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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

有志のご婦人3名。

2020年07月08日(Wed) 07:35:54

「貴女の善意に感謝する」
その初老の男は目の前の婦人と差し向かいになると、厳かな声色でそう告げた。
婦人は整った目鼻立ちをしており、齢よりも若く見えたが、たぶん実年齢は40歳から50歳の間くらいなのだろう。
有志の未亡人なのだそうだ。
この街は吸血鬼に支配されていて、女たちがその意思に反して汚辱を被る機会が増えていた。
その防波堤になるために、自ら吸血されることを択んだ女性である。
婦人は紫のブラウスに黒のスカート姿。
足許を染める黒のストッキングは、未亡人の証しのように、ふくよかな足許を清楚に彩っていた。
婦人はこうした応接には慣れているようだ。
「どうぞ、お過ごしくださいませ」
淀みなくそう言うと、静かに目を瞑り、狂おしい抱擁が彼女の身の自由を奪うに任せた。

咬まれた瞬間、ぴりりと眉をあげたが、やがて感情を消した元どおりの表情に戻って、
さすがに貧血にこらえられなくなったのか、傍らのベッドに腰を下ろし、身を沈めた。
男はなおも女の首すじに接吻をくり返した。
目の前の事態を説明されていなければ、たんなる情事の一齣だと感じたに違いない。
熱っぽく愛情のこもった接吻が、左右の首すじに交互にくり返された。

やがて男は顔をあげた。
頬にも口許にも、吸い取った血潮が飛び散っている。
目を背けようとしたわたしを、連れの男は見つづけるようにと促した。
「恐れることはない。きみにとっては赤の他人だ」
たしかに、そのとおりには違いないのだが――
やがてわたしの視線は、ふたたび二人に向けられ、
愛情表現としか思えない態度での接吻の嵐をとらえつづけた。
男の注意は、女の下肢に移っていた。
さりげなくたくし上げられたスカートから、肉づきのよい太ももが、あらわになっている。
ストッキング越しに吸いつけられた唇が、さかんに皮膚を撫でまわしている。
薄地のナイロン生地の舌触りを愉しむかのように、くまなく這わされてゆく。
女は涙ぐんだ目を背けて、唇を噛んでいる。
それが彼女の本音なのだろう。
やがて男がパリパリとストッキングを咬み破りながら吸血を再開すると、
力を込めて握られたシーツが鋭い皴を走らせた。
同時に、黒のストッキングにいくすじもの裂け目が走り、拡がって、白い素肌が露わになってゆく――

「どうかね?感想は」
わたしを伴ったのは、職場の上司であるE副室長だった。
職場――といっても、まだ赴任してきたばかりで、勝手もわからない。
田舎町である当地では、仕事らしい仕事はほとんどなく、
社員たちはたまに来客との面会時間に席を外す以外は、
おおむね手持無沙汰にオフィスで時間を過ごし、定時に帰宅していった。
「驚きました」
わたしは正直に感想を告げた。
女は衣裳を引き剥がれてしまうと、肉づきのよい肢体もあらわに乱れて、濃密な交接を何度も遂げていったのだった。
覗き穴の向こうでは、独り居残った男が、頬に撥ねた血をハンカチで拭い、拭ったハンカチに接吻していた。
彼女の善意に感謝しているのも、彼女を女として愛しているのも、きっと本音なのだろう。
「彼は最低1日3人の女から血を吸っている」
つぎは2人めだ、と、E副室長はいった。

入ってきた婦人は、品の良いクリーム色のスーツを身に着けていた。
いかにも重役夫人といった、威厳たっぷりの挙措で部屋に入ると、傍らの椅子にハンドバッグを置いて、
男に向かってにこやかに一礼した。
男の頬には、さっき吸い取ったばかりの血のりが、まだ少し残っていた。
婦人は(仕方ないわネ)といった笑いを浮かべると、男のほうへと脚を向けて、自分のハンカチで頬を拭いてやった。
男は照れ笑いを浮かべながら、本気で恥じているようだった。
「悪い奴ではないのだよ」
E副室長は、なぜか自分に言い聞かせるように囁いた。

経緯はまったく同じであった。
男は婦人の首すじに咬みつくと、静かな音を立てて血を啜りつづけ、
貧血を起こした婦人がベッドに腰を下ろし、やがて身を沈めると、
獣がじゃれ合うようにして、なおも首すじを吸いつづけた。
やがて男の関心がスカートのすその下に注がれると、
両方の首すじに血をあやした彼女は少しだけ悔しそうに涙ぐんで、口許を手で覆い、
それでも気丈に男の相手をつづけた。
男は婦人の腰に巻かれたクリーム色のタイトスカートを太ももまでたくし上げると、
肌色のストッキングに包まれた肉づきふくよかなふとももに、牙を沈めた。
黒のストッキングほどには、露骨な眺めではないにせよ。
パリパリと咬み剥がれてゆくストッキングが皺くちゃにされてゆくのを、あらわに見て取ることができた。
「悪い奴じゃないんだ」
E副室長が再び呟いたが、わたしは目の前の情景に夢中だった。
辱められたストッキングが剥ぎ降ろされてしまうと、
婦人はふたたび胸もとを狙ってくる吸血鬼に無抵抗に身体をゆだねた。
スカートを巻いたままの吶喊は性急で、かつ執拗だった。
おなじ男として、彼の性交能力に感心しないわけにはいかなかった。
傍らのE副室長の様子が目に入らないくらい、わたしは昂りを感じて、
目のまえのポルノシーンに熱中してしまった。

情事が終わると、女は乱れ髪を整え、着崩れしたスーツを念入りに身づくろいした。
足許にまつわりついているストッキングは、吸血鬼が破り取るのに任せていた。
彼がせしめた戦利品は、ベッドの傍らのテーブルに、先刻の未亡人のものと並べて拡げ置かれた。
女が身づくろいを済ませると、男は女の肩をいたわるように抱いて、髪を撫で、しっかりと抱き寄せた。
男が相手の婦人をたんなる餌だとは見做さず、むしろ愛情をこめて吸血したことを証しているようだった。

「うちの家内なんだ」
E副室長は、意外なことをいった。
「赴任してすぐに見染められた。もちろんさいしょは断ったが、このとおりにされてね」
首すじの咬み痕は、初対面のときには気づかなかった。
咬まれたものの痕跡が目にとまるようになったのは、わたし自身が咬まれたあとのことだった。

咬まれたのは、きょうがはじめてだった。
暗がりの中で、相手がだれなのかもわからないまま、首すじに衝撃が走り、
傷口を多量の血液が通り抜けるのを覚えた。
決していやな感覚ではなかった。
牙が引き抜かれ、「もう少し良いか?」と低い声で問われたとき、無我夢中で頷いてしまったほどだった。
部屋を出てE副室長と顔を合わせると、彼の首すじにも同じような咬み痕があるのに気づいた。
共犯同士のような共感が、ふたりのあいだに行き来した。
それが、つい30分前だった。

「もうひとりだけ、咬むはずだ」
見ていく?と訊かれ、エエそうしますといった。
仕事のない退屈な執務室で退社時間までをすごすより、ずっと刺激的だった。
ドアを開けて第三の女が部屋にストッキングに包まれた脚を踏み入れた。
わたしは愕然とした。
それは妻だった。

見慣れたラフな白のTシャツに、デニムのスカート。
いつもは生足なのに、きょうにかぎって肌色のストッキングを脚に通している。
ばかだな。デニムのスカートにストッキングなんて――と言いかけて、ふと思い返した。
「急な呼び出しだったから、おしゃれをする時間がなかったのだね」
E副室長の開設は、たぶん当たっている。
ふだんは穿かないストッキングが、相手を積極的にもてなすという意思表示のしるしなのだろう。
むしろ妻が見慣れたふだん着であることのほうが、わたしの網膜を狂おしく刺激した。
彼女の首すじにつけられたどす黒い咬み痕にも、気づかないわけにはいかなかった。

それから先のことは――
まったく同じ経緯だった。
妻は立ったまま抱きすくめられ、左右両方の首すじを咬まれ、
貧血を起こしてベッドの端に腰を下ろし、そして身を沈め、
ストッキングの足許にかぶりつかれて、チリチリに引き裂かれるまで太ももやふくらはぎを愉しまれ、
さいごにベッドのうえに上がり込んできた男に抱きしめられて、熱情のひと刻を過ごしたのだ。

はじめからさいごまで。
わたしの狂ったまなこは、覗き穴から離れることはなかった。
E副室長夫人の場合は、まだしものためらいを感じさせた。
のしかかってくる逞しい胸から、わが身を隔てようとしていた。
けれども妻の場合は、自分のほうからむさぼり始めていた。
「なんて無作法な」
「気にしなさんな」
E副室長はそういって慰めてくれたが、
(ぼくがそういっても君は気にするのだろうね)
というあきらめ感も、いっしょに伝わってきた。
「ぼくからいうのもなんだけど」
E副室長はいった。
「奥さんと彼の相性が良くって、なによりだ。
 いちおう彼らも考えて”配分”をしているようだけど、
 じっさいにベッドを共にしてみないとわからないのは、人間の男女も同じことだからね」
副室長は認めていらっしゃるのですか?と訊くと、それにはこたえずに、
「むつかしいようなら、当分見てみぬふりをすることだね」
とだけ、こたえてくれた。

オフィスを出たときには、まだ陽は沈み切らずに、昼間の明るさが残っていた。
いつもと同じのどかな帰り道。
妻もきっと、なにごともなかったかのように、おかえりなさいを言うのだろう。
せめて、こんど誘われたときには、よそ行きのスーツを着ていくように言ってやろうか・・・
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