fc2ブログ

妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

ほけつ

2020年07月01日(Wed) 08:44:50

グランドの隅っこで、レギュラー部員たちがまるでスクラムを組むように、円陣を作っている。
まだ練習前の白と紺のユニフォームが、ひどく眩しい。
短パンから覗いた太ももは誰もが、鍛えあげられた筋肉に鎧われて、ぱんぱんに腫れ上がったように隆起している。
ひざから下を覆う白のストッキングには、濃紺のラインが三本、鮮やかに走っていた。
そこからかなり離れたところにぼくは、同学年のタカシと2人で、手持無沙汰に用具の手入れをしていた。

「おぉーーい!補欠ぅ!頼むわぁ!」
先輩方の円陣のほうから、声がかかった。
見ると、円陣から少し離れたところに人影が二つ、漂うようにふらふらとうろついていた。
まるで酔っ払ったように、足許もさだかではなかった。
「うわ!”お当番”だよ。参ったな・・・」
先に反応したタカシは頭を掻き掻き、円陣のほうへとダッシュをした。
ぼくも遅れまいと、全力疾走する。
運動部にしてはどちらかというとユルいうちの部でも、
先輩に呼ばれたらダッシュが鉄則だ。

「この人たちの相手、頼む」
キャプテンが先輩らしからぬ神妙な顔つきでぼくたちを見つめ、両手を合わせる。
あーあ、しょうがないな・・・という気分が、ぼくたちだけではなくて、
円陣を崩さずにこちらを視ている先輩たちの、同情に満ちた視線からも漂ってきた。
二個の人影は、年配のみすぼらしい男のなりをしていて、
指さされたぼくたちのほうを、物欲しげに見つめていた。
この学校に出没する、吸血鬼たちだった。

この学校が吸血鬼のために解放されて、はや一年が経っていた。
そのあいだに、目ぼしい生徒も先生も、いちように咬まれて生気を喪って、その支配下に甘んじている。
けれども試合前のレギュラー部員だけは、”お当番”と呼ばれる彼らへの奉仕を免除されていた。
彼らの逞しい両肩には、母校の名誉がかかっているのだ。
対するぼくたち補欠は、もしかすると母校の不名誉かも知れなかった。
力の強さも体格も段違い。
なにしろぼくたちは、レギュラー部員を吸血鬼から守るための、血液提供用に入部を認められた部員なのだから。

「坊ちゃん、いつも済まないねえ」
取り残されたぼくたちを見て、ふたりの吸血鬼は気の毒そうに哂った。
虚ろな哂いだった。
彼らの笑い声が虚ろであればあるほど、摂られる血の量は多い。
ぼくたちは仕方なさそうに観念した。

もっともぼくたちは、完全な被害者ではない。
ハイソックスフェチなぼくがこの部を択んだ理由は、ひざ下まであるストッキングをおおっぴらに履けるから。
神聖なユニフォームの一部を吸血鬼の欲望のために提供するのは、
筋金入りの部員たちにとっては耐え難い屈辱だったけれど。
その部分をぼくたちがしっかり担うことが、入部の条件だったのだ。

「すまないねえ」
「すまないねえ」
彼らは虚ろにけたけたと哂いながら、
ベンチに腰かけ神妙にストッキングの脚を伸ばすぼくたちの足許に、かがみ込んでくる。
足首を掴まれ、太ももを抑えつけられて、
そこだけはギラギラと脂ぎった唇を、ストッキングのうえからヌルリとなすりつけられる。
あ、うっ。。。
傍らのタカシが痛そうに声をあげた。
咬まれたのだ。
見ると、タカシの履いているライン入りの白のストッキングに、飢えた唇が圧しつけられて、
その唇の周りが早くも、赤黒いシミが拡がり始めている。
そちらに気を取られた瞬間、ぼくの足許にも尖った異物がずぶりと刺し込まれていた。
痛痒い感覚がじわじわと、理性を狂わせてゆく。
彼らの持つ牙に秘められた毒液が、十六歳の血液に、織り交ざってゆく刻一刻。
やがてぼくたちは、彼らの毒液に、理性を支配されてしまう。

彼らの言い草によると、レギュラー部員たちよりもぼくたちのほうが、好みなのだという。
発達し過ぎた筋肉は咬み応えがあり過ぎてかなわんというのだ。
もっとも、キャプテンの生き血だけは飛びぬけて美味いらしく、
オフになると時々、お呼びがかかるのだ。
もっともその時には、ぼくたちも強制的に同伴させられて、
彼らを満足させるための”量”の部分を補うはめになる。

「あはあっ・・・」
先に咬まれたタカシのほうが、毒の廻りが早かったらしい。
声が上ずって、能天気な明るさを帯びている。
「やだ!やだ!やめてくれよお!」
言葉では拒否しながらも、まだ咬まれていないほうのふくらはぎも、惜しげもなく咬ませてしまっている。
ぼくも同じことだった。
左右の脚に代わる代わるに咬みついてくるのを避けようともせずに、むしろ脚を差し伸べて誘ってしまっていた。
眼の前をぐるぐると、目まぐるしいどす黒いものが渦巻いている。
ぼくたちはタカシ、ぼくの順に、ベンチからすべり落ちるようにして尻もちを突くと、
今度は首すじを咬まれてしまっていた。
勢いよく撥ねた血潮が、ジュワッ!と生温かくユニフォームを染めた。
ちゅうちゅう。
ちゅうちゅう。
ひとをこばかにしたような吸血の音が、あお向けになったぼくたちの上におおいかぶさっていった。
前の記事
驕慢な娘(ひと)の身代わり
次の記事
輪廻

コメント

コメントの投稿

(N)
(B)
(M)
(U)
(T)
(P)
(C)
管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
http://aoi18.blog37.fc2.com/tb.php/3976-bce9bd59