、二人の男は、ははは・・・と、乾いた声でわらった。

「いつもの取引とは、だいぶ違いましたね」
「そうですね。一方的に恵んでいただいたので」
「家内と息子も、恵ことにしますから」
「それはありがたい」
すでにせしめてしまっているのですから、わたしがいまあさら 認めるもなにもないのかもしれませんが――
と言いかけると、みなまで言うな、と、吸血鬼は目くばせでこたえた。
「いまのわたしに、後悔が残るとしたら――」
「ええ」
「家内と息子を、わたしの意思で差し上げることができなかったことです」
吸血鬼はにんまりと笑った。
「イイエ、奥方とご令息とは、いま、あなたのご意思でいただいたのだと思うことにしましょう。奥さまの貞操も。息子さんのヴァージニティも」

吸血鬼が今度は、由紀也の足許にかがみ込んでくる。
達也と同じく、くるぶしの透けた足首に、眼の色を変えているのだ。
由紀也はひと息深呼吸をすると、ねぶりつけられてくる舌を這わせやすいように、脚の向きをゆるやかに変えていった。
「きょうの奥方は、黒のストッキングじゃった。あんたも黒でもてなしてくださる。
 夫婦おそろいというわけですな」
冷やかすような囁きを、由紀也はくすぐったそうな顔をして、受け流す。
ぴちゃ、ぴちゃ・・・という唾液のはぜる音が、悦んでいた。
由紀也は妻と息子の仇敵に自分の装いを辱められ愉しまれてしまうことに、じょじょに耽り込んでいった。

それからどれくらい、刻が経ったのだろうか。
だれもいなくなった薄暗いリビングで、由紀也は目ざめた。
彼は身を起こすと、血の抜けた身体をいやというほど実感しながら、あたりを見まわした。
カーテンのすき間から、夜明けの薄明が透けている。

血潮のこびりついたワイシャツに、お尻を喰い裂かれたスラックス。
ネクタイと靴下は、取り去られ持ちさられていた。

この格好で帰宅したら、妻はなんと言うだろう?
そんなことを考えながらも。
和江はきっと、なにも言うまい。
根拠のない確信が、由紀也の胸を満たしていた。

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